新100校プロジェクト成果発表会
テーマ部会

広島地域における初等中等教育インターネット利用研究プロジェクト
−「ネットdeがんす」の成果と課題−


広島市立吉島東小学校 前田 真理

1.はじめに

 文部省は2001年までにすべての学校をインターネット接続する方針を打ち出している。多数の潜在的利用者がいる学校を組織として接続するには専用線接続し各種ネットワークサーバを設置することが最低条件と考えられる。
 しかし,学校における自組織のサーバ管理,利用者管理の方法等についての本格的な検討は進んでいない実態がある。そこで,広島地域の初等中等教育機関を128kデジタル専用線にてインターネット接続し,低価格で技術的に安定しているPC-UNIXによるネットワークサーバを設置する企画を立ち上げた。そのネットワークを連続運用しながら教育利用の実践的研究を行い,その過程で発生する各種の問題を掌握し,それぞれの適切な対処方法や外部組織からの支援のあり方の検討を行ったのが,この「ネットdeがんす」プロジェクトである。その成果と課題を以下に述べる。
 なお,この取り組みは今年度新100校プロジェクト重点企画「地域展開」の指定を受けている。

2.研究開始にいたる経緯と活動状況

2.1 研究開始に至る経緯

 広島地区においてのネットワーク教育利用実践の試みは,1980年代後半のパソコン通信の時代に既に始まっている。94年広島市立鈴張小学校の日本初の小学校ドメイン取得,95年同校の100校プロジェクトAタイプ(64K)接続,「中国・四国インターネット教育利用研究会」(95年〜)のネットワーク教育利用実践やシンポジウム開催(96,97年)「教室がインターネットにつながる日」(北大路書房,98年)出版という経過を経て,本プロジェクトは立ち上げられた。

2.2 活動状況

 活動内容としてはミーティング,ネットワーク運用支援,CEC活用研究会での発表,「情報倫理の構築プロジェクト(FINE)」広島班との連携等を行った。研究課題は次の通りである。
(1) インターネット教育利用の実践的研究
・インターネット導入に伴う問題点の掌握
・導入および使用に関する支援モデルの研究
(2) 利用者環境支援システムの開発
・教員自身が管理すべき情報等の明確化
・管理支援システムの開発と評価
(3) 初等・中等教育における情報倫理の研究
・問題点等事例の蓄積

3.成果

(1) 授業
 安定した接続が得られたので,教職員児童生徒ともに十分に受け入れられた。また,電子メール,ホームページ作成等児童生徒が主体的にネットワークを活用したことは,学習意欲を高める上に効果的であった。しかし,ネットワークを利用する上での 必要な指導内容が十分検討され ていないために,発達段階に応じた体系的な指導ができなかった。

(2) 研修
 教職員のインターネット利用のスキルや認識は向上した。しかし,ネットワーク利用の前に,教職員自身ののコンピュータリテラシーの課題は大きい。有害情報の氾濫や,インターネットを使った犯罪報道により,教育利用の必要性を疑問視する声もある。児童生徒による本格的な活用以前に,まず教職員自身が学ぶ立場と教える立場両面から研修する必要がある。

(3) 運用管理
 サポートグループの活動・安定したPC-UNIXサーバ・システム管理ツールの導入等は一定の成果をあげた。しかし,機器の管理や教育利用の実践・職員に対する研修等,管理者の負担は依然大きい。学校側管理者に最低限必要な知識・技術を明らかにし,それを教職員が研修する体制づくり,専門技術者によるサポート体制確立が急務である。そして校内における情報化推進組識を設置し,ネットワーク管理業務を校内分掌として位置づける必要がある。

(4) 環境
 最大の問題はネットワーク対応端末の不足であった。各学校は,プロジェクトの支援によって貸与された端末を修理共有して実践を行った。学校によっては大掛かりな配線作業を行いネットワークへの認識を高めることに成功した。
 
図1 (左)児童による使用 (右)校内LAN配線作業

4.導入および使用に関する支援モデル


図2 学校のネットワーク管理者の条件

4.1 学校側管理者に要求される条件とは

 専用線接続およびネットワークの構築・運用管理にはインターネット標準の知識・技術,配線工事や電気空調等の設備への配慮,使用する機器の選定および予算交渉,校内研修の企画運営,ドキュメント作成する事務処理能力,個人情報の管理業務,これらを確実におこなう高いモラルといった広く多方面にわたる能力が要求される。
 特にサーバ立ち上げ時には,そのシステムやコマンド,各サーバ機能についての基礎的な知識・技術は必須である。

4.2 接続および連続運用での諸問題の切り分け

(1) 外部からの支援が困難な部分
 直接に教職員・児童生徒に関わる事柄は学校側が主体に行うことが前提である。具体的には個人情報の保護管理や,児童生徒へのネットワーク利用に関わる内容の指導である。校内情報化推進体制の構築も内部的な課題である。

(2) 外部から支援可能な部分
 教育行政は長期的視点に立って関係機関と協力して指導・支援体制を確立し,教員のレベルアップを支援すべきである。専門機関(大学,情報通信関連 企業等)に教職員を派遣し,サーバやネットワークの専門的な技術と知識を習得した人材に育てるのである。研修の後は,管理者は自ら講師となり,知識・技術の伝達を図るのである。
 安定したサーバや,管理しやすいネットワークの構築には,技術的サポートが絶対条件である。そのために,学校対応の信頼できる技術のあるサポート集団を組織する。技術者は必要に応じて学校に常駐もしくは定期巡回をおこない,運用上の問題点をサポートする。人材は業者だけでなく,適性のある教職員の起用,ボランティア募集,サポートを専門とする非営利民間組織の導入などが考えられる。
 次に,学校と外部支援者を結ぶコーディネータを置く。コーディネータは支援側・学校側双方と連絡を密に行い,それぞれの要望を吸い上げ,集約し,適切に問題を切り分けて返すとともに,関係諸方面に提言する役割を行うのである。そして,小規模な自治体であれば全体で,大規模ならば適宜分割した各ブロックごとに学校側管理者,サポート集団,コーディネータ,業者等関係者が,学校でおこったインターネットやネットワークの利用に関する諸問題を議論する場を設置するのである。よって,メーリングリストの立ち上げが望ましい。そこで情報交換することで,距離的 時間的制約が少なくなり,運用や児童生徒の指導のノウハウの蓄積および公開が,インターネット上で容易になるからである。

5.まとめ

 プロジェクト開始から1年。実際に接続が行われたのは数ヶ月という短期間である。しかし,プロジェクトに取り組んだメンバーの努力によって得られたこれらの成果は,文部省により,すべての学校をインターネットに接続することが具体的に計画されている現在,それにさきがけて種々の検討を行ない,学校が専用線接続するために検討課題の洗い出しを行うことが出来たと自負している. 今後はこの成果を広く公表するとともに,残された課題についての取り組みを続けたい。
 最後に,プロジェクトに理解を示し数々の協力支援をしてくださった諸方面に感謝する。
CEC HomePage 平成10年度 新100校プロジェクト成果発表会