1.測定を取り入れた幾何学習の指導

(高等学校第1学年数学科)

2.授業のねらい及び構成について

(1)授業の目的

(2)授業の流れ

3.利用ソフト名

(1) 図形ランチBOXver2.2(創育)
(2) 利用ソフトの概要とCabriGepetreとの比較
 図形ランチBOXは,CabriGepetreと同様,指定した図形の関係付けを保存しながら角度や長さといった要素を変化させることが可能なアプリケーションソフトである。基本的な機能としては,[作図][移動][測定][条件][印刷]がある。
 [作図][測定][印刷]が行えることは,CabriGeometreと概ね同様である。図形ランチBOXの特徴は,[条件1と[移動1の機能である。
[図1]チェバの定理
△ABCの中の任意の位置に点Dを取る。
次にこの点と3頂点とを結んだ直線AD,
BD,CDが元の△ABCの3辺との交点を
E,F,Gとする。このとき

 AG BE CF
 ─・─・─=1が成り立つ。
 GB EC FA
 [条件]では,図形中で指定した線分,角度等を用いた条件式を設定することができ,更にその式の取る値を表示することができる。この機能はCabriGepetreにはなく,別稿の「測定を取り入れた『チェバ及ぴメネラウスの定理』の指導」ではCabriGeometreの他にLotus1-2-3を必要とした。図形ランチBOXでは,概ね一つのソフトウエアの中で,図形の作成,辺の長さの測定,条件式の値の計算結果の表示を行ってくれる。更に[移動]では,作図した図形の一次変換が可能である。これらは活動を通した幾何学学習の幅を広げてくれる。 
 右の[図1]は,図形ランチBOXにチェバの定理を作図した状態である。作図の方法は,まず線分AB,BC,CAを引いて∠ABCを作る[作図]次に点Dを取り(図形ランチBOXでは,作図の順にA,B,C,D,E,Fと割り振られるようである。この点は作図の順を予め考慮しなければならず,不便である。),各色頂A,B,Cから半直線AD,BC,CDを引く。半直線ADと線分BCの交点を点E,線分CAとの交点を点F,線分ABとの交点を点Gと指定する(図形ランチB()Xでは,図形の構成,関係付け,関係の取り消しができないため,この図で線分AE,BF,CGは作れない)。
 次に,[測定]若しくは[条件]で,AG:GB,BE:EC,CF:FAや,これらの積 AG÷GB×BE÷EC×CF÷FA………@ を指定しすると,それらの値を[測定]若しくは[条件]([図1]では右上のウインドウの中)の中に計算してくれる。この測定値及び計算結果は,初めに指定した点A,B,C,Dのどれを移動しても再計算して表示してくれる。この機能はCabriGeometreには無い機能であり,測定を取り入れた平面幾何の指導では不可欠の機能である。ただ少数第一位までしか求めてくれないので(精度を上げることはできない),@式は点Dの位置に関わらず常に!.0を示してしまい(まだ例外を発見していない),チェバの定理は明示されてしまい,学習者にとって推論の余地はない。一方,CabriGepetreも測定値は少数第一位までの表示しないが,計算ができないためにLotus 1-2-3に取り込んで計算すると,少数第二位の値も表示でき(それ以下の値も表示されるが,有効桁数から外れるので意味がない),@式が1.Oに近い数値になるため,法則が正しいかどうかを推論する余地が残される。筆者は測定を取り入れた平面幾何の指導としては,誤差を自動的に丸めずにそのまま表示させた方が良いと考えるが,どちらが良いかは指導目標の設定次第だと考える。ただ本課題のような場合はともかく,ソフトウェアが自動的に計算結果を丸めて表示する点が,本来正しくない結果を明示してしまう危険性を伴う点には注意しなくてはならないだろう。筆者はコンピュータの誤差を考慮しなかったが為に,誤った推論を行って袋小路に入り込んだ経験を持っている。勿論,図形ランチBOXとLotus1-2-3を併用すれば,同じ結果を得ることができる。 本稿で述べる具体的な学習指導計画については,別稿「測定を取り入れた「チェバ及びメネラウスの定理」の指導」に準ずるので,割愛する。

4.図形ランチBOXのその他の機能

[図2]2円に引かれる接線の様子
図形ランチBOXには,平面幾何の作図だけでなく,予め幾つかのシミュレーションプログラムが登録されている。
例えばメニューから平面幾何を選ぶと,転がる正多角形の各頂点の軌跡であるとか,三平方の定理の確認のためのシミュレーション,そして2円に引かれる接線の様子を表したシミュレーションなどが実行できる([図2])。
 その他,空間1図形の切断などを示すシミュレーションなどもある([図3])。このように図形ランチBOXは幾何学習において,非常に広範に利用することができるソフトウエアであるということができる。

5.作図機能についての私見及びまとめ

[図3]回転面の切断
[図4]内心(CabriGeometre)
[図5]内心(図形ランチBOX)
 本稿ではチェバの定理の操作活動を通した証明の指導を扱ったが,これはその他の定理・法則でも同様の指導が行えると考える。
 さて作図に関することで些か指摘したい点がある。図形ランチBOXでは,作図の方法として円や多角形など予め部品として与えられた図形を組み合わせて作図する機能と,定規・コンパスという機能を組み合わせて作図する機能の2系統が用意されている。
そもそもユークリッド幾何では,定規とコンパスのみが道具として認められていることは今更指摘するまでもない。しかし初等幾何学も学習が進むに連れ,図形も複雑になってくる。このようなごく基本的な道具のみに依存するソフトウエアでは,学習活動を行う準備の段階で,作図の効率化が図れる様な配慮は重要な点である。例えば,線分の垂直二等分線,角の二等分線,垂線など基本的な作図ツールは備わっていても良いのではないか。学習の準備段階の時間的ロスを軽減することができる。
 実際に三角形の内心の作図を行ってみたところ,Cabri Geometreでは5分もかからなからたにも関わらず([図4]),図形ランチBOXでは20分以上かかって,しかも完成することができなかった([図5]では,円がきちんと内接していない)。定規・コンパスによる作図は,実際に紙の上で体験する方が重要ではないかと考える。
 以上の様な若干の問題もあるが,図形ランチBOXは中学校向けに開発されたにもかかわらず,高等学校の数学でも十分に活用できるソフトウエアであり,測定を中心にした幾何学習など,学習目的をはっきりさせて利用すれば,効果的に活用できると考える。

(実践者東京都立田柄高等学校坂本正彦)

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