モバイル活用の実践研究について

参加校の実践事例

西陵商業高校 影戸 誠

 

はじめに

本校はこれまで、アジア高校生インターネット交流プロジェクト、ワールドユースミーティングなどCEC主催、共催の取り組みに参加してきた。

自宅に端末を持っている生徒は少なく、学校に遅くまでのこり、作業を続けてきた。

また、授業での研究発表などプレゼンテーションファイルの作成に放課後取り組む姿を見かけた。

このような状況において、モバイル環境を提供すれば生徒は自宅から学校にアクセスし、よりアクティブな行動ができるものと期待した。

また他校との連携の中、どのように意識を高揚させつつ取り組んでいくのかも観察することができると考えた。

1.参加の経緯

 今回生徒が参加するにあたって次のような条件をクリアしなければならなかった。

このような専用サーバの設置において、生徒にとっては「自分たちが創り出す」ページであることを自覚させる大きな契機となった。

 

2.学校のネットワーク環境

本校の歴史はまさに100校と共に歩んできた歴史である。

94年に日本のインターネット利用黎明期と言える100校プロジェクトに参加し、それ以後「生徒の瞳を変える」インターネット、授業を変えるインターネットを合い言葉に取り組んできた。

現在は新100校への参加のあと、128kbpsの専用線を活用し、本プロジェクトに参加している。

心臓部のサーバーはSUNを設置し、本プロジェクトサーバもSUNで構成している。

生徒たちは端末Windows NTから自分のアカウントで放課後など自由にアクセスすることができている。

もちろん生徒一人一人がアカウントを持ち、国内海外との交流を行っている。

 

3.生徒の変容

本校は商業高校であり、授業でのインターネット利用も進めている。

ハワイ大学、アメリカハバーフォード大学との共同授業にも取り組んでいる。

Webchatを活用し、リアルタイムのコミュニケーションを英語と日本語で行うなどの活動をこれまで4年間取り組んできている。

生徒たちにとってはインターネットは身近なものであり、本校で学習でき、卒業時にはインターネット活用能力を「誇り」までするようになっている。

それに加え今回モバイルプロジェクトに参加した生徒が次のような文章を寄せている。

 


生徒文章

モバイルを使って・・・

名古屋市立西陵商業高等学校3年 吉澤朋子 

 今回この研究対象になって、とても光栄でした。私は約1ヶ月間パソコンを使わせていただきました。主な使用内容は以下の通りです。

1.電子メール

 私はイギリス留学をするのが夢なので、初めにインターネットのホームページでイギリスに友達を作りました。私のメール友達はイギリスに住んでいるJhonさん・27歳です。1週間に1〜2回程度、英語で交流をしています。彼からはイギリスの生活の仕方や日本に遊びに来たときに何に一番驚いたかなどを教えてくれています。私は日本でおすすめの場所とかを教えました。もちろんイギリス留学を夢としていることも話しました。7月に日本に遊びに来る計画があるというので、来たときには日本を案内する約束をしました。彼のおかげで英語力も上がってきていますし、イギリスの事も詳しくなってきました。ぜひ、イギリス留学の夢を叶えてこちらからJhonさんに会いに行きたいと思っています。

2.インターネット

 ちょうどパソコンをお借りしたとき、私は卒論に追われていました。資料を探すためにインターネットを多く活用させていただきました。卒論が終了した後は好きなアーティストのHPを見たり、卒業旅行の計画を立てるために使用しました。アーティストのHPでは全国に同じ人を好きな友達を作ることが出来ました。さらに驚くことにアーティスト本人とも会話をすることが出来ました。

3.ネットミーティング

 テーマは「日本の正月」ということで東京の中学生の方たちとデジタルカメラで撮った写真をアップして一言添えて交換しあいました。私は自宅のおせちや鏡開きの日には善哉を撮って送りました。東京の方は雪祭りに行ったようで、その様子をデジカメで撮って送ってきてくれました。

 

 初めは使い方にすごくとまどってしまい、なかなか触れることはできませんでした。しかし、徐々になれてきて自分で使い方を探し出したりして最近はずっと毎日2時間ぐらいパソコンに触れています。今ではパソコンは私にとってかけがえのない物になりました。私個人ではパソコンを持っていないのですが、ここでせっかくできた大切な友達を失いたくないので今後買おうと思っています。


 

