3.3 墨田中学校の事例「総合的な学習からインターネットへ」

 要約

 墨田中学校が校内LANのネットワークを構築し、インターネットで学校を開いていくのには必然性がある。墨田中学校は平成8年度より「ふれあい学習」の実践を通して地域に学校を開いてきた。この実践は、平成9年度より文部省の進路指導総合改善事業地域指定をうけ、東京都ボランティア普及事業協力校、墨田区教育委員会奨励校の指定を受けている。ふれあい学習の教育実践は総合的な学習の代表例として各方面で紹介されている。来年度の時間割には、総合の時間ではなくふれあい学習の時間として時間割に位置づけられる。本年度の研究課題は、「ふれあい学習」の情報化である。インターネットを接続して「ふれあい学習」の新しい地平線をめざしたのであるが、本年度はネットワークの構築だけで1年間を終えてしまった。

3.3.1 ふれあい学習の取り組み

墨田中実践は「ふれあい学習」

墨田中学校の教育実践は「ふれあい学習」である。総合的な学習として「ふれあい学習」は評価されているが、「ふれあい学習」の実践そのものは「総合的な学習」という言葉が生まれる前からあった。墨田中学校の「ふれあい学習」とは、「学校を地域に開く取り組み」である。実践の二年目からは、文部省進路指導総合改善地域指定と東京都ボランティア普及事業協力校、墨田区教育委員会奨励校の研究指定を受けている。

墨田中学校の基本的な姿勢

 平成7年当時、生徒をトータルとして見つめ日々の実践をしていく必要性を、墨田中学校の教職員全員が感じていた。そこへ森本芳男校長と佐藤忍教頭(現在墨田区立吾嬬第二中学校校長)が赴任してきた。そして「ふれあい学習」をしたいと宣言した。教職員も学校を開く必要性を感じていた。卒啄同時である。学校を変えようとするので、指導改善のねらいがたてられる。


指導改善のねらい
地域で培われた人間関係を直視する 人間をトータルで向き合う

 指導改善のねらいは、具体的な展開を示しているわけではない。具体的展開は指導改善のねらいから研究し、展開していかねばならない。ここから研究テーマが導き出された。


研究テーマ
地域とともに生きる力を育てる

 研究テーマと研修テーマは違う。教師の資質を高めるための校内研修は、指導内容と方法の研究でなくてはならない。従って校内研修は別にテーマをたてている。


校内研修のテーマ
生きる力を育てるための指導内容・方法の研究

ふれあい学習が始まってから、指導改善のねらい、研究テーマ、校内研修のテーマは、継承し継続している。この3つのねらいが相互作用していることは、我々の実践に対するプライドでもある。

墨田中実践「ふれあい学習」の構造

 「ふれあい学習」では、実践の戦略として第一ステップ<地域の人材を学校へ>・第二ステップ<学校から地域へ>・第三ステップ<地域と共に学ぶ>の三つのステップで構造化している。地域と共に学ぶという第三のステップは、墨田中実践の特色であろう。第一学年では、自己理解の過程をボランティア活動を軸に、この三つのステップで展開している。第二学年では、自己啓発の過程を職場訪問を軸に、三つのステップを展開している。

第三学年は、自己実現に向けて進路決定と社会人となる直前の課題を中心に三つのステップを展開している。


第一ステップ 地域の人材を学校へ
第二ステップ 学校から地域へ
第三ステップ 地域と共に学ぶ

 第1ステップで、地域の人材を学校に招いて講演などをしていただく。第2ステップで、学校から地域へ生徒が出かけていき、体験学習などをしてくる。そして、墨田中実践の特色でもあるが、第3ステップとして、地域とともに学ぶことをする。とかく体験だけをさせて、体験のやりっぱなしになってしまう実践がある。墨田中にとって発表会も大事な実践なのである。第3ステップには、生徒が体験をまとめるという側面と、教師や保護者や地域もともに学んで成長するという側面を含んでいる。これが過渡期の意味合いであるか、恒常的な意味合いであるかは、実践の積み重ねが示してくれるであろう。例えば、地元の福祉センターに勤務されている秋田昌子さんに来校していただき、介護の体験と考え方感じ方について講演してもらった。第1ステップでは、地域の方を学校によんで話をしていただいたり、指導を受ける。第1ステップふれあい学習の風景は、音楽室に学年みんなで話を聞くスタイルが多い。他に全校集会や全校朝礼の場面、また授業や部活動で指導をいただくこともある。

