5.実践授業等の実施内容



5.9 牛久自然観察の森における実践

牛久自然観察の森 担当:榎本友好

活動の目的
 学校における野外での環境調査活動に対し、モバイルを使ったリアルタイムの学習支援を行い、博物館施設と学校との連携におけるモバイル活用の可能性を探ることを目的とした。
実施の方法
 各学校の児童生徒が野外で自然の調査をした時に生じた疑問や質問について、携帯端末ザウルスのメール機能を使って画像とともに牛久自然観察の森に質問を送ってもらう。牛久自然観察の森では、コンピュータの前に待機していた職員が、送られてくる質問に対してリアルタイムで答え、調査や学習活動へのアドバイスを行った。なお、質問への回答にあたっては、以下の点に留意した。
【子ども達への質問の回答で気をつけた点】
実践活動の報告
今回の一連の実践活動は、すべて、野外での自然調査への学習支援であったが、活動実践を通してモバイルの可能性を追求する中で、森としての関わり方にも次の4つの段階があった。ここでは、実践活動の内容を振り返りながら、これらの段階を整理する。
【自然調査における学習支援の4つの段階】
  1. モバイルを通じて送られてきた児童、生徒からの自然調査の質問に対し、リアルタイムで答える。
  2. 上記の調査活動を発展させ、質問内容や質問の仕方を工夫するとともに、各グループに対して2往復以上のやりとりを行う。
  3. 自然観察の森から発信する回答に、文字情報だけでなくヒントとなる画像情報を送る。
  4. 自然観察の森から課題(画像情報を含む)発信し、子どもたちは現地で端末を携帯しながら、送られてきた課題をもとに調査し、質問や結果報告をする。

 1に関しては、最初に実践した向台小学校が該当する。まず、子ども達の野外調査で携帯端末であるザウルスが使えるかどうかを試行した。具体的には、デジタルカメラ機能を使って画像を送り、自然に関する質問が行えるか、質問に対する回答を子ども達が受け取り、調査に活用することができるかを試行した。授業開始時刻の前にパソコンの前に座り子ども達からの質問を待ったが、実際に質問が送られてきたのは終了時刻間際になってからで、送られてきた質問にすべて回答し、1往復のやりとりだけでの終了となった。時間内に、自然観察の森からの回答が子どもたちにうまく伝わったか、それがどのように活用されたかは確認できなかった。

 2に関しては、岡田小学校、下根小学校、神谷小学校が該当する。1の反省点として、お互いの顔が見えないため、モバイル交信時のルールやマナーについても配慮が足りなかったことがあげられた。そこで、担当の先生と協議し、出張による事前レクチャーの実施や自己紹介メールのやりとりを行うなどの準備を調査前に実施した。また、モバイルでの交信については、1つのグループが質問の回答を受けてさらに次段階の質問を行えるように、2往復以上の交信を目標とした。
 岡田小学校では親水公園の自然調査、中根小学校では小野川の自然環境調査、神谷小学校では学校林での調査活動を実施した。事前に先生方との打ち合わせを行い、質問内容についての事前学習を行っていただいたことや、モバイル利用の練習として、事前に自己紹介のメールを画像付きでやりとりしたことなどが内容の充実につながり、結果として、回を重ねるごとに各グループとの質問のやりとりの回数も増えた。これらの実践から、事前に練習の時間をとることで、モバイルの特長を生かしたリアルタイムのやりとりについても、十分に実施できることがわかった。ただし、質問の数が多くなると対応する博物館施設の側にも限界があることもわかった。最後に実践した神谷小学校の場合、2時間の活動時間の間に8つのグループから合計23通の質問が寄せられた。多いグループでは6通の質問があったが、対応する自然観察の森側が一人であったため、残念ながら時間内にすべての質問に答えることができなかった。

