産業界との協力授業
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実践事例
伝統工芸〜長崎のべっ甲細工〜
実施した教育機関・生徒数・実施日
■長崎県長崎市立飽浦小学校
学年 クラス 生徒数 実施日 合計授業時間
第5学年 1クラス 22名 平成14年
10月8日、16日、18日、23日、30日、11月5日、7日、8日、14日
12時間45分

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実施した教科・単元
学年 教科名 単元
第5学年 総合的な学習の時間 長崎の伝統工芸〜べっ甲細工について〜

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主催した教育機関
長崎市教育委員会
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授業概要

 今回の授業では、まず、長崎の伝統工芸であるべっ甲細工の、熟練された技のすばらしさを肌で感じさせるため、べっ甲の芸術作品をデジタルコンテンツを使って紹介した後、べっ甲職人が、実際にべっ甲を加工する様子を見せる。その後、社団法人日本べっ甲協会の担当者が、現在べっ甲産業が抱えている問題点について講義をする。子ども達の興味・関心が高まったところで産業界が準備した学校用教材やインターネット上の資料を検索してITを活用した調べ学習を展開する。
  実際に産業に従事しているプロの方を授業に招くことで、学習の場に臨場感が生まる。地域の産業界の方々が講師として授業に参加していただくき、べっ甲産業界に携わる職人、またはべっ甲協会の人の生の声を通して、わが国のべっ甲産業の歩みや、「ワシントン条約」とべっ甲細工との関連、今日のべっ甲産業界が抱える様々な問題について語っていただく。これにより、児童はこの授業で得た知識を単なる情報ではなく、長崎のべっ甲の問題としてとらえ、心情を伴って学習問題の探求に取り組む。

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授業のねらい
 本校は総合的な学習の時間において、「わがまち飽浦」をメインテーマとして郷土学習に取り組んでいる。その一環として、長崎の伝統産業である「べっ甲細工」をとりあげ、それについてべっ甲産業界と、それをとりまく状況を考えていくことを目標に、本単元を設定した。
 小学校学習指導要領の総合的な学習の時間の取り扱いに、「総合的な学習の時間の扱いにおいては、各学校は地域や学校、児童の実態に応じて、横断的・総合的な学習や、児童の興味・関心等に基づく学習など、創意工夫を生かした教育活動をおこなうもの」と明記されている。長崎という地域の特性を生かし、長崎の伝統工芸であるべっ甲細工の熟練した技やべっ甲細工の実物を見たり、それらに関わっている人々の話を直接聞いたりすることで、べっ甲細工の工芸品としてのすばらしさ、伝統をうけついでいくことの難しさ、べっ甲産業に関わる人たちの気持ちや、限りある資源の大切さなどを考えさせるとともに、郷土への愛着心を育て、地球規模での環境問題について考えさせるのがねらいである。
 また、調べ学習や発表の段階で、CD−ROMやインターネットなどのITを活用することを通して、メディアリテラシーを育成することも、もうひとつの大きなねらいである。
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授業内容
実施単位 テーマ
1時限目 べっ甲細工ってなあに

実施場所 長崎市立飽浦小学校5年1組教室 実施時間 45分
講師 長崎市立飽浦小学校
教諭 田中良男 
使用教材 動画資料
・べっ甲作品集4分12秒(ビデオ)
・調べ学習用CD-ROMより
  工程紹介41秒(MPEG1)
  地合わせ3分40秒(MPEG1)
  万力打ち3分34秒(MPEG1)
  仕上げ2分32秒(MPEG1)

授業の進行・内容 授業の様子
■進行
 動画資料の「べっ甲作品集」の一部(宝船)を見せた後、子どもたちから気づいたことを自由に発表させ、その後でべっ甲細工ができるまでの工程を動画で見せることにより、子どもたちの興味関心を高めた。

■内容
「宝船」のビデオをみて、べっ甲細工はどのようなものかを確認させ、さらに、どういう手順で作るのかを説明した。
 次回、べっ甲細工の職人さんが学校にきて実演してくれることを伝えた。

写真コメント(alt入れる)

