新100校プロジェクト成果発表会
小学校部会

人とのつながりの中で学ぶ温かいネットワーク利用学習

札幌市立幌南小学校 藤村 裕一

1.はじめに
(1)「共に学び,共に生きる」ことをめざして
 これまで個性尊重の教育を推し進めてきた中で,少年がナイフで人を傷つけるなど心が痛む事件が相次いでいる。私たちは,何か足りないものがあったのではないかと反省を重ね,個性を尊重すると同時に,これからは「共に学び,共に生きる」ことの大切さが実感できる教育を最も重要視していこうと考えた。
 そこで,本校におけるネットワーク利用教育も,「人を介さない人間疎外の冷たいコンピューター利用教育」ではなく,「人とのつながりの中で学ぶ温かいネットワーク利用教育」にしていこうと考えた。
 このことは,これまで3年間,インターネットなどを使ったネットワーク利用教育をすすめていく中で,教師も子どもも実感してきた「インターネットは,コンピューターとコンピューターの結びつきではなく,人と人との結びつきである」「ネットワーク上のすべての人々が共同学習者,先生」ということと重なるものでもある。
(2)体験−情報−体験のサイクルの中で
 本校は,バーチャルな世界の情報のやりとりだけで学ぶのではなく,あくまでも子どもにとって最も大切な教育手段である体験を核にし,体験−情報−体験というサイクルの中でそれぞれのよいところを生かしながらインターネットを生かしていくようにしている。 右の写真(学校のすぐとなりを流れる豊平川での清掃ボランティア)のように,地球規模の環境問題についても,自分たちの足下から考え,自分たちにできることから行動していくようにしている。

2.国際環境教育プロジェクトにおいて
(1)ゴミ・プロジェクトで
●世界のゴミによる環境破壊の実態を,世界の仲間・長期海外旅行中の日本人と共に調べる
 本校では,子どもたちにとって最も身近な環境問題として,ゴミによる環境破壊を取り上げ,世界の仲間たちと共に考え,協力して活動している。
 平成9年度の活動は,子どもたちが海水浴でよくいく小樽市銭函海岸の漂着ゴミを仕分けする体験から,始めた。海の家の方々の協力で集めたゴミは,子どもたちの想像をはるかに超える量があり,しかも子ども用の駄菓子袋など明らかに自分たち子どもが捨てたとわかるものがたくさんあると共に,遠く長野県から漂着したものや,さらにはロシアや韓国から流れ着いたペットボトルやビニール袋があった。このことから,街から川へ,川から海へというゴミの動きの他に,国境を越えたゴミによる環境破壊を含め世界各地でゴミによる環境破壊があるのではないかと考え,ミクロネシア,アメリカ,ドイツ,ベラルーシ(旧ソ連)などの仲間に,それぞれの地域でのゴミによる環境破壊の実態調査を呼びかけた。(右の写真は,ミクロネシアのダーリア,フランスのサリ先生,冒険家の高野貴子さんなど今回の活動を支えた人たち)
 また,アメリカ大陸を歩いて横断中の関口さん一家,中国を歩いて横断中の「平成の遣唐使隊」ともインターネットを通して連絡を取り合い,アメリカ・中国の自然の様子やゴミによる環境破壊の様子を教えていただいた。
 このような共同調査の結果,ミクロネシアやハワイの海岸に日本からのゴミが大量に漂着していること,中国やベラルーシ,ロシアなど世界各地で,ゴミによる環境破壊が進んでいることがわかってきた。
●世界の仲間とゴミ拾いボランティア,リサイクル活動
 このような実態がわかったところで,世界の仲間たちと相談して(ミクロネシアとは,衛星を使ってリアルタイムの意見交換を行った),身近なところで自分たちにできることをと,ゴミ拾いボランティアとリサイクル活動をいっしょに行うことになった。ミクロネシアからは,日本のインスタントラーメンの袋などを拾ったと報告があり,子どもたちをびっくりさせた。また,山形県・岡山県など国内各地の学校でもいっしょに活動してくれ,子どもたちを随分力づけてくれた。
●インターネットを介して知り合った人たちから学ぶ
 今年は,インターネットを通して交流した方,インターネットで知り合った方から紹介してくださった方などに,子どもたちが直接会って,環境問題や大自然,リサイクルのあり方について学ぶことができた。その一例が,下の写真のような,文部省宇宙科学研究所のロケット博士・的川教授(宇宙のゴミ,生命・地球の大切さ,国境を越えて地球を守る大切さを,マーズ・パス・ファインダーの火星着陸をNASAから報告し帰国した直後に来校),アメリカ大陸を歩いて横断した関口さんご夫妻(帰国後来校し,大冒険とアメリカの大自然について話してくれた),チェルノブイリで被曝したベラルーシの子どもたち(環境破壊で命を失うことさえあること,悲劇に負けずに明るくたくましく生きることのすばらしさ,ベラルーシ・ロシアの環境破壊・リサイクル事情を教えてくれた),Earth Shopのニールさん(リサイクルと再生品を使うことの大切さ,再生品のすばらしさを教えてくれた)
 このように,インターネットで人に学ぶ活動は,直接会って学ぶ活動につながる可能性も数多く秘めている。

●古紙回収が行き詰まった原因を,全国のさまざまな立場の大人の人たちから学ぶ
 子どもたちが,がんばって集めた古紙を回収業者の方に渡そうとしたところ,これまでお世話になっていた方は廃業し,他の業者でも回収を断られたり,有料回収になると言われたりして,困り果てると同時に強い問題意識を感じて,その原因を探り,何とか解決したいと活動を始めた。その際,ネットワークを通して協力を呼びかけたところ,わずか2日間で,全国の消費者,消費者団体,行政,回収業者,製造業者,環境関係のシンクタンクなど,実にさまざまな立場の方々が,30通以上のメールを寄せてくれた。親切に寄せられた情報,励ましの言葉に,子どもたちは,ネットワーク上の人々の温かさに感激し,真剣に原因の関連を突き詰め,これまでのリサイクルに出すだけの「集めるリサイクル」から再生品を積極的に使っていく「使うリサイクル」への発想転換が必要なことに気づいていった。このときに出会った人々との交流は今も続き,さらに広がってきている。

3.北国情報サービスを介して
 本校には,4年生社会科「さまざまな土地のくらし」などで,活用してもらうことをねらって,北国ならではの生活・文化を紹介する「北国情報コーナー」のページと,全国の子どもたちからの質問に答える「北国情報サービス」がある。この中で,全国各地の子どもたちから,実に多くのアクセスや質問,共同学習の依頼があり,「札幌ではこうだけど,そちらではどうですか?」などと,子どもらしい視点から,ほほえましい共同学習が行われている。

4.日本最大の小学生用教科・領域別リンク集「こうなんワンダーランド」の運用を通して
 本校では,子どもたちが学習や遊びに活用できるようにと,800以上のサイトにリンクした日本最大の小学生用教科・領域別リンク集「こうなんワンダーランド」を運用している。ここには,さまざまなホームページ作者の方からコンタクトがあり,それをきっかけにいろいろ教えてもらいながら学習したり,交流が始まったりしている。

5.まとめ
 このように,「人とのつながりの中で学ぶ温かいネットワーク利用教育」は,子どもたちに「人」のすばらしさ,「共に生きる大切さ」を実感させる上で大変有効である。 また,ネットワークを介さなければ不可能な人々とので会いもあり,教師と子どもだけの「閉ざされた教室」での学習から,学校外の教育力を導入した「開かれた教室」での学習へ変革する有力な手段にもなる。ただし,教師は,人的交流をコーディネートする支援をしなくてはならない。

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