 第2ステップは、学校から生徒が地域に出ていって、体験学習をする。一年生でボランティア活動、二年生で職業体験、三年生は自分の進路を切り開くために学校から社会へ出ていく。墨田中の職場訪問が「たたみ新聞」に掲載されたりした。ボランティア活動と職場訪問と、脈絡がないように見えるが、実践後に重要なつながりに気付いた。第2ステップで学校から地域へとは、学校に出ていくチャンスをしっかり捕まえなければならない。その点で学校に機動力が必要である。ふれあい学習のコンセプトにあえば、その機をとらえて学校から生徒を出していく。墨田区の職人世界を紹介する「匠の競演」というイベントも、案内をもらってから時間を見つけて全校で参加したりもした。

 第3ステップは、墨田中実践の特色でもある。地域とともに学習をというステップである。地域とともに学ぶ機会として、毎年ふれあい学習発表会を催している。生徒や地域の方による発表と教師の取り組みとしての研究発表を2月上旬に行っている。生徒の発表と研究発表(研究協議)の二本立てで、地域に開いて研究発表会を行っている。他にも、防災訓練など、地域と学びあうチャンスを捕まえて、共に学ぶ機会づくりをしている。

 一年生では、ボランティア活動で学校を飛び出そうとしている。

 ふれあい学習のスタートは、秋田昌子さんによるお話「思いの交換」で心を掘り起こしている。この心の掘り起こしが、ふれあい学習三年間の活動の導入になる。心の掘り起こしの後、スキルを学習する。墨田区のすみだボランティアセンターの協力で、手話やガイドヘルプの実習をする。スキルの学習と同時に、ボランティアの心も学習する。ボランティア活動の体験は、すみだボランティアセンターで受け入れ先を決め、段取りをつけてから訪問する。二年生に、ボランティア活動から職場体験を学習する。これには必然性があった。そのことに気が付くのは実践した後のことだった。ボランティアから進路につなげる。一年生で奉仕を学んだが、二年生では奉仕から自立を学ぶ。誰かのためにしてあげたのが、自分への問いかけに変わってくるのである。

戦略的に構造化された実践の他に、ふれあい学習は、「ふれあい」というキイワードに関連する実践は、何でも取り組んでいる。部活動や教科学習、道徳でも、学校を開いて学んでいく実践をしている。地域に菊づくりの名人がいるというので、その方をお呼びして部活動として有志で菊づくりをする。また、パソコンソフトで環境家計簿が開発されたので、その開発した方々をお呼びして、授業を試みている。生徒はパソコンを扱えても、家計が分からない。保護者なら家計は分かる。しかしパソコンに興味があっても扱えない。

そこで、放送部の生徒とPTAの委員とで即席の親子をつくり、環境家計簿を使った授業をした。講師はシステムエンジニア、教師は授業のコーディネーターになる。その結果、実にあたたかく味わい深い授業を体験できた。ふれあい学習は、ボランティア学習と進路学習を融合させて実現できたのであるが、それもふれあい学習の多様な取り組みの部分である。なぜ、それだけ多様な実践をしているのか。それは、地域の人材の多様性が、学校の交流の多様性となり、取り組みの多様性になるのである。それと同時に、生徒が多様であるのだ。だから、学習の多様性がより多くの生徒を生かすと墨田中学校では考えている。

