3.システムを活用した実践




3.2 ひとり1台の活用

◆滋賀県大津市立瀬田小学校(石原一彦教諭)の実践
●「校区のハザードマップ」(5年 保健)


(1)学習の概要

 5年の保健の学習には、「ケガの防止」という単元がある。この学習では、まず校内でケガが多発する危険な場所を探し、地図にまとめたり、校区の危険な場所や交通事故が多発する場所を調べたりする学習をおこなうことになっている。今回の取り組みでは、この保健の学習を発展させて、校区の危険箇所を調べ、地図上にマッピングすることを計画した。危険な箇所には、交通量の多い交差点など交通事故の危険を知らせるものと共に、最近問題になっている不審者に関する情報も含めることにした。これらの危険な場所を子ども達の目線で取材し、地図の上に再構成することで、交通事故の防止に向けて子ども達の意識を喚起すると共に、不審者への注意にも気を払うようにさせたいと考えた。


(2)学習の流れ

  1. 保健の授業で「けがの防止」を勉強し、どのようなところが危険な場所かを話し合い、今回利用するシステムについて理解する。
  1. 教師が児童用端末に「危険な場所を探しましょう」との指令を送る。
  1. 教師が児童用端末に「危険な場所を探しましょう」との指令を送る。
  1. 撮影した写真を児童がウェブサーバに送る。
  1. 学校に帰って、撮影した写真にコメントを書き込む。
  1. 撮影した写真とコメントを印刷し、写真とコメントを切って一枚ずつカードを作る。
  1. 大きな校区の地図にカードの番号を書き込む。
  1. 写真とコメントをもとに、一枚ずつウェブページを作り、出来上がったハザードマップを使って発表会を行う。


(3)児童の変容と成果

 この活動は保健の学習として取り組んだものであるが、危険な箇所の話し合いや実際の取材活動、写真撮影、WEBへの送信、地図作りなど様々な学習要素が含まれている。そのため、「総合的な学習の時間」としても十分取り組める内容であると考えられる。この学習の中で子ども達にとって特に良かったことは、実際の危険箇所を取材し、自分たちの目線で調べられたことだと思う。それは、自分たちの身を守れるのは、自分たちでしかないという、いわば当たり前のことを子ども達が実感できたからである。お仕着せの危険情報ではなく、自分たち自身の情報に基づいた情報を地図にまとめることで、子ども達はよりリアルに「危険」を意識できたと考えられる。
  出来上がったハザードマップをみんなで見合いながら行った発表会でも、自分たちが調べた危険場所をていねいに説明するだけでなく、他の児童へのアドバイスも必ず付け加えた。たとえば、「夜はこのあたりは暗くなるから、通らないようにしましょう。」とか「この交差点は車が飛び出してくることがよくあるので、必ず立ち止まって左右を確かめましょう。」とかの言葉を必ず付け足して、他の児童への注意を喚起したのである。自分たちで調べたことを共有しようという子ども達の意欲の表れだと言えるだろう。このようなことができたのも、携帯電話を使って自分たちが撮影したことをすぐに送信でき、学校に帰ったらすぐにコメントを書き込めるこの軽快なシステムの成果であると考えられる。携帯電話を使うので、画像送信の際に、コメントを書き添えて送ることもでき、臨場感に溢れた情報を地図に盛り込むことができたように思う。


●(携帯電話を正しく安全に使おう「携帯向上委員会」 (5年 道徳))


(1)学習の概要

 今回の「ユビキタス協調学習システムを用いた野外&共同学習」プロジェクトでは、児童が携帯電話を情報端末として利用することになっている。近年、携帯電話は国民の間に広く普及し、特に若年層の間では新しいメディアとして爆発的に利用が進んでいる。昨年までは小学校の児童が利用するのは特殊なことのように思われていたが、今年度になってから携帯電話の普及が小学生にも広がり、多くの児童が携帯電話を日常的に利用する環境に変わってきたように思える。
  このような若年層への携帯の普及は、一方でマナーの欠如や、場合によっては危険な利用なども見受けられるようになってきた。このような現状をふまえて、日常的に携帯電話を活用する今回のプロジェクトの一つの学習活動として、「携帯向上委員会」という単元名で児童に携帯電話の正しくて安全な使い方を指導することにした。
  この「携帯向上委員会」の学習では、教師から課題を投げかけたり、擬似的な体験を児童にさせたりしながら、基本的には児童の話し合いで課題をとらえ、深めさせることを目標にしている。具体的には、実際に児童に携帯電話を使わせる体験をもとにして、その体験で良かったことや問題に感じたことを話し合ったり、ケーススタディーとして10の事例を児童に投げかけ、その問題点や改善点を発表させたりするような学習活動で構成されている。最終的には、「携帯ルールブック」をみんなで作ってその内容を検討し、今後の携帯電話の利用に役立てようと考えている。


