6.実施内容



6.3 e-ラーニングソフトの開発

6.3.1 e-ラーニングソフトの検証

 オンライン学習のシステム化を図るために、GNU/Linux, FreeBSD などUnix互換サーバ上で動作する、オープンソースのフリーソフトウェア導入を検討した。ウェブサイト更新を容易にする blog などの普及により、コンテンツ・マネジメント・システム(CMS)も多種多様な展開をみせている。

 CATV回線の普及した米国においては、比較的早くからウェブベースのオンライン学習が取り入れられて、WebCT1, Blackboard2 などのサーバ向け商用ソフトが導入されてきた。このような動向に応じて、1997年には米国政府が推進する標準化団体ADL (Advanced Distributed Learning Initiative)が設立され、学習管理システムと学習コンテンツとの相互運用性を高めるための規格として、SCORM(Shareable Content Object Reference Model)3を開発している。

 SCORMはeラーニングにおけるプラットフォームとコンテンツの標準規格で、汎用性のある学習管理システムと個別のコンテンツとを明確に分離して、その相互通信性・移植性を確保するためにインタフェースやデータ形式を規定している。現時点で、階層型コース構造、Webクライアント上で実行されるコンテンツオブジェクト、コース構造に付属するメタデータから構成されており、コース構造のXMLによる表現方法、および、演習問題の結果や学習経過時間を相互に通信するための規格が定められている。

 未だ最終版に至らないものの、商用ソフトウェアをはじめ、既にいくつかの実装がある。とくに「コース」概念の標準化が定着することの影響は大きく、公開された規格としても今後の動向に注意が必要であろう。

 今回は、カリキュラムを慎重に選定した上でeラーニングの効果を実験することを目的としたので、ソースコードにアクセス可能な四つの候補から、とくに構築と運用の簡便な exCampus.org 4を導入した。これは、独立行政法人 大学共同利用機関メディア教育開発センターにより開発されたもので、2002年から東京大学大学院情報学環・学際情報学府において活用された実績がある。

 なお、教育現場で活用する際にも、ソフトウェアの選定にあたってはライセンス(使用許諾)への注意が必要である。とくに、ソフトウェアのカスタマイズが認められているかどうか、再配布が許可されているか否かといった点は、運用にも影響を及ぼすので、事前に慎重に検討しておくことが望まれる5

 

6.3.2 ソフトウェアの選定

 カリキュラム選定の後にオンライン学習のためのシステムを選定するにあたり、標準的な構成の FreeBSD サーバで運用する前提で、以下の四つの候補を比較、検討した。

 
moodle6
CFIVE7
CEAS8
exCampus
開発元 Martin Dougiamas&オンライン・コミュニティ 東京大学情報基盤センター&日本ユニシス・ソリューション株式会社 関西大学冬木研究室&パナソニックラーニングシステムズ株式会社 独立行政法人 大学共同利用機関 メディア教育開発センター
ライセンス
GNU GPL
GNU GPL
独自形態9
独自形態10
システム要件 Apache, php, MySQL or PostgreSQL Java2SDK, Servlet(Tomcat) PostgreSQL, OpenLDAP Apache, php, PostgreSQL Apache, php, PostgreSQL
SCORM準拠
×
△(予定)
×

 moodle は、オーストラリアのカーティン工科大学で長年WebCT 管理者を務めてきた経験のある Martin Dougiamas が、その欠点を補うべく開発した協調学習のシステムで、ピア・レビューの機能をもつ高機能なフリー(自由な)・ソフトウェアである。さらに、既に SCORM に対応したモジュールが配布されていることも魅力であるが、今回の実験には多様な機能が複雑すぎるということで除外した。

