1.立体

(小学校6学年 算数科)

2.授業のねらい

 本題材では,角柱や円柱を扱うことにより,立体図形を平面に表したり,平面に表した図形から,立体を思い起こさせたりすることにより空間に対する感覚を豊かなものにすることをねらいとしている。そのため,生活経験の中から色々な立体を思い起こしたり,模型の活用や展開図・見取り図などを十分活用することが重要である。
 そこで,「側面」「底面」などの用語をしっかりと理解させ,その用語の重要性をとらえさせることが,大切になってくる。空間的上下関係でこれらの用語をつかむことが無いように指導しなければならない。また展開図を描かせるにあたっては,面と面の関係を考えさせるとともに,様々な展開図があることを気づかせながら,実際に立体を製作する際の合理的な展開図についても考えさせていきたい。また,三角柱の展開図を作成するにあたっては,
(1)画面上の豊かな表現により,児童の興味・関心を引きつけ,学習の動機づけがしやすい。
(2)さまざまな機能を生かすことで,手間のかかる操作を短時間に繰り返しできることで学習の効率化を図る。
を活用することにより,念頭操作の支援を行う。このことによって,立体を平面に展開していく作業を頭の中で行う感覚を身に付けさせたい。

3.利用ソフトについて

(1)利用ソフト名

「3D−ラボ」 IBM

(2)利用ソフトの概要

 「3D−ラボ」は,模型ではできなかった高度なシミュレーションを,高度なグラフィックス機能により動的に実現している。小学校の算数では,立体図形については4年生で,直方体・立方体の概念や,辺と面の関係及び展開図について学習する。5年生では,体積の学習の一部として立方体・直方体の体積について学習する。これらのことをもとにして,6年生では,柱や錐の概念・性質・展開図について学習し,投影図の基礎的事項についても学習する。そして,角柱・円柱・角錐・円錐の体積・表面積について学習する。
 「3D−ラボ」の高度な機能は,小学校の学習では,やや多く複雑なようにも思えるが,児童の空間概念を育てる上には,充分な効果をあげると思われる。以下有効な機能について触れたい。
1) 立体図形の回転機能
 提示された立体を360゜どの方向にも回転できる機能は操作しながら空間概念を身に付けさせることができる。しかも視点を安定させてみることができるため,頭の中で動作の再現がしやすくなるという利点がある。透視図と併用することで効果はさらに高まる。
2) 自動展開の機能
 提示された立体を自動的に展開する機能であるが,同じ立体を繰り返し展開すると展開方法が変る点が特徴的である。展開図は一通りではないという考え方に結び付けることができる。
3) 基本立体の変形ができる
 小学校では,基本的立体を扱うが,数学的には,特殊な立体である。側面・底面とも変形できることは,授業のなかで立体を提示するときの扱いやすさにつながっている。
4)投影機能
 X・Y・Zの各方向から提示した立体を投影できる機能であるが,投影したもののうち任意のものを消すことができる機能がよい。提示した投影図から立体を予想する学習では,一面の投影図では,立体が決定できないことを学ぶには有効である。

*****実践例がAB2例あるため4.5.6をABごとに掲載***** 

実践A

4.コンピュータ利用の意図

(1) 利用場面

 本題材は,立体を真正面から見た図と,真上から見た図からもとの立体を読み取る活動を通して,立体図形についての理解をいっそう深めることを意図している。
 これまで,この題材の指導は,OHPやスライド映写機などを用いて立体模型を実際に投影して見せる方法が多く行われてきた。しかし,その場合教師が提示して児童が読み取るといった一斉での学習が中心になり,個別への対応が十分できなかった。そこで,ワークシートなどで個別に課題に取り組ませる方法が合わせて行われてきたが,その場合それぞれの立体についてその都度児童が正解を確認することは難しかった。
 本時では,最初にOHPを用いて立体模型を実際に投影した後,コンピュータを用いてグループごとに課題に取り組めるようにした。利用ソフトの特性から,次のような利点があると考えたからである。
1)グループごとに,自分たちのペースに合わせて学習が進められる。
2)それぞれの立体について,その都度正解の見取り図が画面に提示され,フィードバックできる。
3)基本図形を自由に変化させて作成した立体を登録し,立面図と平面図が提示できるため,児童の実態に応じて課題を設定できる。
また,
4)影の方向を連続的に自由に変えて提示できる。
という点から,全体でのまとめにおいて,教師の操作で影の方向を変えて提示し,真正面と真上の2つの図によって形が決まることを確認する。