ふれあい学習から見えてくる地域概念

 学校を地域に開くというのは、言いつくされている。教師にとって地域とは、一義的に学区域である。広げても行政区域を越えることはない。そのことが実践の閉塞状況を生むであろう。社会学では、マッキーバーが「声の届く限り、足の及ぶ限り」と地域(コミュニティ)を定義している。ふれあい学習から見る地域は、学区域を機軸にしながらも、もっと広い概念である。墨田中学校は、向島と押上の地域を学区域としている。地域の方にお願いするのは、学区域に住んでいるからこそお願いする。例えば卒業生はどうであろう。現在学区域に住んでなくとも、墨田中に縁があり、生徒も違和感なく受け入れることができる。墨田中学校にアイデンティティで結びついている。地縁でつながっている。それでは、ゲームクリエイターやシステムエンジニア、ミュージシャン、アメリカ人のジャーナリストといった方々はどうであろう。いずれも墨田中学校の学区域には住んでいない。たまたま墨田中学校の教職員やPTA、地域の方々の知り合いである。知でつながった関係である。これを磯村英一は、知縁であると言った。ネットワーク社会である。


縁で結ばれた地域概念
地縁 (アイデンティティ社会)
知縁 (ネットワーク社会)

墨田中学校が縁でつながっている広がりがある。これを、縁でつながった地域と考える。地縁と知縁が学校を開く。総合的な学習をすすめるためには、学校の中だけでなんとかしようとする考えでは、ダイナミックなことができない。学校を開くことで、地域や大きな社会のダイナミズムを学校に引き入れたい。それだけに、担任なりの個人で総合的な学習をすすめるのでなく、学校単位せめて学年単位で、多くの教師でこれにあたるべきである。学校へのダイナミズムを引き入れるためには、学校が地域へ働きかけることからはじめるといい。PTAを通して地域と交流をすすめることである。そこには地縁があるからこそ、交流ができるのである。地域の側から見ると、地域の学校だからという意識を持てる。学校が縁を大切にすれば、時間がかかったとしても必ず大きな輪になっていくだろう。学校の側から見れば、縁をどのようにたぐり寄せるかである。地域の概念は、二つある。地域住民とは、学校の学区域に住む人である。この場合の地域は物理的な空間を示している。しかし、企画する学校からみれば、縁は学区域の地縁だけでない。学校は自治体という枠組みの中にある。市町村だけでなく都道府県の広がりを持っている。学校もその時の教員集団の構成要素によって、縁のあり方も違う。また、地縁血縁のみならず、人と人の間に知縁に着目することが大切だという意味である。知縁という考え方は、ネットワーク社会において重要である。例えば他県に住む同窓生であっても、母校のために手弁当で駆けつけてくれるということである。校長先生の親友であるからこそ、その学校を応援してくれる有名人もいよう。それは知縁である。そのような意味では、学区域が存在しなくても、地縁も知縁も学校は持っているということである。縁を大切にしないのなら、縁は薄くなってしまう。学校の姿勢が問われるのである。

ふれあい学習の組織論

 ふれあい学習を実施するにあったって、教員組織に特別な組織はない。しかし、校長諮問機関に進路指導総合改善事業推進会議がある。推進会議はふれあい学習で縁をつないでくれた方々で組織されていて、学期に一回開かれ、学校の活動を報告するとともに、校長は人材の紹介やアイディアの提供を受けている。


進路指導総合改善事業推進会議
位置づけ:校長の諮問機関
構成メンバー:縁をつないでくれた人
内容:学校運営のアドバイス

またPTAの活動も無視できない。どのステップでも協力に支援してくれている。第3ステップの発表会では、近年生徒と一緒になって保護者が発表をしている。

ふれあい学習の学習論

 墨田中実践を学習論の視点でみると、問題解決学習である。墨田中学校のスタンスは、生徒の主体的な学習活動には必然性があり、生徒が学ぶ主体であって、自ら進路を切り開くのだと考えている。従って、一人一人の問題意識の尊重し、そのことが多様な生き方の尊重、個性の尊重につながってくると考える。そのような学習展開には、生徒自ら関心を持ち、学習する調べ発表学習や体験学習、探求学習を重視した学習活動が有効だと考える。とりわけ、発表学習の積み重ねが重要であると考えた。発表のためのフィードバックにより、体験を経験に変えることができる。学び直しが学習なのだと考えるのである。そのためには、生徒が学びの主体でなければならない。大人の発見でなく生徒の発見を尊重する。つまり生徒の主体的な学びを尊重する。そのことは、大人の無理な評価を押しつけないということである。この学習は、思考の過程を前提にして学習設計されているので、教師が途中で指示を出したり意見をするような教師主導型でなく、コーディネート型であるべきである。墨田中実践は、イベントでなく学習化されているのである。学習化されているとは、体験を経験にする過程が組み込まれているということである。体験だけではやりっぱなしであり、学習であるためのプロセスを用意することで体験を経験に変えようとしている。それは、言語化などの認知枠の獲得、つまり意味の獲得の過程を組み込んでいると言うことである。発表会は、学習化の有効な手段として、墨田中学校の実践のプロセスの多くに組み込まれている。

