第4章 実践参加教員による評価



1.授業実践参加教員による評価

 今回の実践では、6つの小学校において、班に一台の割で、携帯端末を活用したさまざまな授業や日常の学習活動が行われた。その期間は、昨年の9月から2月末までのうち、冬休みの期間やひとり一台の実験時期の約1ヶ月間を除いた3ヶ月以上である。それらの学校の活動において、子ども達がどのように振る舞い、どのような反応を示したのか、また保護者や同僚はどのように問題をとらえていたのか、担当教師にさまざまな機会に自由記述のアンケートをとった。以下はその内容を分類・整理し、まとめたものである。

(1)携帯端末を使うことに対する、児童の反応
 児童の反応は、どの実践校でも大きな違いは見られなかった。全国的に親世代の携帯電話所有が進み、各家庭内で携帯電話の存在が当然になってきている。児童たちが利用したり触ったりする機会も増えてきていることがうかがえた。

【携帯端末そのものへの興味関心】
・どの実践においても、「携帯端末」に対する児童の興味関心は非常に高かった。

【携帯端末の操作の習得】
・操作に対して積極的に取り組むタイプ。周囲の状況を見て、友だちのまねをしながら取り組むタイプ。さまざまな子どもがいた。どちらにとっても、携帯電話の操作自体には問題は無かった。
・気軽に使うことができるので、みんな興味をもって使いたがった。文字を打つのが最初、大変そうだったが、親の携帯等で慣れている子らを中心に、互いに教えあいながら楽しく使用していた。
・効率的な学習活動を行うには、操作について多少の慣れが必要であるが、操作については、少し練習すれば使えるようになった。
・携帯電話を使ったことのある児童は、5年生の段階で100%だった。親が塾の送り迎えのために買い与えている家庭もある。親の携帯電話で友人とのメール送受信を行っている児童もいる。携帯端末の使用に対しての抵抗は見られなかった。

【携帯を使った学習に対して】
・携帯電話の操作についてわかってくると、手軽に取材できる楽しさや交流できる楽しさを実感しながら、取材活動そのものを楽しんでいた。
・携帯の操作に慣れてくると、作業分担が起こり始めた。素材を探す子、送信する子、コメント修正、画像選択・撮影アドバイス係など、それぞれの得意分野を活かし、グループごとに分業体制で共同作業を行う様子が見られた。

【システムに対して】
・サーバ上のデータについては、自分たちが発信した情報であるため、興味を持って見ていた。
・それが学習への動機付けにつながり、集まった画像やテキストのデータについては、学習の目的を持って活用することができていた。指令そのものが学習課題であったり、これによるデータの分類などができることなどにより、子どもたちの学習の視点をはっきり持たせることができたと思われる。

(2)携帯端末を使った学習において観察された、児童の様子

【モチベーションへの影響】
・まだ特別な活動であるため、積極性は喚起された。みんな自分が使える順番を楽しみにしながら、活用していた。
・日ごろあまり目立つことのなかった子が、親の携帯を使用したことがあるらしく、いつになく積極的に活躍するという効果も見られた。
・家庭では、中学生になるまで、携帯電話は禁止されている。学習として公認で携帯電話が使えることを、「嬉しい」と感じている児童もいた。

【学習の効果】
・相手意識を強く持つことができた。
・写真を写すことに関してはデジカメと同じであるが、それを送信するとすぐにWebで確認できたり、後でゆっくり考えて文章を入力できるので、ふり返りながら学習を進めることができていた。
・映像に対するこだわりがうまれ、映像に残す上での視点が明確化する姿勢がでてきた。
・子供たち同士の教えあいも自然と行われていた。
・いつでも、どこでも情報発信が「できる」という意識が芽生えた。それまではコンピュータの前に座らないと情報発信できないと思っていた子も、簡単にWeb上に画像があがっていく様子をみて一言「すごい!」。
・簡単に情報発信者になれるという反面、何を情報として送るのか、端末にくる情報は本当に信じて良いのか、また何を撮っていいのか?これは許可がいるのか?等情報モラル面へ注意いなければいけないと気づくことができたようだ。
・家庭で携帯を買ってほしいとかいう声もきかなかった。学習の道具として使用したとわりきっている(理解している)ことがうかがえた。

【その他見られた興味深い現象・波及効果など】
・バスに乗車した際、車内のアナウンスで「携帯電話のご使用をひかえて・・・」と流れ、マナーを守らなくてはと使用をやめたグループがほとんどであった。
・マナーやモラルについても考えるようになった。
・一般社会での使用の仕方を考えるよい機会となったようである。

