1.プロジェクトの目的




1−1 研究背景と課題

 我が国の小中学校の通常学級の中には,LD,ADHD,高機能自閉症などの軽度発達障害が疑われる子どももたちが6.3%含まれていることが文部科学省の調査で明らかになっている。こうした子どもたちは,従来の特殊教育の対象ではないため,これまで通常学級で特に何ら制度的な配慮や支援は受けていなかった。一斉指導の中では個別化した読み書き等の指導は困難であるため,このような子どもたちは,学習効果が低く,二次的に,自信をなくしたり,友達からいじめを受けたり,不登校や対人関係のトラブルを抱えていたりするなど深刻な事態にある。

 そこで文部科学省は,軽度発達障害への対応は緊急かつ重要な課題であるとして,こうした子どもたちへ支援の範囲を拡大し,平成19年から特別支援教育として全国の全ての学校でスタートさせようとしている。具体的には,通常学校の特殊学級を特別支援教室に変更し,在籍は通常学級に一本化して,その子どもにとって必要な時間を特別支援教室に通級するというものである。この制度変更によって,LD,ADHD,高機能自閉等の子どもたちが週あたり数時間,特別支援教室でその子の認知スタイルに応じた必要な学習を受けることができるようになる。

 軽度発達障害の子どもたちにとって,学習上の困難さの中で最も指導の必要性が高いのは読字と書字である場合が多く,その読字と書字の困難さの両方を併せ持っている場合もある。ところが,その特別支援教室で,子どもたちに指導するための専門性を持った教員は非常に少なく,まして適切な指導の方略や教材となるとほとんど提供されていない状況である。

1−2 本プロジェクトの目的

1) 読字と書字の基礎的な力を培う指導方法をタブレットPCで検討し、教師の指導技術の向上を図る。
2) その過程で、書字障害を示す子どもの典型的な学習パターンを踏まえ、それを改善する教材を開発し教育現場での指導実践に生かした。
3) その成果や知見を特別支援教室や養護学校などで応用する方策の検討。

1−3 用語説明

本報告書で使用される専門性の高い用語には注釈を付けた。

報告書内の用語
用語解説
WISC-III(CA8:1)・(知能検査) ウイスク知能検査結果(8歳1か月)
VIQ=124 言語性知能指数=124
PIQ=122 動作性知能指数=122
FIQ=126 全体的知能指数=126
KABC(CA8:5)・(知能検査) Kaufman Assessment Battery for Children 8歳5か月 
継次処理=94
同時処理=113
認知処理過程=105
習得度=116
* 知能指数検査について:
普通の人の知能指数の平均値は100で標準偏差値は15となっている。これを基準として、個々人の指数をテストや検査方法によって診断します。言語性、動作性などの下位項目も100が基準。

 



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