1.プロジェクトの目的




  2年間のEスクエア・アドバンス「心も育つ理科コンテンツの開発と活用」を推進して,見方・考え方を付加したディジタルコンテンツが,分かる授業と心の教育に有効であることを実証した。その反面,コンテンツはあくまでバーチャルであり,実物とコンテンツとの関わりをどのように持たせるかが課題としてあがった。特に小学校では,コンテンツに登場した方や同じコンテンツを活用して学習している他校との双方向の交流の必要性が実践を通して明らかになった。また,チャットや掲示板などテキストのみによるインターネットを活用したコミュニケーションの未熟さにより,互いに誤解を招いてトラブルになることが大変な社会問題となっている。
 そこで,ビデオクリップなどの相手の表情や感情など心を伝えるのに重要な情報を小学生でも容易に扱える電子掲示板システムを開発して,一層心の通った交流学習を促進することにより,心を育てる教育及び望ましいコミュニケーション能力を育成することをねらいとする。

1.1 課題

ビデオクリップ機能付きの電子掲示板および交流学習のシステムおよびカリキュラム開発
 心も育つ理科コンテンツは,学習内容をイメージできるコンテンツ群とその学習内容に関係ある科学者や研究家・写真家等の自然に対する見方・考え方を付加したコンテンツ群とからなる。昨年度までの研究では,児童生徒が,学習内容を深めるとともに,その見方・考え方を付加したコンテンツが発信する願い・メッセージを受け取り・感じ・理解する力を生み出すことを評価し,教科教育と道徳,情報教育に関する育成に有効であることを検証してきた。
 しかし,コンテンツはあくまでバーチャルであり,実物とコンテンツとの関わりをどのように持たせるかが課題としてあがった。そこで,ディジタルコンテンツの閲覧・操作という受動的な活用から一歩踏み出し,本物との出会い・交流を能動的に進める学習活動を設計することで,実物とコンテンツとの結びつきを現実のものとしてとらえるためのIT活用の開発を行なって豊かな心を一層育む。
 具体的には,心も育つ理科コンテンツを学習素材として,「ビデオクリップ機能付きの電子掲示板および交流学習のシステムおよびカリキュラム開発」を研究・実践する。従来の掲示板では,テキストが中心であり,児童の思いを十分に表現して相手に伝えるには限界があった。そこで,小学校中学年でも手軽にビデオクリップを撮影し掲載できる電子掲示板のデザイン,インターフェースを開発する必要がある。今回は児童にも優しいインターフェースで直感的に活用できるシステムを構築し,また,それを活用した交流学習のカリキュラム開発にあたる。

IT活用を教育に浸透させるための手法の具現化
 ディジタルコンテンツの活用に至っては,それを使う教師が,ディジタルコンテンツの持つ特徴,教育的な意義,活用法を見出せず,またその活用準備が多忙な教師には困難であるなど,教師と取り巻く環境が障害となり,活用されないという大きな問題に直面している。
 一方,心も育つ理科コンテンツの活用を通じて,学校を支援する体制のなかに,「インストラクショナル・デザイナー」の存在が不可欠であり,且つ重要な役割を担うことが明らかになった。今回は,「インストラクショナル・デザイナー」の育成と活用方法の研究を進め, その養成法を明らかにする。

1.2 有効性

ビデオクリップ機能付きの電子掲示板および交流学習のシステムおよびカリキュラム開発
 現在,普及している電子掲示板システムは,テキスト中心のものが多く,文章だけでは伝えきれない問題が残る。ビデオクリップの作成にあたっては,小学校を対象とした作成ツールが少なく,授業での活用は難しい状況にある。
 今回,小学校中学年を対象に,より直感的でインタラクティブなシステムの開発を行うことで,短時間の授業においても,児童がシステムの操作を覚えるのに時間を費やすこともなく,本来の教育に時間を充てることを可能にする。タブレットPCとPCカメラを活用して,タッチパネル上で操作できるビデオクリップ作成システムを開発する。具体的には,児童向けの分かり易い表現のボタンを配置したパネルに,動画取り込みやプレビュー等の機能を備えたOCXを実装することでその実現を図る。また,伝える情報に,文字・音声・静止画・動画を含めた電子掲示板を,CGI技術を駆使して構築する。児童にも分かりやすく,相手の顔が見えることで,より心も伝わる授業が行える。

IT活用を教育に浸透させるための手法の具現化
 2年間の活動を通じて,1名がインストラクショナル・デザイナーとして特徴的に養成され,その働きが教育現場に効果的であることを実証してきた。環境整備,授業準備,教材研究,教材作成等幅広くサポートできる人材,ディジタルコンテンツやIT活用授業に明るく,教師としての教授学習活動の公正と評価にも通じた人材の育成は不可欠である。
 その人材の分析と機能,特徴を第3者に分かるようにまとめ,県内のインストラクタを対象に,モデル養成法での養成を試みその変容を評価する。


1.3 先進性

ビデオクリップ機能付きの電子掲示板および交流学習のシステムおよびカリキュラム開発
 小学校中学年を対象とした直感的でインタラクティブな情報発信システムはない。TV会議システムでも情報発信は可能であるが,授業での活用は持ち運びや非同期的な情報交流には不向きである。今回開発を計画しているタブレットPCとPCカメラを活用したシステムは,中学年の児童でもより直感的でインタラクティブな上に,時間・場所を選ばすビデオクリップの作成が可能であり,電子掲示板で発信することにより,非同期的な情報交流も可能になる。

IT活用を教育に浸透させるための手法の具現化
 教師がITやディジタルコンテンツ等の操作を身につけるのはたいした障害はない。しかし,それらを授業活用して分かる授業や情報教育を進める際には,システムの調整等で障害が多い。IT活用を教育に浸透させるためには,この障害を克服するためのインストラクショナル・デザイナーの存在は欠かせないものである。また,現在試行されているインストラクショナル・デザイナーについても,あり方すなわち教師への支援,授業への関わり方等々の成功事例は少ない。IT活用教育の実現には,インストラクショナル・デザイナーが教師を支援しながら授業とを結びつける育成と活用が有効的であり,その実証は,教育の情報化推進の先進的な実践モデルになると考える。

1.4 成果目標

ビデオクリップ機能付きの電子掲示板および交流学習のシステムおよびカリキュラム開発
 児童がシステムの操作に時間を費やすことなく,短時間の授業の中でも,本来の教育に重点をおいた授業が行えることが必要である。システムの操作教育に係る負荷を最小限に抑え,小学校中学年の授業でも無理なく利用できるシステムの開発を目指す。結果的に教科のねらいに重きを置いた,豊かな心を育てる授業が行えることを目指す。
 具体的な成果目標は次の通りである。

IT活用を教育に浸透させるための手法の具現化
 システムを効果的に活用するためには,ゆとりを持った授業推進が不可欠である。日頃の多忙な教師の業務を助け,授業の準備や設計,授業推進に貢献できる人材が必要となる。その役割を担うインストラクショナル・デザイナーが,IT活用教育が行える学校へ変遷する原動力となることを確かめる。また,その育成方法が汎用性を持った効果的なものとなり,プロジェクト外へ幅広く浸透するに値するものとなることを目指す。
 具体的な成果目標は次の通りである。



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