1.測定を取り入れた「チェバ及びメネラウスの定理」の指導

(高校1年数学)

2.授業のねらい及び構成について

(1)授業の目的

(2)授業の流れ

3.利用ソフト名

(1)利用ソフト

(2)利用ソフトの概要

[図1]メネラウスの定理(2)

[図2]メネラウスの定理(2)

2) LOTUS1-2-3R2.2J(MS-WindowsマシンではR4J)

 本学習では,得られたデータの集計として,分点の比の値,その積の計算,それらの平均値の計算を行い(図3),更に視覚的に傾向を把握するためにグラフ化を行った。

[図V]各線分の値と,内分・外分の比の積

4.コンピュータ利用の意図

(1)利用場面

1) 問題事象(ここでは「メネラウスの定理」)を,コンピュータ上で数学的現象として提示させる場面(CabriGeometre)
2) 提示された現象からデータを数量的に抽出する場面(CabriGeometre)
3) 抽出されたデータを数値計算し,計算結果を統計的に処理する場面(LOTUS1-2-3)

(2)利用環境

 模擬授業は,本校ではまだMS-DOSマシン(PC-9801/RX)しかないため,一人当たりCabriGeometre用に1台,LOTUS1-2-3用に1台の計2台を用いて行った。

5.授業実践

 本校では「平面幾何」はカリキュラムに組み込まれていないため,補習授業として対象となる生徒を,本校の理数コース1年生及び2年生の中から募って行った。

(1)学習指導案(学習指導案は「メネラウスの定理」用)

活動の目標 学習活動 注意事項
1) 問題事象の理解と作成 ・CabriGeometre上にメネラウスの定理で用いる図形を作図させる。 作図の手順は提示しない。作図の順序は,学習者の問題の理解に依存する。但し,全体の進行を見て,提示するかどうか判断を下す。
2) データの抽出と整理 ・予めLOTUS1-2-3を立ち上げておき,線分の長さを入力すると,それらの値から3辺の分点の比の積を計算させるシートが作成されているか確認させる。
・マウスを操作しながら,考えられる様々な状態を作らせ,それぞれの場合の辺の長さを測定すしシートに入力する。
LOTUS1-2-3の使用方法は,本時の目標ではないのでこれについては予めワークシートを渡しておく。
3) メネラウスの定理の予想(法則化) どのような三角形を作っても,どのような直線1を引いても,3分点の比はおおよそ1になることを確認させる。 誤差の大小はどのような場合かを確認させる
4) 数学的な証明 ・幾何学習の既習事項を確認する。
・時間を決めて,個別に証明させる。
・証明ができた生徒に発表させ,質疑の後,どの証明がどの点で優れているのか考察させる。
学習者の様子を見て適時方略を示唆する。色々な解答についての評価を教師主導で行わない。
5) 定理のまとめと学習の考察 ・定理の内容と変化させた図形の状態を確認する
・本時の自分の学習について評価させ,成功した要因,失敗した要因をまとめさせる。
・授業についての感想を書かせる。
時間があれば,代表的な例,特異な例を紹介する。

(2)授業の経過

 コンピュータを用いた時間はおよそ25分であり,証明に10分,考察等に15分強と50分の枠を少々越えてしまった。当初の目標として,メネラウスの定理とチェバの定理の両方を取り上げたかったのであるが,操作活動を重視しようとすると,一斉授業の形式ではたとえ少人数であっても難しいといえる。生徒の学習状況から,学習目標を本授業ではメネラウスの定理一本に絞った。ただ,数人の生徒はチェバの定理をCabri Geometre上に作図し,図形を色々に変化させ考察まで行えていたことを付記する。

(3)補注

1) 本学習に参加した生徒は2学年にまたがり,また「平面幾何」の受講希望者を新規に募集して行ったため,学習に対する意欲は平均より高かったといえる。しかし参加した全ての生徒がCabriGeometre及びLOTUS1-2-3を初めて使用する者ばかりであったため,授業の前に予め30分ほどアプリケーションソフトの解説を行った。
2) 授業実践は1台だけであるが,MS-WlNDOWSマシンであるならば,1台でCabri Geometre(MS-DOS互換ボックス上で利用)とLOTUS 1-2-3が同時に利用でき,しかもその結果をクリップボードを介して一太郎などのワープロに張り込みレポートも作成可能である(尚,本稿はMS-WlNDOWS上で作成した)。

6.まとめ

 授業を受けた生徒の感想から,まずCabri Geometreの強力な機能に目を見張らされたということが伺えた。加えて,活動を通しながらメネラウスの定理が作る現象を目にすることで,定理が意味する概念の理解が促進され,ややもすると形式的に数式処理を行う学習では,見失いがちな「定理本来の意味」を常に意識しながら学習に取り組めたという感想は重要である。そしてこれまで学習してきた法則・定理についても,Cabri Geometreを用いて確認したいという希望が少なくなかった。ある状態を表現した幾何学図形の,関係を保存しながら変化させた様々な状態を,簡単な操作で実現できるCabri Geometreの機能について関心を持った者が多いということは,平面幾何の学習において定式化された論証を暗記し,その手法を身につけるといったいわば受動的な学習観から,「与えられた問題はただ解くだけではなく,一般化していくための重要な情報であり,また自分で作問するための基底である」とする能動的な学習観に変わるきっかけを与えたということが言えると考える。
 今後の課題として,集団学習としては学習しづらい論証幾何においてさえも,受動的な学習観から能動的な学習観へ変革させるような指導を体系化する必要があると考える。
(実践者 東京都立田柄高等学校 坂本 正彦)
参考文献
※1:文部省,高等学校学習指導要領解説数学編,1989.
※2:小平邦彦,幾何への誘い(書籍及びVTR).岩波書店,1989.
※3:坂本正彦,プログラミングを通した数学学習の指導についての実践的研究,1994.
※4:文部省,高等学校学習指導要領解説数学編,1979.
※5;文部省,高等学校学習指導要領,1989.

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