(2) 利用環境

1) 使用パソコン NEC PC9821Ce2 7台
 画像コンバータ 1台  29型TV1台

5.本時の展開

(1) 指導計画

第1次 第1時 角柱の基本的な性質および角柱の底面,側面の性質
第2時 円柱の基本的な性質および円柱の底面,側面の性質
第3時 角柱の展開図の考察と角柱の製作
第4,5時 円柱の展開図の考察と円柱の製作
第6時 学習内容の適用と習熟
第2次 第7時 角錐の基本的な性質および角錐の底面,側面の性質
第8時 円錐の基本的な性質および円錐の底面,側面の性質
第9時 角錐の展開図の考察と角錐の製作
第10,11時 円錐の展開図の考察と円錐の製作
第3次 第12時 立体を真正面から見た形,真上から見た形についての考察
(本時)
第13時 投影図による柱体や錐体の表し方
第14時 学習内容の適用と習熟
第4次 第15時 まとめ

(2) 本時の目標

 立体を真正面から見たり真上から見たりしてその形を考察し,立体をとらえることができる。

(3) 本時の展開 ◎は使用ソフト

学 習 活 動 活動への働きかけ 備考
1.影の形から考えられる立体をできるだけたくさんみつける。 ○角柱の後ろからOHPで光を当ててスクリーンに影を映し出す 。 ◎3Dラボ
2.本当の形を確かめる方法を考える。 ○真上から光を当てた影が必要なことに気づかせる。
立 体 の 2 つ の 影 か ら 形 を 読 み 取 ろ う
3.学習活動の方法を知る。 ○ソフトの立ち上げ方,操作方法について実演しながら解説する。   
4.いろいろな立体について,真正面と真上の影をもとに形を読み取る。
○グループごとにパソコンを操作しして問題を解決する。
円柱の投影図
○机間指導
三角柱の投影図
  
5.正確に立体を読み取るために必要な光の方向について考える。
四角柱の斜方からの投影図
○早く終わったグループにはワークシートを配布し,個人解決させる。
○一斉指導
○真正面と真上の影の組み合わせでなければ,2つの影から正確に形を読み取ることはできないことに気づかせる。
○教師実験で図形を回転させ,そのときの影のようすを観察させる。
 

6.今後の実践のために

(1)利用場面の評価

 グループでの利用場面では,それぞれのグループ内で活発に相談し合いながらコンピュータを操作し,問題を解決していた。同じ問題に繰り返し取り組んだり,じっくり考えたりと,自分たちのペースで進められたようである。また,1問ずつ答えを確かめられるため,まちがいの原因をグループの仲間と話し合い,それを次の問題の解決に生かす姿もみられた。
 本時では,三角錐,四角錐,円柱,四角柱2種,円錐,三角柱2種の8問を問題として登録して行った。グループにより差はあったものの,どのグループも時間内に全問を解決することができ,問題数としては適当であったと考える。授業を実施する学級にもよるが,できれば各立体につき2問以上登録しておくのがよいのではないかと思う。
 まとめでの利用場面では,コンピュータで斜めからの2方向の影を提示したところ,児童から「わからないよ」という声が出た。なぜわからないかを話し合ったところ,真正面と真上からの影でなければいけないことに気づくことができた。実際にコンピュータで影の方向を回転させることで,児童はより明確にとらえられたのではないかと思う。

