1 比と比の値 −LinkLive!による教材作製−

 (小学校第6学年 算数)

2 本時のねらいと題材設定の理由

 本時は,比と比の値の導入である。今までの本題材の導入の仕方として,一般的に用いられる方法は,相似な長方形の分類・整理や,長方形の縦の長さと横の長さの割合から導入する場合である。直観的で指導しやすい反面,児童の主体的な解決の取り組みはあまり期待できないと思われる。また,色水やジュースなどの混合液からの導入を考えてみると,具体的に確かめることができないなど教材の価値から考察すると適当ではないと思われる。そこで,既習経験を活用してこれを発展的に生かしていく方法をとることにし,前学年での理科の太陽高度の学習経験を生かし,棒の長さと影の長さの関係という素材で場の設定をした。棒の長さと影の長さという2つの数量の割合の表し方をいろいろと考えることを通して,児童が自力で比の意味や概念を捉えることができるからである。

3 利用ソフトの概要

(1)利用ソフト名

LinkLive!(IBM)

(2) 利用ソフトの概要

 マルチメディア対応の教材作成支援ソフトであり,文字入力以外のほとんどの操作は,マウスで行うことができる。また,児童は,マウスの操作だけで学習を進めることができる。

(3) 比と比の値

LinkLive!を使用して,20時間ほどで,製作したCAI教材である。

4 コンピュータ利用の意図

(1) 利用場面

 個に応じた指導を進めるには,児童一人一人に自分なりの考えを持たせ,それを手がかりとして「どのように考えることがよいことなのか」を児童相互に検討させ,学習の仕方を学ばせていくことが大切である。しかし,教師一人では,児童一人一人に応じた支援や援助をすることが難しい。そこで本時では,コンピュータを活用し,解決の見通しが持てない児童や,見通しは持てたがヒントの欲しい児童に対して児童の思考を助け,深めるコンピュータソフトを自作し用意した。
 また,自力解決できた児童には,答えをコンピュータで確かめられるようにし,さらに,他の解決方法を考えることや自分の解決方法を練り上げるヒントを用意するなど具体的に学習が進められるようにした。

(2) 利用環境

1) 使用パソコン IBM Aptiva Vision 20台,Master1台
2) 周辺機器 OHC,35型ディスプレイ・35型TV 各1台,サーバー パソコン室内LAN

5 本時の展開

(1) 指導計画(8時間扱い) 本時1/8

第1時 棒の長さと影の長さの割合を調べる
第2時 棒の長さは,影の長さのどれだけにあたるかを考える。
第3時 等しい比のつくり方を考え,比の性質をまとめる。
第4時 比の性質を用いて,整数・小数・分数の比を簡単な比に表す。
第5時 比の性質を活用して,比に関する問題の解き方を考える。
第6時 与えられた量を,示された比になるように分けることを考える。
第7時 練習をする。
第8時 まとめをする。

