1.学校行事における市販ソフトの活用事例
  --- 体育祭の応援演目である人文字の設計---

(高等学校 学校行事)

2.はじめに

[写真1]人文字の全景


[写真2]人文字の練習風景
 東京都立田柄高等学校では,昭和61年より体育祭の応援演目に「人文字」を実施するようになり,本年度で10回目を数えた。本校における人文字とは,各団とも縦10段,横25列に並んだ合計250人の団員により,自分たちの主張を競い合う。人文字作成のリーダーたちは,予め決めておいた自分たちの団のテーマに沿うようにメッセージを作り,そのメッセージを10x25ドットの文字や点描画として図案化する。これを台本化し,団ごとに応援団長の指示の元に,それぞれが指定された色ボードをめくり,シュプレッヒ・コールを行う。台本は,多いときには120ピース程あったが,現在は60から80ピースに落ち着いている。
 ところでこの「人文字」が体育祭の応援演目に加わった理由は,次の通りである。第一には,新設校であった田柄高校(昭和56年開校)に伝統となるものを作ろうということ,第二に,体育祭を一部の応援団や陸上競技の得意な生徒だけの活躍の場ではなく,これらの生徒と同時に全生徒が体育察に参加するようにしたいということ,そして,もっとも大きな理由として,通常経験できないような大集団による競技参加により,田柄高校生としての連帯感を持つ場にしようということである。多くの生徒や教職員たちのこれらの痛切な願いの中から田柄高校の「人文字」は生まれた。
 「人文字」が導入された当時の体育祭は,全校生徒(25学級,およそ1100人)を赤・白・青の3団に分け,それぞれの団ごとに競技・応援を競ったが,現在は,コース制の導入(平成2年)に伴い,18学級,720人程度(40人×18クラス)に学校の規模が縮小されたため,一団減らして,全校を青・白の2団に分けて競っている。練習は各団ともおよそ10日程行い,本番の体育祭を迎える。3年生の各団のリーダーたちは,自分たちの主張を明確に伝えるためにそれぞれ250人を指揮するが,限られた時間の中で大人数を統率するためには大変な苦労を重ねることになる。同時に,人文字作成のリーダーたちは,どのような発声をさせ,どのような文字や図案を,どのようなタイミングで表示させるかについて頭を悩ます。如何に統率がとれた団であっても,制作者のアイデアが貧困であっては,他の団に勝つことはできないからである。
[図1]一太郎上での人文字作成
 この「人文字」の図案作成に関してであるが,「人文字」が登場した初期の頃は,各団'のリーダーたちは,紙に10x25のマス目を大量に印刷し,その中に色鉛筆で描いては消し描いては消ししながら作った。膨大な人海戦術によるこの方法は,いつでも何処でも作業が行える簡便さはあるものの,非常に効率が悪く,団によっては,文字ができればもう良いということで終わってしまったこともある。この手作業が機械化されたのは,昭和63年度の青団からである。この年の青団の人文字作成グループの中にコンピュータ部の生徒が数人居た。彼らは当時8ビットのパソコン上で,人文字作成のプログラムをBASICで組み,それを駆使して人文字の図案を考えた。またこの当時,一台だけ導入された16ビットパソコンであるPC-9801/VX2上の一太郎ver3.0でもこの人文字作成を行った(図1)。
 文字に影を付け,字が立体的に見えるようにしたのもこのときからである。パソコン上で試行錯誤しながら図案を決定したこの年の青団の「人文字」の出来映えは,まだ手作業で行っていた他団とは比較にならぬ程であり,結果,総合優勝を果たした。
 このパソコンを用いる方法は,図案の修正や変更が非常に簡単であり,制作者が決定した色をマスの中に塗るという機械的作業で思考を中断させられない点が非常に優れており,また,一太郎のようなワープロソフトは,「ぺ一ジめくり」の機能があるので,制作者は一枚一枚の図案を検討するだけでなく,台本に沿って,連続して自分たちの作成した図案を検討することができる。この次の年にPC-9801/VX21が1O台導入されたことも手伝い,平成元年度から徐々にパソコンが利用されるようになった。そして現在,どの団もパソコンを駆使しながら人文字作成を行っている。

3.利用ソフトと活用の実践

(1) 利用ソフト

一太郎ver.4.3(潟Wャストシステム)

