1 トランプゲームで遊ぼう
−ゲーム的手法で学習意欲を育てる指導の工夫−

(小学校5年 算数)

2 本時のねらいと題材設定の理由

 分数の約分・通分,大きさ比べは,5年生の内容の中でもつまずきやすく,分数のたし算と引き算,6年生で学習する分数のかけ算とわり算の基礎となっている。そこで,分数の相等と約分・通分のまとめを確実にしておきたい。
 本年度当初のアンケートの結果,約8割の子どもは,「算数が好き」と答えている。残りの2割の中では,文章題がきらいな子がもっとも多く,それに次いで「数と計算の領域がきらい」と答えている子どもが多い。高学年では,学力の差も大きく,これが「計算が面倒だ」とか「よく間違える」といった苦手意識につながっていく傾向がある。「算数が好きではない」と答えた残りの2割の子供たちにも,算数の楽しさや数理のおもしろさを味わわせたいが,それには基礎的事項の徹底が欠かせないと考えた。
 本題材は,ゲームで遊ぶうちに反復練習ができるだけでなく,児童自らが問題を考えることによって,分数の相等とはどういうことかを主体的に学習させるのに適していると考えられる。この題材を通して,意欲的に学習し,試行錯誤しながらも,知識を自分のものにしていける子どもに育てたい。

3 利用ソフトの概要

(1)利用ソフト名

「ロゴライター2」(ロゴジャパン)
「トランプ」(東京都目黒区立下目黒小学校 秋田敏文氏 作「ロゴライター2 すぐに使える教材集1小学校編」(ロゴ教育システム)より)

(2) 利用ソフトの概要

 「ロゴライター2」は,米マサチューセッツ工科大のシーモア・パパート教授らによって作られた,教育用プログラミング言語LOGOにワープロ機能などを組み合わせた,インタプリタ型の統合環境ソフトである。日本語によってもプログラミングできるので,教師はもちろん,児童でも,プログラムを作ることができる。その活用法は,主に次の2つが考えられる。
1) オーサリングツールとして
 コンピュータを専門とする教師でなくても,比較的短期間に,児童の実態に即したプログラムを作ることができる。全国的に広く研究されているので,自分の不得意分野は,他校の教師が作ったものを参考にしたり,利用することができるよさがある。
2) 児童の創造的思考を育てるツールとして
 初期の段階では,簡単な図形を描いたり,プログラム中のデータや数値を変更することによって,習熟してからは,自らLOGOを使って試行錯誤を繰り返しながらプログラミングすることを通して,問題解決能力や論理的思考力を身につけさせることができる。

 本時では,ロゴライター上で動く自作ソフトの中から,下目黒小学校の秋田教諭の「トランプ」を使用している。これは分数のカードを使って,同じ大きさのカードを取り合う「神経衰弱」であり,二人ないしは同じコンピュータを使用するグループの子どもたちが得点を競って遊ぶことを通して,分数の相等や大小に対する理解を深め,直観力を育てることを意図して作られている。得点が多くなる「ラッキーカード」があり,学力差で勝負が決まってしまうことがないように工夫されている。また,マウスで操作できるので,キーボード入力に習熟していない子どもでも取り組みやすい。

4 コンピュータ利用の意図

(1) 利用場面

 現在ほとんどの子どもは,自宅や友だちの家でテレビゲームを楽しんでいる。公園などに遊びに行くときでさえ,携帯用のゲーム機を肌身離さず持っていく。ゲームは,すでに子どもの生活の一部といえるほど,身近なものになっている。
 分数の相等や,約分・通分については学習済みであるが,実態として定着はしていない面もある。そこで,コンピュータでゲームをするという手法を取ることによって,意欲を高め,問題づくりを通して,主体的に分数の性質を考えさせ,学習のまとめをさせたい。また,本校では,コンピュータを導入して間もないので,リテラシーの面から,コンピュータの起動・終了,フロッピーディスクの扱い,そしてマウスの操作や,キーボードからの入力にも慣れ親しませたい。

(2)利用環境

1) 使用パソコン NEC PC-9821CX 12台 PC-SEMI 教材提示装置

5 本時の展開

(1)指導計画

1) トランプゲームで遊ぼう(本時)
・分数カードの神経衰弱で遊ぶことを通して,分数の性質を確かめる。
・プログラムの中のデータを変更して,問題づくりをする。
2) 分数の性質をまとめよう
・前時に作ったゲームで遊ぶ。
・分数の性質についてまとめる。

