8.研究のまとめ
8.1 研究成果
本プロジェクトでは,教育でのIT活用と学力向上に関する研究を行ってきたが,検証した小中学校全ての実践で児童生徒の知識・理解,思考力の向上が見られた。評価を数値で測定したこと自体初めてだったため,改めてIT活用の必要性を確信した。研究して解明できたことを表すと次のとおりである。
- eラーニングを授業で利用すると,ITを活用しなかった場合と比べて学力の向上が見られた。しかし,ただ単に児童生徒に利用させるだけではだめで,進度差に応じて学習スタイルを改善するなどの方法を行うとさらに効果的になると考えられる。
- 本プロジェクトの実践では,児童生徒を知識理解の定着度を上位中位下位に分けた場合,特に中位下位の児童生徒の学力の伸びが著しく,上位の児童生徒の学力の向上があまり見られなかった。その理由を分析した結果,eラーニング教材の難易度によることが考えられる。今回利用したeラーニング教材は,基礎・基本に重点を置いた教材であるため,上位の児童生徒にとっては物足りないものとなったと考えられる。また,小学理科の実践では,下位の児童の伸びが少なかったが,eラーニング教材が難しすぎたのではないかと考えられる。今後は,eラーニング教材も基礎・基本コースや発展的コースなど児童生徒の実態に対応した教材の充実と教師が教材を見分ける力が必要であると考えられる。教師が良いeラーニング教材を選択すれば,今,問題になっている学力低下問題の解決の一方策として利用できると確信している。
- 家庭でのeラーニングの利用と学力との関係であるが,夏休みに家庭でeラーニングを使って学習した児童は,そうでない児童に比べ学力の向上が見られた。「自分のペースでできて良かった」「苦手なところがわかった」など生徒の進度に応じた学習ができたという感想が多数寄せられた。このように家庭でもeラーニングをすることで学力が向上することがわかった。今後,家庭でのインターネット利用については賛否両論あるが,このように正しい使い方をすれば効果的な学習方法として利用できるのではないかと考える。
- eラーニングを成功させるには,良いeラーニング教材を用意するだけでなく,学習でつまずいた児童生徒に学習支援したり,常に声かけを行ったりしてあげるなど教師が児童生徒に対して見守ってあげることが重要である。「ネットワークの先には血の通った人がいる」とよく言われるが,まさにそのとおりであり,我々教員はITを活用してもそのことを決して忘れてはいけない。質の高いeラーニング教材と正しい教師の支援があれば,必ず学力向上につながると考えられる。
- 不登校や病気などの理由で学校に登校できない児童生徒に対して,インターネットを使ったeラーニングという学習手段があることは大変重要であることがわかった。つくば市教育委員会には,本プロジェクトのことを知った他市町村の保護者から何とか利用させてもらえないだろうかという問い合わせが何件もあり,そうした家庭では切実な問題となっている。eラーニングはそうした児童生徒への学習支援の一方策として今後一層の利用促進を図ることが必要であると考える。
8.2 今後の課題
今回のプロジェクトでは,予想以上の研究成果をあげることができたが,これからの課題も見えてきた。その課題について述べると次のとおりである。
- eラーニング教材は,学力向上に有効であることがわかったが,今後は,児童生徒の進度に応じた教材をさらに開発していくことが求められている。
- eラーニング教材を利用するにあたっては,効果的に利用するために,授業改善のための教員の研修がより重要である。
- eラーニング教材にメールなどのサポート,テレビ会議システムの活用,グループウェアの利用,さらには紙媒体での支援などさまざまな方法を組み合わせることでより一層効果がある。そうした組み合わせの研究が必要である。
- 今回はeラーニングに絞って研究したが,電子情報ボードを活用した学習での学力向上についての研究などを行う必要がある。
以上の成果と課題を踏まえ,今後とも児童生徒の学力向上のためにITを効果的に利用していきたいと考えている。
8.3 本事業の成果発表について
下記の大会で本事業を紹介し,研究成果を発表した。
●平成16年9月28日(火) 場所:つくば国際会議場
つくば市IT教育研究大会「eラーニング分科会」参加者:CEC関係者など950名
●平成16年11月14日(日) 場所:東京工科大学
全日本教育工学研究協議会先進事例報告 参加者:全国から約200名
●平成16年11月18日(木) 場所:広島国際会議場
第1回日米都市サミット広島2004 参加者:日米主要都市から市長など数100名
●平成16年11月29日(月) 場所:国立オリンピック記念青少年総合センター
視聴覚教育総合全国大会東京大会シンポジウム 参加者:全国から800名以上
●平成17年1月7日(金) 場所:長良川国際会議場
ぎふ未来教育モデルプロジェクト2005 参加者:全国から約500名
●平成17年1月23日(日) 場所:麗澤高等学校
第25回KIUインターネット教育研究フォーラム 参加者:約100名