5.結論



5.3 有効な活用方法

 実践校での数カ月に渡る継続的な実践授業の展開の結果,参加型オンラインデータベースシステムを有効に活用するには,次のような工夫,配慮が大きな役割を果たすことが示された。


5.3.1 体験を出発点に

 参加型オンラインデータベースシステムを有効に活用するには,語るべきものをまず子どもが持たねばならないというのが,指導者らの一致した声であった。
 本システムはあくまでツールであり,これを使うことが目的ではない。この手段を使うことによって,子どもらに異なる視点を提供し,その異なる目で再度自らを見つめ直すことで学びを深めていく。
 実践校は,いずれも実体験を十分に行い,その上で自らの体験をまとめ,疑問や意見を表明する場所として子ども知恵図鑑を使ったことが,教育的効果を十分に上げることにつながった。
 今回岡本北小学校が行った水辺の1平方メートルプロジェクト(地面を1メートル四方に区切って,そこにすむ生物などを詳細に観察する)や,樫邑小学校で行ったお年寄りに聞く昔の農作業の様子,などという体験学習の手法は,多くの場所で応用可能である。

 また一方で,総合的な学習の時間などで推奨されている各種の体験学習を始めるに当たって,児童,生徒らが,事前に参加型オンラインデータベースシステムを使って他の学校や,過去の記録を調べることによって,多様な体験学習があることを知ることができることも,重要な要素だと教師らは指摘している。


5.3.2 動機づけ

 子どもらを,ほかの人々との触れ合いに向かわせるには,最初のきっかけ,動機づけが重要になる。動機づけの方法としては,直接会ったことがある,あるいは会う予定がある相手を選ぶとか,別の場所あるいは地元の料理を作る(上通小学校,桃山中学校で実践)とか,いくつかの別の学校同士で共同プロジェクトを設定するなどが考えられる。
 互いの学校で,一緒にコンテストをするなどのイベントも有効だろう。
 樫邑小学校には,ワールドスクールネットワークの参加校であるイスラエルの学校から干したナツメヤシと塩分濃度が極めて高い死海の水が送られ,この現物が大変子どもたちの関心を引きつけ,パソコン画面の向こうに人がいることを感じさせた。現物での引きつけも十分利用されるべきだ。


5.3.3 マルチメディアを活用

 写真をフルに使うことで,相手の表情,雰囲気が伝わる。写真は交流のためには積極的に利用されるべきである。写真そのものも,子どもらに選ぶ過程を任せ,あるいは撮影も任せることで,物事の本質を見抜く学習にもなる。
 ビデオクリップを作って,別のURLに格納して参加型オンラインデータベースシステムからリンクを設定するという手法も可能だ。オンラインで提供できないにしても,ビデオ情報は雰囲気を伝えるには有効で,ビデオテープを物理的に交換して,互いの学びを深める手法も有効だった。


5.3.4 人の活用

 インターネットを使ったコミュニケーションでは,子ども同士による直接の交流だけではなくて,その間に人を介在させて,流れに刺激を与えるたり,整理したりすることが有効である。子どもたちの間にリーダーを設けてその役割を担わせたり,あるいはアドバイザーになる大人を頼んで助言をしてもらうという手法も考えられる。


5.3.5 家庭,地域への広がり

 注目されるのは,家庭へのインターネットの普及の度合いである。
 岡本北小学校では,実践授業をした児童の家庭の6割にインターネットが導入されていた。大西教諭によれば一年前は1割ちょっとだったのに,とのことで,極めて急速にインターネットが家庭に広まっていることをうかがわせる。この広がりを考え,参加型オンラインデータベースシステムの活動に保護者を巻き込みたいという気持ちは,多くの指導者に共通してくる。
 単に保護者のみならず,地域のお年寄り,大学生などにIDを付与して,子どもの助言者として常に関ってもらうという手法は,多くの指導者らがぜひ試みたいと述べていた。
 実際に桃山中学校では,卒業した高校生がオブザーバーとして現役の活動を見守っており,その助言が,体験活動の意味付けを促し,学びを深めることになった。


5.3.6 独自ジャンルを「出撃拠点」に

 岡本北小学校では,外部の人にいきなり見られてしまう通常のジャンルと異なって,独自の「岡北図鑑」を設定して,子どもたちが自由に書き込みを練習する空間を提供した。子どもらは,それぞれが自分のニックネームをつけて,さまざまな書き込みを行い,その中で乱暴な言葉遣いも発生したが,子どもたち自身の間で人をけなすような言葉遣いを反省する動きまで出て,自分たち自身でデジタルテクノロジー社会の生き方を学んでいった。
 このように独自ジャンルは,実社会を事前に体験する準備基地として利用することも出来る。またぞれぞれの情報ごとに,ジャンルを移動させる機能があることから,独自ジャンルの中で書き換えたり,教師の指導を受けたりして完成した情報を,公開されているジャンルに移動して対外露出するなどの利用方法もある。
 さらに,上通小学校から指摘されたように,学校から家庭への学級通信的な使い方をする独自ジャンルの設定による家庭との緊密な連携の構築も有効な活用方法となろう。


5.3.7 具体的な活用方法例

 本プロジェクトを通じて,実際の教室で参加型オンラインデータベースシステムをさまざまに使った教師らからは,具体的な活用の仕方について,多くのアイデアが出された。その中で,実際に活用できる可能性が高いジャンル設定などの案を改めて列挙する。


【独自ジャンル設定案】


【使い方の案】



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