5.実践授業等の実施内容




5.1 つくば市立吾妻小学校での実践

―博物館等社会教育施設と連携した総合的な学習の時間でのIT活用―

(1)学校IT活用のねらい

 本校では,学年や発達段階に応じてコンピュータに慣れ,親しみ,必要に応じて活用しようとする意欲と態度を育てると共に,インターネット通信を利用した他校との交流を通して,コミュニケーションの能力を高めることと,現代社会において必要不可欠である,情報をやりとりする上でのルールとマナーを身につけをねらいとしてIT教育を位置づけている。
 第6学年のIタイム(総合的な学習の時間)では,「私は未来のナビゲーター」をテーマに,環境に関する探求活動を国立科学博物館筑波研究資料センター筑波実験植物園やミュージアムパーク茨城県自然博物館の協力を得ながら実施した。その中で,情報収集,実践のまとめ,情報交換の場面で,IT機器を活用し実践した。


(2)学習のめあて

 友だちや地域の人と協力しながら身近な自然や社会に関する課題を解決することを通して,より良い社会を目指して行動できる児童を育てる。


(3)学習計画(表1)

 地球の環境問題は,現在そして未来にわたって人類が解決していかなければならない重要な課題である。この課題解決のためには,一人一人が自然の大切さを認識し,地球のためにやさしい行動をすること,そして,それを一人でも多くの人に伝えていくことが重要であると考えた。環境問題は6年生にとっては困難な課題である。しかし,自分たちの小さな1歩がその解決のためには重要であることに気づかせ,未来の社会は自分たちで作っていくという意識を育てるとともに,自分たちの生き方について考えるきっかけとなるように考えた。そこで,単元を3部構成とし,以下の点に留意し取り組んだ。
 第1部の「ふれる・つかむ」段階では,身近な自然を対象に自然と人間との関わりを再認識させる。ここでは体験活動を多く取り入れ,自然の大切さを一人一人が十分実感できるようにするとともに,第2部の自分の課題を見つけさせるようにした。
 第2部の「ふかめる」段階では,1部での体験をもとに身近な自然について「知る」,「生かす」,「守る」の3つの観点に分かれて再追求をした。第1部で,体験が不十分な児童や失敗してしまった児童には,納得行くまで再追求させる場としたい。また,筑波実験植物園との交流を通じて追求に広がりをもたせるようにした。
 第3部の「生かす・広げる」段階では,自分たちの思いを様々な方法で多くの人に伝えていった。また,植物園も自然を守るということをその施設の使命にしていることから,植物園をよりたくさんの人に親しまれる施設にする方法についても考えた。発表も植物園を活用し,そこで展示やイベントを開催し,多くの人と交流できるようにした。


表1 学習計画   225J*(75時間)扱い *1Jは15分
  ねらい 活動の流れ 活動への支援 ITの活用








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第1部「見直そう!吾妻の自然」

◎身近な自然の良さを感じるとことができる。










◎解決の見通しをもって,課題を見つけることができる。

1. オリエンテーション
 ・地球の課題についてのウエブマップ
 ・学習の目当て,1年間の見通しの確認
 ・ポートフォリオについて
2. 体験活動(選択)
 「紙作りに挑戦!」
 ・牛乳パック,野草を使った紙作りをする。
「土ねんど,土器作り」
 ・校庭から粘土を採取し,土粘土から,土器作りをする。
3. ふりかえり
4. 環境に関する人形劇「救え!緑の星を」鑑賞
5. 個別課題の設定,交流

○1年の学習の見通しをもたせる。
○ポートフォリオの活用方法について説明する。
○身近な自然を見直すために,様々な体験活動を行い,その中から1年間の課題を見つけるようにする。


○日本や世界全体の自然の現状について の基本的なことを押さえながら,身近な 自然に絞って追求させるようにする。









○体験活動の内容をスタディノートにまとめる。






117
J
第2部 「知ろう!生かそう!守ろう!吾妻の自然」


◎人と関わり合いながら課題を解決することの良さを感じることができる。

◎人と関わり合いながら主体的に課題に取り組むことができる。



◎人の考えの良さを自分に生かし計画を修正し,よりよい方法を考えることができる。

1. 追求の計画作り,課題追求
 ・吾妻の自然について追求する。
<知り隊>
 昆虫調査,樹木・草花調査
<生かし隊>
 土器作り,紙づくり,草木染め
<守り隊>
 自然材でゲーム 人形作り
2. 中間まとめ,ふりかえり
3. 自然教室での東山小学校との交流

4. 再追求
・植物園の自然や施設を生かして追求する。
<知り隊>
 昆虫調査法 樹木調査法
<生かし隊>
 バナナの皮で紙作り
 草木・土染め
<守り隊>
 ドングリと松ぼっくりのラリー
 ネイチャーゲーム
 ・課題について追求する。
5. まとめ,交流準備
6. 交流
7. ふりかえり

○「生かし隊」は第1部の活動と重なるが,そこで十分活動できなかった児童にとって,再度挑戦できる場とし,失敗を生かしてより深く追求できるようにする。また,再追求の場でも,発展的な課題ばかりでなく,最初の追求が不十分な児童には納得がいくまで追求できるようにする。


○まとめ,ふりかえりを途中に設け,コース変更を認め,自分 の興味によって軌道修正ができるようにする。
○再追求は,筑波実験植物園や自然博物館の協力を得て,より広がりのある追求ができるような体験活動を設定する。