3.3.2 ふれあい学習の情報化

 ふれあい学習の学習理論は問題解決学習である。このふれあい学習の学習観は、情報化による学びの変化と同じ方向性を持っている。また、ふれあい学習は全国の学校で展開されている。お互い学校間で交流するための基礎がある。墨田中学校は声の届く限り足の及ぶ限りの地域へは開いたが、遠い地域との交流はまだまだ発展の余地がある。つまりふれあい学習の今年の課題は情報化であった。無論、情報教育は教科教育でもふれあい学習でも展開してきた。しかしネットワークを利用する環境がないことは、ネットワークに生きる資質を培う上で致命的な問題である。

ふれあい学習の情報化とは

 情報は昔から大切であった。武田信玄も上杉謙信の動きをのろしを使い数時間後には知り得た。戦争は情報が大事であり、モンゴル帝国軍は相手をよく調べ上げて戦ったからこそ世界帝国を作り上げた。平成元年の指導要領改訂で社会科には「情報と社会」という単元が登場した。そのとき社会科のベテラン教師から出てきた言葉は、情報は昔から大切だったという発言であった。そのことが社会の変化に対応しきれない姿であった。情報化の意味合いが違うのである。


情報化は情報がみんなのものになったということ

それまで権力の側にあった情報が、人々(民衆・大衆・市民)のものになったことが情報化である。マスコミは大衆に一方通行の情報を渡す。であるから、権力との対決を示すことでマスコミのアイデンティティを確立しようとした。一方的に情報の受け手になっていた人々にとっては、マスコミも別の種類の権力になっていた。流行を作り出すという主体性をマスコミはもていた。しかし情報化によって、流行を作り出すのは人々に移ったのである。情報化は、人々が情報の発信をする。そこには情報が、多様な資源を持つだけに貨幣投票(売り買い)の対象となっていく。

情報化で質が変わる

 情報化によって、ものごとの見え方が変わってくる。コミュニケーションも情報ツールを使い、多様になっている。時空を越えてコミュニケーションが成立したり、ホームページやFAXを用いて情報発信をしていく。また、情報ネットワークを切り離したコミュニケーションをOFといい、コミュニケーションの分野として位置づけられていく。地理的空間概念だった都市のイメージは、ボーダレスになり地球規模でとらえたエキュメノポリスとなっていく。学習も個を生かした教育が求められる必然性は、情報化にある。

 情報化社会に参加していくことで、これらの現象を受け入れざるを得ない。将来情報化社会に参加する生徒にとって、情報化社会に生きる資質とは何かを問い続けることが、重要であることは言うまでもあるまい。


インターネットが最たる情報化

情報化社会の典型的な現象は、インターネットとともに現れている。インターネットが最たる情報化であろう。100校プロジェクトにはじまった学校へのインターネット導入は、西暦2002年までに全ての学校で導入されるはずである。しかしそこには重要なノウハウや意識変革が必要である。

ふれあい学習とインターネット

 インターネットの導入がふれあい学習とどのようにかかわりあうのか。

 ふれあい学習が墨田中学校だけで展開されているのではない。例えば、インターネットを利用することで、どこにふれあい学習の実施校があり、どのような実践があるか理解しつつ、交流を提案できる。日常的に全国のふれあい学習実施校と交流できよう。知り合うことで、新しく始まるものである。ふれあい学習サミットなども、可能になろう。

