新100校プロジェクト成果発表会
高等学校部会

英語の4技能を総合的に高める電子メールを利用した海外交流授業
− コミュニカティブな言語習得環境 −


三重県立川越高等学校 英語科 近藤 泰城
三重大学教育学部       下村 勉 

yasuki@edu.mie-u.ac.jp
http://www.tcp-ip.or.jp/~kawagoeh/

インターネット利用の意図
 言語習得に関して,コミュニケーション体験が重要である。インターネットによる海外の学校との交流で,それが瞬時に可能になった。言語をツールとして用い,「学ぶ」という意識なしに,身についていくような環境がインターネットにより可能になる。また,マルチメディアの発達により,「読む」「書く」だけでなく,「聞く」「話す」の領域に関しても,「習得」の機会を提供できる。

1.企画の目的・意図

1.1 コミュニカティブ・アプローチ

 コミュニカティブ・アプローチとは,「コミュニケーション能力をコミュニケーション活動を通して育成しようとする」言語学習理論である。

1.2 インプット理論の仮説

 インプット理論は提唱されて以後の英語教育に多大な影響を与えたが,その主張は,現在の日本の英語教育の改善に寄与するものが多くある。その中から,筆者の実践に関連あるものを挙げる。
  1. 成人が第二言語を身につけるには,子供が母国語を無意識的に身につける「習得」と,学校などで系統だてて文法規則などを意識的に学ぶ「学習」とがある(習得学習仮説)。
  2. 第二言語でのコミュニケーション能力を身につけるためには,「習得」を可能にするような,学習者の能力より少し高度な適切なインプットを多量に与えることが必要(インプット仮説)。
  3. 「学習」による知識は,アウトプット(話す,書く)の際のモニター機能(誤りを正す)を担い,言語の生成には,「習得」された知識が必要である(モニター仮説)<渡辺時夫 1988 インプット理論の授業 p.1>。
 日本の英語教育は,高校,大学入試が大きな目標となっており,これまでは,客観テストで測ることが可能な「学習」による知識が重視されてきた。日本の英語教育では,「習得」の視点が軽視されてきたと考える。そのような状況を少しでも改善し,コミュニカティブな言語習得環境の提供をできるように授業を進めることにした。

2.実践の準備

 この実践の準備では 1) 交流校 2) 交流テーマ設定 3) 授業手順検討を重視した。

2.1 交流相手を探す

 交流相手を探すには,様々な方法があるが,カナダのストラフ大学の運営するInter-cultural E-mail Classroom Connections <http://www.stolaf.edu/network/iecc/>へ交流校募集の投稿した。WEBページのフォームからの投稿が可能で,世界中の二千人以上の先生へ配信される。結果,20通以上の返事を得ることが出来た。

2.2 交流テーマの設定を工夫する

 交流テーマの設定については,様々な先行実践に目を通し,身近な話題がよいであろうと下記のようなテーマを用意した。
1) 将来の職業
2) 環境保護のために何をしている,出来る?
3) おこずかいの入手方法,使い道
4) 家事の分担
5) たばこについてどう思うか
6) 男女同権について
7) 学校のランチの内容

2.3 授業の手順の検討

 授業の手順については,以下のような手順を定めた。
  1. コンピューターを使った英作文授業(自己紹介,身近なテーマによるエッセイ)を行う。
  2. インターネット(電子メール)によって,米,露,西の生徒と作文を送りあい,コメントしあう。
  3. 個人対個人の交流ではなく,多対多の交流を行う。返事が来ずに動機付けが下がる生徒が出るのを防ぐと同時に,情報を共有化し,多読のトレーニングにもなる。
  4. 授業の指示,コンピュータ操作の解説などを,日本人英語教師(筆者)も英語によって行う。
  5. 生徒は,日本人英語教師に対して,英語で,話さなくともよい。発話を強制しないインプット理論に基づく。
  6. 研究上の比較の必要と,コンピュータ環境の不足の問題で,2クラスを,海外交流群と教室内交流群に分けて,前者は海外と交流を行うが,後者は,教室内で,クラスメートの作文を読んで,そこにコメントを入力するというような活動を行った。
  7. 画像を用いて,交流を深める。
  8. 画像と音声を組み合わせて送信できる「With Voice Multi」というソフトウエアを用いて,この授業で英語の4技能のうち不足している「話す」活動を増やす。

3.企画の実践

3.1 一学期

 電子メールによる,文字のみの交流を行った。3つの交流校と自己紹介,エッセイ,それらに対するコメントを相互に交信した。この間,2クラスを海外交流群と教室内交流群に分けて,海外の生徒との交流の持つ効果をアンケートなどによって比較し,明らかにしようとした。

3.2 二学期

 交流継続の希望のあったアメリカ,デトロイト近郊のアダムス高校と交流を続ける。画像を加えて,互いの文化を紹介するという活動が盛り上がった。我々の側は,日本的なものを紹介するためにBrain Stormingを行った。
出てきたアイディア:Daibutsu, Graves, Origami, Ikebana,Yukata, Kimono, Sushi, Shrine, Buddhist Family Altar, Sumo, Kite, Uchiwa, Mochi, New year's gift of money,Karate, Festival, How to make rice, How to grow rice, New year's day, judo, onsen
 アダムス高校からは,主に高校生の文化を紹介する画像と文章が届いた。
 11月後半から,”With Voice Multi(ボイス多機能メールソフト)”というソフトウエアを交流に導入した。これは,画像を複数枚並べておき,ナレーションを録音しながら,画像を切り替え,ポインターを動かし,グラフィックソフトのように,線や図形などを書き足したりできるソフトウエアで,できあがったファイルは,高率で圧縮され,メールに添付して送ることが可能になる。生徒が自分で作成した原稿を手に,嬉々として録音をおこなっている姿を見て,英語学習の新たな可能性を感じた。このソフトウエアは,新100校プロジェクトなどで活躍されている名古屋市立西陵商業高等学校教諭の影戸誠先生からご紹介いただいた。影戸先生は,「リアルタイムの交流は,技術的に困難な点が多く,マルチメディアを利用したインターネットによる交流の一般的な普及には限界がある。より手軽に,マルチメディア+インターネットを教育分野で使ってもらうのによいものはないか」と望まれて見つけられた。

3.三学期

 多対多のコミュニケーションの中で交流が深まらなかったことを反省し,1対1の交流を行う。アダムス高校の悪天候(ブリザード)とインフルエンザの流行などで,最初の返事も来ない生徒が多数おり,その手当てに追われた。

4.実践の評価

 一学期の実践の前後に行ったアンケート調査によって,海外交流が,教室内のメッセージ交換に比べて,コミュニケーション志向の英語学習の動機付けを高めることが分かった。筆者の授業そのものに対する動機付けは,両群とも向上した。このことは,「ALTとのティームティーチングの授業で,コンピューターによる英作文の授業を行い,他の生徒(海外もしくはクラスメート)と交換し,コメントしあう。指示等は全て英語で行い,生徒は日本語を話してもよい」という本授業実践の設定が生徒に肯定的に判断されたと言える。
 また,海外交流が,一部の異なる世代とのコミュニケーションへの積極的な態度を形成することも分かった。
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