■児童の反応
 子どもたちは、画像の美しく短くまとめられたビデオを見たことで、最後まで集中して授業を受けることができた。次回のべっ甲職人の授業に対しても、十分に興味関心が高まったようだ。


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実施単位 テーマ
2時限目 べっ甲職人さんの技にふれよう

実施場所 長崎市立飽浦小学校 和室 実施時間 45分
講師 べっ甲細工師 藤田誠 
使用教材 タイマイの剥製 べっ甲の材料 べっ甲の加工道具

授業の進行・内容 授業の様子
■進行
 講師が、べっ甲細工の材料であるタイマイについて説明し、その後実際に子どもたちの目の前でタイマイを加工するところを見せて、伝統工芸のすばらしさを感じさせるとともに、それにたずさわるべっ甲職人の気持ちなどに触れさせた。

■内容
@べっ甲細工の概要の説明を行う。
 (タイマイの剥製・べっ甲の材料を使用)
・タイマイの剥製を使い、原料として利用している
部位の説明。
・タイマイ甲羅は、人間の髪の毛と同じ成分でできていることを説明するために、甲羅と髪の毛を燃やし匂いをかいだ。べっ甲は、母親のパーマと同じように熱によって柔らかくなり形を変えることができることを実際にみせた。べっ甲細工では、この特徴をいかして作品作りをおこなっていることを説明した。
Aべっ甲細工の実演
 糸鋸で、羊やイルカなどの小さな作品を作り、子供たち全員にプレゼントした。
 
B質問に答える。
宝船を作るのにどのくらい時間がかかるのか?
どこで仕事をしているのか?
べっ甲職人になって一番よかったことは?
難しいことは何か?
C問題の投げかけ(講師→児童)
 名札は左胸につける理由は何か?
 答え:ピンの形は、右利きの人が多いから右手で、左胸につけるようになっている。べっ甲の動物も全て右向きで作る。売るための作品は、そういうことも考えて作る必要がある。
講師は、日本べっ甲協会の資料館で永年にわたり修学旅行生などに説明した経験があるため、子どもたちの興味・関心を引き出しながら授業を行っていた。

写真コメント(alt入れる)
熱であぶったタイマイの臭いをかいでいる様子

写真コメント(alt入れる)
糸鋸で羊の形を切り出している様子

写真コメント(alt入れる)
べっ甲の板から切りだした動物たち

■児童の反応
職人の技のすばらしさに、子どもたちは感嘆の声をあげ、プレゼントされた作品を大切に名札の中にいれるなどの対応が見られた。職人(講師)の一言一言を、注意深く聞いている姿が印象的であった。

 


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実施単位 テーマ
3時限目 べっ甲産業の歴史と今

実施場所 長崎市立飽浦小学校5年1組教室 実施時間 45分
講師 日本べっ甲協会専務理事 永石征彦 
使用教材 Microsoft(R)PowerPoint(R)資料
べっ甲の歴史 6頁
ワシントン条約とべっ甲産業9頁
動画資料
・べっ甲作品集4分12秒(ビデオ)
・調べ学習用CD-ROMより
  長崎のべっ甲店  1分02秒

授業の進行・内容 授業の様子
■進行
 「べっ甲の歴史」、「ワシントン条約とべっ甲産業」の講義のあと、動画資料「べっ甲の作品集」の説明を行っていただく。その後、観光客がべっ甲細工を買い求めている様子をビデオで見る。

■内容
 前時のべっ甲職人の授業で感じたべっ甲細工のすばらしさや、べっ甲細工の原料についての理解をもとに、べっ甲の歴史や産業について学習する。
@べっ甲の歴史
元禄時代に長崎にべっ甲が伝わり全国へ広まって言ったことを説明する。

Aワシントン条約とべっ甲産業
べっ甲産業が抱える問題を、ワシントン条約を含めて説明をする。

Bべっ甲作品集のビデオ鑑賞
作品について講師の説明を受けながら作品を鑑賞する。

C質問に答える。

D長崎のべっ甲店のビデオ鑑賞
多くの観光客が、べっ甲を買い求めている様子を見る。

写真コメント(alt入れる)
販売の様子を説明する講師

■児童の反応
 歴史や条約について、年表やグラフなどの資料を使った説明が多く淡々とした授業であったが、前時でべっ甲への興味関心が高まっていたせいか、最後まで集中して聞くことができた。
 べっ甲作品集のビデオを説明を受けながら見たあとでは、価格についてや、どういった人が買うのかなどの質問もあった。

