新100校プロジェクト成果発表会
中学校部会
「トライやる・ウィーク」におけるインターネット活用
− 兵庫県で実施した中学生体験活動週間 −


滝野町立滝野中学校 「トライやる・ウィーク」指導ボランティア
内橋 恵子

http://www.hk.sun-ip.or.jp/keiko-u/try/

1.はじめに

 「学校に行かない1週間」…滝野町立滝野中学校の「トライやる・ウィーク」実施期間中,「国際交流グループ」の指導ボランティアとして5名の中学2年生を受け入れ,外国人とのface to face の交流だけでなく,インターネットを利用してE-mailによる国内外の学校との交流やホームページの作成を体験してもらった。
 生徒のみならず受け入れ側にとっても全く初めての試みで手探り状態のスタートであったが,多くの協力を得ながら学び合い,感動を共有できた毎日であった。
 「トライやる」の意義も含め,このような体験活動におけるインターネットの効果や可能性を改めて認識した。



2.「トライやる・ウィーク」とは

 平成10年度,11月を中心とする1週間,公立中学校2年生の生徒全員を対象に兵庫県下一斉に実施された体験活動週間である。生徒の興味・関心を中心に概ね2〜6名の班単位に分かれ,学校を離れてボランティアの指導のもと地域で様々な体験活動を行った。
 背景には全国的に大きな衝撃を与えた神戸市須磨区の事件があり,子どもたちの成長をどう図っていくかなど,県下全域において喫緊に取り組むべき課題の検討を迫るものであった。
 また,震災後ボランティア活動や国内外から寄せられた支援の数々から得た人と人を結ぶ絆の深さや心の温かさ,共に生きることの素晴らしさという貴重な教訓を風化させることなく,全県下において地域に根ざした形で引き継ぐことが重要な使命であると考えられた。
 「教」より「育」を中心に据えた「心の教育」を推進するこの体験活動においては,学校・家庭・地域三者の連携が不可欠で重要な要素であった。

3.「国際交流グループ」について

・参加メンバー :滝野中学校2年生5名,AET1名(*),指導ボランティア1名
・活動場所   :地域のコミュニティセンター,指導ボランティア宅
・活動期間   :平成10年11月9日(月)〜11月13日(金)
・活動時間帯  :午前9時〜午後3時
・活動の目的  :「ジェフ先生と英語で話そう!」「ホームページを作ろう!」
・実施内容
  午 前 中 午  後
 1日目  概要説明,ホームページ作成計画,国内外から届いたE-mailの紹介と返事の下書き 「困っている人を助けよう!」街に出て英語による道案内の仕方を実践練習
 2日目  発音練習,E-mailの紹介と返事の下書き 道案内,電車の乗り換えの仕方,自己紹介の仕方をジェフ先生と実践練習
 3日目  ネットサーフィン,入力練習,メールの送信にチャレンジ 滝野の観光スポットを紹介するため,デジタルビデオカメラを片手に取材に出かける
 4日目  ホームページ作成,「Web上で向井千秋さんの句に下の句を送ろう!」 「滝野を知ろう!」町内の施設をそれぞれ担当を決め取材,ホームページ作成
 5日目  「外国に英語でメールを送ろう!」ホームページ作成 ホームページ作成
コミュニティーセンターの清掃
 実施に当たっては予め大まかな目標だけを決め,生徒の興味やリテラシー,当日の天候等によって柔軟に対応した。

*AET・・・英語指導助手。JETプログラム等で全国の教育委員会に配置されているケースが多いのですが,滝野町の場合は,姉妹都市(カリフォルニア州,ホリスター市)から招聘しています。

4.インターネット活用の効果

4.1 生徒サイド

(1) 地球市民再認識効果
 地球上には,同時期に「半袖のTシャツでも暑い」所もあれば,「物を凍らせないために冷蔵庫に入れる」という所もあり,「ピラミッド1周持久走大会」等,教科書とはひと味違った相手の見える生の情報に生徒たちは目を輝かせ,初めて「世界を身近に感じた」ようだった。

(2) ふるさと再発見効果
 「自分たちの住んでいる滝野をもっと見つめ直さないとね。」情報発信のためには,まず「己を知る」ことの大切さを学んだ。

(3) 自分探し効果
 「初めて心からやりたいと思うことと出会った気がする。」とか「自分の夢がはっきりしてきた。」「将来,絶対コンピュータを使いこなせるようになりたい。」と生徒たちは語ってくれた。

(4) どこでもドア効果
 「仕事場は宇宙」という名言を残された向井千秋さんの上の句に続く下の句をそれぞれ考え,インターネットで応募した。関連した情報を国内外から瞬時に収集できるという魔法に,生徒たちは感嘆の声を上げ,まさに「教室は地球」を実感したようだった。

(5) 不登校生 生き生き効果
 変化が最も著しかったのは,不登校傾向の生徒であり,終了予定時間が来ても「まだ帰りたくない!」と大きな声で叫ぶほど,生き生き過ごせた1週間であった。

4.2 指導ボランティアサイド

(1) 人的ネットワーク拡大効果
 技術的な支援は他府県からもいただき,壁に当たるとE-mailで指導を仰ぎつつ乗り越えてきた。また,予想以上に国内外から応援メールをいただき,感激すると共に勇気づけられたことを心から感謝したい。次々と拡がる紹介と協力の輪に,インターネットの持つ威力を再認識した。

(2) 生涯学習効果
 淡路島では,69歳と62歳の元小学校の校長先生が「トライやる」でパソコングループを指導しておられた。その「生涯現役」を彷彿とさせるような情熱に感服しつつ,インターネットを利用して情報交換をしたり,励まし合ったりしてボランティア同士の交流が図れたことも有意義であった。また,明石市の60代の男性は,私たちのホームページのために「木のイメージ」とタイトルの画像を作成,快く提供して下さった。

4.3 キーワード

  「夢」「可能性」
  「つなぐ」
  「越える」
  「エネルギー」

5.提案

・県内の他中学校において同時期に同様の活動を行うグループが事前にわかれば,指導ボランティア同士連絡を取り合い,E-mailによる交流やホームページを利用した共同研究等を実施することができ,生徒にとっては大きな励みや刺激になりうる。
・パソコン利用の活動においては,現役を退き比較的時間にゆとりのある熟年層のパワーを指導ボランティアとして大いに活用できると共に,指導者サイドにとっても一つの生きがいとなり生涯学習につながる。

6.まとめ

 「トライやる・ウィーク」において,インターネットの持つ「情報収集力」「情報発信力」「双方向性」「即時性」という利便性が,予想以上に威力を発揮,新鮮な驚きや感動の毎日の中で生徒たちの中には,地球市民としての自覚や感謝の気持ちが芽生え始めた。自分の将来の夢につながる何かを掴んだ生徒もいた。何よりも不登校傾向の生徒が,1日も休まず生き生きと過ごしたのは,思いがけない成果であった。またインターネットの特性を活かすことにより,本来なら地域限定の体験活動が,距離を超え,時には国を越え「人の人との交流の場」を拡大しうるという可能性を実感した。初めての試み。確かに生徒のみならず学校,地域にとって,かなりの「エネルギー」が必要であった。しかし現状を打破し問題解決への新しい一歩を踏み出すためには必要欠くべからざるエネルギーである。21世紀を担う子どもたちのために,学校,家庭,地域の連携による

The Internet of the students, by the students, for the students

の推進を願ってやまない。
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