【今後の課題】
・GPSを添付して送信するまでの流れは、少し煩瑣であった。すべての児童がすぐにできるようになったわけではない。グループの中で写真を撮って保存する係と送信をする係とに自然に分かれてうまく送信できたグループもあった。4年生においては、送信できずに終わったグループもあった。
・家庭で親の携帯を操作している児童もあり、学習に必要な指示されたこと以外の操作をしてしまう場面もあったので、それについての配慮や指導が必要であった。
・今回の学習では、通常の携帯電話としての利用はしなかったので、特に問題はなかったが、子どもたちの日常のツールとしての携帯電話の使い方については、その必要を感じ、別途指導を行った。個人の情報発信ツールとしての携帯の利用のしかたについては、計画的に指導していく必要があると思われる。
・メールを使用している際には、学習という意識がある児童も、教師器を使って携帯電話で連絡する場面では学習の一環としての意識が少なくなり、人に依頼するときのマナーを忘れるという場面が見られた。学習の場面ではなく、家庭で電話している感覚と混同している様子だったので、学習時間であるという意識が持てるよう指導していった。
・学習用制限を加えていない端末(教師器)で相互連絡していたとき、迷惑メールが入ってきて、受けた児童が焦ってうろたえたことがあった。生活環境に入り込んできたとはいえ、小学生はまだ、携帯端末の世界には馴染んでいない。学習用の制限の設定は、不可欠であると実感した。

(3)携帯端末を使うことに対する、保護者の反応

 保護者の反応には、大きな差が見られた。それが地域差によるものか、学校差によるものかは、未分析である。しかし、日常的に学校ぐるみで、メディアを活用した学習や保護者への説明を行っている実践現場では大きな抵抗はなく、むしろ学習に対しては協力的であった。

【携帯を使った学習についての反応】
・もともと、情報発信をしたり、他校と交流したりすることについては好意的である。子どもたちが学習で利用することについても、肯定的な意見が多く、学習で使うことそのものについての、否定的な意見はなかった。
・最初は、学校の活動で使用することに驚いた親もいたが、「自宅で使い方を子供に教えた」「コミュニケーションをとるきっかけにもなった」という反応が返ってきた。
・保護者自身が携帯を持っていて、日常的に使っているので、児童が学習の道具として携帯を使っているのを見ても時代の流れとして見ているようであった。参観・学級だよりでも趣旨を説明していったのも理解を得られる要因となっている。

【携帯電話そのものに対する保護者の反応】
・中学生へも、携帯を持たせることについては懐疑的な保護者が多い中、この学習をきっかけに、子どもが携帯電話の所持を希望し始めることへの危惧は見られた。実際、学習が進み、「携帯はおもしろい、買って欲しい」という子が出てきたことに、どう対応してよいか分からないとの声も聞かれた。
・携帯電話を持つことにより、「通話代や問題に巻き込まれるのでは?」という不安も多数聞かれた。実際、現状では、携帯で問題に巻き込まれることも多いのが現実である。学校でもそうした指導ができないのか、という声も聞かれるようになった。

(4)携帯端末を使うことに対する、同僚の反応

 肯定的・協力的な学校もあれば、否定的・懐疑的な学校もあり、それぞれの学校の日常的な体制が、大きく影響していることがうかがえた。地域的な特質も考えられるが、今回は厳密に分析するほどの地域・数量の調査はしていないので、実際に見られた反応を整理するのみにする。

【肯定的な同僚の反応】
・低学年(2年生)に使わせるには、難しいのではないか? という意見が、実践前にはあった(実際は、学習効果がえられたのだが)。肯定的な教員には、機会があれば利用したいという意識が見られた。
・携帯端末の学習への発展性を認識している教員は、今回の学習へ大きな興味を示し、携帯ストラップを首からさげている子へも「どんな活動やっているの?」など温かい声かけが見られた。
・使っている様子を見ている教員、あるいはいっしょに指導した教員からは、肯定的な意見が多かった。

【否定的な同僚の反応】
・「そもそも携帯なんて学校に必要ない」「なぜ小学生がストラップもっている?」と否定的な意見を述べる教員もいた。
・携帯プロの内容等を説明しても、「それよりも基礎・基本が・・」「そんなことを学校がする必要があるのか」と受け入れられない教員もいた。
・保護者の反応より、抵抗感があるように思われた。デジカメで十分であるという意見もあった。背景に、新しい機械に接することに対しての抵抗感があるようである。
・授業の参観者の中にも、なぜ携帯なのかわからないという声と、費用の面が解消されるのであれば、導入したいという両方の声があった。