 


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実施単位 テーマ
4時限目 べっ甲について、さらに自分で調べてみよう(1)

実施場所 長崎市立飽浦小学校5年1組教室 実施時間 45分
講師 長崎市立飽浦小学校
教諭 田中良男 
使用教材  

授業の進行・内容 授業の様子
■進行
 前時までの学習で得た知識の中で、よくわからなかったこと、もっと詳しく調べたいことなどを発表し、調べ学習のテーマを決める。

■内容
 6班にわかれ活動することが決まった。

 

 


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実施単位 テーマ
5時限目 べっ甲について、さらに自分で調べてみよう(2)

実施場所 長崎市立飽浦小学校コンピュータ室 実施時間 90分
講師 長崎市立飽浦小学校
教諭 田中良男
長崎電子計算センター
次長 吉田明子 他2名 
使用教材 調べ学習用CD-ROM 10枚(HTML)
各グループ毎1枚
コンピュータ10台(コンピュータ室に常設)

授業の進行・内容 授業の様子
■進行
 前時に決めたテーマにそって、べっ甲に関連する資料を含んだCD−ROMやインターネットを用いて調べ学習に取り組む。

■内容
必要な資料や画像はワードパッドに貼り付けて保存させた。

■児童の反応
 児童は、コンピュータやインターネットを日常的に利用しているため、学習活動には問題はなかった。
 ワシントン条約を調べる中で、「輸入できないと藤田さん(今回の講師・べっ甲職人)が困るじゃないか、どうにかしてやれよ。」といった発言もあり、産業と環境保護の関連が実感できていると感じた。

 


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実施単位 テーマ
6時限目 べっ甲工芸館に行こう

実施場所 長崎市べっ甲工芸館
(長崎市松が枝町4番33号)
実施時間 180分(移動時間含)
講師 日本べっ甲協会総務部長
平山信人
使用教材 ビデオ教材 べっ甲職人技
(日本べっ甲協会所蔵)

授業の進行・内容 授業の様子
■進行
 べっ甲工芸館に行き、べっ甲細工の実物を見たり、展示資料から学習をさらに深めたりするとともに、今までの学習でわからなかった点や疑問に産業界の講師が答える。

■内容
@展示物を見学

A講師から説明
 タイマイやべっ甲細工ついての概要説明

B質問に答える。
・この鳥の胸の部分は、べっ甲じゃないように見えるけど・・?
・展示物の中で、いちばん古いものはどれ?
・宝船の帆の曲がった部分はどうやって作るの?
・展示物の中で、いちばん大きいものは何?
・いちばん新しい置物はどれ?
・べっ甲細工のどこがいいと思いますか?
・細かい部分はどういうふうにして作るのか?
・展示物の中で、いちばん価値のあるものはどれ?
・牛のひづめの他に、べっ甲の代わりになるものはあるか?
・タイマイの養殖は本当にできるか?
・宝船を作るのに、何匹のタイマイが必要か?
・江戸べっ甲って何?
 工芸館の中で一番価値のある宝船が数千万円もすることを聞いて、素直に驚き、その価値を再確認したようであった。べっ甲を直に触り、その軽さに驚き、工芸の素晴らしさに見入った姿も見受けられた。

C最後に担任が、講師の話の中に出てきた作品をもう一度じっくり見るように指導し、15分ほど見学をして学習を終えた。
 既に行った学習の中で、ワシントン条約や販売額の減少の実態を学んでいたため、タイマイについてや今後どう続けていくのかについても心配する声も聞かれた。


展示物を見てまわる子どもたち

写真コメント(alt入れる)
子どもたちからの質問を受ける講師

写真コメント(alt入れる)
工芸館の中でいちばん価値のある宝船

■児童の反応
 べっ甲工芸館では、いろいろな作品を発見し、閲覧中も講師にひっきりなしに質問を投げかけを行い、積極的に情報収集を行う様子が見られた。

 

 