縁を結びつける

 出会いが新しい理解である。そのチャンスを獲得できれば、新しい展開はいくらでも可能であろう。距離を超えて学びあえる。また、Web上で発表の機会を増やすこともできる。インターネットがふれあい学習に与えるチャンスとはこのようなことである。


知り合うこと
距離を超えて学びあえる
発表の機会が増える

インターネットの道具性:ふれあい学習のふれあいそのものにはならない

インターネットが全てを解決するものではない。とかくメディア導入が万能の観を呈しているのは、メディアの特色をとらえていないことから起こる。インターネットは、ふれあい学習のふれあいそのものにはならない。インターネットで、ふれあいの入り口に立つことであると理解しなければならない。


ふれあいの入り口にたつこと
学校が地域になること
学校が世間になること

これまで高かった学校の敷居は、学校の中からも外への敷居が高かったのである。インターネットを使って、近隣であっても学校からアクセスできる。そのことで学校が地域になり、学校が世間になるのであれば、インターネットが学校を開くための利用価値の高い道具であるといえる。メディアは道具である。道具としての特色を捉えて利用することによって、学校が正しい意味において情報化する。

インターネット導入の努力

 東京は全国でも学校へのインターネット導入が遅れた地域である。このことによって、東京の中学生は、情報化社会で生きていくための学力を学校で獲得するチャンスを失っている。これは、機会均等の権利と関係する。単に情報リテラシーなどの技術とその応用を言うのではない。情報化社会の主体性を育てるチャンスを失っているのである。反面、家庭ではチャットで遊ぶ生徒も散見するようになってきている。


機会均等の権利を保障する努力
情報化社会の主体を形成する

ネットデイの可能性:つなぐことと校内LAN

恵まれないのは、東京だけではない。しかし前橋、福島、愛知、兵庫、滋賀、高知などでは、ボランティアによるネットデイでそれを実現している。墨田中学校でネットデイが可能だろうか。とても推進母体の脆弱さからネットデイを独力ですすめる体力と知識を持ち合わせていない。しかしながら校内LANを構築することを模索する必然性を、インターネット導入は、同時に校内LANを導入することであるととらえていた。墨田中学校にとってインターネット導入は利用の仕方を学ぶのでなく、インターネットを利用して学ぶ道具である。学習のチャンスを学習者の近いところにおかねばならない。従って、インターネット接続は校内LANを構築することとなる。

墨田中におけるインターネット導入の総合性

 墨田中学校の情報教育は、かなりの実績を自負している。これまでも「ふれあい環境家計簿」の実践などをふれあい学習で提案し、その他にも研究会やマスコミによって紹介されてきた。授業の中で、1年生の時点からスタンドアロンではありながらコンピュータを利用して情報検索などの情報処理能力を発揮させた学習が展開されてきた。技術科の授業では、遠隔操作の授業も行われている。しかし、墨田中学校へインターネットを導入するには、さまざまな困難があった。そしてさまざまな支援によって可能になった。


地縁の協力:地域の協力、教育委員会の協力
知縁の協力:KIUの支援、CECの支援

墨田区教育委員会は、グループ研究の指定と同時に、墨田中学校にガイドラインを示し、インターネット導入をすすめた。地域には墨田区ネット研究会が組織され、地域の生涯学習団体が学校施設を利用してインターネットの普及に努めている。インターネット導入に関して、地域の支援者が協力を申し出ている。財団法人コンピュータ教育開発センター(CEC)の先進的情報技術活用企画(Eスクエア・プロジェクト企画)のうち校内LANの構築と活用に関する実践研究で支援を受けている。このプロジェクトの一環で墨田中のネットワークを設計し、フィルタリングやネットデイなどの技術支援は、柏インターネットユニオン(KIU)が行った。また複数の企業によって支援されている。ふれあい学習で展開した地縁と知縁の協力の賜物である。

生涯学習団体「墨田区ネット研究会」

墨田区ネット研究会は、墨田中学校における生涯学習講座と墨田中学校の学校関係者を中心に、ふれあい学習の理念をコンセプトに発足した生涯学習団体である。活動は墨田中学校の施設を利用し、さらに研究会のISDN回線を学校へ引き込んでいる。メンバーは墨田中学校でふれあい学習を支えてきたPTAのOBも多く参加している。現在は墨田中学校のネットワークと研究会の回線を併用して活動している。活動は、月二回の例会と年に5回程度の学習会を中心にふれあい学習を連動している。

