100校プロジェクトのネットワークシステムの機能と構成について説明す るため、ここでは、まず、100校プロジェクトのネットワークシステムを示す のに、ボトムアップ的に、すなわち各対象校からみた、校内のコンピュータと地 域ネットワークとの接続の面から説明し、次いで地域ネットワークから見た10 0校プロジェクト対象校の接続の受け入れ形態について説明する。
図4.1 100校プロジェクト対象校のネットワークシステム (A、Bの二種類がある) |
校内に設置されたサーバコンピュータは、一部の地方ではEWSが採用され、 他の地方ではパソコンが採用された。これは、調達が地域ブロック(北海道・東 北、関東、北陸・東海、近畿、中国・四国、九州の6ブロック)ごとに分けて行 われたためである。すべてのサーバーコンピュータで、OSとしてUNIXが採 用され、本プロジェクトの全システムにわたり、ネットワーク通信機能としては TCP/IP群が採用され、各サーバーシステムでは、DNS(ネームサーバ機 能)、電子メールサーバ、WWWサーバ等の機能が設備され、それぞれの学校の ネットワークシステムは、例え小規模であっても、ネットワーク機能の上では独 立したシステム、すなわち自立システムとした形成されていた。したがって、各 学校システムが上述のような校内LANになった場合、既に先行して整備された 大学のLANと何ら変わりないことになり、規模から見ると、小規模な大学や短 期大学のLANに匹敵し得る。
実際には、本プロジェクトの提供システムの規模から校内LANへの拡張は、 さ程容易なものではなかった。何故なら、本プロジェクト開始以前に校内に導入 されていたコンピュータの大多数は、TCP/IP群を運用する機能を搭載する ことができない旧式のものであったからである。それにもかかわらず、現時点で は既に全体の半数近い学校で、校内LANへの拡張が行われている。その多く は、図4−2に示すような、クライアントコンピュータの台数の増加であるが、 一部の、特にインターネットの活用が活発に行われている学校でのサーバコン ピュータの増設の報告もある。
図4-2 100校プロジェクト対象校における校内LANへの拡張例 |
実際の接続作業が行われたのは‘96年5〜7月であった。地理的に広範囲に 拡がった活動領域をもつ地域ネットワークでは、加入組織との接続点となるNO Cが複数地点に配置されているため、本プロジェクトの対象校との接続回線の接 続点となったNOCは39個所に及んでいる。多くの地域ネットワークのNOC では、地域内の本プロジェクト対象校との接続回線をこれら地域ネットワークの 加入組織との接続の場合と区別せず、同じ接続セグメント上に接続した。100 校プロジェクトの対象校専用の接続セグメントを設置し、このセグメントをNO C内ネットワークの他の部分とIPルータが隔離する接続方式を採用したのは、 TRAIN(東京地域アカデミックネットワーク)の東京NOC(東京大学大型 計算機センター内)と同じTRAINの山梨NOC(山梨大学内)の二カ所であ る。接続セグメントの分散化は、そのための設備費用の負担がかかるが、ネット ワーク障害の影響の拡大防止の効果があり、本プロジェクト対象校群のみの運用 状況や障害の情報の把握、通信トラフィック情報の収集等が容易になり、運用状 況の定量的な分析に役立つ。
図4-3 地域ネットワークのNOCの例(TRAIN山梨のNOC) |
各学校での通信機器やコンピュータシステムの導入・設置、OSをはじめとす る各種ソフトウェアのインストレーションは、システムを納入した企業の技術者 によって行われたが、システム立ち上げ以後の日常的な運用は各学校で担当され ており、本プロジェクトでのシステム運用は、各学校による自主的な運用が基本 である。実際のシステム運用の場面では、UNIXのシステム運用の経験をもつ 教員はほとんどいないし、今回初めてUNIXを体験する教員にとっては、機器 の増強や構成の変更、ソフトウェアの追加や発生した障害の対策は荷が重く、シ ステムの日常的な運用には、適時に適切な助言が得られるような仕組みが必要に なる。 例えば筑波地区の地域ネットワーク(RIC−Tsukaba)等で は、このことを予測して、システム導入直前に、同地区の対象校の教員を対象 として、システム運用技術の講習会を開催して、実地訓練を行っているし、他 の地区では技術的な質問に答える仕組みを運用したりしている。
システムに関するトラブルの大部分は、システム導入期に発生している。導入 されたシステムのハードウェア障害は往々にある初期不良の例であり、 このよ うな場合は納入企業によって迅速に対処されていた。当初に導入されたモデムを 数個重ねて置いて使用していたら、発熱によってモデムの箱の形が変形してしま った、どちらかと言えば、珍しい例(中国・四国地区)もあった。このため、同 種のモデムが納入された各所でモデムの入れ替えが行われた。
本プロジェクトの場合には、納入企業の立ち上げ作業の終了が告げられた直後 に、学校から地域ネットワーク側へ、システムが正常に動作しないと告げられた 例があり、この対応も、多くの場合、機器納入企業によって対処されているが、 東北地区(TiA)、TRAINの学習院大NOCのように、地域ネットワーク 側で対処する等の支援が行われた例もある。このようなトラブルは、当時はイン ターネットの利用が拡がっていなかったため、システム機器の取り扱い企業でも 導入時の技術的な経験が乏しかったために生じたものと考えられる。システムが 立ち上がり、正常な運用が開始された以後のシステムの運用は順調な場合が多 く、トラブルは、停電の後やシステムの構成の変更や増強直後等、システムの 運用状態が何らかの原因で変ってしまった場合に発生している。停電があった ためのトラブルの多くの場合は、通電以後のモデムの電源スイッチのリセット 等で簡単に修復するも経験的に分かっているため、現状では、回復の難しいト ラブルの種はかなり少なくなっている。