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実施単位 テーマ
7時限目 情報を整理して、発表会の準備をしよう

実施場所 長崎市立飽浦小学校
コンピュータ室
5年1組教室
実施時間 270分
(11月5日、7日、8日の3日に分けて指導)
講師 長崎市立飽浦小学校
教諭 田中良男
使用教材 調べ学習用CD-ROM 10枚(HTML)
コンピュータ12台
はっぴょう名人(ジャストシステム)

授業の進行・内容 授業の様子
■進行
 今まで収集した資料をもとに、発表会の準備をする。プレゼンテーションのための資料と原稿を作成し、発表会のリハーサルを行う。 
■内容
はっぴょう名人(ジャストシステム)を使いプレゼン資料の作成を行う。資料と原稿ができたグループからリハーサルを行い、改善した方が良い点などを教師が助言した。

ソフト操作については問題はなかった。産業界の講師の説明内容がまだ学習していない時代のことであったり、インターネットで見つけた資料が条約や論文の場合、内容が難しすぎる問題があり、教師の支援が必要だった。「べっ甲の種類と販売について」のグループは、販売店のホームページから販売価格やCD−ROMの店員さんの話から情報をあつめプレゼン資料を作成していた。

 

 


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実施単位 テーマ
8時限目 べっ甲について調べたことを発表しよう

実施場所 長崎市立飽浦小学校和室 実施時間 90分
講師 長崎市立飽浦小学校
教諭 田中良男
日本べっ甲協会専務理事 永石征彦
べっ甲細工師 藤田誠
使用教材 コンピュータ2台(教師用と児童用)
プロジェクター1台

授業の進行・内容 授業の様子
■進行
 学習の成果をプレゼンテーション形式で発表し合い、情報の共有をはかる。

■内容
めあての確認
めあて:「調べたことを、わかりやすく発表しよう」
発表の内容
 (1)べっ甲の歴史について(3名)
 (2)べっ甲細工ができるまで(3名)
 (3)べっ甲の種類と販売について(4名)
 (4)タイマイの生態について(3名)
 (5)べっ甲にかわる素材について(4名)
 (6)ワシントン条約について(5名)
べっ甲の種類と販売について(発表の内容)
・わたしたちはべっ甲細工の種類と販売について調べたことを発表します。それではレッツゴー!
・これは江戸べっ甲です。江戸べっ甲は主に東京でつくられています。眼鏡や模様が組み込まれている物が多いです
・これは長崎べっ甲です。長崎べっ甲は指輪やイヤリングなど装飾品が多いです。
・これは船の作品の数々です。かなり複雑な形をしていますね。こんなのを作るなんてすごいですね。
・これはブローチです。おっ、8400円。意外と安いですね。しかもおしゃれなイルカの形じゃないですか。かなりお買い得ですね。いや、別にテレホンショッピングじゃないですけどね。
・これはペンダントです。いろいろな形や模様がありますね。似ている形の物はあっても、それぞれが少しずつ違うそうです。まるで指紋のようですね。
・この2つの作品は珍しいものです。おっ、これはべっ甲工芸館にあった富士山の絵のついた剣屏ですね。
・そしてこれは、販売店の方のお話です。読んでみますね。
「べっ甲は水分をきらうので、お使いになったあとは、柔らかい布でかるく汗をふきとっておいてください。それから水仕事の際には、べっ甲の指輪や時計バンドは必ずおはずしいただきますようお願いいたします。また、べっ甲には衣類と同じように虫がつくことがございますので、保管されますときには、薄紙にくるんで防虫剤を一緒にいれておかれますことをおすすめいたします。」
 ふ〜ん。なるほど。
【べっ甲協会の人の話】
 私が以前お話ししたことや、べっ甲工芸館にきて調べたこと以外にも、多くのことが調べられていたので感心しました。もっとべっ甲のことを勉強して、藤田さんのように長崎でべっ甲産業にたずさわる方がたくさんおられて、経済活動で貢献されていることを知ってほしいです。
今、チリのサンチャゴというところでワシントン条約に関する会議があっています。今回、キューバが輸出の提案を撤回したため、タイマイに関しての話し合いは行われていません。ワシントン条約は「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」といいます。ウミガメは、長崎にも産卵にきているので、みなさんも海を汚さないように、お互いうまく共存していくように努力してください。
【職人さんの話】
 今日の発表をきいて、自分が毎日やっていることが、こういうことなんだということを、改めて見つめることができました。きみたちががんばって調べてくれたことで、わたしもがんばって仕事をしようという気持ちになりました。ありがとうございました。
児童のお礼の言葉
永石さん、藤田さん、吉田さん、今日の発表会に来ていただき、本当にありがとうございました。わたしは「べっ甲の種類と販売」について調べたのですが、今まで知らなかったことがたくさんわかって、とても勉強になりました。べっ甲の学習を通して、いろんなことを学びました。みなさんに支えられて、ここまで学習を進めてこられたことを、とても感謝しています。本当にありがとうございました。
 多くの参観者がいる中、発表を終えた子どもたちは、一様に達成感を味わっているようだった。全体的に、発表内容は高度な内容まで含んでおり、専門家の後ろ盾を得て、自信をもった発表ができた。
 しかし、今後、期待される産業でないためか、自分の将来の職業として考えようといった声を聞くことはできなかった。