 3に関しては牛久第3中学校での実践が該当する。これまでの活動が学年やクラス単位であったのに対し、牛久第3中学校では、科学部10名が6台の端末を持って牛久沼での野鳥観察を実践した。少人数だったこともあり、また、自己紹介メールのやりとりなど、事前に練習する時間を十分にとることができたため、スムーズにメールのやりとりを行うことができた。また、この活動時より、手元にも携帯端末が1台届いたため、実際に送信する文章や画像がどの様な形で相手に届くのかを確認することができた。そこで、牛久自然観察の森からも、ザウルスのカメラ機能で図鑑を撮影し、ペンを使って特徴等のコメントを入れた画像を参考資料として送るという試みを行った。最大6往復のやりとりができ、また、自然観察の森から送った画像も十分に活用できたが、実際の野鳥調査よりもモバイルでの交信がメインになってしまったように思えた。

 4に関しては牛久小学校での実践が該当する。これまでの活動では、学校からの質問に対して自然観察の森から答えるという、博物館施設にとっては受け身の形であったが、この実践では、博物館側から調査内容に関しての課題を出し、子どもたちは現地で携帯端末から課題を受け取り実際に調査する形で実施した。
 活動は、自然科学クラブの活動時間におこなわれたが、時間が1時間と限定されていたことから、モバイル端末に送った写真をもとに、冬の自然を探すネイチャーゲームのような内容での実施となった。事前に担当の先生に現地の下見をお願いし、あらかじめ牛久自然観察の森に送っていただいた写真の中から4枚を選んでゲームの指令書を作成した。そして活動開始と同時に子どもたちの持つ各端末へ指令書を送り、課題の動植物を発見したり質問があるときに自然観察の森にメールを送ってもらうようにした。
 残念ながら、活動の途中で自然観察の森のメールサーバがダウンしてしまったため、メールのやりとりが途中で終わってしまったが、モバイルの端末を調査地で持ち歩き、送られてきた写真を見ながら自然について調べることは、ザウルスの携帯性を生かした活動の一つといえるだろう。

反省と課題
モバイル活用プロジェクトの実践を行い、様々な可能性が確認できた。今回の活動に関しては、準備の期間が短かったことや、モバイル端末の操作に関して十分に練習の時間がとれなかったことから、調査活動とメールでのやりとりの両立の問題や、実用可能な写真の撮影技術などの問題があった。また、今回はモバイル活動実践の試行であったため、質問内容に関しては厳密に検討はしなかったが、実際に学校と博物館施設が連携するにあたっては、質問内容の精選や利用時間の取り決めなどについてもしっかり行うのが望ましいと考えられる。
最後に、博物館施設の側から、今回の実践活動の中で気づいた問題点を以下に記す。
【博物館側での対応で気づいた問題点】

資料について
実践活動の資料として
 資料1 事前学習として学校とやり取りした自己紹介メール

1班
丹代。植物のことを教えて下さい。
高木。たべられるきのみを教えてください.
市川。おもしろぃ植物を教えて下さい。
鈴木.お花のことについて教えて下さい

2班です。
内田:大きなキノコを秋に見つけました。
伊藤:おいしそうなクリをみつけました。
並松:おおきなカナヘビを9月ごろ見つけました。
谷口:トカゲが好きです。

3班です
よろしくおねがいします。

5班です。
5班のみんなからひとことです。杉本。これからよろしくおねがいします。横山。メールこうかん、たくさんしてね。
菅谷。これからたくさんおしえてください
平岩。わからないことを教えて下さい。
よろしくお願いします。
5班より!!

