3.3 小学校における児童の新しい学力、実施体制と指導形態

3.3.1 児童の新しい学力

3.3.1.1 情報教育からの視点

 情報化の進展は、学校の在り方にも大きく影響を及ぼしている。つまり、情報 化が進む中で子どもたちは、学校教育で提供される以上の情報をいろいろな手段 で手にすることができ、ともすれば学校の授業で学ぶ内容より興味を引くものが あるといわれている。しかし、子どもたちは、情報の洪水の中でどれが自分にと って必要な情報なのか、あるいは、どれが正しい情報なのかを吟味していく力を 持たなければ、情報によって操作される存在になってしまうのである。このため に、小学校での情報教育は、子どもたちがコンピュータを使えることよりもコン ピュータに使われないことを基本にしていくべきだという声も聞かれるくらいで ある。ここでは、情報の洪水と子どもたちをつなぐ、媒介者としての教師の存在 を強く意識していきたい。

 情報教育への小学校段階での取り組みの指針として、中教審では、次のように まとめている。「情報教育(情報についての全般的な教育)は、既に我が国の初 等中等教育においても取り組まれてきているが、子供たちの発達段階を十分考慮 しながら、小・中・高等学校の各段階における系統的・体系的な情報教育を一層 充実させていく必要がある。特に、コンピュータを中心にした情報教育について は次のような充実を図っていくべきである。小学校では、各教科において、創作・ 表現活動、調べ学習、探求的な学習などにおいて、学習活動を豊かにする道具と してのコンピュータの活用を図りながら、コンピュータに慣れしたしませるよう にしていくことが必要である。学校や地域の実態などに応じ、「総合的な学習の 時間」を活用して、コンピュータに触れながら、どのように活用できるかを体験 的に学習できるようにすることも意義のあることである。」また、情報通信ネッ トワークの活用については、中教審の答申には、次のような主旨が書かれている。 「情報通信ネットワークの活用は、一つの学校の枠を越えて、さまざまな学校や 地域との情報の共有・交流を可能にし、学校がそれらとの連携の下に教育活動を 展開することを可能にするものであるから、子どもたちに豊富な教材を提供する 上で、また子どもたちの学習の対象を広げ、興味や関心を高める上でその効果は きわめて大きなものがあると考えられる。

 ネットワークを活用した学習を通して、子どもたちは、自らの情報発信能力を 高めることの必要性を実感するであろうし、教室の授業だけでは得られない感動 を覚えるであろう。子どもたちの興味や関心の対象は、意図すると否とにかかわ らず、国内外の様々な社会や人々へのと広がり、これにより子どもたちの視野が 大きく広がっていくものと考えられる。」

 以上の中教審の答申を読んでいくと、小学校の情報教育は、コンピュータを中 心にしながらも「コンピュータの学習ではなく、コンピュータで学習」というべ きものであり、コンピュータは、学習の「道具」として考えていくべきであると いう点で、はっきり打ち出されている。

 このことは、教師にとっても大きな意味を持っている。つまり、コンピュータ が得意ではなくても、あるいは、コンピュータの構造やコンピュータ言語がわか らなくても、授業の中でコンピュータを「道具」として活かしていくことを考え ていくことが求められているのである。

 コンピュータを「道具」として活かすという点から見ると、今回のインターネ ットを活用した小学校の実践は、すべて「道具」として活用していき、大きな実 績を残したことになる。

 また、「情報通信ネットワークの活用は」のところで書かれていることは、こ れまでのインターネット100校プロジェクトの実践を通して、生まれてきたと いってもいいのではないかと思わせるものである。なぜなら、情報通信ネットワ ークを活用した学習で、子どもたちは自分の情報発信能力を高める必要性を実感 し、教室では得られない感動を覚えたことを実例を挙げて紹介できるからである 。次の項からは、その実例を小学校の実践報告から実例を抜き出しながら説明し ていくことにする。

3.3.1.2 既存の教科からの視点

 まず初めに、既存の教科が求めていることとインターネットを活用した授業に は、何か隔たりのようなものがあると感じられがちであるが、それは誤りである。 現在、既存の教科のなかで求められていることは、例えば、社会科でいえば、子 ども一人一人が社会的事象に進んでかかわり、自分なりの社会的なものの見方や 考え方を獲得していくことが重視されている。このために、問題解決的な学習活 動や体験的な学習活動を積極的に採り入れることが大切であるとされている。こ のことは、子どもたちが自分の疑問を解決していったり、他の地域の紹介されて いる情報と自分の地域を比べたりなど、インターネットを通して、他の学校やボ ランティアの方などとのかかわりを持っていくことと重なり合っているのである。

