1 水ロケットの飛翔軌道を調べよう −N88BASICを科学の道具として利用する−

(中学校第2,3学年 選択理科)

2 本時のねらいと題材設定の理由

 水ロケットを飛ばしてみると,水ロケットがきれいな曲線を描いて飛ぶことがある。水ロケットはどのような飛び方をするのだろうか。水ロケットの飛ぶ様子を記録し,その軌道に合った数学式を特定することによって,水ロケットの飛び方を調べることができないだろうか。簡単なコンピュータプログラムをつくって,数学式を特定する活動を通して,物体の運動の様子を理解するとともに,コンピュータを利用して,科学的に考える良さに気づかせたい。

3 利用ソフトの概要

(1)利用ソフト名

N88BASIC (NEC)

(2) 利用ソフトの概要

 N88BASICは,コンピュータが普及始めるころから,広く利用されている日本語の扱えるコンピュータ言語である。中学校では,技術・家庭科の学習でも指導されることが多いので,理科の学習でも容易に利用することができる。

(3) 「ROCKET」(N88BASICで作成したソフト)

 コンピュータの画面に描いたロケットの飛翔軌道の上に変数をランダムに代入にした飛翔の数学式を描く,ロケットの飛翔軌道とうまく重なったとき,それをロケットの飛翔の数学式であると判定するソフトである。N88BASICには,乱数の機能,画面の色を判定する命令があるので,比較的に簡単にプログラムをつくることができた。

4 コンピュータ利用の意図

(1) 利用場面

 生徒がプログラムをつくることによって,飛翔軌道を特定するという方法は,コンピュータをならではの学習である。科学の道具としてコンピュータを利用するこによって,従来は,できなかったことができるようになった。実際に観察したロケットの飛翔軌道が数学式に置き換えられることを,どんどん画面に表示される図形を観察することによって,自然に理解できるだろう。

(2) 利用環境

     1) 使用パソコン NEC PC-9801DX 6台

5 本時の展開

(1) 指導計画

1) ストロボライト,記録タイマーを使って,ボールがの運動の様子を調べる。
2) 水ロケット(ペットボトルロケット)の製作。
3) 水ロケットの飛翔実験と,その飛翔軌道の記録。
   

(2) 目標

 コンピュータを使って,水ロケットの飛翔軌道を調べる活動を通して,コンピュータを利用して,科学的に考える良さに気づかせるとともに,物体の運動の様子を理解させる。

(3) 展開

学 習 活 動 活動への働きかけ 準備・資料
1 学習課題をつかむ
・記録した水ロケットの飛翔軌道を コンピュータで調べる。
・実際の飛翔軌道に当てはまる数学式を探すことによって,飛翔軌道の様子が分かるだろう。
○ストロボ撮影,記録タイマーによる物体の運動の様子を振り返る。
・放物線運動になる。
・放物線運動の式を説明する。
・ストロボ撮影の写真。
・記録タイマーによる実験結果。
水ロケットの飛翔軌道は,どのような軌道なのだろう。
コンピュータで当てはまる数学式を探してみよう。
2 課題解決に取り組む
・プログラム「ROCKET」を軌道して,コンピュータの画面に水ロケットの飛翔軌道を描く。
・「ROCKET」のプログラムによって,水ロケットの飛翔軌道に当てはまる数学式を見つけ,見つかった数学式から,水ロケットの発射角度,発射速度,風速を知る。
・手作業で行っていたら数時間かかりそうな作業がコンピュータによって,
数秒で行える。コンピュータを利用することによって初めて可能になった方法であることに気づかせる。
・特にプログラムに興味が深い生徒とともに,飛翔軌道を調べるプログラムを作成しておく。
3 学習のまとめ
・コンピュータによって,分かった水ロケットの発射角度,発射速度,風速の考察を行う。
・コンピュータを利用して飛翔軌道を調べる方法についての考察を行う。
・研究の内容を報告書にまとめる。
発射速度が大きいことに気づかせる。
・大きな発射速度と,水ロケットの発射時に噴出した水によって,地面に深い穴があいたこととの関係を考えさせる
 

(3) 備考

<「ROCKET」(N88BASICで作成したプログラム)>

6 今後の実践のために

(1) 利用場面の評価

 N88BASICは,広く用いられているために参考となる出版物も多い。特に中学生が読むのにも適した月刊誌があり,物体の運動の様子を表示するプログラムの例が簡単に入手できた。中学生向きのコンピュータと科学の為の書物や実践例は少なく,広く普及したN88BASICだからこそ,中学生がコンピュータ言語を駆使して,科学の研究が可能になったものと考えられる。
 N88BASICの命令語は,英語を基にして作られている。日本語の命令の方が簡単であるという意見もあるが,数回利用してみれば,ほとんどの生徒が抵抗なく利用できるようになり,むしろ略語になった英語の命令語の方が入力が楽なようだ。また,実際のプログラムで利用する命令語の数は,数十個で,命令語を覚える苦労よりも,命令語の組み合わせを考える方が難しいようである。放物線を描くプルグラムは,全てを中学生が行うことは不可能だった。プルグラムの例を示し,考え方を理解させることに終始した。

(2) コンピュータ利用上の成果

 コンピュータを利用して,水ロケットの軌道を調べる学習では,「物体の運動の様子には,科学的なルールがあり,そのルールを明確にする方法の一つとして,数学式の利用がある」という意識を生徒に持たせることに役だったと考える。中学生がコンピュータのプログラムを行って,科学の探究活動を行う例は少ない。しかし,これは難しい容だからではなく,たまたま,現在の学校教育の指導計画に含まれていないだけとも言えないだろうか。実際に活動で新しく覚えなくてはならない命令語は少なく,命令語の組み合わせ方も,一度説明してしまえば簡単に理解できる内容である。むしろ,このような学習活動に不慣れであるという障害が大きい。今後,コンピュータを使って,科学的に考える活動の教育として価値が認められ,指導計画の中に加わることを期待したい。
(実践者 大宮市立八幡中学校 金井 清)


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