(2)コンピュータ利用上の成果

 授業後のアンケートで,「コンピュータが使えたので,楽しかった」と答えた児童がほとんどであった。また,「自分からすすんでやってみようと思いました」「もっとこの続きがやりたい」と答えた児童も多く見られた。また,「コンピュータを使ったので,いつもと違って,いろいろと試すことができました」「自分のやり方や自分のペースで,学習を進められました」という声からもわかるように,コンピュータを自分で操作することで,自ら対象に働きかけ,様々に試行するといった能動的な学習が展開できた。
以上のことは,コンピュータのシミュレーションを授業にとり入れることで,新学力として最も重視されている児童の関心・意欲・態度が向上したと考えられる。

(3)課題

1) コンピュータを利用することについて
 本時でも,実物から離れないように,導入において立体模型をOHPで投影したが,次時に投影図を描かせたところ,戸惑う児童もみられ,それだけでは不十分だったように思う。常に実物を意識させながら授業を展開していかなければならないことを痛感した。
2) 3D−ラボについて
マウスでの操作が中心であるため,児童にほとんど抵抗なく操作できた。本時とは逆に立体から立面図,平面図を予想させる活動にも利用できる。基本図形が限られていて,五角柱,六角柱などの多角柱,五角錐,六角錐などの多角錐,球などが表示できないのが残念である。
3) 授業上での課題
児童の操作を十分保証するには,2人につき1台のコンピュータがあるのが望ましいと思われる。

実践B

4.コンピュータ利用の意図

(1) 利用場面

 今回は,展開図を全面提示するのではなくシミュレーションの途中でディスプレイからはみ出してしまう設定にすることによって問題を持たせる形をる。このことにより,念頭操作を児童自身に迫る形で取り組ませた。

(2) 利用環境

1) 使用パソコン PC9801 DS,DX,RX,各1台

5.実践

(1) 指導計画

第1時 角柱の基本的な性質,および角柱の底面,側面の性質
第2時 円柱の基本的な性質,及び円柱の底面,側面の性質,柱体の高さの測り方
第3時 角柱の展開図の考察と角柱の製作
第4・5時 円柱の展開図の考察と円柱の製作
第6時 まとめ

(2)本時の目標

三角柱の底面や側面の構成を理解し,展開図を描き,組み立てることができる。

(3) 本時の展開 ◎は使用ソフト

学 習 活 動 活動への働きかけ 備 考
1.問題を把握する。    
厚 紙 で 三 角 柱 の 名 札 を 作 ろ う
○提示された間隔系の三角柱の名札を見る。 ○用途を明らかにし,制作意欲を高めたい。  
2.課題をつかむ。
厚紙をどのように切って三角通を作るか考えよう
○展開図が書ければ良いことに気づかせる。 三角柱模型
3.コンピュータの画面を見て三角柱の展開図の構成を考える。
自動展開の提示
○見えない部分について展開されていく様子を思い浮かべることにより,考えるように助言する。
○提示した様々な三角柱の展開図をもとに整理させてもよい。
◎3Dラボ
・自動展開により展開する。
あらかじめ拡大しておいたものを用意し,展開すると画面よりはみ出してしまうものを利用する。
また,このソフトは,同じ立体でも2度目は同じ展開図にならない。このことを利用し展開図の多様さにも気づかせたい。
・理解できない児童のために画面に入る図形も用意しておく。
4.展開図を考える。
○フリーハンドで描かせる
○考えがまとまらない児童には,コンピュータで展開図の概略についての支支援を行う。
○黒板に発表させ自分の考と比較させる。
○組み立てられない理由について考えさせる。
・組み立てられないものの展開
5.展開図を描く。
○描きやすいものと描きにくいものがあるので技能や取り組みによって,助言や指導をする。
○作業にかかれない児童には,励ましの言葉を与えたり,コンピュータを使って確認をさせる。
画用紙
はさみ
セロテープ
マジック
◎TXT
展開図確認
ソフト
(自作)
6.組み立てる。 ○完成品には,自分の名前を入れさせる。  
7.まとめる。
三角柱の展開図は,側面の3つの長方形と底面の2つの三角形からできていて,三角形の辺の長さは側面の長方形の辺の長さによって決まる。
○様々な展開図の分類を通して,効率的な展開図を作成する必要性を理解させたい。 ○三角柱の模型
A−展開図の周囲が1番短いもの
B−展開図の周囲が1番長いもの
8.次時の予告を聞く。 ○円柱が制作できるか投げかける。  

