新100校プロジェクト成果発表会
中学校部会
数学における多解問題
− インターネットの教科での活用 −


中学校全学年 数学
慶應義塾普通部 数学 荒川 昭

arakawa@kf.keio.ac.jp
http://www.kf.keio.ac.j

1.はじめに

 慶應義塾普通部では,通産省の100校プロジェクトに参加してインターネットの利用について積極的に取り組んできた。1年目は海外とのメールの交換やホームページ作成で情報発信,インターネットの教科利用の方法として「数学における多解問題」のプロジェクトを実践している。ここ数年でインターネットは,通産省の100校プロジェクト,NTTのこねっとプラン,自治体主導の導入などで,学校現場にも徐々に利用環境が整備され活用されてきている。また,数年後には全国の各学校でインターネットが利用できる環境が提供される。学校現場でのインターネット活用は,ホームページを作成して情報を発信し,メールを使っての海外との交流を行なうだけでインターネットはよいのであろうか,学校でのインターネット活用推進のポイントは教科の授業での活用である。インターネットの教科の活用方法を思案中のある時,図形の授業で,次のような問題を解いてもらった。

問題 星型五角形の角の和が180゜となる証明を考えよ。

三角形ACGで,外角は内対角の和に等しいので,∠a+∠c=∠g

次に三角形BDFで同様にして,∠b+∠d=∠f

∠a+∠b+∠c+∠d+∠eの和が三角形EFG内角の和と等しくなるので180゜となる。

 同じ問題をいろいろな角度から考え,解法を発見し喜んで取り組んでいる様子や,1つの解き方に触発されて何通りもの解法を発見する生徒の姿をみて,日頃の授業では不足している自分自身で考えることの素晴らしさや発表することの大切さを実感した。既知の学習内容はわずかであるが,同じ規則を使って深く考え込んでいく大切さを感じた。いままでの授業中にとらわれずにインターネットのインタラクティブな面も生かして新しい教科の授業活用にしようというのが出発点である。

2.数学における多解問題とは

(1) 多解型の問題
 数学の問題は解が1つだと思っている生徒は多い。1つの問題をいろいろなアプローチにより考えると,本来の数学の自分で考える楽しさや,自分で考える大切さを実感する。解法がたくさんある問題に取り組んでもらって学校を超えて交流する。コンテスト形式は正解がわかってしまうとおしまいとなるので,できるだけ解(解法)が1つではない問題を考えてもらい解法等のプロセスをインターネット上で交換しあう。

(2) わかるとはなにか。相手を納得させる説得術
 自分の言葉で,低学年の子どもにわかるように既習事項を説明する。この過程において,表面的な理解ではなく自分の言葉で,本当の意味での数学の理解を促し,知識の定着を図ることができる。

(3) 生徒自身にやる気をおこす。学習への動機づけ
 大学生や社会人となった卒業生にあうと「もっとまじめに中学の時に数学をやっておけばよかったです。今大切なのは数学ですよ。」と文科系の卒業生にいわれることがある。今教えている生徒にきくと,算数の四則計算は必要だが,関数や方程式なんか大切なの?と思っている生徒は少なくない。受験とかではなく,自分の中で数学が大切であるという実感がおきることが大切である。そのために社会人の方の経験談を聞いてみたり,なぜ数学を学ぶのかを問いかけてみる。

3.実施方法

 問題を選定しインターネット上に問題を公開する。Web上に公開して解法を公募する。今回のインターネット上の取り組みで大切なのは,正解を登録することではなくて,意見交換をすることである。人との意見交換の中で自分自身で考え成長していくことである。問題選定は教科書の問題と離れ,いろいろな分野で考えてみた。ねらいとしては,表面的な理解では説明しにくい問題をとりあげ,単に数学的な知識を問う問題はいれない。

4.実施問題,結果

「数学における多解問題について」のページ


□参加のしかた

★数をつくる1999 new!★

計算式を作る new!

★数をつくる1998 ★

計算式を作る

★チャレンジ問題★

計算式を作る(続き)

■図形

星形五角形の角の和
図形の補助線
図形の面積を等分する
多角形の形

■数

計算式を作る
虫食い算の拡張
整数についての質問

■立体

立方体を展開する

■説明教えて下さい

負の数のかけ算
分数の除法の指導法
不等号の疑問
アキレスと亀

■考えよう

座標平面上で4本の煙突
碁石の並べ方

■体験談

算数・数学についていろいろな質問

□感想コーナー

◆各問題のアクセス数を参照する◆

5.まとめ

 今回,本校の生徒は冬休みの課題として,自由に問題を選んで考え,授業で結果をまとめた。

生徒の感想としては

 「インターネットでメールは送ったことがあったけれども,数学に使ったのは初めてです。使い方がわかってとても良かった。家でもやってみたい。」

 「普段の授業は,先生が生徒を教えるという一方通行的な感じだったが,これは生徒自身が考えることなので楽しさが増す。数学は生きていく上でかなり重要だと思っている。それは,人類が進歩したのは科学つまり数学的思考によるものである。今後,あらゆる分野において数学を使うものと思うので,これからもがんばって身に付けていきたい。」

 「多解問題は取り組むと当然,解がたくさんあるので,今まで一つの方向からしか見ることのできなかったものが,いろいろな方向から見ることができるようになり,柔軟な発想を生み出せるので良いと思う。数学がただ知識を詰め込むだけのものなら,特定の職業に就かない限り大切ではないと思えるが,実際は数学を学ぶことによって柔軟な発想が身に付くのだから,どんな職業についても,未来で何があっても数学は大切であると思う。」

 これらをみると,なぜ数学を勉強するかということの感想がかなりあった。また,生徒は自分の考えをインターネット上に公開するということにも喜びを感じていた。ネットサーフィンをするときにもいえることであるが,WEBをただ見て授業時間が終わりにならないように教員側がうまく発問したり,ワークシートを作ったり,生徒同士で話し合わせたり,発表させたりすることが必要である。普段の授業以上にインターネット利用では,WEB上に公開されている教材の質と利用の仕方に工夫が必要である。今回の課題としては,WEB上に問題や解法を公開してもすぐレスポンスがあるわけではない。そういった意味ではこのような取り組みを行っていることを周知させることや,共同してインターネットでの取り組みを行う参加校を募集する事などが大切である。今回は学校での一斉利用であるが,この取り組みは生徒が自宅にいても,同じように可能であるので,インターネットで地域,時間,学校を越えて学習ができるようになる。インターネットでの共同学習が盛んになることを期待している。
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