(2) 目標

 棒の長さと影の長さという2つの数量の割合の表し方をいろいろと考えることを通して,比の意味やその表し方を知ることができる。

(3) 展 開

学習活動 教師の働きかけと予想される児童の反応 指導上の留意点
 ある砂漠のオアシスの村に椰子の木がありました。
 ある時,王様の一行がやって来ました。王様は家来に「あの椰子の木は,ずいぶん高いな。何mあるんだい?と聞きました。家来たちは困って村の長老に相談することにしました。三人の家来が相談に行くと長老は,それぞれの家来に1m,2m,4mの棒を渡し,笑いながら言いました。「この3本の棒とあの椰子の木の影がヒントじゃ,できるかな?」急いで戻った家来たちは,まず,椰子の木の影の長さを測りました。
 影は,5mでした。1mの棒の影は50cm,2mの棒の影は1m,4mの棒の影は2mありました。
 三人の中の一人が,「わかった。この椰子の木の高さは10mだ!」と言いました。「えっ,なぜわかったんだい?」「それはね。○○○だから,この木は10mだとわかったのさ。」
 さて,この家来は,他の二人になんと説明したのでしょうか。
・児童の興味・関心を高めるために説話の形で導入する。(パソコン)
・条件や求答事項を押さえる。
・児童におおよその見通しへのイメージを持たせる。
5
1.問題をつかむ ・説話の形で問題を提示する。
 児童の持つイメージ)
C1.棒の長さと,影の長さに関係していそうだな。
C2.棒1m−影0.5m
    2m  1m
    4m  2m
影は棒の長さの半分になる
C3.棒を1とみると,影は1/2の割合だから,椰子の木も同じように考えて10mだとわかった。
・条件や求答事項を押さえる。
2.既習事項をもとに自分の方法で解決する。 T.どんな方法で,椰子の木の高さを知ることができたのか考えてみましょう。 個に応じた支援を行う。 20
パソコンの画面
C1タイプの児童の活動とその支援
C.どうやったらいいか見通しが持てない。
T.パソコンからのヒント画面を見て,解決への見通しを持たせるようにする。
C2タイプの児童の活動と支援
C.棒の長さと影の長さに関係があるらしい・・
T.棒の長さと影の長さには,どんなきまりがあるか考えさせる。
図,ことば,式,パソコンの利用)
C3・C4タイプの児童の活動とその支援
C.棒1mの時 影は0.5m,棒2mの時 影1m棒4mの時 影は2mで,棒の長さの半分が影の長さになるから,椰子の木は10m(影の長さの2倍が棒の長さになるから,椰子の木の高さは10m)
T.棒の長さと影の長さを,割合の考え方を使って考えるとどうか考えさせる。(図,ことば,式,パソコンの利用)
C5タイプの児童の活動とその支援
C.棒の長さを1とみると,影の長さはどれも1/2の割合だから,5÷1/2=10で10m
T.棒1に,影は1/2 の割合よりも,もっと分かりやすく,簡単に表すことはできないか考えさせる。(図,ことば,式,パソコンの利用。)
3.自分が見つけた方法を発表したり,友達の発表を聞く。 T.自分のやった方法と比べながら,友達の発表を聞きましょう。 ・自分はどの友達と似ているか考えさせながら,聞かせる。
・OHCを利用して発表させる。
・割合の表し方はいろいろあるが,いずれも2と1の割合になっていることに自分達でまとめることができるようにする。
C2タイプ C3タイプ C4タイプ C5タイプ
 児童A   児童B   児童C   児童D 
4.棒の長さと,影の長さの割合を整理し,まとめる。

T.棒と影の長さや,高さと影の長さを割合で表しましょう。
C.棒が1(2・4)で影が1/2(1・2)の割合
C.高さが10で影が5の割合
C.棒と影の長さは,2と1の割合。
C.椰子の木も,高さと影は2と1の割合
 
5.比の意味と表し方について知る T.どの表し方が簡単で分かりやすい?
T.2と1の割合を「:」の記号を使って2:1と表します。2:1は「二対一」と読みます。
 このような表し方を比といいます。
・比は2量を併記して表す,新しい比べ方であることをおさえる。
6.本時の学習をまとめる。 ・本時を振り返り,比の関係に着目して比の意味についてまとめる。  

6 今後の実践のために

(1) 利用場面の評価

 問題を提示するする際に,説話形式の問題文とともに場面絵を提示することですることで,児童が問題をつかみやすくすることができた。そのため,問題文はかなり長かったが,ほとんどの児童が解決への見通しを持つことができた。また,児童一人一人がパソコンからの情報を,必要なときに,必要なだけというように上手に活用していたことは,児童の思考を助けたり,深めるのに効果的であった。

(2) コンピュータ利用の成果

 事後のアンケート結果より,コンピュータからのヒントが,解決への見通しが持てない児童に見通しを持たせたり,もう一息のところで行き詰まっている児童の思考を支援するのに有効であったことが分かった。また,解決した方法が正しいか確かめたり,深めたりすることもコンピュータを利用することで,効果的にできた。
( 実践者 幸手市立緑台小学校 内田 文雄 )


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