○植物園職員や地域の博物館職員,ボランティアなど地域の人との交流も設定し,それらの人々の自然に対する意識も学べるようにする。









○体験活動の内容をスタディノートにまめる。















○植物園での活動をデジタルカメラ記録,PDAを利用して学校のスタディノートに送信する。









60
J
第3部「伝えよう!自然のすばらしさ」


◎共に生きることの良さを感じることができる。


◎環境にやさしい社会を目指して行動することができる。

◎自分の願いを実現するためによりよい方法を考えることができる。

1. 伝える方法を考え,話し合う。
 ・筑波実験植物園での発表に向けて準備する。
<展示し隊>
 身近な自然を紹介する展示作り
<体験させ隊>
 自然のよさを見直すような体験活動の企画
<遊ばせ隊>
 植物園を楽しんでもらえるイベントの企画
2. 植物園での発表会の開催
 ・保護者や他学年の児童,一般の入園者を対象に実施。
3. 実践のまとめ
4. 交流
5. ふりかえり,ウエブマップ


○身近な自然でそのすばらしさを人に伝えることが地球環境を守る大切な方法であることに気づかせ,自分たちがこれまで学習してきたことを植物園の場を借り 多くの人に伝えるようにする。











○発表前にリハーサルを実施し,お互いに見合うことにより,より適切な方法を考え,本番に望むようにする。






○スタディノートにまとめたものを展示,発表に活用する。


(4)具体的なITの活用例

図1 スタディノートにまとめる
  
図2 「生かそう」コースでのバナナの木の皮での紙づくり
  
図3 バナナの木の皮で紙づくりのスタディノートでの活動記録

1. スタディノートによる活動記録
 第1部「見直そう!吾妻の自然」では,身近な自然を生かした様々なもの作りの共通体験を行い,自然の素晴らしさに気づくと共に課題を見つけた。第2部「知ろう!生かそう!守ろう!吾妻の自然」では,自分の課題に合わせて3つのコースに分かれて探求活動を行った。その際,自分たちの活動を紹介し合う交流を常に意識し,デジタルカメラでの記録を取り,スタディノートにまとめるようにした(図1)。
 その活動をさらに深めるため筑波実験植物園でグループに分かれて探求活動を実施した。
 「知ろう」コースでは,植物や動物について採集方法や本作成方法について指導を受け,それを生かして調査活動に取り組んだ。動物についてはミュージアムパーク茨城県自然博物館の職員に植物園に来てもらい指導を受けた。
 「生かそう」コースでは,身近な自然では見られない有用植物を見つけ,バナナの木の皮での紙づくりに挑戦した(図2)。また,植物園職員から指導を受けて草木染めに取り組んだ。
 「守ろう」コースでは,植物園に  設置されているドングリと松ぼっくりのラリーやネイチャーゲームを体験し,自分たちでラリーやゲーム作りに取り組んだ。
 さらに,これらの活動で見つけた課題を追求するため,植物園での活動を継続していった。この場では,PDAを活用しその場でスタディノートにまとめるようにしていった(図4,5)。


2. 電子掲示板を活用した植物園・博物館との連携

図4 パピルスを発見!PDAに記録 図5 パピルスをスタディノートへまとめる

 電子掲示板に博物館等社会教育施設の職員も参加可能な「自然館ネット」を立ち上げ,児童の作品や児童同士の意見交換を見て,助言指導してもらえるようにした。
 実施にあたっては,電子掲示板上だけでのやりとりにならないよう,直接,これらの施設で学習したりその職員から指導を受ける機会を持ったりするようにした。また,単なる質問コーナーにならないように,自分の活動内容を具体的に示して助言をもらうよう注意し,また,相手施設の負担にならないよう,実施時期,回数,件数など事前に充分な打ち合わせを行うようにした。
 電子掲示板への掲載にあたっては,アドバイスが児童自身の活動に生かせるよう,探求活動の途中,随時,活動内容をまとめ電子掲示板に掲載し(図6),博物館からアドバイスをもらった(図7,8)。


図6 探求活動の途中経過をまとめ,
    電子掲示板に掲載したノート
図7 電子掲示板に意見を寄せる
    茨城県自然博物館職員
  
図8 博物館職員からのアドバイスメ


(5)成果及び今後の課題

 友だちや地域の人との交流を重視し,単元構成の際,学年内のコース間の交流や電子掲示板を活用した学校間交流,さらに「自然館ネット」による専門家との交流を組み込んだ。そのための記録,情報発信の手段としてスタディノートやPDAを活用した。特にPDAを活用することにより,野外での活動の場においても,すぐに記録することができ,また,ノートに記録したことがそのまま情報として発信できるので,自分たちの活動を人に伝えるということを常に意識して活動に取り組むことができた。また,「自然館ネット」を整備することにより,専門家ならではの視点からのアドバイスがもらえ,それが電子掲示板に掲載されることにより,同様の取り組みをしている児童もそれを参考にすることができ,質問をした児童だけでなく他の児童の活動への意欲にもつながった。
 今回,PDAについては主に野外活動でのメモ帳として活用したが,その場から情報を電子掲示板に掲載し,専門家からアドバイスをもらうなど交流し,それをもとにすぐに自分の活動に反映させることもその活用に考えられる。しかし,単に図鑑等で調べればわかることの質問だけにならないよう,また,記録や発信に夢中になって野外活動での直接経験が減らないように,その活用法を十分事前に指導することが重要であろう。




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