新100校プロジェクト成果発表会
テーマ部会

インターネットクラスルームのデザインと実践
− 環太平洋を結ぶ高校生の学びの場の共有 −


大阪府立旭高等学校 西野 和典

1.はじめに

 Internet Classroom Project(以下,ICPと略す)は,主として環太平洋の国々の高校生が,インターネットを用いて互いの文化や社会の情報を交流し,異文化の理解を促進することを目的として,研究と実践活動を行っている。
 平成10年度は,日本全国から11校,韓国,USA,カナダなど主に環太平洋の国々から8校が参加し,インターネットのWebページにバーチャルスクールを開設して,通常の高校と同様に教員の組織構成やクラスを作り,交流の推進を図った。今年度のICPは,学習内容ごとに7クラスを開講し,各クラスには担任を設けて,そのクラスで学習する生徒を指導するような学習指導体制を作った。その結果,各参加校の生徒が,各自で興味のあるクラスに所属して学習することが可能になり,参加を希望した生徒による活発な交流活動が展開されるようになった。
 さらに,各講座でのコミュニケーションを推進するための手段として,電子メールではなく,Webページの掲示板システムを積極的に活用した。この掲示板システムは,文字のほか,画像,音声,動画などのデータをリンクすることが可能であり,マルチメディアによるコミュニケーション環境を実現した。この点は,マルチメディアによる異文化交流の可能性を探る研究としての意義はあるが,コンピュータやネットワーク環境の相違によって,マルチメディア情報を受け取ることができない参加校もあり,必ずしもスムーズにいったとはいえない。

2.ICPのデザイン

 平成9年度に実施したICPは,例えば「100年前の暮らし」等といったテーマを設定し,事前に決めた相手国の生徒と,E-mailで意見を述べ合う形態で交流を行った。相手の国との一対一の交流が基本であり,他の学校が企画するテーマに参加することは,実質的に難しい状況であった。各テーマに対して,2つの地域間の交流は可能であったが,より多くの国や地域間の生徒による相互交流を行うことは,容易ではなかった。

図1 インターネットクラスを基盤にした学習活動

 図1は,平成10年度の交流の方法を示す概念図である。本年度のICPは,平成9年度のICPの活動を更に発展させるため,多くの国や地域の生徒が,マルチメディアを用いた情報を相互に交流し,共有して学び合うような学習の場(クラスルーム)を構築する目的で,インターネットのWebページ(http://210.163.117.210/~icp98/)に,仮想的な学校を開設した。ICPに参加する学校の教師によって,このバーチャルスクールの教師集団を形成し,校長や教頭などの管理職を決め,学校行事表を作成して,模擬的に学校運営のための組織と教育計画を作成した。次に,開設するクラスの授業内容を,職員会議で決め,管理職以外の教員が講座を担当することにした。その後,学習のクラスを開設する教師は,WebサーバにCGIを組み込むなどの作業を行い,授業を行うためのシステムを構築した。
 ICPに参加する生徒は,実際に通う高校の教師が運営するクラスとは無関係に,各クラスの活動内容を見ながら,自分で興味・関心があるクラスへ参加することができる。また,一人の生徒が複数のクラスに所属して活動することも可能である。交流活動は,主としてWebページ上の掲示板システムを使用し,一つのテーマに対する発言のやり取りが一定の形式で表示され,論点を把握しやすいように工夫した。さらに,画像や音声,動画などをできる限り活用させて,コミュニケーションの表現の幅を広げるように指導した。

3.活動の概要

(1) ねらい(平成10年度に関する特徴的な部分のみ)
 1) Web上でのバーチャルクラスルームの構築と学習の実践
 2) 掲示板システムとマルチメディアを効果的に取り入れた交流活動の実践
 3)他地域の文化,社会,環境,生活等を,自己の地域のものと比較・検討することによって,互いに理解し合う。

