新100校プロジェクト成果発表会
小学校部会

他校や地域の人々と進める花室川環境8校プロジェクト
− 花室川の調査を通しての環境共同学習 −


つくば市立桜南小学校
森田 充 海崎 由香

1.はじめに

 本校では,右図のように,情報教育と環境教育に重点をおいて総合的な学習を試行している。1年生から6年生まで,環境教育,情報教育のねらいをそれぞれに定め,地域素材を生かして展開しているが,本プロジェクトは,6年生が環境学習の中心として実践したものである。
 本実践のポイントして挙げられるのは,
1) 同一題材を同一目的を持って何校かで扱い,さらに追究過程での,児童同士の情報交換,学習成果の交換することは,児童の学習の広がりと深まりをもたらし,今後実施しなければならない総合的な学習を進める上でも有効な手法である。
2) 交流の手段として,電子メール,テレビ会議以外に,電子掲示板の共有化が有効である。
 という2点である。ここでは,1)と2)の実際の例とその有効性について,報告する。

2.なぜ,花室川8校プロジェクトか

 花室川はつくば市から土浦市,阿見町を流れ,霞ヶ浦に流れ込む川である。この川は,生活・農業排水との結びつきが強く,「排水の多いところで汚れがひどく,下流で次第にきれいになっている。」といった特徴を持っている。花室川を題材にして本校が行ってきた環境教育を振り返ってみると,本校に近い中流のほんの狭い範囲の限られた調査結果をもとにして進めていたために,生活に結びつけて考えたり,自然の浄化力に気がついたりすることができず,深まりのある考察をもたらす学習は進めにくかった。
 そこで,上流から下流までにある8つの小学校でプロジェクトチームを作り,学校の枠を越えてインターネット等を利用して協同で研究することにより,これらの問題が解決し,深まりのある環境学習ができるのではないかと考えた。具体的な研究の構想は次の通りである。
  1.  パックテストによる水質調査を8校で行い,それぞれのデータをまとめ,ホームページにデータを公開し,お互いの学校で交換しあい,それをもとに電子メールを使い,意見交換しあう。インターネット利用不可能な学校については,FAXや電話等で連絡しあい,桜南小学校のホームページ上で情報を公開する。
  2.  インターネット・テレビ会議システムを活用した共同フォーラムを開き,直接意見の交換を行う。
  3.  分からないことについては,研究所に勤務する保護者・地域の人々等を活用し,電子メールを使って質問したり,直接,指導してもらう時間を設定したりする。
  4.  多くの保護者(専門的な方だけでなく)を共同研究者にして,大調査隊を結成し,家庭生活を含めた考察,実践に広げ,その取り組みを,8校の児童・保護者,研究所が一体となってホームページを作り,公開する。
 今年度は,インターネットに接続できている学校が,本校と並木小学校の2校にとどまってしまい,他の6校の児童は十分に参加できなかったが,来年度の本格的な始動に向けて,先生方が研修会を行い,準備を進めている。

3.実際の活動内容(桜南小学校を中心に述べるが,他校でも似たような展開がされてきた)

(1) 環境問題について考える
・VTR,新聞記事等をもとに環境に関する関心・問題意識を喚起する。
・先輩や,昨年作成した並木小学校のホームページにある実践をみて,身近な問題としての意識を高める。
(2) 花室川を調べよう(第1回調査期間)
・6年児童全員で上流から,下流までの4地点の様子を観察し,水質を調査する。
(3) 観察結果や水質調査の結果から,自分の研究課題を設定する。
(4) 花室川について,自己の研究課題について,詳しく調べよう(第2回調査期間)
(5) 調べたことをまとめよう。
・電子メールを使った交流
環境研究所,つくば野鳥の会,筑波大学,工業技術院の方々への質問が多くされた。
・調べたことは,教育用グループウェアであるスタディノート(下を参照)をつかってまとめ,作成の 途中でも,随時電子掲示板に掲載するようにした。
スタディノートとは
 スタディノートは,校内ネットワークを活用して,子ども達の情報発信・意見交換の能力を育てるための学校教育用グループウェアである
スタディノートでできること
 右が,スタディノートのメインメニューである。
 スタディノートでは,コンピュータのディスプレイで見ることを前提とした「ノート」(文字や写真,アニメ等で構成される)を作成し,それらを電子メール,データベースなどの他の機能の上で利用できる。
電子メール
 ノートで作成した情報を,特定の個人と1対1でやりとりすることができる。
 手紙を出したり,ノートを交換したりすることができる。
電子掲示板
 自分のノートに書いたことをみんなに見てもらうときに使うなど,不特定多数の児童や教師に情報を伝達することができる。
データベース
 子ども達の作成したノートをテーマごとに蓄積して,様々な方法で検索したり,再利用したりすることができる。そしてこれらは,データ変換してホームページ上でも公開することができる。
 1の2)でも述べたように,電子掲示板が並木小学校と共有できるようになり,桜南小学校の児童が掲載したものは桜南小学校だけでなく,並木小学校の掲示板にも掲載される。もちろん逆も同様である。これにより,並木小学校と本校の6年生が,常時下図のような質問や意見のやりとりができるようになった。

学習のまとめを掲示板に載せる。   並木小学校の児童が見て質問を掲示板に載せる。   その質問に返事を書いて掲示板に載せる。

(6) 調べたことを発表しよう
【学級毎の発表会】→【 学年集会での発表】→【代表者によるポスターセッション】
※いつもメール交換をしていた専門家の方も参加
テレビ会議システムを利用した並木小学校との共同フォーラムの開催
 普段から,掲示板を使って交流しているために,具体的な名前で,具体的な内容で,質の高い話し合いが進められた。

4.成 果

(1) 6年生児童93名の学習後の花室川に対するイメージは,学習前の「汚い」49名から,12名に減り,逆に,「きれい」,「動植物が多い」等と答えたものが増えた。また,「生活排水」との結びつきや,「汚染が進んでいる」と環境問題について意識を明確にしたものや,自然への愛着を表す回答が増えた。同一の題材を複数校で扱うことにより,児童同士の向上心が喚起され,また,気づきが広がり,より質の高い学習を構成することができた結果と考えられる。特に,実験方法を自分で考えたり,オリジナルの浄化装置を作ったりと思考力・行動力が高まるとともに,表現力が豊かになった。

(2) スタディノートの電子掲示板を使った情報交換を経て,テレビ会議を行うことにより,意識がより高揚し,学習内容が深まった。これも,同一題材を扱うことの利点であり,電子掲示板の共有化がもたらした効果である。

(3) 来年度は8校とも,インターネットに接続されるので,本来の研究構想が達成できるよう進めていきたい。
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