(2) 目 標

・ゲームを楽しみながら,分数の相等と大小の調べ方に対する理解を深める。
・データの変更などを通して,コンピュータや簡単なプログラミングに慣れ親しむ。

(3) 展 開

学 習 活 動 活動への働きかけ 準備・資料
1 トランプゲーム(分数神経衰弱)のルールを知る 遊 ぼ う
○神経衰弱の要領で,同じ大きさの分数のカードを引いたら得点になることを説明する。(教師の画面を転送して演示)
・「ロゴライター2」
・「すぐに使える教材集1」
ト ラ ン プ ゲ ー ム で 遊 ぼ う
・たとえば2分の1と4分の2のように,等しければ数字が違ってもカードを取れることできる理解する。

○神経衰弱の要領で,同じ大きさの分数のカードを引いたら得点になることを説明する。(教師の画面を転送して演示)
2 トランプゲームを楽しむ
・同じテーブルの子と,順番でカードを引いていく。
○PC-SEMIを使って,各テーブルの状況をチェックし,つまずきがある子にはメモ用紙を渡したり,操作法を指導する。 ・メモ用紙
(苦手な子はどこに何のカードがあったかメモしてもよい)
3 問題づくりをする 作 ろ う
○作り方がよくわかっていない子には,助言する。
・ワークシート(元のデータと新しくデータを書き込める用紙にする)
自 分 た ち で 問 題 を 作 ろ う
・問題リストを見て,リストの数字の意味を考える。
・問題の変更の仕方を知る。
・問題づくりをする。
○作り方がよくわかっていない子には,助言する。
4 まとめる
・友達の作った問題を見る。
・次時には自分たちの作ったゲームで遊ぶことを知る。
○よい問題ができたテーブルのものを転送して紹介する。(または教材提示装置でワークシートを映して画面を転送する) ・教材提示装置

6 今後の実践のために

(1)利用場面の評価

 1時間の中で,ゲームと問題づくりの2つの活動があるのは,少々盛り込みすぎのきらいもあるが,ゲームを通して学習したことによって,算数があまり好きでない子も意欲が高まり,楽しんで取り組むことができた。これは,算数の学力とゲームの結果が,必ずしもストレートに結びつかなかったためではないかと考えられる。また,問題リストの中のデータの意味がわかったり,自分で作った問題がコンピュータから出題されるのを見て,自信をつけた子もいた。問題を解く相手のことを考えて,「これはやさしい問題,これは引っかけ問題。」などと難易度まで考えて,問題づくりをしているグループもあった。このように夢中で活動するうち,自ずと分数の性質をまとめることができた。

(2)コンピュータ利用上の成果

 コンピュータを利用することによって,いつもは引っ込み思案な子も,間違ってもしりごみしたり傷ついたりせず,何回も挑戦していた。これは,コンピュータを使った学習には,子どもが安心して試行錯誤できるよさがあるからだと考える。事後の感想として子どもは,「僕はコンピュータ室でトランプゲームをしました。内容は分数の神経衰弱でした。とってもわかりやすく簡単だったし,ラッキーカードとかがあって,頭がいい人ともそんなに差がつきませんでした。今度はほかのゲームもやりたいです。」「私は初めて使うコンピュータに胸を躍らせていました。ことさらに神経衰弱が得意だったので,カードゲームには目を輝かせていました。しかし分数が苦手な私は,多少苦戦しました。そのあと驚いたことは,自分でゲームを作れることです。様々な分数を作り,友達のその問題を出してみるのも楽しいです。」などと書いている。
 また,本学級の家庭におけるパソコン普及率は約12%で,コンピュータ室の座席は家にパソコンがある子が固まらないように配置してあるが,コンピュータの操作の教え合いから新しい人間関係も育ってきた。
 これらに見られるように,多くの児童が,コンピュータを利用すると積極的に学習することができた。子どもはマニュアルなど見なくても,いろいろなことを自分で試しながら発見していく。言い古されていることだが,コンピュータはもはや特別な機械ではなく,子どもの主体的な学習意欲を引き出す学習ツールだといえる。
( 実践者 江戸川区立南小岩第二小学校 小野内雄三 )


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