1.研究のねらい




 インターネットや情報機器の急速な発展に呼応して、様々なe−ラーニングシステムが開発され、多様なコンテンツが制作されている。e−ラーニングに関しては、主に高等教育や企業教育で利用され一定の成果をあげているが、小・中・高の学校教育の現場ではほとんど利用されていないのが現状である。
  本プロジェクトでは、校種に関わらず必須とされながらも必ずしも十分に実施されてこなかった情報倫理に関する学習を授業実践の柱として選び、小・中・高の学校現場で、e−ラーニングシステムを活用するための方法を検討する実験授業を行った。
  その成果であるe−ラーニングシステムや教材開発の要件、授業設計の要件、授業準備・実施に関わるノウハウやコンテンツを、WEBサイトならびに教員と社会人ボランティアの関わる研究会活動を通じて広く公開し、小・中・高等学校の教育現場でe−ラーニングを有効に活用する授業実践を広めることが、本プロジェクトの研究のねらいである。


1.1 背景

 近年、インターネットと情報機器の急速な発達と普及、特に通信回線の常時接続化・ブロードバンド化に伴い、企業や高等教育においてe−ラーニングの導入が加速しており、一定の成果が挙げられている。
  企業におけるe−ラーニングは一般に、徹底した業務分析に基づくID(インストラクショナル・デザイン)が適正に行われるとこと、人事システム等によってスキルアップ等学習者の動機付けを明確にすることが成功の鍵となると言われている。
  また、大学においては平成 14年度から文部科学省推進によるサイバーキャンパス計画によって導入したシステムの有効活用を図るべく、実証が進められているところであり、専門化したカリキュラムに基づく講義またはその受講のために必要な予備学習がIDの基礎となっており、多様なコンテンツが開発されつつある。
  しかしながら、本プロジェクトの対象である小・中・高等学校での学校教育については、発達段階や学習者の習熟度のばらつきの大きさなどの要因から、企業や高等教育に比べ、極めて多様な学習形態が必要とされている。そのような授業の設計すべてに対応するようなシステム開発を行うことは大変困難であるため、現状では小・中・高等学校におけるe−ラーニングの適用はほとんど手付かずの状態であり、次第に利用可能な価格・品質になってきたe−ラーニングに関わる技術やノウハウの恩恵にあずかることが難しい状態である。


1.2 必要性

 従来のe−ラーニングシステムでは、1時限を教員が話しっぱなし・板書しっぱなし、という講義の同期型システムか、教科書+問題集を延々自習するような非同期型システムの利用が前提とされている。これらは、そのような学習形態に対応できる動機付けと能力を持つ、企業教育や高等教育の学習者を前提に、教育内容の分析を中心にデザインされている(ID)。
  そのような授業は小・中・高等学校ではきわめて成立しにくい。小・中・高等学校での授業では、発問・自習・相談・発表等々極めて多彩なコミュニケーションの形態を切り替えながら学習者を引きつけ、教室全体の理解程度を確認しながら、学習目標を達成するような授業設計とその運用が日常的に行われている。そういう授業に対して有効なe−ラーニングシステムを考えるためには、教育内容の分析以上に、教育方法の分析とそれにそったシステム利用法の開発が必要である。
  以上のような学習形態の違いから、小・中・高等学校でのe−ラーニング活用には企業や高等教育と異なった実践事例の蓄積が必要であり、それに基づいてe−ラーニングシステムの要件を検討し、運用のノウハウを蓄積することが不可欠であると考える。


1.3 目的

 本プロジェクトでは、小・中・高等学校の学校現場におけるe−ラーニングシステムの先進的な授業実践事例を蓄積し、研究会やWEBサイトを通じて公開することによって、学校教育におけるe−ラーニングシステムの要件を定義し、運用のノウハウを蓄積して、学校教育現場で広くe−ラーニングシステムが活用されることを目的とする。
  授業実践の柱としては、教育の情報化の進展にともない必要性が指摘されているものの、学校現場だけでは対応しきれず実施されてこなかった情報倫理授業(情報モラルやネチケット、有害情報への対応等)を選定した。情報倫理授業については、同期型・非同期型それぞれのe−ラーニングシステムをはじめとして、さまざまなツールや情報機器を組み合わせ、できるだけ多様な校種や地域に対応した授業が可能になるように、教材コンテンツの制作や収集・加工まで含めて取り組んだ。
  また情報倫理授業に限らず、広く様々な形態の授業でのe−ラーニングシステムの活用を図るため、社会人講師授業や施設見学授業、交流学習などの多様な授業実践も行った。


1.4 目標

 種々存在するe−ラーニングシステムの特性を踏まえ、様々な学習形態での有効な活用方法を検証するために、次の4点を目標とした。

    1. 先進的な情報倫理授業の授業実践事例を提示する
    2. 情報倫理授業で利用できる教材コンテンツを制作・収集する
    3. 同期型・非同期型等の各種e−ラーニングシステムを活用する要件を検討する
    4. 情報倫理学習以外にe−ラーニングシステムを応用する可能性を探る


1.5 校種・教科・教員研修等との関わり

 e−ラーニングシステム自体は、小・中・高のすべての校種や教科について、有効な支援をおこなえるシステムである。しかし本プロジェクトでは、中心的な授業実践として、あえて次のような情報倫理授業に絞りこんで実践をおこなった。何よりも現場のニーズが高いテーマ(絶対にやらなければならない)、e−ラーニングシステムならではの先進的で効果的な成果が出せる実践事例を蓄積することが、今後の活用促進につながると考えたからである。

    1. 総合的な学習の時間における、情報倫理(マナー・モラル)の基本を学ぶ授業。
      コンピュータやインターネットを活用する前または一区切りでの安全教育の一種として実施する。(事例として中学校2校で実施)
    2. 地域公開などを含む道徳の授業の一環として、親や地域の人も含めて情報倫理について学ぶために実施する。(事例として小学校で実施)

 情報倫理から情報教育一般については、現在教員に対する研修等が盛んに行われている分野であり、e−ラーニングシステムの有効性が十分期待できる分野でもある。本プロジェクトでは、上記の授業実践およびその教材・記録を利用し、次のような教員研修に関する可能性についても評価を行い、検証した。

    1. 情報倫理教育および情報教育に関する教員研修におけるe−ラーニングシステムの有効性

 さらに特に現場でニーズが高く、e−ラーニングシステムが活用できると見込める次のような授業実践も実施した。今後、情報倫理以外の総合的な学習の時間・生活科の取り組みや教科学習にe−ラーニングシステムを利用する際に、有効な知見が得られた。

    1. 遠隔の職場や特殊施設から、社会人講師が業務内容や施設の概要についてプレゼンテーションを行う、総合的な学習の時間での社会人講師授業や、工業科等の特別授業。
    2. 小学校生活科において、友だちづくりや学校・地域に関する発表学習等を目的として、遠隔の学校と行う交流学習授業。


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