 このような視点に立って、小学校の実践では、子どもたちが自分たちの学校や 地域の情報を紹介しながら、お互いの地域との相違点や共通点を理解していくこ とが日常茶飯に取り組まれていた。また、自分たちの学習に必要な情報を収集し ていくときに、参加校に呼びかけて、その地域での様子をメールで交換していく ことも実に多く見受けられた。

 その中でも特徴的なものをいくつか紹介していきたい。

 調べ学習が教科の中心の柱の一つである社会科では、いろいろな学校が取り組 んでいた。ここでは、100校に参加している小学校の実施状況からいくつか取 り上げてみる。

 「3年くらしの移り変わりの学習、4年ごみとくらしの学習・様々な土地の暮 らしの学習、5年農業・水産業・工業などの産業学習、6年日本の歴史の学習・ 国際理解の学習などでインターネット上の情報を活用したり、電子メールで関係 者に質問したりして学習を進めた。」(札幌市立幌南小学校)

 「3年生社会「お店とわたしたちのくらし」 新潟県の中郷小学校から「新潟 県で製造された品物があるかどうか調べてほしい」というメールが届いた。

 そこで、まず、子どもたちや保護者に協力を依頼して探したところ、新潟県産 の品物が実に多く仙台の店頭に並べられていることが分かった。次に、3年4組 のホームページにその結果を掲載して中郷小学校の3年生に発信することができ た。

 5年生の社会「日本の伝統工業」 昨年度の5年生から引き続いて「宮城県の 伝統工業のコーナー」をさらに充実させようということで、クリッカブルマップ に表現することができた。」(宮城教育大学附属小学校)

 「5年生社会科の「自動車をつくる工業」の学習では、自動車会社のホームペ ージを利用し、情報を得ていった。千葉県には、近くで見学できる自動車工場が ないため、今まで学習資料として、スライド・ビデオ・資料集等を利用していた が、児童よりホームページで調べてみたいという要望が出され学習活動に取り入 れた。(千葉県琴田小学校)

 「3年生では、1学期の社会科「私たちの村の様子」では、自分たちの調べた ことをメーリングリストに入れてもらった新潟県長岡市の3年生や新潟市教育委 員会の英語教師に自分たちの村のことをメールで伝えた。また、2学期の社会科 「人々の買い物」の単元では、新潟県の食料品は全国にあるかどうかを、メール を用いて調査した。全国17都道府県よりもらった返事をメーリングリストgenk iに流すことができた。4年生では、「暖かい地方のくらし」では、沖縄に関係 する情報をホームページから収集することができた。教科書や資料集にはない生 の情報を得ることができた。また、得られた画像などをクラリスワークスなどで 加工し発表に生かすことができた。メールに関しても岐阜県の小学校に雪国の暮 らしを伝える活動を行った。6年生では、15年戦争について、全国から意見を 求める。ボランティアの方が多数参加しているメーリングリストnobに自分たち の意見を伝えた。その結果nobに参加していただいているアメリカ人、中国人の 方など多数の方から意見をもらった。(新潟県中郷小学校)

 定点観測の共有化が図られてきた理科では、次のような実践がある。共同利用 企画の「一本の樹」では、次のような実践をめざし、理科の分野でのインターネ ット利用の定型のひとつになることがうかがえる。

 「一本の樹から『自然の社会』と出会ってみよう。」の内容は、参加校が自分 たちの観点で「一本の樹」をマクロ、ミクロ的に観察をする。この観察は、「一 本の樹」を「自然の社会」とした見方でとらえていきたい。それぞれの学校の「 自然の社会」=「一本の樹」をインターネットを通して、「点」から「線」、「 面」に拡げ、自然をより立体的に見たり、考えたりできるようになるようにして いきたい。

 また、植物は自然の微妙な変化を常に察知(感知)していること。先々の準備 が着実に進められていること。多くの障害に対応する力を持っていること。植物 は千年も二千年も生きられる力を持っていること。など、「植物の生命力の強さ」 を子供達が感じとってくれるようにしていきたい。

 「一本の樹と人とのかかわりを見直そう。」の内容は、昔の人々が「木」の性 質をよく理解し、生活の中に巧みに利用し、木のもてるよさを十二分に発揮させ ている知恵等と合わせて「昔の文化」を探る学習やいま自分たちの生活の中で、 植物が必要とされている意味や背景など、人と植物の関係を見直していくための 活動にも取り組んでいきたい。

