新100校プロジェクト成果発表会
中学校部会
インターネットのすばらしさ
− 「地球クラブ」からのレポート −


清水国際中学学校・清水国際高等学校
数学担当 井柳 強

1.はじめに

 このインターネット実践事例は,パリの美術学校と本校中学「地球クラブ」を結んだ17か月にわたる国際交流のレポートである。清水市三保に伝わる羽衣伝説の俳句作りと,ここに建てられたフランス人,エレ―ヌ・ジュグラリスの記念碑を題材にした交流である。言葉の壁を乗り越えるために静止画像,動画,音声ファイルをフルに使ったマルチメディア交流である。生徒だけでなく,教師,本校で英語を教えている英国人,翻訳ボランティアなど多くのひとたちの共同作業である。仮想体験になりがちなインターネット上の交流に実体験を取り組む工夫をした。これは英語が苦手な数学担当教師の国際交流レポートでもある。

2.地球クラブとは

 「地球クラブ」はインターネットを利用して国際交流するために設けられた週1時間の授業(正課クラブ活動)につけられた名前である。中学1〜3年生17名が所属し,「通信メディアを利用して世界の友だちと仲良くしようね。」をテーマに11年間の活動の歴史がある。メディアも郵便,ファックス,パソコン通信,インターネットへと発展して来た。

3.「地球クラブ」のインターネット利用環境

 '98年7月末にOCN回線への移動にともない,事務室1,校長室1,パソコン室8,合計10台がオンライン接続された。それ以前は100校プロジェクト供与の機器,サーバ,64K専用線,クライアント1台と自主接続した1台だけで活動してきた。

4.この交流の内容と経過のアウトライン

'97年 8月 あるチャット・チャンネルでフランスの美術学校の小学生が日本との交流を求めていることを知った。学校名はAtelier des Feuillantines, 生徒の年齢は8歳から10歳であった。

'97年 9月 デジタルカメラ画像の交換を通して学校,町,クラブ活動,生徒の紹介をした。

'97年11月 まず,「友だちになろうね」とクリスマツリーを共同で装飾するプロジェクトを展開した。

'98年 1月 エレ―ヌ・ジュグラリスは,戦後,日本の能に惹かれ,これをパリで独学でマスター,ヨーロッパに紹介した。公演中,最後に天女が舞いながら天上に消えて行く場面で倒れ,「羽衣物語の舞台,三保の松原を私の代わりに訪ねて」と夫に言い残し,帰らぬ人となった。彼女についてフランスの生徒と共同で調べ学習をした。フランス語の固有名詞のスペルがわからず,翻訳作業は困難を極めた。

'98年 2月 彼女の夫の好意でエレ―ヌの遺品が清水市に贈られ,市立図書館に展示されていることを知り取材。三保の松原,富士山などの画像と共にFTPで転送した。市役所広報課からも画像の提供があった。'98年2月 私たちが送った羽衣物語の英文訳をもとに「俳句で綴る羽衣物語」の企画ができあがった。

'98年 4月 生徒は19のイメージ「海,砂浜,松,天女,羽衣,富士山」などを,書道作品に仕上げ画像ファイルにしてフランスへ。本校サーバに入り込みファイルをGETできるようにIDとパスワードを発行した。

'98年 6月 私も生徒も英語俳句の作り方がわからず,これらのイメージを生徒と簡単な英語で表現した。

 I lost my hevenly dress. I can not come back to my house. I am very sad.
これを本校AETにお願いして英文俳句にしてもらった。
 You stripped me naked Stark, alone, lost and afraid Where am I go?

'98年 6月 この俳句がパリに送られ,フランスの生徒たちの手でフランス語の俳句に作り直された。

'98年 7月 私も,生徒もAETの作った英文俳句を日本語に直すことができず,ボランティアの手を借りて日本語俳句にしてもらった。皆が持っている得意なものを出し合って助けてもらった。この俳句を本校,国語科の教師が書道作品に仕上げてくださった。本校生徒たちの手で日本語俳句の音声ファイル化が進められた。44.1KHz / 16bits での音声ファイル作成は,一句に1枚のフロッピーが必要とするサイズだった。

'98年 8月 本校,映像研究部,郷土研究部の協力で清水市,御穂神社で秋祭に奉納された,「羽衣の舞」のVHSビデオテープをフランスへ郵送した。静岡市平松にある天の羽衣神社で秋祭りに奉納された小学校2年から6年生による「羽衣の舞」を取材,画像をFTP転送した。

'98年10月 私たちの小さな国際交流活動であったが,フランスと日本の小さな虹の掛け橋となった。この共同作業の成果が,パリの新築日仏文化センターで紹介されるというニュースだった。フランスの生徒たちが制作した画像と,私たちが送信した500を超えるメール,画像ファイル,音声ファイル,郵送ビデオテープがミックスされ一つのビデオ作品となった。最終作品は,フランスの生徒の手でまとめられた。

5.実践を終えて

 インターネットを利用した交流の批判の一つに,「パソコン画面上だけの活動になりがちで。生徒たちにとって,大切な実体験を軽視しがちになる。」があるがこの問題はテーマ・題材の選択や工夫によって大きく変わる。この交流のように,調査活動を加え,物作りをする国際共同作業は,英語,フランス語,画像作り,ビデオ作り,郷土芸能,古典芸能,俳句,音楽,郷土の歴史,外国の歴史などを学ぶ総合学習の場となった。言葉の壁を超えて,日本とフランスの生徒たちの心と心が通った。たしかに言葉の壁は厚いが,私たちは多くの人たちに助けられながら前に進んだ。「私たちが100校プロジェクト活動,4年間の中で学んだものは?」と聞かれたら私は迷うことなく「世界の人たちが力を合わせることがきるすばらしさだった。」と答えたい。そして,「地球クラブ」をここまで応援してくださった皆様方に,この場をお借りしてお礼申し上げます。


図1 高さ2.5mの天女の羽衣。衣の中に共同制作の画像視聴ブースがある。この画像の1部分を公開予定

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