(2)ソフトの機能及び利用場面

1) コンピュータ利用の意図
「人文字」作成にコンピュータを活用する意図は,
(ア)図案を考える上で,前の考えと次の考えを視覚的に比較できるようにし(必要ならばいくらでもぺ一ジコピーが可能),試行錯誤を自由に行えるようにする
(イ)色塗りなどの機械的作業の負担を軽減し,「人文字」の図案を思考することに専念できるようにする
(ウ)ぺ一ジのめぐり方の工夫と発声とのタイミングのシミュレーションを行う
(工)台本原稿の印字
である。これら(ア)から(工)が自由に行えることで,より多くのアイデアを盛り込みやすくして人文字自体の完成度を上げるとともに,データの一元管理を行い,担当者の'仕事量の軽減を計る(リーダーは受験をひかえた3年生である)。
2) 活用する機能と利用場面
[図2]人文字作成の基本画面
[図3]人文字の作成画面
 もともとワープロは文章入力と印刷が主たる機能としてあげられる。最近のワープロは,それが更に強化され,ほとんどできないことはないと言っても過言ではない。しかし本稿で紹介する活用は,ワープロを本来の使い方ではなく,ドットによる文字や図案の作成として活用するために,通常余り活用されない機能を使用する。

(ア)記号の入力
  「人文字」は,一人一人がB3大の厚紙に,色画用紙を貼ったボードを掲げながら,文字や図案を表現する。各団このボードが250枚用いられるわけであるが,このボードを表すのに特殊文字"■"を利用する(図2)。この記号に色指定を行い,文字や絵を作る。
 また,完成した図案を各団ともすべての団員に教えなくてはならないが,全員にパソコンの画面を見せることは物理的に不可能である。以前は,各団のリーダーが手分けして,放課後自分の団に所属するクラスを回り,台本のすべてにわたり,個々の生徒に指定された色をすべてもれなく指示した。例えばC-5の位置に当たる生徒に対しては,台本の一番目は黄色,二番目は黒,…・というように,個別に直接指示した。これを例えばある団が黄色,青,橙の3色のボードが与えられたとすると,台本で黄色のところを例えば"☆",青のところを"▽",橙のところを"◇"とパソコン上で変更して印刷すれば,印刷物を各教室に掲示しておけば,すべての団員は自分の表示すべき色が,何番目は何色か記録しておくことができる。
(イ)色指定
 「E:文字飾り=〉C:文字色」から選択する。図案などの場合,通常グラフィックソフトを用いれば中間色も表現できて,図案としては見栄えのするものができる。
PC-9801でもキッド98等を用いると4096色表示することができるようだが,これまで述べてきたように田柄高校の「人文字」は,ドットの粗い点描画であるので,むしろワープロの"■"に色を付けた方が都合がよい。また,厚紙に張る色画用紙も特殊な色は高価になるし,初夏の炎天下のグランドでは,微妙な中間色よりははっき'りした原色の方が見栄えがする(薄い色や中間色は太陽の光に反射して,光って皆白っぽくなってしまう)。
(ウ)書式設定
「P:印刷=>S:スタイル」でぺ一ジの行数,列数を指定する。[図2]のような「人文字」作成画面であれば,20行,60列程度が良い。一画面一ぺ一ジに設定することで,次の「ぺ一ジめくり」を活用することで,台本通りに画面上で表示することができる。
(工)ぺ一ジめくり
 一太郎では「次へ一ジ」にとぶためには「CTRL+J+N」をすればよく,また「前へ一ジ」に戻るためには「CTRL+J+B」とする。同様に,ぺ一ジの先頭に移るためには「CTRL+J+B」であり,文末にとぶためには「CTRL+J+S」である。通常文章をずらすためにはスクロールを行うが,「スクロール」では,どうしても遅くなり,せっかくパソコンを利用する価値が半減してしまう。「人文字」で重要なことは,文字と文字との切り替わりを如何に素早くするかだからである。
(オ)印刷
これは台本を印刷するために活用する。

6.おわりに

 ここに述べたように,田柄芦校での「体育祭におけるワープロソフトの活用」は,体育祭で「人文字」を実施する上で,質的変化をもたらした。それは,「コンピュータ利用の意図」に述べたような具体的な効果が得られただけではなく,r体育祭の準備」というものに対する生徒それぞれの意識についての多様性も生み出した。グランドで体力トレーニングを行うのではなく,コンピュータ教室でワープロソフトに向かって試行錯誤することも,各団の大きな「マスコットづくり」と同様に「体育祭の準備」となっている。
 田柄高校は,現在,コンピュータ教室を2教室持ち,およそ100台のコンピュータを授業や特別活動の中で使用している。生徒会執行部による生徒会誌「大樹」の作成や,図書委員会の図書館便り「THE B00K」の発行など委員会活動にもパソコンを活用している。また,コンピュータ部は勿論のこと,生物部がデータ集計を行ったり,ブラスバンド部が定期演奏会用のブックレットを作るなど,クラブ活動での活用も行われている。しかしそうした一般的な活用だけでなく,ここで紹介した,体育祭における「人文字」作成のような,通常は余り用いないような活用方法も沢山あるに違いない。そもそもコンピュータは普通高校においては,「道具」であるから,工夫次第では様々な用い方があるだろう。「繰り返し処理が簡単に行え」「データが保持できる」のコンピュータの利点を考えたとき,今後,これ以外にも様々な活用が考えられそうである。
(実践者東京都立田柄高等学校坂本正彦)

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