新100校プロジェクト成果発表会
小学校部会
海外日本人学校との交流・共同授業
柏市立中原小学校 梅津 健志
http://www.ice.or.jp/~nakahara/index.html
Takeshi.Umezu@kiu.ne.jp
1.はじめに
本校にインターネット用のISDN回線が設置されたのは,’98年4月である。
本校が千葉県情報教育センターよりインターネット活用研究協力校に指定されたこと,文部省から帰国子女教育研究指定校に指定されたこと等々が重なり,インターネットへの道が開けることとなった。
柏市立学校の接続に関しては,麗澤大学モラロジー研究所内のKIU(柏インターネットユニオン)が接続サポートしている。教育目的利用として,不正アクセスとフィルタリングについても,KIU側で行ってくれている。
本校では,校内LANを手作りで行い,校内のどこからでもインターネットを利用できる環境を実現し,学習用の一道具と位置づけながら実践を模索していった。
2.海外交流までの経緯
千葉県情報教育センターの研究協力の一環として,文部省「在外派遣教育施設との交流プロジェクト」へ参加した。
メーリングリストを通じて交流相手校を探し,パース,ジャカルタ,香港,ブエノスアイレス,カイロの5校と交流することになった。本校では,5年生の5クラスで1対1対応になる形をとって交流を進めた。5年生の各クラスには,PCを一台ずつ配置し,休み時間・放課後を含めて自由に利用できる環境を整えた。
3.日常的交流
子供たちの日常的交流を軸にしながら,共同学習への発展を考えた。そこで,掲示板を利用した日常交流を常時活動として行うこととした。掲示板交流では,お互いの学校紹介・クラス紹介から始まり,学習している事柄の交換,ゲームや遊びのことなど多岐に亘っての話題で交流が行われている。
4.ジャカルタ日本人学校との共同学習
ジャカルタ日本人学校では,米の総合学習が行われている。小学校5年生の社会科教材の中に「日本の農業」がある。日本とインドネシアの稲作の違いについて,掲示板でも交流され始め,共同学習へと発展をさせていった。
(1) 単元名
第5学年社会科日本の農業「米作り」
(2) 単元のねらい
食生活を支えている農業について,具体的事例を通して調べ,生産活動に従事している人々が生産を高める工夫 や努力をしていることを捉えさせる。また,主食である米のルーツをたどったり,他国の米作りの様子を知ったりすることにより,米を題材にして幅広く社会を捉える目を育てる。
このことを達成するために,インターネットを利用した調べ学習,校内LANを活用した意見交換を取り入れ,子ども達にとって意欲的に取り組める学習とした。
また,海外で生活する日本人の子ども達と米作りを通して交流することにより,日本の米作りの良さや問題点に気づき,それぞれの立場から考え合うことが,学習を活性化しねらいに迫ると考えて実施した。
(3) 利用場面
この単元では,次のような場面でインターネットを活用した。
- 1) 調べ学習の学習場面
- 日本国内の米作りについての資料収集場面でインターネットを活用した。
- 2) お互いの意見交換の学習場面
- 調べて内容を電子掲示板に書き込むことにより,データを共有したり,他校の子ども達と意見交換したりする場面で活用した。特に海外日本人学校の子ども達との意見交換場として活用が図られた。
- 3) 共同学習の学習場面
- それぞれの学校での学習内容を電子掲示板等で交換し合う中でいくつかのテーマに絞られていった。
- テーマに基づき,Cu-SeeMeとチャットを併用した共同学習の場を設定した。立場や学習内容の違う子ども達同士が,お互いの疑問点を解決し合ったり,共通の問題点について話し合ったりすることができる学習を展開した。
- 4) 教師のツールとして
- 指導案検討と指導計画段階で利用した。メーリングリストを利用してある程度の構想は立てて行くが,やはり話をしながら組み立てる部分が出てくる。
- 国際電話を利用すると,数分間の通話で数百円の電話代がかかってしまう。そこで,教師同士の指導案検討にもCu-SeeMeを利用した。メーリングリストで日時を確認して接続するのである。
- その時間帯に合わせてメーリングリストに参加している方々が検討会に参加してくださる。