 CFIVE は、標準的な機能を満たしているものと思われたが、Java Servlet の実行環境が必要となり、サーバの構築に手間がかかるために導入を避けた。

 CEAS も本格的なコース管理システムを目指していることがうかがえるが、moodle と同様に、コース管理の仕組みが複雑すぎるということで除外した。さらに、営利目的での利用禁止、再配布の禁止など、利用許諾の条件が厳しい点にも注意が必要である。

 exCampus は、シンプルでありながら今回の実験に必要かつ十分な機能を備えており、適格とした。ライセンス条項も、独自のものではあるが、著作権表示・ロゴマーク・付帯するハイパーリンクなどを削除しない限りにおいて、再配布・カスタマイズを許可するものであり、妥当と思われる。

 

6.3.3 学習履歴

 exCampus はきわめてシンプルな構成であり、学習履歴などの進捗管理もなく、独自のログファイルを記録しているわけでもない。そこで、学習履歴の統計を採るには、ウェブサーバのアクセスログを解析する必要がある。一般的な Combined 形式で記録した。

 exCampus の登録ユーザ名ではログに残らない。また、リモートホストのIPアドレスもDHCPによる自動取得の場合には特定できない。そこで別途ベーシック認証をかけることにより、便宜的にアクセスログへ名前を残すようにした。これにより、httpリクエスト毎に次のような一行が記録されることになる。

 61.120.178.155 - e-kokoro [16/Feb/2005:21:03:09 +0900] "GET /images/logo.gif HTTP/1.1" 304 - "/index.html" "Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 5.23; Mac_PowerPC)"

 たとえばこれで「e-kokoro というユーザが日本時間2005年2月16日21時03分に、MacOS版のMicrosoft Internet Explorer で /images/logo.gif へアクセスして、参照元は index.html であった」ということがわかる。

 httpリクエスト毎であるので、足取りの記録として不足はないが、ロゴや、デザインのための画像一つひとつに対して一行のログが残されるので、統計的な解析をしたい。年次、月次、日次、時間毎の統計情報、リモートホストの一覧、おおまかな滞在時間、ファイル種別、httpステータスコードなどを処理するために、AWStats 11を利用した。他にも、よく知られている analog12、webalizer13 などを利用しても良い。いずれもGNU GPLである。以下にAWStatsの集計サンプルを示す。


図6-6 集計概要(訪問者数、ページビュー、転送容量など)



図6-7 月毎集計(ひと月のうちの毎日訪問者数)



図6-8 曜日別集計(曜日毎の訪問者数、曜日による傾向がわかる)



図6-9 時間帯別集計(時間帯毎の訪問者数)



図6-10 ホスト別集計(訪問数の多い訪問者IP順)



図6-11 平均滞在時間(概算滞在時間別の集計)



図6-12 ファイル種別集計(ファイル種類毎にアクセス数の多い順)



図6-13 ページ別集計(アクセス数の多いページ順)


 Unix互換OSの得意とするテキスト処理のスクリプトで、ユーザ毎のログに切り分けて、各々のユーザ毎の統計情報をプロファイル化する、phpのプログラムをカスタマイズして独自のログを記録するようにするなどの応用が考えられる。
今回は一般的な Combined 形式で記録したが、実践期間中の利用が少なかったため、解析には至らなかった。

 今回採用を見送った高機能な学習管理システムでは、独自の履歴表示機能のあるものもあるので、それらと比較検討して、本当に必要な情報を採ることが望ましい。


  1. http://www.webct.com
  2. http://www.blackboard.com/
  3. http://www.adlnet.org/
  4. http://www.excampus.org/
  5. ライセンスの自由度について、GNUによる解説を参照:
    http://www.gnu.org/licenses/license-list.ja.html
  6. http://moodle.org/
  7. http://cfive.itc.u-tokyo.ac.jp/
  8. http://ceasdemo.iecs.kansai-u.ac.jp/
  9. http://ceascom.iecs.kansai-u.ac.jp/modules/howToGetCEAS/
  10. http://www.excampus.org/download/download-00.html
  11. http://awstats.sourceforge.net/
  12. http://www.analog.cx/
  13. http://www.mrunix.net/webalizer/

 


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