12.プロジェクトの評価




 本実証授業では,今回の参加者である伊島小学校および福谷小学校の児童と保護者に対して実証についてアンケートを実施した。児童に対しては,本実証の取り組みや機器の利用状況や発表会の実施に対するアンケートを合同発表会終了後に実施し,数名の児童に対しては,合同発表会終了後インタビュー形式の個別ヒヤリングを実施した。保護者に関しては,両校の校内発表会に出席した保護者に対して,児童の発表やコンテンツの評価や学区の取り組みとして,自らの実証に対する参加の有無といった内容のアンケートを実施した。先生に対しては,実証に参加したクラスの担任の先生を中心に,取材やコンテンツ作成といった各作業終了後にそれぞれヒヤリングを実施した。

12.1児童に対するアンケート

 児童のアンケートの結果として,「航空写真を使った学区探求の授業」に対する評価は,「とても楽しかった」「楽しかった」をあわせると,90パーセントになった(図12-1参照)。また,具体的に楽しかった内容を確認したところ,「実証校2校の合同発表会」「大きなマップ学区のいろいろなところを見るところ」「取材したものを使ってホームページをつくるところ」が,それぞれ33パーセント,30パーセント,23パーセントと,多くの児童が感じるところとなった(図12-2参照)。また,個別のヒヤリングの結果として,学区に取材に行ったり,大きな地図の上を歩きながら学区を探求したりといった,従来の机やパソコンの前に座っての授業と異なり,自らが実際に行動する形が,非常に好評を得ていることが推測された。
 これらの結果から,小学生の行動範囲を考慮すると,合同発表会という場を利用して,市街地にある学校と山間部にある学校を比較したことは,たいへん有用だったと思われる。また,大きなサイズの航空写真を用いた学区の地図が,児童の理解の手助けになったことは明らかであろう。実際に学区のいろいろなところに足を運んで調べたことを,コンピュータを利用してまとめる活動も,児童の興味関心をひいたように思われる。
 設問3「学区内のいろいろなところを取材した感想」をみると,自分の住む学区の再発見,地域を広く知るという観点から,本実証授業の意義が感じられる(図12-3参照)。先生とのヒヤリングからも,今回の実証の取り組みのように,児童が実際に自らの足で学区を調べるという授業自体をおこなう機会が少ないということで,本実証でそのことを再認識し,取り組み事態が有効であったという評価をいただいた。
 地域の取材をおこなうにあたり使用した機器をたずねる設問4では,「ノートパソコン」が56パーセントと最も多く,「デジタルカメラ」の24パーセントが,これに続いた(図12-4参照)。この結果は,今回の対象校が岡山市「教育の情報化」実践モデル校ということで,それぞれ40台のノートパソコンが整備されており,授業のみでなく,休憩時間や放課後といった時間にも,児童がある程度自由にパソコンを使える環境にあることと,タブレットパソコンやPDAといった今回提供した機器の台数が少なかったため,実証校にある既存の情報機器を多く利用したためと考えられる。ただ発表会において,実際にタブレットパソコンやPDAを操作に戸惑うことなく児童が使用しており,岡山市の推奨する「教育の情報化」実践モデル校が大きな成果を挙げていることがうかがえる。更にここで特筆すべきは,取材に使用した機器に対し,「その他」の回答として,約1割が「インターネット」を挙げたことである。児童の認識では「デジタルカメラを使う」「ノートパソコンを使う」「インターネットを使う」は並列にとらえられているのだろう。
 機器の使用目的にかかる設問5では,約5割が「写真撮影」と回答した(図12-5)。この設問では「その他」として「インターネットで調べるため」「コンテンツをつくるため」などの回答が40パーセントあった。
 今後,取材に利用したい機器について聞いたところ(設問6),「デジタルカメラ」「ビデオカメラ」があわせて約5割となり,「ノートパソコン」が33パーセントとなった(図12-6参照)。数量を準備することができれば,多くの児童にこれらの機器を道具として使った授業を組み立てることが可能になろう。
 本実証授業で児童が作成したコンテンツを誰に見せたいか?という設問7では,自分の地域のコミュニティのみならず,広く多くの人たちに情報発信したいという要望が多くあった(図12-7参照)。これを実現するためには,インターネット上に公開するサーバを調達する必要がある。ブロードバンド環境が広く普及している地域においては,子どもたちが集めた音声,動画,静止画などの情報をそのまま発信することも有用と考えられる。これについて先生に問い合わせたところ,先生の理想としてもインターネット上に公開し,多くの人に見てもらったり,他の児童が作ったコンテンツを閲覧したりすることについては非常に意義があるとの回答をいただいた。しかしながら,著作権や肖像権といった問題があり,それらを如何に児童に認識させてコンテンツを作成していくかが大きな課題とのことである。
 「ICタグ」の利用感想については,児童がその実物を見る機会は,今のところ,少ないと思われ,「いろいろ書き込めるのはすごい」「アンテナを使って見られるのは便利」との回答が,それぞれ32パーセント,31パーセントと多かった(図12-8参照)。このICタグを地図に貼り付けて,簡単に児童が作ったものを見ることができる仕組みについても,22パーセントが「すごい」と回答した。この中で,「アンテナを使って見られるのは便利」という回答が多いことから,ICタグを今回のケースのような取り組みだけでなく,他の様々な授業にも取り入れることで,より効率的且つ効果的なものになるのではないかと推測される。
 合同発表会の感想をたずねる設問9では,大半の児童から,「相手側の学区のいろいろなことがわかった」との回答が得られた(図12-9参照)。また,合同発表会の次回開催については,「またやってみたい」「もっといろいろな学校の発表を聞いてみたい」が,それぞれ32パーセントずつとなった(図12-10参照)。これに関しては,先生のヒヤリングの結果からも,同じ岡山市内でありながら,他の学校との交流も全くないため,市内の他の地域のことを知る機会も少ないということで,先生としても,今後は更にこのような発表会の機会を設けていきたいとの積極的な意見があった。
 本実証授業を通じての感想を問う設問11では,「コンテンツをつくるのがたいへんだった」との回答が,27パーセントと一番多く,これに「他の学区のことがわかってよかった」との回答が,22パーセントで続いた(図12-11参照)。地域に足を運び調べる,調べた情報をまとめる,誰に対して見せるかよく考える,といった作業は,児童にとって深く考えずともできてしまう簡単さがよいのか,ある程度の負荷がかかるほうがよいのかは,しっかり検討する必要があるだろう。