7はんのしょうかい
新井。よろしくおねがいします
川嶋。がんばります。
伊藤。家にメダ力がいます。
いろいろ教えてください。

8班メンバー紹介
荒木。虫は、にがてです。
あずま。トカゲがすきです。
やな田。虫が好きです。
菅。コスモスの花がすきです。

みなさんこんにちは

牛久自然観察の森の榎本です。
各班の紹介メールありがとう。
月曜日は思いもかけないほどの大雪で、森の様子もだいぶ変わったことと思います。
12日は10時30分からパソコンの前に座って、みんなからのメールを待っていま
す。
それではみなさんよろしく


資料2 牛久自然観察の森から送った職員の自己紹介メール

---------------------------------------------------------------
牛久自然観察の森 担当:榎本R(レンジャー)
メール:kansatsu@city.ushiku.ibaraki.jp
---------------------------------------------------------------


Friday, January 10, 2003 3:06 PM
森のしぜんさがし

牛久小のしょくん! ごきげんはいかがかな?
これからしょくんに、
冬のしぜんさがしの『にんむ』を与える。

---------任務(にんむ)---------
このメールに添付(てんぷ)する写真
と同じものを市民の森で見つけて、
写真にとって報告すること
制限時間は、6時間目が終わるまで!

ひとつでも見つけたら、どんどん
報告を送ってくれたまえ


 資料3 牛久小学校の実践活動時に各端末に送った課題



なお、写真のヒントは次の通り
1.漢字で「木耳」と書く。枯れ木の
  近くで見つかる。
2.緑の葉っぱに字を書いたような・・・
3.ちいさな木の実。色はむらさき
4.いきものではなく、植物の一部

*しょくんのけんとうをいのる!
-------------------------------
  牛 久 自 然 観 察 の 森 
   担当:榎本R(レンジャー)
******@city.ushiku.ibaraki.jp
-------------------------------
なお、このメッセージは読み終わる
と自動的に消滅は・・・・しない

------------------------------------------------------------------------------
牛久小のしょくん! 本日は森での任務ご苦労であった!
『森のしぜんさがし』はむずかしかったかな?
ここで、今回送った写真の解説をするとしよう
ぶじに発見できた人も、ざんねんながらみつからなかった人も、この解説を読んでもういちどチャレンジしてくれたまえ。
それでも見つからず、どうしても「どこにあるのか知りたい」という人は、木下先生に相談するといい
それでは、ごきげんよう!
------------------------------------------------------------------------------


資料4 牛久小学校の実践活動のまとめ

写真1

 これはアラゲキクラゲというきのこで、たべられる。このきのこを乾燥したものが「きくらげ」という名前で、お店で売っている。乾燥したものを水で戻し、中華料理の炒め物などに入れるとおいしい。「第一問目は・・・・これ?」というタイトルで5番の端末から写真を送ってもらったのは「カワラタケ」というきのこで、ざんねんながらこちらは食べられない。
 *どちらのきのこも、枯れ木からようぶんをすって育ち、木をくさらせる役目をしている。

写真2

 これはヒサカキという植物の葉を食べた「字書き虫」の食べあと。
 「字書き虫」は正式には、「ハモグリガ」とか「ハモグリバエ」というちいさな昆虫の幼虫で、葉っぱの表と裏の皮の間の緑色の部分だけを食べる。その食べあとが、葉っぱに字を書いたように見えるので「字書き虫」と呼ばれている。よく観察すると、白い線がだんだんと太くなって、最後に出口があるのがわかる。

写真3

 これはムラサキシキブという木の実である。今の時期まで残っているものは乾いてカラカラになってしまっているが、秋の熟した時に食べるとすこし甘い味がする。このような木の実は、小鳥たちの冬を乗り切るための貴重なエサになっている。
 食べられた木の実のタネは消化されず、鳥が飛んで行った先で、ふんといっしょに地面に落ちる。鳥がよく止まる木の枝の下には、このような実がなる木の芽が出ていることがよくある。さがしてみよう!

写真4

 これはサンショウという植物の枝の一部を拡大したもの。葉の落ちたあとが顔、両側にのびたとげが手、モコモコとした冬芽がかつらをかぶったように見える。小さいので、虫眼鏡を使わないとよく見えないかもしれないが、森の中を探すと、他にも植物の冬だけの顔が見つかることがある(葉の落ちたあとが観察ポイント)。ぜひみんなも探して見てね。

以上 解説終わり



前のページへ 次のページへ