(2) 実施期間
 平成10年9月〜平成11年1月

(3) 参加国および参加形態
 1) 参加国…USA(3校),韓国(3校),オーストラリア(2校),カナダ(1校),ノルウェー(1校),日本(12校)
 2) 参加形態…所属する学校の授業,および,教科外活動の一環

(4) ICP運営上の連絡や意思決定方法
 主としてメーリングリストを活用した。日本語の文字化けしたメールが外国の参加校の教師に流れないように,英語を使用するメーリングリストと日本語を使用するメーリングリストの両方を作り,状況を考えて使い分けた。さらに,オフラインで,大阪にて5回の会議を持った。

(5) 学習テーマ
 1) Guess What
 地域独特の品物の画像をWebページに載せ合い,他地域の生徒に,その品物が何であるかを考えてもらう。このようなゲームを通じて,互いの地域の文化や伝統を学び合う。
 2) Language Study
 インターネットを通じて,英語で自己主張を行うことが目的である。かなり長い英文を作成し,Webページの掲示板に掲載する。
 3) Video Mail
 画像情報を付けたE-mailとして位置付け,手軽に自己紹介や地域紹介を行うことを目的としている。

図2 国や地域の住環境を交流するWebページ

 4) Housing Project(図2参照)
 その地域の「家」について,気候や風土に根ざす特徴を調査し,時代の変遷に伴う住宅事情の変化や,間取りや部屋の構造,その地域独特の設備などを画像で紹介し合い,互いの国や地域の「住環境」についての理解を深める。
 5) School Calendar
 各地域の風習や,学校の日常的な行事を,カレンダーに記入する形で紹介し合う。同じ時期にどのような行事が行われているか,自分の地域や学校のカレンダーと比較して,互いの文化や風習の相違点や類似点を理解する。
 6) Web Diary
 日常生活を時間単位で記入した生活日記を公開し,コメントを書き合うことによって,他地域の高校生が過ごしている学校生活や,放課後や休日の過ごし方などを,自己の日常生活と比較しながら理解する。
 7) News Project
 その地域で話題になっているニュースを取り上げ,その内容について論議する中で,他地域の社会の様子や人々の考え方を理解する。また,自分の地域の問題を他の地域の人々がどのように理解しているかを知る。

4.成果と課題

(1) 成果
 1) 生徒の興味・関心,さらに現実の学校での学習に応じて,参加するクラスを選択できるバーチャルクラスを作った結果,一つのテーマで,より多くの国や地域の生徒が学び合う場を共有し,交流することができるようになった。
 2) 掲示板やCGIを利用して,テーマ別にビジュアルな交流環境を構築したことで,E-mailでの交流と比較して,画像,動画,音声など多様な表現手段での情報交換が可能になった。
 3) 参加地域の文化や風土,生活や習慣を,自分自身や自分の住む地域と比較する活動を通じて,異文化に対する理解とともに,自分自身を見つめ直したり,自分の住む地域を再認識するような活動が見られた。

(2) 課題
 1) マルチメディア環境での交流は,コミュニケーションの幅を広げた一方で,機器や設備,生徒の技術面での問題があり,指導する教師の負担が大きい。映像等の情報は、設備的に見ることができない参加校もあった。
 2) 掲示板での討論に未熟であり,一つのテーマを継続的に論議し,深く理解するような活動が少なかった。

5.まとめ

 平成10年度のICPは,Webページ上にバーチャルスクールを開設し,掲示板を用いてマルチメディアでの情報の交流を促進した。また,他地域と自地域の文化や生活を比較しながら相互の理解を深める取り組みを試みた。その結果,前述したような成果が得られたものの,本年度から始めた取り組みであり,実践の期間が短く,充分に定着した活動として評価する段階には至っていない。したがって,もうしばらく,今回の活動方法で実践を積み重ね,バーチャルスクールの運営方法,学習体制,学習方法,学習効果などを明らかにしていきたいと考えている。
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