(2)指導計画

第1次(携帯電話の使い方)

マニュアルをもとに携帯電話の使い方を知る。

携帯電話を使って良かったこと悪かったこと:
実際に家庭に持ち帰って携帯電話を使ったあとで、携帯電話を使って良かったことと課題に感じたことを児童に書かせ、それらをまとめて児童に配布し、話し合わせる。

第2次(ケーススタディー、疑似体験)

携帯電話を使って起こりそうな問題事例を10例挙げ、それを班ごとに分担してなぜそれが問題となるのか、またそのような問題を回避するためにはどのようにすれば良いのかを発表させる。

教師が作成した携帯モードの「不正なページ」にアクセスさせ、擬似的な体験をさせてその問題点を発表させる。

第3次(携帯ルールブック)

今まで学習してきたことをルールブックにまとめ、みんなで携帯電話の正しく安全な使い方を話し合う。


(3)児童の変容と成果

 10月末に10台の携帯が届き、その日から班ごとに携帯の貸し出しを行った。携帯を持ち帰った児童は家で自由に携帯を使い、家族や友だちとのコミュニケーションを楽しんだようである。しかしその一方で、貸し出しを始めて間もない頃には、児童は意味もないのにメールを遊び感覚で頻繁に送信したり、中にはイタズラメールやウソのメール、なりすましのメールを送るなど情報モラルの指導上問題となる行為も見られるようになった。このような中で取り組んだのが「携帯向上委員会」の学習である。これは、携帯電話を用いることで生じる情報モラル上の問題行為を単に生徒指導として禁止するのではなく、児童自身が問題に気づき、不正な行為を自分自身の問題としてとらえるという視点で取り組んだ学習である。そこで、児童の問題行動を教材にしてこれらの行為について話し合い、どこが問題なのか、どのように防げば良いのかを実体験や模擬体験を通して討論し合った。学習を終えたのは冬休みの直前であったが、ちょうど冬休みに入る前に残りの30台の携帯電話が届いたので、2週間に及ぶ冬休み期間にも携帯の貸し出しを行った。長い期間であったが、その間、休み中には特に問題となるメールの送信などは報告されなかった。携帯電話を使い始めて間のない頃と異なり、「携帯向上委員会」の学習を終えた子ども達には着実に情報モラルが育ってきているように思われる。
今回のこの学習を通して、携帯電話は児童にとっては友だちとのコミュニケーションを取るための重要なツールになるであることを確信した。ある児童は感想の中で、「携帯を使うことで男女へだてなく話すことができたし、日ごろしゃべらない友だちとも話すことができた。休みの日に一緒に遊ぶことを携帯を使って約束できたのがとてもうれしかった。」と書いている。実際、3学期が始まって、男女間の仲もよくなり学級全体が和やかなムードに変わってきたことを感じている。このような、コミュニケーションツールとして携帯電話を有効に使わせることでその良さを体感させると共に、併せて情報モラルの指導をきちんと行うことで今後不正な利用を自制したり、携帯電話を使うことで起こりえる危険に対しても回避したりできるような知識と技能を児童に指導するような学習が必要であると考えられる。


(4)資料

  1. ケーススタディー
ケース1
  休みの日に携帯電話を持って歩いていたら、メールが届いたので、メールを読んでいるうちに車道に出てしまって自転車とぶつかった。
ケース2
  休みの日の午前中に「今日いっしょに遊ばない?」というメールが友だちから来た。その日は家族でドライブに行くことになっていたので「ムリ」と送ると、「いじわる」とか「大きらい」とかメールで言われた。
ケース3
  友だちからメールが来たので読んでみると「あなたなんて大きらい。もう絶交よ。」と書いてあった。次の日、そのことを友だちに言うと「そんなメール書いたことがない」と言われた。
ケース4
  家族で夕食を食べている時にメールかどんどん送られてきたので、食事中にメールを読んだり返事を書いたりしていると、「食事中にそんなことをしてはいけません」とお父さんからおこられた。
ケース5
  宿題をしようとしていると、どんどんメールが送られてくるので、それを読んだり返事を書いたりしていると、宿題をやる時間がなくなってしまった。
ケース6
  電車の中で携帯が鳴ったので出てみると、友だちだったのでそのまましゃべっていると、車内の人からにらまれた。
ケース7
「このメールを受け取った人は同じメールを5人に送らないと不幸になります」というメールが来たので、友だち5人に不幸のメールを送ってしまった。
ケース8
  携帯のウェブページを見ていたら、占いのページがあったのでそれを見たり、着メロのページがあったのでお気に入りの着メロをダウンロードしたら、あとで3万円の請求が来た。
ケース9
  携帯の出会い系サイトをおもしろ半分で見ていると「登録」というボタンがあった。これを押したら自分のアドレスが勝手に登録されてしまって、変なメールがたくさん送られてくるようになった。
ケース10
  出会い系サイトで知り合った「メル友」が、「二人っきりで会ってくれ」とメールで書いてきたのでそれを断ると、家の電話番号をしらべて家族にいやがらせの電話をかけたり、住所を調べて家にやってくるようになった。

