6.実施内容



6.1 授業ビデオとデジタルコンテンツ(学習支援教材)の開発

6.1.1 教材開発における体制

 本プロジェクトにおいて作成する授業ビデオとデジタルコンテンツは、不登校児童生徒の家庭学習を学校での学習と連携させ、教室復帰後の学力不安を軽減させることをねらいとする学習支援教材である。そのためプロジェクトに関わる多数の学識経験者や専門家の意見を参考に、教材で取り上げる単元の選定からカリキュラム内容まで現場教員との協議の中で決定した。作成された教材は再び教員との協議にかけられ、より教員の指導内容に沿うよう改良が加えられた。これらの協議は5回にわたり開催された学習支援検討会議を中心に、メールや電話、FAXなどを利用して行われた。
 活発な協議活動を円滑に進行させるため、教材作成者と教員間のコーディネート、また教育の専門家的立場からの助言などにおいて、教育委員会が重要な役割を果たした。教育委員会とプロジェクト全体のコーディネート機関が連携を取りながら、教材開発から授業実践までを支える体制が整えられた。
 デジタルコンテンツは教育用デジタルコンテンツの開発研究を続けている専門家が制作し、授業ビデオの撮影は映像関係の専門学校の協力を得てスタジオの提供から人的支援に加え、ビデオの見せ方や制作に関する助言を受けた。e-ラーニングソフト及びそれに付随するシステムの開発はNPO法人の協力のもと、リサイクルパソコンやLinuxOSを教育用に利用するという新しい試みや今後の一般普及の可能性を探るものとして要件調査を行った。
 このように本プロジェクトでは、多様な要因や背景を持つ不登校児童生徒の学習を支援するため、人的ネットワークの基盤となれるIT利用を実現すべく、産学が一体となって学習支援教材を作成した。


6.1.2 教材の概要

 作成された授業ビデオとデジタルコンテンツはe-ラーニングサイトに登録し、 ネットワークを経由して利用することができる。e-ラーニングサイトの構成と、今回作成対象となった単元を以下に示す。


図6-1 e-ラーニングサイト構成図


 

6.1.3 開発の流れと経緯 

 教員の意見をもとに、授業ビデオとデジタルコンテンツは大きく次の流れで開発を進めた。

対象単元の選定→ラフ案の作成(図6-2)→内容の協議→制作→確認協議→修正→確認協議

 デジタルコンテンツは授業ビデオの中で問題を解くための補助教材として登場する。学習者は授業ビデオを見ながら、または練習問題(図6-3)を解く時に利用できるよう「アイテム」という名称で授業ビデオとは別にサイトから提供される。そのため両者の内容は深く連動しており、制作は同時進行で行なわれた。


図6-2 ラフ案例
これらのラフ案をもとに協議がはじめられた。




図6-3 練習問題
e-ラーニングサイトでPDFとして配布する。図6-4のような紙のプリントから必要部分を抜粋して作成。




図6-4 教員提供の授業用プリント例

 まずはじめに単元の選定であるが、不登校児童生徒にまず必要な教科、単元は何かを協議した。その結果「積み上げ型」の教科であり、欠席が増えると授業についていきにくくなるということから、対象を中学校数学の「数と式」の領域とした。さらに不登校生徒が一人で学習する場合、ポイントとなる部分のみ抜粋した授業ビデオでは、学習を進めていく中で授業ビデオのない部分でつまずいてしまった時にそこから前進することができなくなり、学習活動の続行が難しい、範囲が狭くても一連の流れがすべて揃った内容の授業ビデオの方が効果的ではないかという意見があった。これを受け、1年生の最初に学習し、小学校の算数から数学へと進む過程で最も重要な概念の部分である単元「正の数と負の数」が候補に挙がった。2、3年生においても、この部分の理解がしっかりとされていないと、その後のどの単元においてもつまずいてしまうという、最も重要な基礎基本の部分である。
 このような協議を経て、対象単元を中学校数学の「数と式」領域における「正の数と負の数」に決定した。

 単元の決定後は、引き続き授業ビデオのカリキュラムと教授方法についての協議を行なった。授業ビデオやデジタルコンテンツの利点を活かした教授方法をイメージしやすくし、活発な意見交換を行なうためにラフ案を作成した。それをたたき台としながら授業のポイントを明確にしていった。
 授業のビデオの構成がほぼ決定したら、シナリオの作成、シナリオに沿ったビデオの撮影、編集という流れで教材は作成された。この間も常時教員や教育委員会と連絡を続け、よりより授業ビデオ、デジタルコンテンツの開発を目指した。

 学習支援検討会議において収集した、完成したコンテンツに対する教員のコメントとそれへの対応を以下に記す。

 このように、教員と協議の場ではコンテンツの内容に対する意見に加え、その活用のイメージも自ずと沸いてくるので利用方法も同時に検討でき、より完成度の高いコンテンツを開発することが可能となる。


図6-5 てんびんの動きの修正
上段が修正前、下段が修正後

 


前のページへ 次のページへ