【その他の反応】
・何をやっているのか、学習のデザインが外からは見えず、携帯を使っていることだけしか見えていない(良く様子を見ていない)人からは、あまり反応がなかった。
・修学旅行時に同行した教員からは、意義を認めながらも、歩きながら携帯を操作したりするマナーについて指摘があり、その場で指導を行った。

 

2.全国データベース参加教員による評価

 全国データベースの共同作成は、冬休みの期間を利用して行われた。今回の全国データベースのテーマは、
・全国のお正月料理  ・正月の町の様子
・正月の天気     ・冬の植物
 の4テーマであった。全国各地(基本的には都道府県に1名)の教員がボランティアで参加し、携帯端末を郵送して利用してもらった。作成されたデータベースは、テーマごとに、南から北へ向かう形で並び替えて、表示させ、参加者らに公開し3学期(あるいは新年度から)の授業などで活用するよう求めた。

(1)全国データベースがどのような授業で活用できるか

 まず、これらのデータベースを使ってどのような学習が可能かという問いかけを行った。結果、具体的な教科・単元が、以下のようにあげられた。参加教員の殆どが小学校教員であったため、学習の具体案も、小学校の場面が多くあげられている。全国データベースを使う学習では、児童の調査・比較・検討といった学習が主体になる。しかし、あげられた具体案を見ると、必ずしも「総合的な学習の時間」にかたよってはおらず、むしろ、教科学習の場面が多くあげられた。以下、テーマごとに、いくつか例示する。

(2)今後の全国画像データベース作成のテーマについて

 今回、始めて携帯を学習ツールとして利用する実践に参加した教員も多かったが、どの教員も、携帯端末の学習利用の可能性・効果の大きさを実感した。今回の全国データベースを参考に、今後共同観測をして画像データベースを共同作成するとすれば、どのような内容のものができればいいか、問うた。具体的な学習活動として挙げられたものを整理すると、
  ・紹介する(くらし・自分たち・ニュースなどを、各地から紹介し一堂に集める)
  ・比較する(比較し、同じところ違うところを見つけ、考える学習)
  ・観察する(一つの事象を時系列で継続的に観察したものを記録していく)
  ・全国分布(ある事象の全国的な分布・状況を一堂に集める)
という切り口にまとめられる。特に、継続的な観察や、全国分布のデータベースは、教科の学習にとって、重要な教材データとなる可能性を持っている。
具体的には、
  ・桜前線、タンポポ分布、へちまの違い などの、共通植物の全国分布
  ・杉、あさがお、ひまわり など、共通教材の継続観察記録
  ・言葉、料理、習慣 などの、全国比較データベース
  ・台風の通過 のように、全国を移動する気象を追いかける
  ・畑の様子 を一年を通じて観察し、他地域とも比べる
などの活動が、挙げられた。

(3)システムや携帯端末の利用のしやすさについて

  今回の参加は短期間であったため、システムの使い方については、十分な指導ができなかった。それでも簡単に利用できたのか、システムの利用のしやすさについて質問した。

【携帯の利用のしやすさ】
  ・教員にとって、操作の習得は努力を要した。慣れれば、問題なかった。
  ・子どもたちにとって、操作の習得は、さほど困難ではなかった。
  ・使える機能に制限がかかっているので、安心して子供たちに持たせられた。
  ・プロジェクトで使用した携帯の操作は、簡単だった。

【システムの使用勝手】
  ・Web表示システムの操作性は良かった。
  ・IDとパスワードの入力が、面倒だった(これは、仕方ない)。
  ・データが、簡単に反映されるので、よかった。
  ・自分の情報だけを編集できるとよい。

(4)実践への参加への感想

 実践に参加した教員からの感想は、「携帯電話の性能のすばらしさと可能性を感じました」という一言に集約される。さらに、「デジカメを買いそろえるより、カメラだけの活用を考えただけでも携帯電話を買ってそろえた方が、遙かにいい。軽いし丈夫」 という意見も出された。

(5)携帯の現場利用の問題点と改善案

 しかし、現実に携帯を学校現場に導入するには、多くの問題がある。教育現場から指摘された代表的な意見は、以下の4つにしぼられる。
  1.保護者(社会)の理解
     よい実践を紹介し、学習への理解を得るための努力を重ねる
  2.教育現場の理解
     研修、啓発活動が必要
  3.学習素材として安心できる環境
     不要な機能をどのように回避するかが課題
  4.料金の定額制導入などが必要
     今後の大きな課題である

 



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