写真コメント(alt入れる)
「べっ甲の歴史について」の発表

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「べっ甲細工ができるまで」の発表

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「べっ甲の種類と販売について」の発表

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「タイマイの生態について」の発表

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「べっ甲に代わる素材について」の発表

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「ワシントン条約について」の発表

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感想を語る講師

 

 


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授業の成果
 この授業に取り組むにあたり子どもたちに事前にアンケートをとったところ、「長崎の特産品はなにか」という問いに対して、「べっ甲」と答えた子は1人もいなかった。また「べっ甲細工を見たことがあるか」という問いに対して、「見たことがある」と答えた子が11名いたものの、その材料や工程など、詳しいことについてはほとんど知識がない状態であることがわかった。また、「べっ甲細工を見てみたいか」という問いに対しても、7名の子が「見なくてもよい」と答えるなど、子どもたちの関心は、さほど高くないという実態であった。まず導入にあたって、べっ甲の作品集やべっ甲細工ができるまでの工程をビデオで見せたが、ビデオ視聴後、改めて本物のべっ甲細工や、作るところを見てみたいかをきくと、全員が見たいと答えるなど、地域の産業界が作成した良質な教材が、子どもたちの興味感心をいっきに高めたことがわかった。
 こうした教材の活用と産業界の講師による授業の終了後には、べっ甲職人が講師となった授業によって、授業後には全員がべっ甲細工の材料はタイマイであることを理解し、べっ甲細工の作り方については全員が説明することができるようになっていた。また、べっ甲協会の担当者が講師となった授業では、ワシントン条約によってタイマイの輸入が全面禁止であることなどべっ甲産業界の現在の状況についても説明できるようになった。また、情意的には子どもたちの授業後の感想から、職人の藤田氏の技のすばらしさに関する記述が多く見られるなど、べっ甲産業界の方々の仕事への情熱や誇りを十分に感じとっていることがわかる。子どもたちのいろいろなレベルのどんな質問にも詳しくていねいに答え、子どもたちの関心をさらに引き出す授業は教師だけでは実現できない。今回のような十分に準備された産業界と連携した授業は、子どもたちの学習に全ての面で効果があることが認められた。
 しかし、こうした授業を継続していくためには、その費用の負担の他にもいくつかの課題がある。産業界の講師による授業は、授業の効果が高いために、子どもの学習が深化し、計画した時間では学習が終わらなくなってしまうために、十分にゆったりとした授業計画を組む必要がある。大学や教育委員委員会の支援を受けながら学校では綿密に計画を練るとともに、産業界のほうでも受け入れのための余裕が必要である。授業を企画・立案し、実施していくためには、大学・学校・教育委員会・産業界が連携した継続的な研究が必要な点が上げらる。その際に、各部署の調整や支援を行うコーディネータの存在が、これらの散在する課題を解決するための成功の鍵となるであろう。
 
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実施環境
実施場所 長崎市立飽浦小学校 5年1組教室、和室、コンピュータ室
長崎市べっ甲工芸館
使用した機器 デスクトップPC、ノートPC、プロジェクター、スクリーン、DVカメラ、デジタルカメラ
その他  