6.今後の実践のために

(1)利用場面についての評価

 ねらいのアについては,3D−ラボを使ったことにより,立体の表面及び裏面の区別が視覚的にでき,はっきりと把握することができたことで児童の興味関心を高められた。また,展開の速度も児童にとっては,適度のものを設定できたので,関心及び問題意識を持続することができた。ねらいのイについては,展開図を短時間のうちに,2種類提示することができた。児童の多くが1種類ではなく,多くの展開図を描いていることから,意欲付け及び効率的提示ができたと判断できる。本来,展開図を全て提示できる能力があるものをあえて全部提示せずに,一部に留める提示の仕方によっても,意欲を持続でき,様々な展開図を追究することができた。部分表示により混乱する児童も予想していたよりも少なかったので,3台の支援用コンピュータで十分対応することができた。

(2) コンピュータ利用上の成果

 シミュレーションソフトの使い方は様々な方法が検討されているが,学習者は,コンピュータが提示するものをそのまま受け入れてしまう傾向が強い。そこで,今回の実践では,そのまま受け入れられないように考えさせる提示方法として,一部が見えるシミュレーションを表示してみた。このことにより受け身になりやすい事象提示を意欲を持ってとらえることができたと考えられる。今回は,3台を利用し提示時に1台を使い児童が操作または作業しているときは,3台を個に応じて問題解決を支援する機器として用いた。展開図がノートにうまく構成できない児童が3名ほどいたので,それぞれの児童に支援用に3D−ラボ及び自作のソフトを操作させることで,解決にあたらせた。作図能力のある児童はコンピュータを使いながら展開図の描きかたを考えついていった。三角形がうまく描けない児童は,フリーハンドで描くところまではうまくできたが,実際の作図は,教師の援助と近くの児童の援助によって描きあげていた。また,多くの展開図を描くことができたため,実際の作図にはいったときに多くの児童が,周囲の長さが一番短い展開図を選択して描いていたことは,2種類の展開図を見せたことによる関心の高まりから生まれたものであると考えることができる。さらに,シミュレーションの速度についても十分配慮しなければならない必要があることがわかった。3D−ラボは,3段階の速さで展開することができるが,今回使用した最も速度の速いものが,6年生としては適当であったと児童の反応から判断することができる。利用したものより遅いシミュレーションを見せたときには「遅い」ことを意味する反応が数名からあったが,今回の実践のときにはこの反応は見られなかったことから,適当と判断できる。

(3)課題

1) コンピュータを利用することについて
 模型を意識させるなどして実物と離れないような工夫を常に考えなければならない。特に今回のようなシミュレーションは,立体を扱っているので,視覚的には2次元的な感覚に陥りやすい。そこで,常に実際の立体を意識したり,立体を扱いながらその性質をさぐっていくという立場に立って学習を進めていけるように努めなければならない。このことを落とすと,平面から立体を組み立てていくといった作業だけに終ってしまうことになるので配慮したい。
2) 3D−ラボについて
様々な立体の展開図が展開できるので他の立体を扱う題材でも使ってみたい。自動展開は非常に便利であるが乱数発生による選択により展開を行なっているため,同じ展開は起こりにくく関心を持続させやすい反面,提示する展開方法を選択できないという点では,事象提示にはやや不向きである。指定した展開方法で展開ができるとかなり使いやすくなると感じる。他の点では,裏面と表面が区別しやすい工夫がされていたり,色が鮮やかであるので,児童の印象には残りやすい。
3) 授業上の課題
多くの台数で実践を行なっていないので自由に試行させたときの効果について検討が必要であると考える。
(実践者 A 大田区立大森第5小学校前田 武彦
B 狭山市立山王小学校松澤 忠明 )


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