3.3.1.3 総合的な学習からの視点

 総合的な学習ということが盛んにいわれている背景にある中教審の提言は次の ようなものである。「[生きる力]を全人的な力であるということを踏まえると、 横断的・総合的な指導を一層推進し得るような新たな手だてを講じて、豊かに学 習活動を展開していくことがきわめて有効であると考えられている。今日、国際 理解教育、情報教育、環境教育などのを行う社会的要請が強まってきているが、 これらはいずれの教科などにもかかわる内容を持った教育であり、そうした観点 からも、横断的・総合的な指導を推進していく必要は高まっていると言える。」

 この総合的な学習と視点でインターネット100校プロジェクトをみるとまさ に、その提言通りの実践が既におこなわれいると言っていいのではないか。

 つまり、海外の国の子どもたちと環境問題をインターネットを通じて取り組ん でいくということは、実に、提言で示されている「国際理解教育、情報教育、環 境教育」を一度に取り組んでいるのである。小学校の段階でも、既にこのような 実践を見ることができるので紹介していきたい。

 「国際共同環境学習 4年生「地球を守り隊」の児童を中心に、社会科と特別 活動の総合的取り扱いとして、ドイツやミクロネシアなど世界中の仲間たちと、 ごみ・リサイクル問題や地球環境保護に関して意見交換を行いながら学習を進め た。ミクロネシアとは、衛星を使って現地の高校生とリアルタイムで意見交換を 行ったり、現地に滞在中の冒険家・高野孝子さんによる遠隔授業も行ったりした。 現在も、インターネットを通した意見交換や協同のリサイクル・環境保護活動が 進行中である。電子メールなどで意見交換や国内協同学習がインターネット教育 利用の一つの形態として非常に有効であり、教師側も様々な経験を積むことによ り協同学習のノウハウを蓄積できたので、今後とも積極的にすすめていきたいと 考えている。」(北海道幌南小学校)  

3.3.2 実施体制と指導形態

 インターネット100校プロジェクトの取り組みは、先駆的なものであり、特 に小学校では、中学、高校のような情報を受け持つ教科が未分化のためにさまざ まな試みが行われた。それぞれの学校の実態に合わせた形での実施体制と指導形 態をつくった。3年間に亘った本プロジェクトでは、インターネットを導入して いくときの実施体制や指導形態の標準化ということを作っていくことまではいか なかったが、3年間の試行錯誤から生み出された各学校での実施体制、指導形態 は、注目に値すべき点が多く含まれている。

 本プロジェクトでは、実施体制や指導形態の確立に課題が残ったことも事実で ある。それは、インターネットというメディアに対しての距離感の差が教師間に あり、通常の自分の授業実践とインターネットの接点を見いだせずに、戸惑って しまった現場もいた。そして、この手探りの状況の中で学校内で牽引車的な教師 への依存度が高くしてしまった。また、本プロジェクトのスタート時点でのトラ ブルなどで中心になった教師への技術的な負担が大きかったことが授業実践へも 影響が出ていた。

 このような多少の混乱があった実施体制や指導形態の確立も、本プロジェクト の最終段階では、実施形態としては、小学校の場合、全校で取り組みとして実施 体制を組んでいる学校が多く見受けられた。全校での取り組みには、各学級で自 分たちのクラスのホームページを作り、それを学校として、まとめて公開してい こうという方法、委員会活動やクラブ活動を中心にして、活動の内容を全校で取 り組んでいくという方法、各学級がそれぞれの学習の内容に即した形で、インタ ーネットを活用していく方法、或いは、共同利用企画などでの参加などでは、学 年を越えて、複数の学年で同時に取り組む方法などに分けていくことができる。

 小学校の場合の指導形態は、小学校が学級担任制ということもあって、指導の 中心は、担任の先生になっている。しかし、どの担任もインターネットを扱うこ とに慣れているわけではないから、中心になる教師がフォローに入っていく場合 が多い。このフォローも紙でできている材料をインターネットのホームページ化 することから、実践も含めて、合同学習として取り組む場合もある。これら場合 では、教師の時間が多く割かれてしまい、負担が多くなってしまうことが課題に なった。