情報化による学びの変化

 情報化によって学びが変化する。例えば情報倫理の学習も従来の道徳の範疇に当てはまらないものである。ネットワークは、もうひとつの社会である。行動基準としてネットワーク上のモラル、つまりネチケットが求められる。ネチケットを備えた人をネチズンという。ネチケットの学習は、ネットの中での行動を問題にする。インターネットの環境から獲得できるのは行動基準である。ふれあいで相手を判断し行動することを前提としない。その際、これまで共感で学ぶ道徳では対応しきれない。行動を対象化して学ぶ教科教育が倫理に果たす役割が大きくなるのである。

 ふれあい学習の学習論は、個を生かす多様性と問題解決学習である。情報化によって主体性が重要になると、個性が尊重される。これまで基礎基本と呼ばれてきた基礎的基本的事項の陳腐化が「役に立たない知識」として指摘される。画一的な学力が要求されない情報化社会では、基礎基本的な事項、つまり共通知は精選され厳選さ、個性的な学力をつけるためには自ら学ぶ力の獲得、つまり方法知が増大する。


共通知の減少と方法知の増大
固有の知の体系を形成する
知のあり方 形式知・暗黙知・文脈知

主体性を重視した学習は、学習者固有の知の体系を形成することである。個性とは、単に性格の問題だけではなく、固有の知的な体系を形成をさすことになる。従来の学習観を変えることが必要である。これまでの学校では、伝統的な知識を獲得することが目的となっていたとよく説明される。つまり概念的な形式知を獲得することが目的とされた。それに対して、世間にはさまざまな知恵が隠れていて、体験の中から直感による知つまり暗黙知の獲得が必要だと言われる。実は、この2つの知の間には、もう1つの知が横たわっている。文脈知である。

文脈知・問うための学力:予見する力

文脈知とは、予見する学力である。これまでも勉強のできる生徒は、獲得する知識を予見しながら学習してきた。体験学習に出ても、察しのよい生徒は器用に体験を獲得してきた。そのような学力をつけるためには、指導上のノウハウがある。ひとつは、問うための入り口をつくることである。そして問うための技能を身につけて、問うたことを検証し反省することである。このような学習指導法を開発し具体的に提案することが、墨田中実践の使命であろう。

課題解決から問題解決:自ら問えることは学力

文脈知は問うことから得られる知であり。そのあり方は方向性である。問うための学力を重視する必要がある。墨田中実践では、学習論は問題解決学習に依りながら、実際の指導は課題解決学習の手法を用いている。それは問うことを始めた生徒をいかに問い続ける存在とするかという、切実な実践的な段階を踏まえていると言うことである。

射程距離の違い:教科と総合的な学習の違いがある

ふれあい学習の実践を積み重ねていく中で、教科の問い直しのが必要となるだろう。 教科も総合的な学習も内容は重なる。しかし総合的な学習の視点で評価すれば、生徒が自分で課題を設けて解決した学習に賛辞を惜しまないはずである。しかし教科の視点に立ったときに、教師の願いが生徒にさらなる課題を与えるだろう。つまり総合的な学習と教科の学習は内容に違いでなく、射程距離が違うのである。そして内容は重なるだけに、教科の内容は選択的にならざるを得ないだろう。

学びの質の変化とふれあい学習

情報化社会の到来によって、学びの質が変化した。それは学び本来の姿が鮮明になったのである。その学びとはふれあい学習の学びと本質的に共通するものであった。ふれあい学習がインターネット導入を契機にスパイラルな発展を示すことができるはずである。

 ここ数年来ふれあい学習が、学校における新しい学びを提案してきた。この学びの提案が、情報化社会の方向性と機を一にするものであり、このことを自覚しつつふれあい学習の提案をしつづけていくことに意義を見いだすものである。

