1.プロジェクトのねらい



1.1 背景と目的

 文部科学省によると、不登校とは「何らかの心理的、情緒的、身体的、あるいは社会的要因・背景により、児童・生徒が登校しない、あるいはしたくともできない状況にあること(ただし、病気や経済的理由によるものを除く)」をいう。大阪府の松原市では、このような不登校児童生徒への対応策として、市内の青少年会館で教育相談員の下に行われている松原市教育支援センター(チャレンジルーム)への参加を教室復帰への中間ステーションとして位置づけ、学校への出席として認めている。しかしチャレンジルームに参加できる子どもは不登校児童生徒のなかでも一部にすぎない。その他の子どもたちへの対応として、教員とのメールのやりとり、教員による家庭訪問、学生ボランティア(訪問指導員)による家庭訪問、スクールカウンセラーによるカウンセリングなどがあげられる。これらの人的支援ネットワークによる取り組みが熱心に行われているが、時間的・空間的にもある程度の制約があることは事実である。現状の課題として、このような働きかけの結果うまく教室に復帰ができても、復帰後の授業内容についていけずに落ちこぼれていくという問題も指摘されている。
 一方、平成15年4月に発表された文部科学省の「登校問題に関する調査研究協力者会議」報告書では、「義務教育段階における、ひきこもり傾向のある不登校児童生徒に対する部分的なインターネットを利用した学習の実施、個別学習ソフトの開発などの試みについては、一定の成果が報告されており、人との直接的な関わりが苦手な児童生徒に対し、相談等のきっかけとしてITを活用することの有効性が指摘されている。また今後、先駆的・実験的な事例等を踏まえながら研究する必要がある、という提言がなされている。
 以上のことから、本プロジェクトではITの利便性を活用したユビキタス的発想を教育現場に取り入れることにより、時間や空間にとらわれず不登校児童生徒が主体的に学習することのできるe-ラーニングシステムの有効性を利用し、松原市の全市的・総合的な支援ネットワークの基盤として利用することで、不登校児童生徒の段階的な学校復帰を支援するシステムの開発を目的とした。開発するシステムは、教育委員会や教員の意見をもとに作成し、家庭でも学校での授業内容に沿った学習ができるようなカリキュラム構成を目指した。また、学習で利用する教育用デジタルコンテンツを提供する際の共通基盤制作ガイドラインを作成し、標準化モデルとしてWeb上で公開する。情報機器の整備に関しては、リサイクルパソコン、Linuxなど安価な機器の活用についての要件調査を行う。

 

1.2 有効性

 松原市では、平成14年度より松原市不登校児童生徒総合支援会議を設置し、スクールカウンセラー、松原市教育支援センター(チャレンジルーム)の教育相談員、訪問指導員、関係諸機関との連携等、文部科学省「研究開発学校」指定の松原第七中学校をはじめ全市的・総合的な支援のネットワークを構築している。また、ITを活用した「心の窓にアクセス」事業として不登校の児童生徒にパソコンを貸し出し、インターネットを利用した電子メールによる交流活動も実施している。
 今回提案するe-ラーニングシステムをこの人的支援ネットワークの基盤として利用することで、不登校児童・生徒が自宅で授業内容に沿った自主学習を行い、教室からの遠隔授業を受けることで教室を身近なものに感じ、教室復帰に向けて大きな成果が期待できると考える。e-ラーニングは学習を始めたいときにいつでも取り組むことができ、生活リズムが崩れがちな不登校児童・生徒でも無理なく利用できる。またネットワークを通じてどこからでも利用できるため、家庭内で学習を進めることができる。e-ラーニングシステムを教員や訪問指導員らと直接コミュニケーションを取りながら利用すると、その場その場で子どもの実態に応じた適切な指導、アドバイスが円滑に行える。また学習履歴を分析することで、独習時の学習進度や傾向を把握し、後日アドバイスを行うことができる。
 一方本システムは、学校内の学習活動の場でも利用することができる。学習履歴の活用は児童生徒の学習達成度の把握に役立ち、理解しにくい部分の授業ビデオを繰り返し見ることで、学習の理解を確実にするための補助教材として利用できる。

 

1.3 先進性

 これまでにも高等教育において単位認定が可能なe-ラーニングや、学校間でのテレビ会議システムを用いた授業実践は行われてきた。しかし、これらの技術を不登校児童・生徒に適用させ、無理のない教室復帰支援を可能にし、また地域コミュニティを包含し連携したシステムはなかったという点が、本システムの先進性である。そして、従来の(市販の)e-ラーニングシステムは価格も高価なために普及が困難であるが、今回はフリーウェアをベースとしたものを利用することで、今後広く普及しやすいシステムを提案する。また小中学校生に親しみやすいインターフェースについて検討すると同時に、動画などを含むデジタルコンテンツ制作のための共通基盤制作ガイドラインを作成する。本プロジェクトで使用するパソコンは学校における整備予算が縮小される中でリサイクルパソコンの有効性を考えるとともに、ライセンス料が不要であるLinux OSの有効利用調査も兼ねるものとする。


図1-1 松原市の現在の取り組み



図1-2 プロジェクトイメージ

 


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