新100校プロジェクト成果発表会
中学校部会
TV会議で学校間交流
− 表現力を育成するために −

福島県葛尾村立葛尾中学校
英語 田代 勝俊  数学 前田 勇治

http://www.katsurao-jhs.katsurao.fukushima.jp/

1.はじめに

1.1 本校の実態と研究のねらい

 本校は阿武隈高地のほぼ中央に位置する全校生徒77名のへき地小規模校である。素直で勤労精神に富む生徒が多い反面,学習や生活面においては教師の指示を待つ受動的な生徒も見られる。この要因としては,小学校来単一学級で人間関係が固定化してしまい,良い意味での競争心や向上心が育ちにくいことと,山間部という地域性による村外との交流の機会が少なく,自分たちの学習成果や活動の発表の場や賞賛の場が限られるため,主体的な活動への意欲や創造性,表現力が育ちにくいことが挙げられる。
 そこで,インターネットを活用し,「交流」という体験の場を授業に取り入れることによって,表現する場と機会を設け,これまでの研究から課題となっていた表現力の育成に焦点を絞って本年度の研究を進めることにした。

1.2 本校のネットワーク環境

 本校は,生徒用にMacintoshが33台(図1),職員室では教師が個人で所有するノートパソコンをすべてLAN接続(図2)し,校内のどこでもインターネットが利用できる環境にある。また,平成10年度,村の事業により学校を含む公共施設や村民全戸にTV会議システム(Phoenix-Mini)を導入された(図3)ため,CU-SeeMeのようなリアルタイムのTV会議が実現可能である。

図1 生徒用Macintosh

図2 職員室のようす

図3 Phoenix-Mini

2.実践事例

2.1 TV会議を利用した遠隔T-T 授業 (3 学年:理科 実施日:7 月9 日)

(1) 実践のねらい
 環境の違う土壌生物について同じ実験観察を行ったことを,TV会議やインターネットを利用して他地区の生徒と情報交換をすることにより,様々な生物の存在や分解者のはたらきに気づき,自然を追求しようとする意欲や技能,思考力を高めさせる。また,実験結果の報告を通して,相手にわかりやすく伝えるための発表の仕方や学習成果のまとめ方といった表現力を養う。

(2) 実践までの準備
 交流協力校は,本校と自然環境の異なる都市部であることとある程度のネットワーク環境が整っている学校という条件から,理科担当教師の前任校に決定した。
 6 月8 日 電話による校長間の正式な依頼と承諾(事前に担当教師間で相談済み)
 6 月22日 交流授業のための準備授業開始(各学校)
・実験の計画(条件統一,実験場所の選考),電子メールによる情報交換(教師間・生徒間)
 6 月26日 実験一斉開始(12時,実験器具セット開始)
 6 月26日〜
  7 月3 日
各班による実験データの収集と考察,まとめ
・発表準備(〜6日) 機器の調整,実験データのホームページ作成,交流授業の進行の打ち合わせ
 7 月7 日 第1 回授業(顔合わせ) 2校時(自己紹介を含めた簡単な実験内容の説明)
 7 月8 日 第2 回授業(発表の前半の部) 4 校時
 7 月9 日 第3 回授業(発表の後半の部,まとめ) (授業研究当日)


図4 実験結果の発表のようす

図5 実験データのホームページ
(3) 実践内容
 自然環境の違う学校同士で,自分たちの身の回りに住む小動物や分解者を採取・観察し,Phoenix を利用して環境による生物の種類やはたらきの違いをまとめたことを発表し合った。(図4)
 また,各班の実験方法やデータは,ホームページにまとめられ,相手校との話し合いや考察の際に,資料として利用した。(図5)

(4) 生徒の感想など
・インターネットやPhoenixを利用することで,お互いの情報が交換できるのでとても便利だと思った。
・山間部の自分たちの方が,虫や微生物が多いと思ったが,実験の結果,都市部でもそれほど大きな違いがないことがわかった。
・同じ目的の実験でも方法やまとめ方などが自分たちと違っていたが,たいへんわかりやすかった。

2.2 TV会議による進路の悩み相談(3 学年:学級活動 実施日:10月12日)

(1) 実践のねらい
 受験が近づく時期,3年生であれば,誰もがあせりや不安を持つものである。実態からも,普段では会う機会のない共通の進路先を持つ他地区の生徒との交流を通して,生きた情報を収集し相互に発表し合うことで,あせりや不安を少しでもやわらげ,正しい進路選択ができる心がまえを持たせたい。また,あせりや不安は誰にでもあることに気づかせ,自分だけで悩まず友だちや教師に相談できるような雰囲気づくりに努める。

(2) 実践までの準備
・交流協力校は,本校と同じ進路先を持つ他地区で,知り合いの教師が勤務する学校を選択した。
・電子メールによって,日程調整と授業内容の打ち合わせや,簡単な自己紹介を兼ねて事前交流を行った。
・Phoenix システムを交流校に臨時に設置した。

図6 スクリーンに写し出された相手校


(3) 実践内容
 事前の交流の話題から,受験に対するあせりや不安について取り上げ,それらを克服し,正しい進路選択をするための心がまえをどう持てばよいか,Phoenix を用いて進路の悩み相談のTV会議を行った。(図6)

(4) 生徒の感想など
・今回の授業で,受験に対するあせりや不安は,自分だけでなく誰でも持っていることがわかり少し安心した。また,すべての悩みが消えたわけではないが,解決のきっかけになったのでよかった。
・Phoenix を使うと,相手が見える緊張もあるが,より真剣に授業をすることができた。

3.成果と課題

3.1 生徒の変容と成果

・どちらの交流授業においても,普段の授業では得られない多様な意見に触れることができ,生徒たちには良い刺激となった。また,自校だけでなく相手校にとっても貴重な体験となり,学習の深まりが見られた。
・他校の生徒に発表する機会を設けたことで,自分の意見をしっかりまとめようとする表現意欲が高まった。また,発表時にも物おじすることなく,自信を持って活動している姿を見ることができた。
・機器環境が整っていれば,インターネットとPhoenixの併用利用も交流授業には有効であることがわかった。

3.2 研究の課題

 本来,CU-SeeMeを利用してTV会議を行いたかったが,時間の関係もあり機器の設備や設定がうまくできなかったため,Phoenixを利用したが,交流授業の中の利用場面はほぼ同じであるので,今後もCU-SeeMeの利用も検討しながら交流授業の研究を進めていきたい。また,交流協力校の選定や交流授業のための準備を効率よく行うためにも,学校間のつながりを大切にしたい。
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