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使用教材
教材タイトル 長崎市所有べっ甲作品集
教材仕様 VHSビデオ 4分12秒
教材概要 宝船、鯉、チャボ、龍、ブローチなど、長崎べっ甲の代表的な作品をBGMとともに紹介する内容。べっ甲細工とはどういうものかということを理解させるために、単元の導入部で使用。

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教材タイトル 伝統産業〜長崎のべっ甲細工〜
教材仕様 CD-ROM10枚(HTML17頁と動画8本(MPEG1))
教材概要 「べっ甲細工ができるまで」「べっ甲の歴史」「ワシントン条約について」「新素材の研究と端材の利用」など、べっ甲に関する情報を幅広く含んだ資料集。べっ甲細工を作る工程や、販売にたずさわる人の声なども動画(mpeg)で収録されている。

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教材タイトル べっ甲の歴史
教材仕様 Microsoft(R)PowerPoint(R) ファイルドキュメント 6頁
教材概要 日本におけるべっ甲の歴史を説明したもの。奈良時代に始まり、江戸、明治、大正、昭和など時代ごとに構成されている。産業界の講師がべっ甲の歴史について説明する際に使用。

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教材タイトル ワシントン条約とべっ甲産業 9頁
教材仕様 Microsoft(R)PowerPoint(R) ファイルドキュメント
教材概要 ワシントン条約とべっ甲産業との関わりを説明したもの。ワシントン条約の成り立ちと内容や、タイマイの全面輸入禁止により、べっ甲関連の企業数が減少したこと、職人の数が減少したことなどをグラフで表している。産業界の講師がワシントン条約とべっ甲産業に関して説明する際に使用。

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授業協力メンバー
所 属 氏 名 授業での説明
日本べっ甲協会  永石 征彦
講師
3時限目「べっ甲産業の歴史と今」
8時限目「べっ甲について調べたことを発表しよう」
日本べっ甲協会 平山 信人
講師
6時限目「べっ甲工芸館にいこう」
藤田べっ甲彫刻細工所 藤田  誠
講師
2時限目「べっ甲職人さんの技にふれよう」
8時限目「べっ甲について調べたことを発表しよう」

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授業の感想
■主催した教育機関

市教育委員会 主査
 鼈甲という地域の産業と結びついた学習を体験させることは、充分「生きる力を育む」ことにつながることが実証できた事業であったと考える。特に、実施した小学校の5年生の児童にとって、デジタルコンテンツを活用した授業だけでなく、鼈甲協会の専務理事の方や鼈甲職人さんと直接交流し、芸術的な鼈甲工芸品を鑑賞し、制作途中の鼈甲に触れる等の体験的活動の場があったことは、特筆すべきことである。疑似体験やビデオでの紹介で、ややもすると深みのない学習に陥る可能性の高いこのような学習内容を、子ども一人一人が身近なものとして捉え、鼈甲細工というすばらしい伝統工芸に対する理解を深めていくことができたことが本事業の最大の成果といえるであろう。

■授業実施者
(産業界講師)

日本べっ甲協会 専務理事
 今回の授業で、べっ甲産業のことについて、子どもたちが興味をもってくれたことを大変うれしくおもいます。みんなよく勉強して立派な発表をしてくれました。これをきっかけに自然・環境問題などにも興味をもつ子どもたちが増えることとおもいます。ご家族でべっ甲工芸館を訪れてくれるなど市民全体がべっ甲産業のことを考えるきっかけになることを期待しています。
 こうした活動は協会としても、機会があれば継続していきたいと感じました。
べっ甲職人さん
 子どもたちは好きなので、楽しく授業を行うことができた。工芸品は本物に触れ合うことが大切なので、今回プレゼントした物をひとりでも大切にしてくれればいいと思う。自分の話の中が、子どもたちが生き方やものの考え方などを考えるきっかけになれば幸いである。