- ジャカルタ,香港等の日本人学校の先生,柏市教委,千葉県情報教育センターなどの先生方が指導案検討に参加してくださった。まさしくブレーンストーミングである。校内での会議の持ち方と同等の感覚で国際的に会議を行い,一つの授業を組み立てていったことは,大きな成果であり,今後大いに取り入れていきたい側面である。
5.海外交流を行って
*子ども達の感想
- Cu-SeeMeは顔も声も聞こえていて,飛行機で行ったら何時間もかかるのにすぐに届くなんてすごいなと思いました。日本とジャカルタはあんなに離れているのに,間近で話しているみたいでした。
- Cu-SeeMeで聞いたら,ジャカルタでは稲が3ヶ月くらいで穫れるようでびっくりしました。日本ではその倍はかかります。ジャカルタで早く取れるのは,一年中夏だからだそうです。あさがおは1週間で咲くそうです。
- Cu-SeeMeでは社会の赤米の事やお米について,ジャカルタの人とお話をしました。Cu-SeeMeで相談したり,勉強をしたり,ジャカルタの人とは友達や相談相手です。
- ぼくたちの班は輸入と自給のことで交流しました。チャットルームではぼくたちは自給の方が良いと言いました。Cu-SeeMeでは,ジャカルタの人たちは輸入と自給に分かれていて,輸入と答えた人の理由は「輸入していないと他の国から文句を言われるかもしれない」ということでした。農薬についてもついている農薬は洗い流せばよいと考えているようでした。もっとやりとりをしてみたいと思います。
*指導者の感想
- インターネットを利用することにより,ジャカルタと日本という距離がなくなり,大変身近に感じながら授業を行うことができた。教師同士の指導案検討もCu-SeeMeで行うことにより,校内だけでなく様々な方々に参加していただき,広く意見を仰ぐことができたことは大変貴重な経験であった。
- インターネットを十分に活用した共同授業を行うためには,インターネットを利用してお互いの情報を交換しあいたいというレベルまで子ども達の学習を高める必要があることも痛感した。安易にインターネットや校内LANを利用して共同学習をすることが,子ども達に力をつけることではない。子ども達の中に,教室の外とやりとりをしようとする意識が芽生える事が大切である。
- 身近にある資料や,実際の体験を積み上げていく中で,「もっと幅広く調べたい」「もっと幅広く意見交換をしたい」という意識が子ども達に中に芽生えてこなければ,インターネットを利用しても効果は得られないであろう。インターネットの環境が整えば整うほど,インターネットの必然性が子ども達自信に意識できる学習展開が必要である。今回の実践では,半年以上もの間,それぞれの環境で学習してきたものが土台となって共同学習が行われたことは,大変有意義であった。
- 今回の共同学習のテーマとなった「米の自給と輸入」についても,国内で報道されていることをベースに考えを組み立てた中原の子ども達と,ジャカルタの貧しい部分も見ている子ども達とでは,明らかに問題意識に差があり,お互いに考え合えることができた。これは,教室や国内の学校同士の共同学習では得ることができない成果である。
- 45分の標準的な1単位授業時間内での展開であったが,Cu-SeeMeとチャットを併用したために,子ども達の意見交換を十分に行わせることができた。
- 本校は,校内研究としてコミュニケーション能力を高める国語科の指導について研究を行っている。インターネットを利用した文字での交流,テレビ会議型の交流のどちらをとっても,日常のコミュニケーション力が問われる場面となった。的確に物事を伝える力,相手の言葉に対して的確に答える力は,メデイアの発達により益々必要な力となるだろう。
- 教室内の交流,校内の交流,そしてインターネットを利用した交流を通して,子ども達に人と人のネットワークの素晴らしさ,自分自身が広がる感覚を味わわせていきたいと思う。
6.今後への課題
インターネットの双方向性を生かした授業実践を考える。
1) 授業のライブ中継等,発表の場の広がりや共同学習への広がりを。
2) 地域の人材活用。専門家にメールで回答してもらったり,ネットワークの手助けをしていただく。
3) 毎日の学習の中でのインターネット活用の定着を図る。
平成10年度 新100校プロジェクト成果発表会