  1. 携帯ルールブック
携帯ルールブック

はじめに
  このルールブックは、携帯電話を正しく安全に使うために色々な場面での使い方が示されています。携帯電話はみんなに意見を伝えたり、話し合ったりするだけでなく、メールを送り合ったり、ウェブページを見たりできる新しい道具です。とても便利だけど、危険なところもあります。このルールブックに書かれている項目を守り、携帯電話を正しく安全に使ってください。



第一章 携帯電話の扱い
・携帯電話はこわれやすい精密機械ですので、やさしく大切に使いましょう。
・携帯電話は水にぬれるとすぐにこわれるので、手洗いや洗面の時に気をつけましょう。
・携帯電話は必要がない時には外へ持ち出さないようにしましょう。
・携帯電話を外へ持ち出した時には、忘れないように常に気をつけましょう。
・携帯電話を他の人に貸したり、使われたりしてはいけません。(なりすましの原因になります)
・充電器はなくしやすいので、常に家のわかりやすいところに保管してください。
・もし、携帯電話や充電器を無くした時にはすぐに先生に連絡してください。(090-6xxx-9xxx)
・音声電話は先生だけにしてください。
・午後9時半をすぎてから携帯電話を使ってはいけません。

第二章 絶対ダメ
・イタズラメールを書くこと。
・メールでウソを伝えること。
・わざと同じメールを何通も送ること。
・メールの返事を相手にしつこくさいそくすること。
・メールで悪口を書くこと。
・別の人になりすましてメールを書いたり電話したりする。
・メールできたない言葉を使うこと。
・メールで友だちの秘密や他の人に知られたくないことを別の人に伝えること。
・有料のウェブページを見たり、ソフトやファイルをダウンロードすること。
・大人向けや出会い系サイトのウェブページを見ること。
・デジカメを使う時に許可を得ないで撮影すること。

第三章 家の中で
・家族で一緒にいる時や食事中には、迷惑がかからないように携帯の着信がわからない場所におく。
・朝早くからメールを打ったり、夜遅くまで携帯を使ったりして、家族との会話を少なくすること。
・家族で出かける時に携帯を持っていって、家族との楽しい時間を台無しにすること。

第四章 道路上で
・歩きながらメールを読んだり打ったりすること。
・歩きながら、デジカメを撮影すること。
・自転車に乗りながら携帯を使うこと。

第五章 電車やバスの中で
・電車の中では電源を切る。
・バスや他の乗り物の中でも、携帯電話の使い方の指示にしたがう。
・バスや電車の中では音声電話はかけない、かかってきても出ない。
 
第六章 学校で
・登校する時には、携帯電話をランドセルに入れる。
・教室に入ったらすぐに携帯電話を出す。
・学校では先生の指示がない時はいっさい使わない。

第七章 施設や建物
・公民館や図書館など公共の建物の中ではマナーモードにする。
・電話がかかってきたら、人のいないところか、ホールに出て迷惑がかからないように話す。

第八章 カメラに注意
・デジカメを撮影する時には、まわりをよく見ながら安全に気を付けて撮影する。
・人物を撮る時には、あいての人に許可を得て撮影する。
・のぞき見をしたり、かくしカメラのような撮り方をしない。

第九章 ウェブに注意
・有料のウェブサイトにアクセスしない。
・着信メロディーなどをダウンロードしない。
・iアプリやウェブサイトのゲームで遊ばない。

第十章 出会い系サイト
・出会い系サイトなどにはおもしろ半分でもアクセスしない。
・ネット上で知り合った人に呼び出されても、会ってはいけない。

第十一章 困った時は
・困ったことがあったら、大人の人(お父さんお母さんや先生)に連絡する。
・知らない人からのメールは無視する。
・知っている人が変なメールを書いてきたら、信じないで内容を確かめる。またその内容を記録してあとで先生に見せる。

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