1. プロジェクトの背景・目的



1.1 背景

 近年、学校においては、コンピュータおよび校内LANの導入やインターネットのブロードバンド化の整備が進み、電子メールや電子掲示板、テレビ会議などを利用した学校間交流ができるようになってきた。また、総合的な学習の時間では国際理解が大きなテーマのひとつとなっており、海外との国際交流授業を望む声が大きい。特に小学校は,68.9%で国際交流を取り上げているという。交流国としては,米国をはじめとする英語圏の国々のほか、韓国や中国などの隣国に対する関心も高い。
 しかし、外国への興味・関心が高まっているにも関わらず、実際に国際理解教育で海外と交流している学校はごく一部に限られている。また、交流といっても一過的な訪問やテレビ会議の実施だけで終わってしまうケースがほとんどである。電子メールや電子掲示板を利用して国際交流を行おうと試みる学校もあるが、継続した交流を実現してする学校は極めて少ないのが現状である。
 国際交流を実施するにあたっては、さまざまな問題が存在するが、最大の障壁はコミュニケーション言語の問題である。国際社会における外国語の習得・活用能力が重要視されているが、現実的には英語に限っても十分活用できるレベルに達している日本人は多いとは言えない。英語は、事実上国際語として広く使われているが、どこの国とも英語だけでコミュニケーションできるというわけではない。実際、中国や韓国などのアジアの国々とは必ずしも英語でコミュニケーションできるわけではない。ましてや、小学生については、現時点では、英語の習得を前提とすることはできない。また、ある程度外国語を学習している者でも、外国語の使用を躊躇してしまうことが多い。
 一方技術面では、近年のコンピュータによる自動翻訳技術の進歩は著しく、英語−日本語間が中心であるが、商用の自動翻訳システムも数多く出現している。基本的には、文単位の翻訳であり、人間のように文章全体の文脈まで解釈できるようなレベルには至っていないが、原文の意味を理解するという目的に対しては実用に耐えるものに近づきつつある。自動翻訳は、一般に、外国のWebサイトの閲覧、外国語のマニュアルの理解など、外国語の文章の大意を把握するために利用されることが多い。国際交流では、これに加えて自分の伝えたいことが外国語で表現できることが必要になる。自動翻訳は、自分の言いたいことを海外の相手に伝えるための手段としても利用できる可能性が高い。


1.2 研究目的

 本研究では、コンピュータによる自動翻訳技術利用して、国際交流授業におけるコミュニケーションをどの程度支援できるのか、その可能性を実験システムを使用した実際の国際交流授業の中で検証する。実験システムでは、メールや電子掲示板への投稿に自動翻訳を適用し、相手国語の文章を自国語で表示するとともに、自国語の文章を相手国語で発信する。また、現時点での自動翻訳が不十分であれば、その不完全性を補う方法を提案し、その有効性を検証する。自動翻訳は、日本語−英語間、日本語−中国語間、日本語−韓国語間を対象とし、それぞれの実用性を検証する。
 上述のように、自動翻訳は、Webサイトやマニュアルなどの文章の翻訳を主目的に設計されているため、小中学生が使用する表記や口語的な表現には必ずしも対応できない可能性がある。小中学生が使用する表記や表現を分析し、自動翻訳に対する対応方法を検討する。
 国際交流授業は、さまざまな側面があり、電子掲示板のような非同期のコミュニケーションとともに、ライブでのコミュニケーションも重要である。本研究では、ライブでのコミュニケーションとしてテレビ会議を実施し、その有効性を検証する。また、国際交流授業を全体的に支援するシステムとして、どのような機能や操作性が必要なのか、その要件を明らかにする。


1.3 期待する教育効果

 本研究で提案する国際交流授業支援システムにより、以下の教育効果を期待する。

(1)コミュニケーション言語の問題が緩和され、円滑な国際交流授業が実施できる。

 小中学生が、コミュニケーション言語の問題に必要以上にとらわれることなく、積極的に交流活動に参加できる。本来の交流の意義である相手国文化の学習・自国文化の再認識をしたり、テーマを設けた共同学習を行うことに集中できる。これまでとかくイベントで終わりがちであった国際交流が、普通教室での継続的な、日常的な活動となる。

(2)交流相手を身近な存在として認識し、交流活動が促進される。

 交流相手を知り、心理的な距離を縮めることにより、相手への関心を高めることができ、結果として交流活動が促進される。

(3)技術に頼ったコミュニケーションに終わることなく、外国語習得への関心を高める。

 本研究では、外国語の習得を目的としたものではないが、自動翻訳を利用することによりコミュニケーションを促進する結果として外国語に対する興味・関心を高め、外国語習得への意欲が高まることが期待される。



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