3.3.3 墨田中学校におけるネットワーク構築

 墨田中学校のインターネット接続は、パッチワークで実現しようとした。墨田区グループ研究とCECの先進企画「校内LANの構築と活用」、生涯学習団体「墨田区ネット研究会」の活動などに支えられて実現したものである。

第1段階(1学期) 主事室内実験用小規模ネットワークの設置
墨田区ネット研究会発足 ISDN回線の確保
文部省通産省などのネットワーク施策の研究
第2段階(2学期) CECの先進事業の計画
先進校のネットワーク利用の研究
滋賀大学付属小中学校ネットデイ参観
第3段階(3学期) ネットデイの展開

 当初小規模ネットワークの実験から始まり、社会教育登録団体墨田区ネット研究会の発足により、墨田区ネット研究会の回線を利用したインターネット接続の実験をすすめた。学校利用のための研究は、財団法人コンピュータ教育開発センター(CEC)の先進事業に選ばれ、大きく前進をした。ワーキンググループの主査である林英輔流通経済大学教授の働きかけにより、柏インターネットユニオン(KIU)の協力を得て、1月29日のネットデイをむかえた。ネットデイ以降も調整のために継続的な努力をした。

 インターネットを利用するのは教師と生徒。そこには、2つの異質なネットワークが存在する。校務遂行用のネットワークと学習用のネットワークである。前者は業務のOA化であり、後者は社会の変化に対応した能力を育てるための学習環境の整備である。この場合、後者の実績が少なくまた2つのネットワークのバランスは事例として少ない。とりわけ学習環境の整備として考えるならば、利用しやすい環境づくりが求められるべきである。利用しやすい環境づくりとは、インターネットの利用環境を生徒に近いところへ設置することである。そのことによって情報化に伴うノウハウが積み重ねられていく。このノウハウには、情報倫理や情報に対する安全の問題も含まれていく。インターネットの導入は物理的環境だけでなく、社会の仕組みづくりも含まれていく。生徒に近いところへインターネット環境を導入する方法が、校内LANである。コンピュータ教室という特殊な学習環境で学ぶためには、そのような授業づくりが必要である。情報化社会に生きるとは、特殊な環境の中の情報化を意味していない。中学校1年生で既にコンピュータの操作ができる。今更墨田中学校でコンピュータの使い方を前提にした情報教育は必要ない。

 学校の情報化には校内LANである。校内LANの構築には、現在3つの方式が行われている。専門のノウハウを持った企業によるものとボランティアによるネットデイ方式、そして専門性を持ちつつ企業化されていないグループによる構築である。ネットワークの設計は、ワーキンググループの林英輔先生(流通経済大学)を中心とした大塚秀治先生、牧野晋先生、松本彰夫先生(麗澤大学)の柏インターネットユニオン(KIU)のグループによるものである。つまり専門性を持ちつつ企業化されていないグループによるネットワークの構築である。この事業の推進には、柏インターネットユニオン(KIU)とKIU協賛のエルテル株式会社、伊藤忠テクノサイエンス株式会社、株式会社内田洋行や墨田中学校を直接支援してきたマイクロソフト株式会社、シャープ株式会社、株式会社リクルート、墨田区ネット研究会などの協力があった。校内LANには赤外線無線を用いて3つの系統を持っている。インターネットにはさくらケーブルテレビを通して出ていき、単独1校でフィルタリングをかけている。当初の取り組みよりも先進的事業にふさわしい環境が揃ってきた。運用に当たっては、墨田区教育委員会「インターネット」に取り組む際の留意事項に従っている。具体的に墨田中学校で接続する手続きに、JPNICハンドル割り当を行った上で、ドメイン名の取得・IPアドレスの取得がある。これは慣れない書類づくりで手間取ってしまった。幸い墨田中のドメイン名(SUMIDA-J)を予約してあったので、その点は安心できた。ネットワークの設計には、KIUが中心的役割をしているが、墨田中学校やワーキンググループの考えの調整や判断材料として情報の提供などにメーリングリストを用いて進めていった。今後一校一校にこのような作業が入ってくるのである。メーリングリストで交わされたメールも500を越える数になる。書き換えされたネットワーク図は7枚、他にネットワーク配線マニュアル、UTPケーブル一覧表、ハブ&情報コンセント一覧表がある。これらはKIUのWebに掲載されている。

