5.国際交流支援システムの有効性




5.2 テレビ会議

 先生は,自動翻訳掲示板の利用よりもテレビ会議の開催への不安の方が大きかったのが事実である。現在学校で使用できる機器や設定では,直接の会話と同レベルの環境を期待することは難しい。また現在設定可能な環境では,画質,音質が不安定な場合があり,ネットワークの安定性の確保は課題の一つに挙げられており,掲示板のように日常的に気軽にできるものではないところも大きなデメリットとして挙げられる。  

(1)事前アンケート・ヒアリングの結果と分析

1)先生に対するヒアリング・アンケート

アンケート回答数
琴田小学校 1
時津東小学校 2
Staten Island Academy 1
合計 3名

 デメリットとして,「準備が大変」,「イベントになってしまい実効果があがらないと思う」などの心配の声が先生へのヒアリングであがった。また,時差がある国同士の交流や時津小学校のように参加者が多い学校では,児童・生徒全員の参加が難しいとの意見もあがった。掲示板の交流とは異なり,児童たちに現実的に交流をさせることへの期待はあるものの,準備,また言語や文化の違いへの対応への不安は大きかったようである。

 遠地の学校とリアルタイムに交流が出来るため,掲示板とは異なった交流が期待できるという意見が多かった。また,顔を見ながら交流がでは,動きを見せることができるため児童の学習意欲が高まり,掲示板上では,質問できなかったことを直接質問するなど現実的なものも含め多様な交流が可能になるのではないかとの期待も高かった。

2)児童・生徒に対するアンケート 

アンケート回答人数
琴田小学校 30
時津東小学校 88
Staten Island Academy 5
花池地実験小学校 5
合計 128名

 「文字よりも相手を知ることができると思う」,「直接話せるし,いろいろと教えたり教えられたりできるから楽しい」など前向きな意見が過半数を占めた。一方,既にテレビ会議を経験している児童の中からは,「時間が限られているのであまり話せない」,「通訳が入って長くなる」などの現実的なデメリットを指摘する意見も出た。

 グラフ5-54事前アンケート結果(児童)「テレビ会議について」全体集計からわかるように,全体的にはテレビ会議を楽しみにしていると回答した児童・生徒数は半数を超えた。特に時津小学校の事前アンケートでは,掲示板よりもテレビ会議への期待が高いことがわかる(グラフ5-51事前アンケート結果(児童)「テレビ会議について」時津東小学校 参照)。言葉への不安は掲示板同様多少あると回答した児童も多く,実際に英語を使用して発表を行う予定でいたため,自分たちの言いたいことがうまく伝わるのか不安という児童が多かったが,交流前のアンケートには,「相手の顔が見られ,楽しそう」,「直接交流ができることはかっこいい」というテレビ会議への期待の声が圧倒的であった。自ら話す英語への不安や通訳を通して理解する言葉への不安よりも,実物に会えることへの期待が上回ったと言える。

グラフ5-50事前アンケート結果(児童)「テレビ会議について」琴田小学校

グラフ5-51事前アンケート結果(児童) 「テレビ会議について」時津東小学校

グラフ5-52事前アンケート結果(児童) 「テレビ会議について」Staten Island Academy

グラフ5-53事前アンケート結果(児童) 「テレビ会議について」花池地実験小学校

グラフ5-54事前アンケート結果 「テレビ会議について」全体集計

(2)中間アンケート結果・ヒアリング結果の分析

1)先生に対するヒアリング・アンケート

アンケート回答数
琴田小学校 1
時津東小学校 4
平尾中学校 7
Staten Island Academy 1
合計 13名

 テレビ会議は,日米間と日中間で実施された。テレビ会議を開催する上での先生が行う準備として,交流内容の話し合い,役割分担,発表のための調べ学習,発表計画,リハーサルなどの準備があり,ほとんどの先生が大変さを指摘している。Staten Island Academyや琴田小のように,テレビ会議の際に新しいカメラを学校の予算で購入した学校もあった。また,日本側は,ボランティアの通訳の確保が難しかった。日米間の交流では,掲示板上では心配がなかった14時間の時差があるため日程調整が難しく,米国側の夜時間に開催することになると,児童全員の参加が難しいという問題があった。また限られた時間の中での発表となり,先生としては,準備で費やした時間を考えると全般的に満足のいかない結果に終わったということが,ヒアリング結果からわかる。

 設定は,米国側は技術担当の先生が行い,日本側は先生と企業の共同で行われた。準備に費やす時間は各校異なるが,児童の準備では,3時間から4時間が平均で,児童を含めない技術的なもの,テレビ会議全般の先生の準備が5時間程度という結果だった。しかし,琴田小学校の児童の準備で15時間を費やしたなどの予想以上のものがあり,児童の期待とは裏腹に先生への負担は大きかったようだ。また,音声は,聞き取りにくく,通訳を介すため,通常の2倍の時間をかけての発表が行われ,会話に間が開くこともあり児童の集中力が欠けてくることも問題として浮上した。また,日中間での交流では直前に設定の変更が生じ,準備していた発表の画面が出せなかったということもあり,先生への負担だけが目立ってしまう結果に終わったものもあった。