 このインターネットでの作業時間の確保の方法として、校内でインターネット 担当という校務分掌を作り、担任を持たずにインターネット専科として活動でき る教師を確保していく場合とティームティーチングの教師がインターネットの活 動を中心にTTを行う場合などの方法が採られている。この二つとも、学級担任 ではないために、時間の確保が容易で、インターネットを活用していこうという 学級担任を応援できる指導形態として、今後、他の学校でも条件が許されるなら ば、広がっていく傾向にある。

 実施体制や指導形態を確立していくためにも、学校内においての職員の研修は 不可欠なものになっている。ここで職員のインターネットを迎えるにあたっての 不安な心境について紹介する。

 「年度の初めに、コンピュータ全般(主としてインターネット)の運営や管理 を行うための母体になるコンピュータ委員会を組織する。振り返れば、研修が中 心となったのだが、その内容も職員異動の関係もあり、電源の入れ方からスター トし、ブラウザの使い方、ネットサーフィンなどと幅広いものとなった。もちろ ん、細分化し定期的に行って実施していった。」(高松小学校)

 「学校中の誰もが「インターネット」はもちろんのこと「パソコン通信」すら 知らないという状況下にあり、技術部であるコンピュータ運営委員会の数名は大 変な不安を抱えていたことを思い出す。なにぶんこの分野は新しく、メーカーや 販売店の方に質問しても適切な解答を得られないのであるから当然のことだった かもしれない。期待にふるえながらサーバーに向かい、プロンプト以外何も映っ ていない画面に深い失望と焦りを感じていた。」(春山小学校)

 このような学校がほとんどだったインターネット100校プロジェクトが短期 間で周知のような実践ができたことは、学校の持っている適応能力の高さを示す ものでもある。

3.3.3 指導の評価について

 インターネット100校プロジェクトの実践をどのように評価していくかとい う課題は、先に述べたように、インターネットという道具を中心に語るのではな く、活用した実践の内容を評価していくことが大切である。ここで実践した教師 の声を載せていきたい。

 「インターネット端末を学校内に分散配置することは、子どもたちがインター ネットに親しむことに大きな成果をあげている。身近なインターネットは、子ど もたちの生活の中にとけ込み、学習にも効果的に使われている。インターネット は、子どもたちの表現する場を広く日本中や世界中に広げることができ、また、 いろいろな学校外の方とのコミュニケーションがとれる可能性もある。子どもた ちの立場から考えても、自分の表現を先生以外の人が見て評価してくれる可能性 を認識することで、自らより高い目標に向かって活動していくことにあるであろ う。しかし、現状のインターネットの世界は、まだあまり広くなく、子どもたち の公開した作品に対して、学校外の人が評価を返してくれることは多くはない。 保護者や地域の方の大半がインターネットを家庭でできるような時代になれば、 子どもたちの作品を学校外の方が評価するという活動も現実味を帯びてくると思 われる。学校と地域・社会、そして、学校内の教師と教師、子どもと子ども、教 師と子供の作るネットワークは、網の目のように張り巡らされてきつつある。情 報メディアを通した交流により、今までには考えられなかった「ふれあい」が広 がるのである。本校卒業生からのメールが寄せられている。「自分が卒業した学 校のホームページが見られるなんて信じられません。思わず、校歌を口ずさんじ ゃいました。」まさに、ヒューマンネットワークが形成されつつある。公立小学 校がホームページを持つときに目指すもの。それは、地域に根ざした保護者や学 区域内居住者、そして卒業生に向けたサイトなのではないかと考えている。公立 小学校は、地域のヒューマンネットワークの拠点なのだから。」(神奈川県本町 小学校)

 教育実践を吟味していくときに、その実践に参加した子どもや教師がその実践 をどのようにとらえているかを考えていくことが大切である。ここでいくつかの 実践した小学校の教師の声を載せたが、そのどれもが自分たちの取り組んだ実践 を日常の実践ととらえ、そのカリキュラム上での整合性や子どもたちの学習とし てのリアリティーなど、ほかの教育実践と何も変わらぬ、自省と自負を持ってい ることに気づく。

 このことから、インターネット100校プロジェクトでの指導の評価を考える 上で、昨今のインターネットブームということとは異なり、学校の現状をどのよ うに改革していくべきかを考えている教師の取り組みとして考えていくことが不 可欠であることと、インターネットやコンピュータが学校に導入されることによ って、現在、行われている授業が内包している課題を浮き出させているというこ とに注目すべきであることを私たちに示しているのである。


次(3.4 中学校における生徒の新しい学力、指導 体制と評価形態)