新100校プロジェクト成果発表会
小学校部会

マルチメディアプロジェクト学習でふくらむネットワーク


横浜市立本町小学校 出口 和生
honchoes@city.yokohama.jp
http://www.honcho-es.city.yokohama.jp/

1.はじめに


図1 マルチメディアプロジェクト学習構造図
 横浜市立本町小学校は,100校プロジェクトから新100校プロジェクトにかけての4年間,情報の発信対象を明確にしたインターネット活用実践,そして保護者を含む地域とのふれあい(ネットワーク)を重視した実践を積み重ねてきた。こうした経緯も踏まえて,平成10年度は「マルチメディアプロジェクト学習」を中心とした研究を進めてきた。マルチメディアプロジェクト学習とは,コンピュータ等の機器を活用して目的意識を持った学習を進めていく総合的学習であり,将来的には「総合的な学習の時間」において中心的学習となるべく研究を続けているところである。(図1)
 こうした活動の結果ふくらんできたネットワーク(主としてヒューマン・ネットワーク)について報告する。ここで「ふくらむ」とは「広がり」と「深まり」の両面ととらえる。

2.ネットワークのふくらみ

2.1 地域・保護者へのふくらみ(3年生マルチメディアプロジェクト学習から)

 平成7年度にインターネットに接続しホームページを公開して以来,横浜市立本町小学校のインターネット活用は「ヒューマンネットワーク」を中心としてきた。特に,保護者や地域の方・卒業生などとの連携を深めることに大きな効果があると考えてきた。平成8年度と9年度の実施報告では次のように述べている。

公立小学校がホームページをもったときにめざすもの。それは,地域に根ざした保護者や学区内居住者,そして卒業生へ向けたサイトなのではないかと考えている。
公立小学校は,地域のヒューマン・ネットワークの拠点なのだから。
(平成8年度100校プロジェクト実施報告より)
情報は不特定多数に向けて発信するのではなく,特定された対象に向けて発信するときに効果があると考えた。
今年度もこの成果を更に継承・発展させるべく活動を行った。
(平成9年度新100校プロジェクト実施報告より)

 平成10年度は,この地域・保護者へ向けた活動を更に発展させるとともに,子どもたちへの学習への協力を要請するという自主企画「みんなでまちのお店紹介ページをつくろう」を実施した。ここで言う「みんなで」とは,「子どもたちみんな」ということはもちろん,「横浜市立本町小学校教師みんな」そして,「地域のみなさん」という意味も込められている。また,「まち」と言うのは,3年生の徒歩圏内すなわち横浜市立本町小学校の学区周辺の「町」や「街」という意味が込められている。

図2 地域ボランティアや商店主と学校の関係

 具体的には,学校解放第2会議室へのネットワーク敷設に行う際,地域・保護者のボランティアを募り,ネットデイ形式でのネットワーク拡張工事を行った。また,こうしたボランティアの活動を受けて,「本町小地域インターネットサークル」を募集し,第1・第3土曜日の午後に毎回10名前後の保護者,地域の方,卒業生(中学生),大学生ボランティア等の参加を得て活動している。
 3年生の学習では,「お店調べ」地域体験活動で得た情報を協力していただいた地域の方に還元するためにホームページ化して公開する活動を行った。この活動の支援者として上記インターネットサークルが活躍した。

2.2 県内ネットワークへのふくらみ

(1) 教員間のネットワーク作り
 平成7年度100校プロジェクト研究会で,神奈川県内のプロジェクト参加校が集まることとなった。このとき他校との情報交換や共同研究などが県内でできないかという話になり,横浜国立大学生や慶應義塾大学生の協力を得て,「KICE(Knagawa Internet Conference on Education)」というメーリングリスト・研究会を発足した。その後,一旦解散の後,100校プロジェクトとという枠をはずし,横浜市立本町小学校をメイン会場(隔月研究会実施)として下記のような内容での活動を続けている。  (詳細はKICEホームページ http://kice.ed.ynu.ac.jp/ 参照)

(2) 神奈川県内TV会議交流(4年生マルチメディアプロジェクト学習から)
 インターネットやフェニックスTV会議を活用した交流を続けていると,オフラインで実際に会うという活動の大切さを痛感してきた。どこかで1回会うことができれば,もっと活発な活動になり,情報の共有化も進んでいくことになるのである。こうした考えから,「神奈川県」というレベルでの交流を検討し,4年生の社会科学習とも関連させ,相模湖町立千木良小学校・川崎市立桜本小学校とのフェニックスTV会議交流を中心とした継続交流を行った。
(本実践に関しては,相模湖町立千木良小学校から詳細報告)

2.3  交流校のふくらみ(全学年マルチメディアプロジェクト学習から)

 マルチメディアプロジェクト学習の一つの側面として,学校間交流による発信対象を明確にした作品作りという活動が行われるようになってきた。この活動は全学年に及び,1年生から6年生までフェニックスTV会議とインターネットメール・ホームページを併用した学校間交流を行うようになった。特に高学年は学習内容との関係を重視しての交流を続けている。

4年生・・・神奈川県千木良小学校 5年生・・・新潟県大野小学校 6年生・・・青森県千歳平小学校


図3 熊野川小との全学年交流計画
 しかし,学校間交流のあり方について考えると,特に低学年では単に学習のためだけの交流関係では,子どもたちのヒューマンネットワークを形成することはできない。そこで,学習面での共同学習関係を確保するとともに,子どもたちの友達関係というヒューマンネットワークの形成を考えている。和歌山県熊野川小学校とは全学年通しての交流関係を継続させるようにし,3年目を迎えて1〜5年生の交流が成立している。将来的には,交歓修学旅行にまで発展できればと考えている。また,今年度交流がスタートした上記の神奈川県千木良小学校とも,4〜6年での交流が続くことを想定している。

2.4 国際交流へのふくらみ(青い目の人形マルチメディアプロジェクト学習から)

 平成9年度自主企画「青い目の人形プロジェクト」は,マルチメディアプロジェクト学習の一つとして平成10年度も継続実施されている。校内フェスティバルで,全国の人形保存校ホームページを紹介するとともに,地域施設「人形の家」の方との交流も行った。また,昭和2年に答礼人形を贈った渋沢栄一の郷里である埼玉県桜ヶ丘小学校とのTV会議システムを用いた情報交換を行っている。
 目的や発信対象がかなりしぼられる事例であるので,アメリカ側の人形保存施設との連絡が取れ,翻訳という小学校の壁が取り払われれば,すぐにでも国際交流として発展する可能性がある。今後も継続実践していきたい。

3.まとめ

 マルチメディアプロジェクト学習は,まだ研究の緒についたばかりであり,成果を論ずるところまでは至っていない。しかし,少なくともインターネットを活用した交流学習が,マルチメディアプロジェクト学習の一つの形として成立し,子どもたちの学習意欲の高まりや,ヒューマンネットワークの形成に効果があることは言えるであろう。そして,それはほぼそのまま2002年施行の「総合的な学習の時間」カリキュラムにインターネット活用の一つの形として載ることになるであろう。そうした研究を来年度の横浜市立本町小学校では行いたいと考えている。
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