新100校プロジェクト成果発表会
高等学校部会
バーチャルマーケットによる商取引の研究
− 商業科目「総合実践」におけるインターネット活用の試み −
和歌山県立和歌山高等学校 商業 下村 史郎
simomura@wakayama-hs.wakayama.wakayama.jp
http://www.wakayama-hs.wakayama.wakayama.jp
1.はじめに
情報化社会の進展に伴い,学校の教育内容に変化が求められて久しい。私の担当教科である商業においても,他教科以上に指導内容の多様化の必要に迫られている。特に,近年のインターネットの急速な普及が,流通経済に大きな変化をもたらしている中で,商業科目の総まとめとして,実際的な商取引の学習をする科目「総合実践」は,授業形態の創意・工夫が必要なところである。
従来,「総合実践」は,教室内に2つの市場を作り,その市場間で模擬商取引を行う授業形態が一般的であった。今回,その枠を越え,学校間でインターネットを使い,それぞれの学校のインターネット上に仮想の市場(バーチャルマーケット)を作り,その市場間で各々地元の地域特産品の模擬商取引を行う授業形態に取り組んだ。本年度,本校と和歌山県立笠田高等学校との間で実施した。
2.実践の動機
インターネットを使った学校間での模擬商取引の導入は,実際的な取引の流れを主体的に学習できるだけでなく,緊張感を伴った授業展開が可能となる。また,パソコン・インターネットの活用により,今後の実社会で欠かすことのできない高い情報処理能力も育成できる。従来からの「総合実践」と比べてもより高度な学習目標が達成できると考えた。
また,本校のような総合学科での選択科目は,毎年,選択人数が変動する上に,少人数になる場合が多い。実習授業の効率は高まるが,従来からの「総合実践」のようなクラス内での取引実習は,同時同業法(生徒一人ひとりが店主となり,全員が帳票や添え状の作成などの同一の業務を行う)が精一杯であり,実際的な取引実習はやりにくい面があった。反面,本校のインターネットの設備環境から,インターネットに興味・関心を寄せている生徒が多く,その授業での活用が期待されているところであった。
3.指導目標
一連の商品売買の業務を実践的に行い,商業活動に必要な基礎的,基本的な知識・技能を総合的に身につけ る。
現実に行われている取引により近い形で模擬取引を行うことにより,基礎的,基本的な知識・技能の習得に とどまらず,実社会での商業活動に対応できる能力を養う。
「自ら考え,実行し,自らの力で解決する」という自主的な活動を通して,商業経営に必要な業務を合理的, 能率的に処理する能力と態度を養う。
コンピュータを活用して文書や帳票を作成することにより,大量のデータを迅速且つ正確に処理する能力を 養う。
インターネットの基礎的な知識・技能を学ぶことにより,生活をより豊かにするための手段として,積極的 にインターネットを活用していく能力を養う。
外部との幅広い交流により,より高いコミュニケーション能力を養う。
自分たちの住む地元の産業を知り,その在り方を考え,地元の繁栄と活性化に貢献できる力を養う。
4.指導経過
(1) 1年間の学習の流れ
1学期 4〜6月
同時同業法により,広く商品流通のしくみや商業活動についての基礎的・基本的な知識や技能を身につける。
7月
模擬商取引の準備として,帳簿の作成,商品の決定と宣伝・広告のホームページの作成を行う。
2学期
笠田高校とインターネットを利用して地域特産品の模擬商取引を行う。
3学期
模擬商取引の決算処理,学習のまとめと反省を行う。
(2) 模擬商取引の概要
それぞれの学校の仮想市場には,7つの営業課を備えた会社があり,それぞれの課が一つの商品を扱っている。その課の間で,基本的な帳票(見積書や注文書など),添え状(帳票に添える手紙)のやり取りによって取引を進め,それらの書類送付はすべてE−mailで行う。ただし,商品宣伝については,ホームページ上に模擬取引用商品であることを明示して掲載することによって行う。
また,商品保管時の倉庫会社,商品発送時の運送会社,代金支払い時の銀行は,必要に応じて各市場内に会社を設立して業務を行う。取引に従い,各会社内では帳簿・伝票による処理も行っている。
取引の概略を図示すれば次のようになる。
※この取引パターンの他に,それぞれの立場が入れ替わった取引パターンも存在する。
5.まとめ
通常,学校間で連携した授業の場合,まして同時進行の授業であれば,事前の準備や当日の授業に多大の労力を費やすのが通例である。この取り組みでは,授業が同時進行である必要は一切なく,本年度はマニュアル作りのため数回の打ち合わせを行ったが,来年度以降は行事等による進度調整が必要なだけと予想される。大きな負担なく学校間で連携した授業に取り組め,1年間継続して授業に取り組むことも十分可能である。
昨今のインターネット社会でも,高校生にはインターネットはまだまだ身近なものとはなっていないが,今回の取り組みで,生徒は,まずインターネットを使えることに興味を持ったようである。また,授業の中から,E−mailでのやり取りに加え,ホームページを使った情報の発信にも関心を持ち,インターネットに対する興味・関心もますます高まったことは大変うれしいことである。それに加え,顔の知らない他校生徒との書類のやり取りでは,ミスが身内のミスで終わらないという緊張感を強く持たせることができた。実際に商品の売買をしたかったという非常に前向きな声も聞かれた。
他方,代金決済方法は授業に導入しにくいことや,商品売買の書類でありながら印鑑が押せないことなど,今後への研究課題もいくつか残されている。ホームページに関しては,今後インターネット上にある実際のバーチャルショップを研究し,もっと魅力ある充実したホームページを作成していきたい。さらに,より実際的な取引に近づけるなら,購入者が直接入力できるホームページの作成の検討も必要になる。また,帳票の記入や帳簿の作成など,基礎的,基本的な学習を忘れてはならないが,今後,充実してくるオンラインショッピングにあるような取引方法(例えば,受発注の自動処理や電子マネーによる決済等)の研究も進めていきたい。地元商工会等と連携して,実際の取引に発展させていくこともおもしろい。
最後に,これは大きな目標ではあるが,今後ますます進むであろう国際化の中で,海外の高校との模擬取引を是非実現させたい。実現すれば,語学の学習はもとより,海外の商習慣,外国為替の学習等幅広いより高度な学習が可能となるであろう。
この取り組みはスタートを切ったばかりであり,内容・規模ともまだまだ無限に発展させ得る可能性がある。
平成10年度 新100校プロジェクト成果発表会