12.2保護者に対するアンケート

 保護者の感想においては,「ICタグと航空写真を用いたデジタルマップ作成」という先進モデル事業が,目新しさもあり,30パーセントの回答となり,高く評価された(図12-12参照)。また,山間部に位置する福谷小学校,市街地に位置する伊島小学校ともに,「学区のいろいろなことがわかった」との回答が多く,地域を知るためのツールとして,たいへん役立った感がある(図12-13参照)。福谷小学校の地域では,山の尾根ごとに昔からコミュニティが形成されていて,学区といえども,離れた地域に行くことはほとんどないとのお話しであった。また,同じ設問の「その他」の項目には,「皆様のおかげでとてもすばらしい出来ばえでした」「地元に住んでいながら知らないことがたくさんありました。子どもたちがみんな本当によく調べているのですごいです」「よく詳しく調べ丁寧に作り上げています。地域の方々の協力にも頭が下がります」「細かくよく調べていて感心しました」との言葉がならんでいた。
 子どもたちの学区を調べる取り組みについて,63パーセントの保護者が,「家庭で話題になった」と回答した(図12-13参照)。本実証授業の調べ学習は,保護者や,地域の人たちの協力のもと,成果をあげたものと考えられる。
 保護者の要望として多かったものは,「航空写真を使って学区を紹介する試み」を,学校内で見ることができるだけでなく,インターネット上に公開して,自宅などからでも,いつでも見られるようにしてほしいというものである(図12-14参照)。
 ICタグを活用して,地図の位置情報と,子どもたちなどが調べた動画,写真,文章などを関連づけることを第1段階とすれば,こうして蓄積した情報を,有効に二次利用するという観点から,インターネット公開もひとつの進むべき道であろう。
 同じ設問には,「自分の学区の情報をもっと多く見てみたい」「他の学区の情報も見てみたい」との声も多く,広く学校現場に普及することが期待される。あわせて,保護者自身が,学区のことを調べてまとめることについても,45パーセントが好意的な回答を寄せた(図12-15参照)。すでに,小学校高学年の保護者の世代では,コンピュータに慣れ親しんでいる割合が大きくなっていることが予想される。

12.3教員に対するヒヤリング

 教員に対しては,アンケートとヒヤリングによる意見収集を検討していたが,主にこの実践授業へ関わる教員が少なかったことから,担当教員を中心としたヒヤリング(両校で4名)のみをおこない,デジタルマップ作成から合同発表会までの過程で学習面での有効性について確認してきた。以下にその内容を挙げる。

<デジタルマップに関して>

<ICタグの展開例>

以下,児童と保護者に対して実施したアンケート結果を示す。

児童向けアンケート
  実施日:平成17年2月10日
  対象者:伊島小学校6年生1クラス(合同発表会出席クラス)38名
保護者向けアンケート
  実施日:平成17年1月28日
  対象者:福谷小学校校内発表会出席保護者及び地域住民 24名
保護者向けアンケート
  実施日:平成17年2月3日
  対象者:伊島小学校校内発表会出席保護者 19名

 

 



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