おわりに




 今から20年ほど前,私が,山間部の小さな小学校に勤めていた頃,学校では全くしゃべらない緘黙の児童を担任していたことがありました。家に帰って親の前ではしゃべるということで,何とかして学校で発声をしてほしいと,いろいろ工夫したことを思い出します。その児童がビデオカメラを前にして,初めて声を発した時の感動は今でも忘れません。本プロジェクトでも,感動場面が再現されたのです。今回の研究で開発したビデオクリップを簡単に作れるシステム(かめぞうくん)に向かって初めてコミュニケーションが苦手な児童が笑顔で声を出したのです。
 私ども岡山のグループでは,「ITを活用して子どもたちの心を育てられないものか」という強い思い入れの中で研究を進めてまいりました。このコミュニケーションが苦手な児童が私たちの開発したシステムを前にして「心を開いた」という事実について,私どもは素直に喜び,今後の「IT」と「心」の関係を考察していく際の大きなエネルギーを与えていただいたような気がします。
この研究では,もう一つの成果がありました。それはインストラクショナル・デザイナーの養成についての実践が行われたということです。この実践から得られたことは,養成に必要なものは優れたカリキュラムではなく,学校現場で自らそのカリキュラムの内容を試行錯誤しながら体験し,体得することであるということです。そして,それには経験者のアドバイスが不可欠であることも分かりました。
本プロジェクトの実践にあたり,多くの方々にお世話になりました。快く授業実践を引き受けていただいた岡山大学教育学部附属小学校と総社市立総社東小学校の先生方,研究内容について様々なご意見をいただきました評価委員の方々。終始子どもたちに対し,心暖かいメッセージをいただいた内山峰人さんら岡山の自然を学ぶ会の方々。その他この研究で御協力をいただいた関係者の皆様に,心から感謝いたします。
 これからも「ITを活用した心の教育」について,こだわりを持って研究を進め,たくさんの課題についてみなさんと議論していけたら幸いです。最後に,ITを活用した教育に一つの方向性を示唆してくれるマルセル・プルーストの言葉を引用して終わります。
 
「ほんとうの発見を目指す航海は,新しい風景を捜し求めることにはなく,新しいものの見方を身につけることにある」               マルセル・プルースト

プロジェクト代表  岡山県情報教育センター研修課長
岸 誠一

 

監修

平松 茂 (岡山県教育庁 参事)


成果報告書執筆

岸  誠一(岡山県情報教育センター 研修課課長)

藤本 義博(岡山県情報教育センター 研修課指導主事)

磯山 朋宏(兜x士通岡山システムエンジニアリング 公共システム部 公共グループ)

木村 清一(兜x士通岡山システムエンジニアリング 公共システム部 公共グループ)

森本小百合(株式会社リットシティ 事業企画部)

桐野志摩美(インストラクショナル・デザイナー)


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