1 正多角形と円

(小学校第5学年 算数科)

2 本時のねらいと題材設定の理由

 本単元では,中心角に着目して「正多角形」や「おうぎ形」の性質を理解して,小学校での基本的な平面図形の性質の理解の完成を目指している。また,既習の平行四辺形,三角形,台形や不定形の面積の求め方をもとに,円やおうぎ形の面積の求め方を理解する。従来,正多角形の作図については,正多角形が円に内接するということを利用して,中心角のn等分で一つの二等辺三角形を作図し,円周を等分割することにより正n角形を作図する方法が多かった。したがって,正方形や正三角形などの基本図形では1辺の長さを指定できたものが,正多角形の作図では,正六角形の場合を除いては単に「正n角形をかきましょう」となり,1辺の長さを問題にしないことが多い。その意味で,正多角形の作図では,性質を理解するための作図の指導が多く,生活場面への適用は実際的ではないとも言える。
 そこでここでは,ベクトル的な方法で作図することで,1辺の長さに視点を向けてかくことができると考えた。また,ベクトル的な作図の方法は,「n本の等しい辺と,n個の等しい角で作られる」という正多角形の定義に一致するため,正多角形についての理解を深められると考える。さらに,いろいろな正多角形の作図を通して,外角の和が360度であるという性質にも気づかせたい。

3 利用ソフトの概要

(1)利用ソフト名

「ロゴライター2」(ロゴジャパン)

(2) 利用ソフトの概要

 ロゴライター2はコンピュータ言語であるLogoに日本語ワープロ機能を加えたソフトである。
ロゴライターを使ってプログラムを組めば,様々な自作ソフトを作成することができ,また,ロゴライターで作った学習ソフトも多数開発されているが,ロゴライターの命令が子どもにも親しみやすい日本語であるため,子どもに簡単なプログラミングを経験させ,学習に生かすことも可能である。

4 コンピュータ利用の意図

(1) 利用場面

 図形の学習において,紙,鉛筆,定規とコンパスによる作図の指導はもちろん必要であるが,あまり器用でない子どもが大変苦労することは事実である。また,正しく用具を用いても,多少の誤差はさけられず,必ずしも正確な図がかけるとは限らない。
コンピュータによる作図は,容易に何度でもかき直すことができ,しかも誤差がないため,作図を苦手とする子どもにも楽しく意欲的に取り組めると考える。
 ドロー系のソフトを使っての作図とちがい,子どもたちがプログラムを組んで作図することで,作図の方法を論理的に考えることができ,図形の定義や性質の理解を深めることができると考える。

(2) 利用環境

1) 使用パソコン
・教 室・・・・・・・NEC PC9801 UX 1台
・コンピュータ室・・・NEC PC9821 V10 11台
2) 児童数 男子12名 女子7名
利用教室 5年1組教室(集団学習)
コンピュータ室(個別学習)

5 本時の展開

(1) 指導計画 (14時間扱い)

第1次 正多角形
第1時 正六角形,正八角形など,正多角形の性質について理解する。
第2時 円の中心のまわりの角を等分割して正多角形をかく方法を理解する。
第3時 正六角形のいろいろなかき方を理解する。
第2次 おうぎ形
第4時 おうぎ形,中心角の用語を知り,おうぎ形をかく方法を理解する。
第3次 円の直径と円周
第5時 円周と直径の関係から,円周率の意味を理解する。
第6時 円周や直径を円周率を使って求める。
第4次 円の面積
第7時 円の面積の求め方を考える。
第8時 円の求積公式を理解し,公式を適用して円の求積をする。
第9時 おうぎ形の弧の長さ,まわりの長さ,面積などの求め方を理解する。
第5次 まとめ
第10時 既習事項のまとめをする。
第6次 練習
第11時 既習事項の理解を深める。
第7次 チャレンジ
第12時 辺の長さと外角を使って正方形をかく。
第13,14時 辺の長さと外角を使って正多角形をかく方法を理解する。(本時)

(2) 目 標

 辺の長さと外角を使って正多角形をかく活動を通して,正多角形の定義に対する理解を深めるとともに,帰納的に外角の性質に気づき,図形を調べる関心を広げる。

(3) 展 開

学 習 活 動 活動への働きかけ 準備・資料
1.本時の課題をとらえる。
○ロゴライターを使って正方形をかく方法について話し合う。
○前時の学習を想起させる
○教室のコンピュータで実演して確かめる。
・ワークシート1)
・ロゴライター2
カ メ に 正 三 角 形 を か か せ よ う
2.ロゴライターを使ってカメに正三角形をかかせる。
○コンピュータ室に移動し2人1組でコンピュータを操作させる。
○机間指導
○正三角形がかけた児童にはいろいろな正多角形のかき方を考えさせる。
・ワークシート2)
・ロゴライター2
3.正三角形のかき方を発表する。
・くりかえせ 3 「まえへ 70 みぎへ 120」
○教室に移動する。
○命令に出てくる数の意味を図で確認する。
○用語「外角」を知らせる
・提示用正三角形図
・カメ形マグネット
・ロゴライター2
4.他の正多角形のかき方を発表する。
・くりかえせ 5 「まえへ 70 みぎへ 72」 (正五角形)
・くりかえせ 6 「まえへ 50 みぎへ 60」 (正六角形)
・くりかえせ 10 「まえへ 10 みぎへ 36」 (正十角形)
○教室のコンピュータで実演して確かめる。 ・ロゴライター2
5.正多角形のかき方の決まりについて話し合う。
・「くりかえせ」の後の数は辺の数だ。
・「みぎへ」の数は360÷(辺の数)だ。
   
外 角×辺(角)の数=360
6.正多角形の決まりを用いて,ロゴライターでいろいろな正多角形をかく。
○コンピュータ室に移動し2人1組でコンピュータを操作させる。
○机間指導
・ロゴライター2

6 今後の実践のために

(1) 利用場面の評価

 コンピュータで図形をかくというのは本学級の児童にとっては初めての経験だった(お絵かきソフトで長方形や円をかいたことはあるが)。プログラムの数値を変えるだけで,自分の思い通りの正多角形をかけることは子どもたちの興味・関心をとても刺激し,高めたようである。
 これまでの,与えられた条件に合う図形をかくという受動的な学習から,自分のかきたい図形をかくという能動的な学習への転換により,子どもたちは大変意欲的に取り組み,外角の性質についても,ほとんどの子が自ら発見していたようである。

(2) コンピュータ利用上の成果

 例えば,正三十六角形をコンパスと分度器と定規で作図するのは大変困難な作業である。しかし,ロゴライターを使えば,プログラムの数値を変えるだけで,あっという間にかくことができる。もちろん間違えたら何度でもやり直せばよい。そのことで決して画面が汚れたり破れたりするといったことはない。そのような環境でこそ,子どもは思う存分試行錯誤し,自ら決まりを発見できたのでなないだろうか。
(実践者 三宅村立阿古小学校 前田武彦)


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