1.プロジェクトの目的




 初等中等教育においては、教師と学習者が時間と空間を共有している集合教育が基本であるが、病院内に設置された院内学級や不登校の児童・生徒など環境や状況から本来の学校外で学ばざるをえない子供たちも少なくない。
院内学級では、一人の教師が複数学年、複数教科を教えているケースがほとんどであり、教師側にとっても授業準備や指導上の負担が大きく、特に中学校においては専門外の授業を行うのは重荷となっている。このような状況を改善するためには、eラーニングの利用が有効である。
  時間や場所の制約を越えて学習できる環境を提供できるeラーニングが企業内教育や大学教育においては注目され、すでに広く実施され、成果を上げている。しかし、企業内教育等でのeラーニングは、一般には、学習意欲の高い多数の学習者を対象としたマス教育であり、効率よく教育を行うことが目的である。一方、院内学級の学習者は、病気のため学校を休みがちで学習進度が遅れている傾向がある、学校の友人とコミュニケーションをとる機会が少ない、精神的なケアが必要である、などの状況に置かれていることが多い。そのため、教師は、一人ひとりの学習者の状況に応じた対応を行うとともに、学習者がクラスの一員として授業に参加できるようにすることで学習意欲を高めることが重要である。学習者とシステムが向き合うだけのeラーニングではなく、教師やクラスメイト、カウンセラーなどの人間が積極的に関わる「参加型」と言うべき新たなeラーニングシステムが必要である。
 それは以下のようなものとなる。第一に、ネットワークを利用して、学習者が、実際に出席しているような臨場感と一体感を持って学校(本校)授業に参加できる環境を用意し、本校の教師と院内学級の教師が連携して授業を進めることができる。また、治療や体調などの理由で必ずしもライブでの授業参加ができるとは限らないためオンデマンドで録画した授業を受けられるようにすることも可能である。第二に、個々の学習者に対応するため、テレビ会議機能や掲示板等の手段を用いて教師やカウンセラー、友人たちと直接あるいは間接的に共同学習や相談、質問などのコミュニケーションができる場も用意されている。
 このような考え方は、院内学級だけではなく不登校者や離島・分校などにも応用可能であるが、本研究では、院内学級を検証の場とし、本校との間を高速ネットワークで接続して上記のeラーニングシステムの実験環境を構築し、学習者の立場、教師の立場からその活用方法と有効性を検証する。また、課題とeラーニングシステムが持つべき要件を明らかにする。



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