1.プロジェクトの背景・目的




1.1 背景

 2002年度に情報技術(IT)の活用が盛り込まれた新学習指導要項が施行され、IT活用型教育の充実が継続的に図られている。現在、2005年度の完成を目指し学校や教室へのブロードバンドネットワーク接続とコンピュータ導入が進められており、文部科学省の調査によれば、全公立学校の99.5%がインターネットに接続(2003年度末)など、IT利用の環境面の充実は目ざましいものがある。
  このようなハード面の充実に呼応して、ITの学校教育への有効活用の取り組みが各所で進められている。しかし、現状は情報教育や総合的な学習の時間での活用が大半で、マルチメディアやインターネットを活用した理解支援や表現方法の学習という面での取り組みは多いが、一般教科教育への活用は思うように進んでいないのが実態である。
  一方、 2002年秋にタブレットPCが各社から発売され、教育分野への活用が期待されてきた。タブレットPCは、ペン入力を標準入力手段とするもので、通常のPCの機能に加えて、ペンによる直接操作や文字の筆記、図形の直接描画が可能といった利点があり、これらを活かした教育用コンテンツの開発と普及が期待されていた。
  しかし、これまでタブレット PCを対象として販売されている電子教材は漢字ドリルなど数例にすぎず、圧倒的に不足している状況である。タブレットPCで、通常のPC用に開発された教材を使うことはできるが、選択式の解答入力が大半の従来の電子教材ではタブレットPCを活用しきれているとは言い難い。これらの電子教材では、学習者は自身の考え方の記述ができないし、思考過程や途中の計算結果過程などは紙(ノート)と鉛筆を利用し、最終的な解答のみを選択入力するなど、タブレットPCのせっかくの手書き操作の有効性を活用できないからである。


1.2 目的・狙い

 本プロジェクトの目的は、上記背景に鑑み、一般教科教育で活用できる、タブレット PCの手書き入力を活用した電子教材の要件を調査し、その要件に合致する手書き電子教材のプロトタイプを作成し、学校の実践授業や自主/家庭学習に適用してその有効性を検証することにある。
  現在タブレット PCを対象として市販されている学習ソフトは非常に少なく、また、これまで実施されたタブレットPCを使用した授業実践でも、手書き入力された文字や図形をそのままの形で利用している。これは、タブレットPCには手書き文字認識機能が組み込まれているが、この機能を教材に組み込んで使うことは工数がかかり、専門技術者以外には難しい事が要因と考えられる。また、タブレットPCに実装されている手書き文字認識は、乱雑な書き方や誤った筆順であっても利用者が期待する文字が認識できるような技術が用いられているが、教育用途では、乱雑で誤った筆順でも文字が認識されることは必ずしも望ましくないといった問題もある。
  本プロジェクトでは、これらの課題を踏まえ、以下の項目を当初の達成目標として設定した。

    1. ペンタッチ操作により、選択式ではなく手書きで解答の入力が可能で、自動採点ができること、
    2. 児童の筆記する文字を認識するだけでなく、正しい書き方であるか否かを判定し、正しい書き方を提示できること、
    3. 電子教材への手書きによる自由な書き込みが可能で、タブレット PC上で思考過程をサポートできること、
    4. インターネット環境からも利用可能で、家庭での学習や自習環境にも活用できること、
    5. 現場の教師が教材を自作したりカスタマイズしたりできること。

 本プロジェクトでは、このような目標を設定し、現場教師や教育関係者の意見を取り入れて具体的な教材の要件を明確にしたうえでプロトタイプを開発し、試作した教材の有効性と今後解決すべき問題点を検証する。


1.3 期待する教育効果

 タブレット PC という手書き入力ができる PC を使用することにより、従来のノートと鉛筆という自分で考えたそのままを記述できるアナログの利点とPCというデータの保存や再現、分析がしやすいデジタルの利点という双方の長所を生かして次のような分野での効果が期待できる。


(1)漢字学習分野について

 ア.漢字の筆順

 漢字の筆順は、自分の書いている筆順が合っているのかどうか判断するには、かなり手間がかかり困難である。教師は、筆順の学習時に児童の書くところをじっくり見ておけば指導できるかもしれないが、実際は不可能である。根本的な学習指導方法がなかったと言える。
  タブレット PC 上に入力された手書き文字を手本文字と照合できる教材を作成することにより、入力した筆順が正しいかどうか判断できる。このことにより、児童が個々に筆順の学習を進めることができるようになる。

 イ.書き取り

 入力した漢字そのものの正しさを直ぐに照合することができるので,学習意欲を高めることにも効果がある。従来の鉛筆とノートという方法でも自分で採点できるが,児童の学習意欲を維持するのは難しい。採点は、第三者(今回の場合は、タブレット PC になる。)にしてもらう方が、緊張感があり意欲を維持しやすい。さらに,自分で採点しないので自分の思い込みを排除することができる。また,筆順という過程の正しさを加味して結果の正しさを採点することは従来の方法では出来なかったことであり,漢字学習への効果が大変期待できる。


(2)計算学習分野について

 漢字学習分野と同じく、筆算や分数計算等の計算問題に手書き文字認識機能を利用することで、解答の正しさを直ぐに確認できるとともに計算過程も判断させることが可能になる。このように間違っている箇所を自分で確認することができる為,児童の意欲を維持することができると共に自学自習で計算力を高めることができる。


(3)自由ノート

 手書きの文字や線をそのまま自由に入力できるデジタルノートと呼べるものである。従来のノートと同じような感覚で自分の考え等をそのまま記述することができる。これは,既存のPCでは難しかった分野である。紙とノートというアナログ上にしか残せなかった自由な文字や図形がデジタルデータとして残せるのである。PC上に記述できるのでそのままプロジェクターで映して提示しやすいし,データの再活用をしやすい。

  
  最初に述べたようにタブレットPCを使うことにより,アナログとデジタルの融合を行うことができる。PCを使うと書く力が弱くなる等の意見に対する一つの回答になるのではないだろうか。



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