全般的には、機器納入企業の派遣技術者による障害対処のケースが多く、地域 ネットワーク側での対処も少数の例がある。一般的なシステム機能等の技術情報 は、CECによって提供される資料、メイリングリストや研修会に頼る場合の 他、地域ネットワークで提供するメイリングリスト(例えば東海地区)や研修 会(例えば、中国・四国地区他)が活用されている例もある。全般的には、障 害が発生した後の緊急回復は難しく、一旦ネットワークシステムがダウンする と回復までにかかる時間・日数が長い例も少なくないが、それにしても、現場 の教員の努力で、システムは回復し、システム運用が見捨てられた例は聞かな い。学校におけるインターネットの利用の経験が深まるにつれ、システムの技 術を理解した教員も出てきて、現状では、教員同士の間の電子メールによる技 術情報の伝達も行われるようになってきていて、この面でのネットワーク技術 の普及効果は大いに期待されるものの、現状では、システムの運用を担当する 教員にかかる負担は大きく、このような面での努力や貢献が、学校内で評価さ れていないようである。
本プロジェクトでのネットワーク利用は、各学校内では比較的少ない台数のコ ンピュータによる利用であり、利用内容では、WWWサーバーによる情報提供や 参照・収集が多く、次いで、電子メールの利用であり、全般的には、Cu−Se eMeのような画像を含む情報のリアルタイム伝送の利用は少ないため、100 校プロジェクトによる通信トラフィックの回線に対する負荷は、あまり大きくな い。TRAINの東京大学NOCにおける100校プロジェクト専用セグメント の外部側に設置されているルータの対外ポートで採取したトラフィックデータで は、このセグメントに接続する16校分のトラフィック量の平均値は約75MB/ 日であり、これはTRAIN全体の平均トラフィックの0.5%に当たり、1校 当たりのトラフィック量は約3MB/日であり、TRAINの加入組織である大 学等の1組織当たりの平均のトラフィック量の約500MB/日と比較すると1 %以下である。トラフィック量の日による違いは大きく、日によっては平均値の 5倍以上の大きさを示している。Cu−SeeMeの利用が行われた時に対応す るのではないかと推測される。TRAINの山梨大NOCにおいて採取されたト ラフィックのデータでも、1校当たりのトラフィック量はほぼ同程度であり、たっ た1校でも学園祭でCu−SeeMeを使った日はトラフィック量の日次推移を 示す曲線に大きなピークが現れる。このように、100校プロジェクトによる通 信トラフィック実績は、大学の利用に比べると著しく少ないが、もしも各学校に おいて100台以上のコンピュータがネットワークに接続する事態になれば、ほ ぼ大学並みに近いトラフィック量になると考えられる。
上述の二つの側面、すなわち、教育利用のために、必要な情報をできるだけ迅 速に取り出すことができ、そのような身近なネットワークの内部が有害な情報で 汚されないように外部からの有害情報の侵入を防御するような機能をもつシステ ムの実現である。
更に別の観点としては、学校におけるインターネットの利用では、他の学校と の間での情報交流はかなり頻繁に行われるであろう。このためには、他の学校が ネットワーク上で近距離であることが望ましい。
図4-4 地域ネットワークの例(各校ごとに自律システムを構成する場合) |
一方、IP−v6のような新しいIPプロトコルが広い範囲で採用されるよう になるまでの当分の間は、各学校単位に他と重複しないようなインターネットア ドレスの組を割り当てることは難しくなる。したがって、100校プロジェクト の対象校のように、一つの学校のネットワークだけで自立システムが構成される ような形ではなく、複数の学校を束ねたネットワークで自立システムを構成する 方法を採用することになろう。この場合、ネットワーク内部ではプライベートア ドレスを採用することが可能であり、そのためには、このようなネットワークは ファイヤーウォールを介して外部と接続するような、当世流行のイントラネット に相当するシステムになる。このようなアプローチからは、上述の教育ネットワ ークのクラスタの構築は、かなり現実的なものとなりうる。
図4-5 地域ネットワークの例(複数の学校がまとまって一つの自律 システムを構成する場合) |
次に、本プロジェクトの影響によるインターネットの教育利用の横への広がり、 すなわち、本プロジェクト対象校以外の学校への広がりについて報告する.
4.3.2 教育活用研究会 上述のメーリングリストの活動が、インターネット上の電子メールによる、比 較的個人同士の間で行われる情報交換であるのに対して、ネットワークの活用を 実際に行っている教員同士が会場に集まって、研究会を開き、お互いの顔が直接 見えるところで、報告をし合い、情報を交換し合う活動が、多くの地域で行われ ている。このような会合の主催者として比較的多いのは、CECとIPA、地域ネット ワークや大学内の関係機関(例えば学内のコンピュータセンター)である。このよ うな会の例は相当多く、枚挙にいとまがない。このような活動には、ネットワー ク利用に関心をもつ多くの教員が参加するほか、これらの人々に、新しい知識と 技術を説明するネットワーク分野の識者、ボランティア及び技術者も参加し、そ れぞれの地域でのインターネットの教育利用を推進する役割を果たしている。
本プロジェクトの対象校をはじめ、上述の様々な形によってインターネット利 用環境を持つことができた学校を、それぞれの地域内で相互に接続して教育ネッ トワークを形成してゆくことが、次の段階で望まれる。このようなネットワーク は、前に述べた、教育ネットワークのクラスタに該当する。