新100校プロジェクト成果発表会
中学校部会

通信メディアを使用した「地球クラブ」のユートピア作り10年

清水国際中学・高等学校 井柳 強

1.はじめに
 10年以上も前のことである。中学生1年生が私の夢という作文に「先生、地球上のどこかに世界の子どもたちが集まって、そこでみんなで助け合ったり、励ましあったりしながら物作りをすることができたら面白いね。どんな物をつくるかは、言葉をつかわないでも絵を描いて説明し合えばできるよね。」と書いた。正課クラブ活動の時間になにを担当すればよいか困っていた私は、この生徒の夢を実現するために「地球クラブ」を誕生させた。
 当時の私には、まだパソコン通信も、インターネットというものも想像できなかった。遠い外国と安い費用でコミュニケーションする方法は郵便だけだった。数学担当の私には生徒の英文手紙の手助けもできなかった。「言葉ができなければ絵でコミュニケーションすればいい。」というこの生徒のヒントから「Communication for pictures 」というテーマのもとに通信メディアを利用したいろいろな国際交流活動を展開してきた。

2.「地球クラブ」のインターネット利用環境
 100校プロジェクト以前は、2400bpsで東京にあった Apicnetからインターネットを利用していた。週1時間の正課クラブ活動「地球クラブ」でインターネット利用をどのように利用したいかまとめて100校プロジェクトに応募した。供与された(サーバー、クライエント1台、64kbps専用線)を主体に運用している。供与の機器だけでどんなことができるかが利用研究のサブテーマであった。中学部の生徒数は1、2、3年合わせて25名の小人数の学校である。全員が「地球クラブ」のメンバーになっている。

3.「地球クラブ」10年の歴史
1)郵便による交流        手紙、スライド、録音テープ、ビデオテープ   1987年以前から

2)ファックスによる交流     国際ファックスの利用             1990年頃から

3)パソコン通信による交流    PC-VAN JSTS
  放送室・生徒室を利用      1992年頃から   

4)インターネットによる交流   Apicnet利用、
                 1993年から

                 100校プロジェクト利用           1995−1996年

                 新100学校プロジェクト利用         1997年−


4.インターネット上のユートピア作り
 「インターネットがユートピアであった時代は終わった。」という言葉をよく耳にするが、私たちは「いよいよ、インターネット上に私たちの手でもユートピアを構築できる時代がやってきた。」といっている。ハード・ソフトも以前に比較して利用が容易となり、カラー画像の送受信が短時間でできるようになった。私と「地球クラブ」の生徒たちが考える”インターネット上のユートピア”がどのようなものなのかまとめてみた。
1)言葉の壁をできる限りなくす
  絵、音楽でコミュニケーションする。国際翻訳ボランティの支援を受ける。
2)だれでも参加できる
  学年、校種、年齢の枠を越えて交流する。研究所などとも交流する。
3)助け合いの場
  それぞれが持っている得意なものを出し合って助け合う。
4)物作りの場
  みんなで力を合わせ、どうしたらよりよい物ができるか挑戦する。
5)国境のない広場
  できれば、同じサーバー上の同一ディレクトリーでの国際共同作業を目指す。
6)異文化ミックスの場
  文化が違えば作品も違ってくる。違ってはいるがみなよいところを持っている。
7)仮想体験の実体験化
  インターネット上の仮想空間での交流を、単なる仮想体験にするのでなく、できるかぎり実体験化させる。例えば、絵本の国際共同編集、植物の共同栽培レポート交換、教室の中のクリスマスツリー国際共同装飾など。

5.ユートピア実現のための国際交流の工夫
 インターネットを利用して、世界の子どもたちと心を通わせるには英語が必要である。しかし英語の学習を始めたばかりの中学生に、無理に押しつけないようにしている。現在のインターネットは、英語を使用しなくても楽しい交流が展開できるようになりつつある。短時間でカラー画像や音楽の送受信ができるようになり、1枚のカラ−画像を通して日本の子どもたちのハートを、世界に送り届けることもできるようになったからである。機器の操作も強制しない。教師と生徒が力を合わせて、共同で楽しい作品作りができればそれでよいからである。絵を描く楽しさ、自分たちで歌を作り歌う楽しさ、そしてそれらを遠く離れた世界のともだちと交換したり、一緒になって創作する楽しさが「地球クラブ」の出発点である。「地球クラブ」の作品を通して私たちの考えるユートピアを紹介する。

6.世界の友だちと共同制作した楽しい作品紹介
*絵を利用した自己紹介
1)交流相手と2人で作る似顔絵のハンカチーフ共同デザイン。( '95 ロシア、日本の夏休み共同作業から)
2)似顔絵を使った共同作業のグループ作り。( '97 Virtual Class Room On The Net VC-66 作品から)
*クリスマス プロジェクト
3)「地球クラブ」のクリスマスツリー作り ”Working Together"( '97クリスマスプロジェクトから)
4)日本、タイ、アメリカ混成チームによるのクリスマスツリー制作( '97 VC-66 作品から)
5)3か国共同編集 クリスマス ストーリー( '97 Virtual Class Room On The Net VC-66 作品から)
*新100校プロジェクト自主企画「同じサーバー上の同一ディレクトリでの国際共同作業研究から
6)ロシアと日本の野草カレンダー共同編集
*新100校プロジェクト「全国発芽MAP」、絵本共同編集から
7)ケナフは、虫たちのホテル
*音楽交流
8)KIDLINK Music Concert ( KIDLINK日本発の国際プロジェクトリンクによる音楽会)

7.最後に
 これらの作品を見ていただき、私たちのユートピアに失望されるかもしれないが、中学生レベルでこのような国際共同作業ができるようになるまで私たちは10年の月日が必要であった。この活動の中で私たちが学んだものは。
1)島国に住む私たち教師、生徒には、これまで国際共同作業体験の場が少なかった。
2)100校プロジェクトは教室の中で国際共同作業体験の場を持つことができる環境を提供した。
3)現在のインターネットは、英語ができなくても教師の支援の方法によっては、生徒に国際共同作業の体験をさせることができる。例えば、絵、写真、音楽など。
4)生徒の感想:「私、一人だけだったらこのような作品ができなかったと思います。世界のみんなが得意なものを持ち寄って、力を合わせたからこんなにすばらしいものができたと思います。」生徒も国際共同作業のすばらしさを知り、共同作業をする上で言葉の必要性や大切さを学んでいった。
5)このような国際共同作業は日本の教育の国際化をはかるため簡単に実践できる一つの方法である。
6)インターネットがこのような教育利用の可能性をもちながら、生徒たちに体験させる教育プログラムの提供方法の組織化が今後の問題として残されている。

<1枚の画像の人物を左から本校生徒、アメリカ、タイの生徒が順に描き完成する絵本の国際共同編集>

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