 しかし,「遠隔地の学校とリアルタイムの交流が可能となり,顔を見ながら交流ができるので,児童・生徒の学習意欲が高まった」,「動きを見せることができるため多様な交流が可能になった」などの意見も挙っている。直接会話を試みることにより,内容の増加,深化が見られ,より親近感がわいたとの意見もあった。また,音声,画面がよくなれば,深い内容での交流が可能になると思われるが(グラフ5-57中間アンケート結果(先生)質問3参照),テレビ会議で実際に顔を合わせることだけでも児童の交流を促す結果を導くことが,テレビ会議の後の掲示板への書き込みが増えていることからわかる。しかし,通訳を必要とする言葉の壁は,特にテレビ会議では存在するので,ボランティアの通訳の確保や発表内容の翻訳などの対応については,今後の課題として残る。

グラフ5-55中間アンケート結果(先生)質問1
【回答数11名・無回答数2名】

グラフ5-56中間アンケート結果(先生)質問2
【回答数3名・無回答数10名】

グラフ5-57中間アンケート結果(先生)質問3
【回答数4名・無回答数9名】

2)児童・生徒に対するアンケート

アンケート回答人数(児童)
琴田小学校 33
時津東小学校 88
平尾中学校 5
Staten Island Academy 1
合計 127名

 グラフ5-58と5-59中間アンケート結果(児童)「テレビ会議について」琴田小学校と時津東小学校の両校の結果からもわかるように,実際にテレビ会議を行ってみると,音声や画面が見にくいという不満が多く挙ってはいるが,事前アンケートの半数を超えたテレビ会議への期待は,実施後ともに半数を超える高い評価を出している。また,先生と同様に発表の準備が大変だったという声も挙ってはいたが,全般的には準備の大変さへの不満はほとんどなかった。テレビ会議のリハーサルなどに参加した児童からは,先生の準備が大変だったのではとの意見があった。

 短時間しかできないことや気軽にできないことへの不満があり,その点では掲示板での交流を指示する声もあがったが,リアルタイムでの会話や映像は,児童へ掲示板では味わえない大きな衝撃を与えたようだ。不満は残るが,「楽しかった」,「再度やってみたい」と回答した児童が各校とも半数を超えた。「もう一度行ってみたい」,「他国との交流の際にも必ず行いたい」との意見も挙っている。言葉への不安はあっても,現地へ行かずに現実的な交流を味わえるテレビ会議の影響は大きかったと言える。また,各校ともテレビ会議後の掲示板への書き込みが増えたことから,テレビ会議の実施は,交流そのものを更に促進させたと言える。

グラフ5-58中間アンケート結果(児童)「テレビ会議について」琴田小学校

グラフ5-59中間アンケート結果(児童)「テレビ会議について」時津東小学校

グラフ5-60中間アンケート結果(児童)「テレビ会議について」全体集計

(3)教育的効果

 掲示板を使用した交流で伝えきれないことがあるのがもどかしく,掲示板を通した間接的なコミュニケーションで現実感に欠けるという先生や児童の意見が過半数を超えた。その部分をテレビ会議は補ったようだ。また,相手を感覚的に身近な存在として捕らえることを可能にし,実際に交流を促す結果も出した。

 各国の年間授業スケジュールが異なる上に,時差がある学校間でのテレビ会議では,日程調整が難しく,その準備も会議内容の決定などを含めて先生に大きな負担がかかってくる。通訳の確保や通訳を介した会話の発表が,通常より時間がかかるため,児童の集中力が落ちてくるのが実際問題として挙げられた。また技術面では,各校の基本的なネットワークの設定が一定せず,変更が生じるたびに技術面で詳しい先生または外部支援が必要となる。掲示板のように日常気軽にできない点は大きなデメリットである。米国では,普通授業を担当する先生のほか,コンピュータ専門の先生が各校にいるためこのような問題はないが,日本側は技術的な面での協力が得られなければ行えないとの意見が過半数を占めた。

 しかし,多少の不満は残すが,テレビ会議全般を支持する児童の声は多かった。児童の最終アンケートでは,交流の中でテレビ会議が「一番楽しかったこと」として挙げられた。また,実際にテレビ会議を終えた後の各校児童の掲示板への書き込みは一時的なものも含め増加したことがわかる。このように児童へ及ぼした結果を見ると,テレビ会議は,掲示板を通した間接的な交流を現実・直接的なものとすることによって,掲示板の利用を促し,その結果交流全般を促進する前向きなものであったといえる。また,設定や環境が不十分であっても,交流をしている相手校との顔合わせは交流を促す上で必須のものと考えられ,国際交流の中で児童たちの意識改革の支援をするためには,一度は経験するべきことであるという意見が各国からあった。

 設定上の問題や,時差を越えた日程調整,リハーサル,通訳を介した言葉の障壁など問題は多く残り,また先生にとっては準備などの負担はあるが,テレビ会議を実施することで児童・生徒の交流が促進された。国際交流では,自動翻訳掲示板と平行して実施することにより交流自体をさらに促進させた。間接的な交流と直接的な交流をうまく混合させることで,より活発な交流が望め,より充実した教育的効果が期待できること示した。



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