7.課題

7.1 課題-1:GPS位置取得における誤差識別と補正を考慮した対策

GPS位置取得における誤差識別と補正を考慮した対策

【課題】

 現行のGPS機能搭載型携帯電話の位置取得性能は3ランクに類別され、1)半径50m未満誤差、2)半径300m未満誤差、3)半径300m以上誤差となり、基地局の地理的配置条件や天候、周辺環境などの条件により、その精度は影響を受ける。これにより、当プロジェクトにおける調査学習の対象物によっては、誤差の存在が学習の成果に影響を与えるケースも考慮し、誤差の識別を前提にしたオリエンテーション並びにシステム上の対応機能について考える。

【課題への対応策】

1) 調査学習に入る前のオリエンテーション時に、児童生徒に対し、GPS取得位置データに半径50mの誤差が含まれることを徹底して指導する。(調査対象物と誤差を考慮に入れた地理的位置特性をイメージさせる)
2) 半径50mの誤差をイメージさせた上で、調査学習後、位置修正が必要な調査対象物を選んだ場合は、事後、位置補正に必要なランドマークやノード、エッジ、パス(川の中/東に傾斜地などの地理的特徴)などの環境構成情報を記録保持(メモなど)させる。
3) マップ上にプロットされた一次位置データの表示に工夫を凝らし、GPS位置取得定点を仮置きの座標点(赤丸のサイン)」として明示すると共に、写真表示時には3ランクの誤差を示すテキストが同時表示される機能を追加する事で、1)または2)のステップを経ないケースにも対応させる。
4) 調査後GISソフト上(編集モード)で、マップ上にプロットされた一次位置データを2)の記録をベースに位置修正(座標点移動)ができる機能を付加した。
5) 上記認知手法の組合せにより、誤差を考慮入れた、または編集モードで修正することによる誤差±0のマップ作成支援の構造化を図った。

【アクティビティーと言う視点】

 各テーマ毎にマップを作るという行為の一次目標は学習活動を介した学力の向上であるが、二次目標は、その対象地点に再び観察者(調査者)が出かけるかまたは、完成したマップを見て観察者以外の人が出かけることにより、任意の意味が生まれるものであると考察する。故に観察者以外の人は、その対象地点付近に立つ事により、対象物を容易に発見・認知できるものであり、そもそも誤差範囲が±0のマップの必要性は通常の生活感覚の中には無いものである。

7.2 課題-2:その他の課題項目

【概要】

 当プロジェクトにおけるシステム開発は、授業実践と平行して行ったことにより、各分科会での授業過程で生じた様々な課題をリアルタイムに補足し、事務局を通して開発セクションに伝えることで、改良・改善へとシフトできる「授業推進と開発の同期体制」が確保できた。故に、前章「6.評価」でも詳述したように、学習を進める上で、基本的には支障の無い理想的なシステムに仕上げることができたと判断する。

 課題解決の手法は主に2つのタイプに大別され、ひとつは「授業の進め方に解決策を求める」タイプと、もうひとつは「システム的に機能を拡張したり、プログラムそのものに改良を加える」ことで、実践における障害を取り除き、無用のストレスを可能な限り抑えた開発・運用体制の確保を目指した。

 その内、ふたつ目であるシステム上で対応できる課題に関しては、最大限開発のプロセスにおいて解決策を考案し、技術的な側面と認知的な側面の両面から検証を加え、ほぼ全面的に完了している。以下に、その代表的な事例を紹介する。

【システム上で対応した課題】

■当初BBS機能は、共同学習時の補完機能として各分科会単位での活用を想定していたが、教員側からの要望に則し、マップと写真を同時に見ながら利用できる設計に改めた。さらに、活用方法に幅を持たせる為、マップ全体に対する書き込みができるモードと、入力された特定の写真(マップ上のポイントと連携)に対する書き込みができるモードを新たに設計開発した。

■当初設計時には、ベースとなるマップファイルは、単層のレイヤー構造しか持たない白地図(デジタルファイル)を用意する予定としていたが、授業毎の多様な目的に対応できるよう、5つのレイヤー構造を持つシェープファイルを用意し、データベースに格納した。これによりプロジェクト設定時に、個別のテーマや目的に適応したベースマップをカスタマイズできる機能に改良した。

■ベースとなる地図データ(国土地理院)には地図記号が含まれておらず、授業実践の過程において、マップを読みとる上でシンボルとなるサインの必要性が問われ、編集モードに主要30種類の地図記号を任意で表示できる機能を追加した。この際、マップ上の定地点の特性を表すために、30種類のイメージサインを任意に設定できる機能も付加した。

■フィールド調査時の送信手順に関しては、調査学習におけるアクティビティーを確保するため、可能な限り簡略なものとし、ストレスの無い操作性を目標としたが、モデル機種(カメラ付きGPS搭載型携帯電話)がNTTドコモ製であったため、最低の操作手順数(1回のデータ取得から送信までにキーを押す回数)が7回必要であった。しかし、NTTドコモの協力もあり、i-アプリDXへの登録とプログラムの一部書き換えにより、4回だけのキー操作でデータ取得から送信までが完了する全くストレスの感じられない操作性を確保できた。

■当初計算モードは、グリッド単位(3種類設定可)で任意の計算式(方程式)を入力できる設計仕様としていたが、対象となる学力年齢を考慮し、数式を入力しなくても、入力データの数量や編集時に設定した任意の係数を自動計算(加算集計/平均算出)して色相の濃淡で表示したり、最大値・平均値・最小値の指数を表示したりする機能に改良することで、方程式を理解しなくても全ての計算モードを直感的かつ自在に使いこなせる仕様に改めた。これにより、初等教育レベルにおいても調査対象データに関連する数学的な意味をイメージ的にトレーニングできる基盤を用意した。

【システム上で対応できない課題】

■GPSを介した位置取得の際、通信上のデータのやりとりに約13秒ほどの時間と、位置取得した画像データのサーバーへの送信時間が約27秒かかり、併せて40秒程度の手持ちぶさたの待ち時間が必要となる。フィールド調査のアクティビティーを追求する場合、次の撮影対象に心奪われている状況では、この40秒の待ち時間は案外長く感じられる。ストレスゼロを目標としたい所ではあるがこの課題の解決は通信インフラの発展に委ねるしかない。

■交通機関での移動中に調査対象データを取得した場合、GPSのデータ処理における特性上、誤差が増幅されるケースが見られる。これは写真撮影の直後、位置取得を開始するアルゴリズム上のタイムラグが起因する構造的な問題であり、現在のところ、この課題を解決するための手段は、高速で移動する乗り物に乗った状況下での調査はできるだけ避けるというルールをつくるしかない。

■フィールド調査の対象エリアが限定される課題が上げられる。GPSを介した位置取得は理論上は日本全国どこでも可能であるが、現在の通信シインフラの問題として、地上に設置された基地局の電波が届かない山間部などでは、採取データを送信できない状況が考えられる。当プロジェクトにおいても、和歌山県熊野川町の特定地域では電波の受発信ができず、リアルタイムでの調査が行えない地域があることを検証した。

【その他の課題】

■撮影対象によっては、人権や知的財産権、肖像権に抵触するケースも考慮に入れた、調査学習におけるルールやマナーの指導が必要となる。これはまた、ウェブ公開時にも同様の注意が必要。

■調査時において携帯端末の操作に気を取られての事故(遭難)や過失の防止策の検討。