5.実践研究校と使用機器

本校は、神奈川大学附属中高等学校、帝塚山学院泉ヶ丘中高等学校、大阪府立盲学校、慶應義塾普通部と共にこのプロジェクトに参加した。

使用機器は、ノート型パソコン、 MPEG4対応デジタルカメラ、PDA端末機ザウルス、携帯電話、PHSが各2台である。ノート型パソコン、PDA端末機ザウルスをPCカードを使用し、指定のプロバイダに接続した。

速度も64kであり、申し分の無いものであった。

また、教員間においてもそれぞれのプロジェクトの進み具合をモバイルで連絡をとることが出来、その有効性を自ら体験することができた。

 

6.活動状況  

(1)モバイルの提案

平成12年1月22日(土) にKIU&JAPETジョイントフォーラムが開催された。これまでこの会で午後発表される、柏市立中原小学校の梅津教諭とは、同教諭が推進される「日本人学校月プロジェクト」に参加してきた。

パース日本人学校、香港日本人学校とのCu-SeeMe交信実験にはモバイル接続を行い、参加してきた。

今回この会においてモバイルからの参加を試みた。

会場は麗澤大学であったが、名古屋市内より、会場をモバイルで結びその活用を提案した。

車の中に端末を置き、駐車場を変えながら実況中継を行った。

音声もクリアであり、車の中の私に会場のどよめきが伝わってきた。

「今後は野外活動、遠足、修学旅行など現地の状況を伝えるのに有効ではないか」等の意見も出された。

会終了後、会場の方から何本かの連絡をいただいた。画像、音質のの良さに対しての評価であった。

(2)掲示版の設計

冬休みとなり、生徒も自宅からモバイルする事となった。生徒が身の回りにある風景を画像と共に送ることのできる掲示板の設計を考えた。

図の様にテキストだけでも表示できるし、また画像も張り付けることができる。

またキーワードから検索することもできる。

タイトルリストに見るように、自宅、修学旅行先、新年の挨拶、地方の新年の飾りなど多岐にわたるものであった。

「お正月にちなんだ物4 Message こんどは・・・ごめんなさい。ちょっと名称がわかんないです。床の間に飾る物なんですけど。どなたかご存じなら教えてください。」

とこれからの国際交流に向けての材料収集も合わせて行われた。

 

(3)北陸地域活用事例発表会

 2000年1月30日に福井県で活用事例発表会が行われた。このとき、会場と札幌雪祭りに参加していた神奈川大学付属中高等学校の小林道夫教諭と連絡を取り、会場と札幌を結び、雪祭りの様子、さらには大通り公園の様子を会場に伝えた。

これらが本当にモバイルによる画像なのかと会場からのその機能に強い関心が寄せられた。

 

7.得られた成果

(1)生徒の生活を支えるモバイル

今回機器を提供された生徒の生活をその感想文からも伺えるように、生徒に端末を持たせることによって、動画・音声の交信のみならず、自分の生活をより創造的に展開する機器としてモバイル活用を行っていた。

学習を支えるモバイルの活用が浮き上がってきた。

卒業後なんとしても自分の機器を持ちたいとの願いをどの生徒も持つようになった。

(2)他校との共同製作

掲示板に見られるように、参加校からの掲示板への画像とコメントの投稿はお互いが同じプロジェクトを推進するという共同意識を育てることができた。

学校を越えた取り組みが実現した。

今後はこのような展開を、小・中・高、あるいは高齢者とも共有できるならば多感な高校生に多くの新しい視点を提供できると考える。

(3)ボランティア活動の道具として

 本校のグループは名古屋市福祉協議会の開催するイベントに、モバイル機器を活用し、参加した。

台湾大震災の状況報告のパワーポイントを作成した。その枚数なんと85枚にもなる枚数であったが、時間をかけ、辛抱強くファイルを作り上げ、機器を持ち込み、発表の手伝いを行った。

大変な仕事であったが生徒のコンピュータリテラシーがどこでも、いつでも発揮できる新しい側面を発見した。

 

8.おわりに

今年度の取り組みによって、これからの「生徒」の生活の質そのものを変えていく機器としてモバイルがあることが予測できるようになった。

今年度は来年に向けて手探り状態で活動を行ったが、今後台数が増える、あるいは家庭でのインターネット接続が増える中、学校の授業そのものも新しい「環境」を意識したものでなくてはならないように思える。

夏休みなどの課題の出し方、生徒との連絡の取り方など、モバイルコンピューティングの可能性は大であり、教育立国、情報立国の視点から考えるならば、来年度の取り組みはさらに重要になるものと考えられる。


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