 墨田中学校のネットワークふれあい学習の課題知識社会と情報化は、教室系ネットワークと職員室系ネットワークとパブリック系ネットワークの三つのネットワークを抱え、赤外線無線LANを利用することで校舎の持つ諸問題を解決している。

運用までの模索

平成12年3月は一ヶ月間実験的運用を行っている。実験的運用を行うに当たっては、教員の校内研修を麗澤大学の牧野先生をこうしに迎え開催している。先生方の理解を得ながら、運用に当たってのノウハウは実験的運用からヒントを得ようという方針になった。3月4日の実験的運用開始までには、全校集会で教師の側から、生徒会朝礼で生徒会の側から校内LAN利用に当たっての考え方が示された。下記は、その際に示された生徒向け配布物である

 

 校内LANの実験的利用について

多くの方々のおかげで出来た校内LANを守るためにも、みなさんの協力が必要です。学校の校内LANは学習用です。すべて監視された規制の中で利用するものです。


暫定「生徒校内LAN利用規定(3月のみ有効)」

 平成12年3月4日より平成11年度内について検索エンジンを使ったインターネット利用のみ実験的に行います。

◎目的と方針:・学び方や情報の生かし方をインターネットを利用して実現する。・インターネットの利用で世の中の健全な良識を逸脱しない。

◎利用できる時間と場所:・校内LANの利用は原則として休み時間と昼休み、下校時間までの放課後です。・利用できる各階フロアのパソコンです。・ふつうの場合はパソコンの電源は登校時から一般下校時までつけておく。・授業などでコンピュータ教室のコンピュータからインターネットの利用が可能です。・授業で利用するときは、先生の指導に従って利用すること。

◎心がけ:・時間をまもれなかったり先生方の指導に従わないようなことがないこと・インターネットの利用で世の中の健全な良識を逸脱しない。

◎管理:・放送部員で管理を任された者が、生徒の管理者となる。・管理を任された生徒はフロアの電源のON/OFFを行う。・機器について問題点がある場合は視聴覚担当の先生に申し出る。

◎利用規定に違反した場合:・利用規定に違反した場合は、ネットワークの切断をふくめた対応をする。・利用規定に違反した場合は、厳重に指導する。
※この利用規程はメールやホームページなどの情報発信用にはできていません。
 メールやホームページを利用する場合は改めて規定を作り替える必要があります。

◎利用方法について:・放送部員の中で特に指導をした生徒について管理のお手伝いをお願いします。・ブラウザーの使用方法は先生または管理を任された放送部員に聞いてください。・ホームページから掲示板や発注などをしてはいけません。場合によっては訴訟の対象になります。

◎使用可能なコンピュータとソフト:・使用可能なコンピュータは各フロアにあるパブリック系のパソコンです。・先生の指導の下であればコンピュータ教室のパソコンも使用ができます。・使用するソフトはネットスケイプまたはインターネットエクスプローラ、エンカルタ大百科事典、エンカルタ地球儀です。

 管理上の特色は、放送部の生徒20名が生徒側の管理者として活躍していることである。放送部の生徒には、下記の心得について了解してもらい、これまでの活動から先生方にも信頼を得ている。


墨田中放送部生徒校内LAN管理用心得

先生のお手伝いとして校内LANの管理に当たる以上、先生方に迷惑をかけたり不信感をもたれるような生活態度をとってはいけない

模範的生活態度が前提である

◎時 間(通常時間割で)   開始時間 8時20分 終了時間 3時50分

◎利用方法 ソフトはブラウザーを使う  検索エンジンを使ってWebを見る

◎禁止事項 メールは使わない Web上の申し込みや掲示板などの発信をしない

◎禁止事項が守られない場合  インターネットの回線を中断する 禁止事項が守られなかった生徒について厳しく指導する 禁止事項を犯すようなことがあったことを明らかにする

◎留意事項   すべての事柄について先生に連絡・相談・報告をすること

 このように墨田中学校の校内LANは、やっとスタートについたところである。


 次へ →