5.国際交流支援システムの有効性




2)児童・生徒に対するアンケート

アンケート回答人数(児童)
琴田小学校 33
時津東小学校 88
平尾中学校 5
Staten Island Academy 1
合計 127名

 掲示板は,交流を進める上で言葉を気にせずに交流に集中できたので,とても役立ち,今後他の国と行っても大丈夫だという児童の声が多かった。操作性の難しさを問題にした児童は,ほとんどいなかった。琴田小学校と平尾中学校では,相手国の投稿文のほとんどは無理なく理解でき,また自分たちの言いたかったことも相手国の友達は理解してくれたと思うとの回答が半数を超えた結果から,自動翻訳の精度が高いことがわかるが,(グラフ5-42最終アンケート結果(児童)「掲示板について」琴田小学校とグラフ5-44最終アンケート結果(児童)平尾中学校参照),残念ながら翻訳精度に不満があった時津東小では,半数にも及ばなかったことから,日英翻訳は問題を残すことがわかる。投稿文がうまく翻訳できるように,逆翻訳部分を確認することを必ずし,投稿前には必ず先生の確認をとる手間への不満の声はなく,異文化との交流を円滑に行う上で伝えたいことを確実かつ的確に伝えるためには,文章の内容を慎重に確認するなどの努力を惜しまない児童が多かったように思われる。ただし,先生の意見にもあったように,慣れない交流を簡単にかつ円滑に行えるようにするために,使う側はまず便利さを求めるので,翻訳精度の改善は必須であると考える。

グラフ5-42最終アンケート結果(児童)「掲示板について」琴田小学校

グラフ5-43最終アンケート結果(児童) 「掲示板について」時津東小学校

グラフ5-44最終アンケート結果(児童) 「掲示板について」平尾中学校

グラフ5-45最終アンケート結果(児童) 「掲示板について」全体集計

 最終アンケートで,下記の質問への回答が,事前,中間と比較しそれほど伸びなかったことから,児童の中での翻訳精度の問題は最後まで残っていたと言える。

- 「自動翻訳掲示板を利用したことで交流が簡単にできた。」
- 「自分の言いたかったことが伝わった。」
- 「交流相手の言いたかったことがわかった。」

 しかし,掲示板の交流が基盤となり,「相手国の友達に実際に会ってみたい」という児童が事前・中間を通して増え,最終では,各学校で半数以上を占める結果となった(グラフ5-46から5-49最終アンケート結果(児童)各学校を参照)。また,下記のような掲示板を高く評価する意見も多く,交流を継続したいと回答した児童は,全体の過半数に及んだ。

- 「掲示板を使用した交流で,難しいことはなかった。」
- 「心配ごともほとんどなかった。」
- 「楽しい交流ができ,友達もたくさん作れた。」
- 「新しい言葉や,今まで知らなかった言葉も学ぶことができた。」
- 「もっと相手国のことを知りたい。」

 交流を通して,文化の違いを学んだという意見が最も多く,相手国の言葉に対する興味に関しての回答が,中間では半数に満たなかった学校も日英の翻訳精度の問題を残した時津東小も,最終アンケートでは興味を持っている児童・生徒が過半数を超えた。ただし,この結果は日本側の学校に限ったことであり,外国の児童は異文化への興味ほど言葉そのものへの興味は示さなかった。相手国語に関して時津東小では,英語を教えてもらう代わりに日本語を教えることを試みた。「Let's Learn Japanese」というボードを設け,日本語の単語を一語ずつ意味も含めて紹介した。これにより,間接的だが児童の自国の言葉への認識を高めたと先生が話してくれた。

 また,異文化の中にも日米間では,ビデオゲームなどの遊びの話で共通点を見つけ出し,この新しい発見が,言葉の壁を越え親近感を覚えたという児童もいた。時間の関係で「自国の文化を十分に伝えられなかったのではないか」,「もっと交流をしたい」という意見も多くあり,準備や交流を進めることで忙しかった先生の感想とは裏腹に長期的な交流を望む児童が多いことがわかった。児童たちの掲示板を利用した国際交流の評価は非常に高い結果に終わったと言える。

グラフ5-46最終アンケート結果(児童)「交流について」琴田小学校

グラフ5-47最終アンケート結果(児童) 「交流について」時津東小学校

グラフ5-48最終アンケート結果(児童) 「交流について」平尾中学校

グラフ5-49最終アンケート結果(児童) 「交流について」全体集計

(4)教育的効果

 翻訳電子掲示板への期待が大きい一方,利用することのデメリットとして,「利用しても交流を円滑に行うことができない」,「自国語だけで交流ができるため,相手国の言語に対する興味が低くなる」などの意見はあがったが,ほとんどの先生が翻訳ソフトは,語学学習の障害にはならないと言っている。小学校の段階では,他国語を理解するのではなく,異国の文化に触れること,言葉の壁を気にせず交流ができることが大切であり,参考程度に利用することで交流が促進されることを重視する意見が多かった。また,各国共通の問題点として挙げられたのは,「交流をする時間が短すぎる」,「コンピュータ室を使う時間が限られている」,「時差や学校間のスケジュールの相違」などが挙げられ,交流を進める上での物理的障害は残る。また,国際交流は,掲示板を利用することにより,先生への負担を減少し,交流を円滑に進めることができたという意見がある一方,プロジェクトが進むほどに交流内容の決定,テレビ会議の準備,相手校との日程調整などで,先生への負担が増加するのも事実である。技術面を理解する先生,外国語を理解する先生,特にプロジェクトそのものを促進する先生,また学校内外の体制の確立は,交流をより円滑に進めるためには必須であることが強く指摘された。

 翻訳精度に問題は残すが,自動翻訳掲示板を利用したことで,先生の交流そのものへの心配は,後半へ行くほど減少している。児童の掲示板への期待は,事前・中間・最終を通して高い評価を出した。掲示板上での交流は,あくまでも掲示板を通した間接的な交流であることには違いないが,交流そのものを促進する役割は大いに果たし,交流の継続性を促したと言える。掲示板を利用することにより,相手国との相互理解が深まり,テキストでは学べない異文化を学び,また新たな類似点を発見することができ,児童の異文化への認識の向上を試みることに成功したといえる。また,児童の異文化と異国の言語への興味の向上とともに,自国の文化への興味の向上が事前,中間,最終アンケートを通して促進されたことも実証された。自動翻訳掲示板を国際交流に取り入れることでの教育的効果は,十分にあることが実証された。



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