■担任の先生

 今回のような授業を学校内部の人材だけで実施するのは不可能である。産業界の方がそれぞれの特色を生かし、それらが高いレベルで融合したからこそできた学習である。授業の目的も十分に達成できた。子どもたちも貴重な体験ができて、たいへん有意義だったと思う。今後も今回のような産業界から講師の方を招いての授業を行いたいと考える。あとは今回学んだことを、どのように今後の学習に生かしていくかが課題である。

■生 徒

 べっ甲について、今まではほとんど知らなかったけど、今回の学習でいろんなことを詳しく知ることができてよかった。
 職人さんのすごい技におどろいた。わたしも努力すればああなれるのかなぁと思った。
 今までは長崎の特産品といえばカステラとかちゃんぽんなど食べ物のことしか頭にうかばなかったけど、べっ甲というすばらしい伝統工芸があることを知ることができてよかった。
 職人さんの仕事を目の前で見たり、べっ甲工芸館に見学に行ったりして、とても勉強になった。タイマイが輸入できるようになってほしい。
 ワシントン条約の意味がよくわからなかったが、調べていくうちにだんだんわかるようになってきた。サボテンやインコなどが保護されているとは知らなかった。

■教育関係の立場から

大学教授 
 子どもたちは調べ学習で得られた結果や意見を、専門家の前でプレゼンするなど、普段の授業では得られない素晴らしい成果が得られたと思う。なにより、子どもたちは、一連の作業をやってのけた達成感が得られ、自信を持てたのではなかろうか。
 次に産業界の人材について言えば、教壇に立ち、次代を担う子どもたちと思いをともにし、文化を伝え、未来をともに考えていくためのより有意義な授業を行うためには、専門的な知識の伝授以外に、いくつか乗り越えなければならない課題がある。今回の授業の中でも部分的に、子どもたちの言葉を用いて伝えること、子どもたちに合った話の進め方、間の取り方など、さらに工夫して行かねばならないところも見受けられた。こうした外部の講師の活用には、子供たちの発達段階に合わせて、産業界の講師の人選、講義内容の確認、わかりやすい教材の準備、授業中における教師との連携の必要性の協議など十分な準備期間が確保されることが不可欠である。
 以前と異なり、子どもたちが生産現場から隔離された環境で育っている現代では、後継者が育たない、技術の空洞化が起こるなど深刻な事態が発生している。産業界と連携した授業は、十分な授業準備が必要なことから学校単独や教師個人の努力だけで継続していくことは難しい。教師の相談受け、授業をコーディネートする部署があれば、もっと日常的にこうした授業実践がおこなえるだろう。産業の後継者の育成のためにも是非この種の事業は続けて欲しい。
 この事業で培われた経験が実り豊かな教育と、こどもたちの創造力豊かな未来へと続いていくことを願ってやまない。
県教育庁 課長補佐 
 小学校では、児童の発達段階に合わせた具体的でかつ体験的な活動の中で、情報活用の実践力の育成を図ることを基本としながら、機器操作の習得や情報モラルの育成を図ることが大切である。要は、将来の「情報の科学的な理解」及び「情報社会に参画する態度」の獲得に役立つ「豊かな体験」をいかに積ませるかである。
 そう言う意味では、今回の取組は、問題解決や表現方法の手段としてIT機器をグループ活用から個人活用へ、さらに、課題に手段を選択する段階への移行期であるという児童の発達段階を十分に踏まえた適切な指導展開といえる。
 また、「視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図る」観点からも、地域教材のデジタルコンテンツ化は、従来からの視聴覚教材をより発展させるなど、教育の情報化を目指した取組と考えられる。
 できれば、これからは3年生から総合的な学習の時間を利用して特色ある情報教育が展開できるので、5年生のみならず学年段階に応じた情報活用能力の育成全体計画を添付できれば、本学習でねらう情報教育の視点がより明確になるのではないと考える。
実施小学校 校長
 講師の方の確たる人生観を聞かせていただくことで、子どもたちの心にもしっかり響いたようでした。
 また、職人さんのすばらしい技術を実際に披露していただいたことで、子ども達の将来の進路に希望が抱けたのではないかと感じました。
 ゲストティーチャーを導入しての授業で、これだけ時間をかけたことはこれまでなかったことなので、これからの研究に値するものと考えます。


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授業情報 実践事例 教材紹介

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