5.1 ネットワークの教育利用における教育的課題

ここでは、課題を4つに分類し、1.教育的課題、2.人材育成、3.運営的課 題、4.行政・制度的課題として取り扱うこととする。

5.1.1 教育的課題

 最初にとり上げる課題としてカリキュラムの問題がある。カリキュラムを検討 するといってもまだまだインターネットを使い始めて日が浅い(100校プロジェ クトを始めてからまだ3年しかたっていない)し、類似のプロジェクトは出てき ているが、具体的に体系化できるような資料がまだ完璧には出てきていないこと から検討材料が不足していることが挙げられる。さらにカリキュラムを編成する 場合には、現在の状況も考慮して現行の学習指導要領、時間割、年間行事などを 考慮して導入していく必要がある。そして、既存の教科の中でどの教科でそうい うものがつかえるかをもう一度検討していく必要がある。仮にカリキュラムを編 成できたとしても永続的に使えるものではなく、ネットワークを利用していくに つれてアプリケーションが発展し、インフラが変わって行ってしまう等のため、 カリキュラムの規定要因は常に変化するものである。

 この要因の一部を紹介すると、技術的な部分とかネットワークインフラの規模、 学校の端末数などである。それらを見合う形でインフラを整備してその上で実際 にはインターネットを行うことなので、その部分の整備をある程度行う必要があ るだろう。これはカリキュラムといっても、ただやみくもにカリキュラムを作っ ていくといったことではなくて、規定要因を整理して行かないと出来ない。この 様な体系化を行なうことは主に研究者の仕事であるとはいうものの、学校もまっ たくなにもしないというわけにもいかないので、実際のカリキュラムに向けて少 しずつ実践の研究をしていく必要がある。したがって、端末が少なかったり、ネッ トワークのスピードが遅かったり機械の端末スピードが遅い状態でも実際に導入 してみてカリキュラム作成のための幅広いデータをとる必要がある。

 それからもう一つは利用者教育である。利用者教育は、前述のカリキュラムと 密接な問題が出てくるが、具体的にどのような内容を教えていけばいいのか。ま ずカリキュラムの場合には、導入教育をしなければならない。つまりインターネッ トを使った、教育カリキュラムを行う場合には、当然教科の中での活用という観 点が出てくるものだけれども、それ以前にネットワークを触る、さらにいうと、 コンピュータを触るための基礎知識が必要である。その次にコンピュータをつか う、操作が出来る、つまりコンピュータリテラシの段階があってその上にネット ワークを使うための特殊性があり、さらに、ネットワークリテラシがある。その 上に実際に子どもたちに触らせて行くための準備をしていく必要がある。そのた めには情報的なことを含めた特殊性があるので、情報倫理教育とかいろいろなこ とをやる必要がある。カリキュラムといった場合に、さきほどの部分で留意事項 を述べたが具体的には授業への取組みという内容がある。もう一つには課外活動 における取組みがある。実際に課外活動の部分を含めながら考えていく必要があ る。

カリキュラムの関係としてもう一つ大きなところとしてはカリキュラムを実際 に作っていく場合に現場の教職員がカリキュラム開発を行うというのは非常に困 難である。実際にカリキュラムを開発する場合にはネットワークの特徴、かつ既 存教科との関係といったさきほど述べたような部分を含めながら考えていく必要 がある。その部分を現場の教師が行うということは非常に不可能である。現場の 教師がある程度サポートできる部分としては実践としてのデータ提供であるとか 資料提供または、仮説を行った場合の実証に関しての協力等ができる。具体的な カリキュラムの構築に関してはネットワークに関してはどうしても先に述べたよ うに変化が激しいので、これはやはり、大学などの研究機関等が専門的な人員を つけながらカリキュラムを考えていく。既存のもののようにカリキュラムを作っ てから現場が表わすのではなくて、現場と同時進行的にカリキュラムを構築して 行くような体制が必要ではないだろうか。そのための大学との協力関係、または 各関連機関との協力関係というのはいまから真剣に考えていく必要があるしすぐ に始めなければ’ならない。また戻って、実際にカリキュラムの場合には、教科 外と教科内がでてくる。実際にその部分のカリキュラムとしては問題は先ほど述 べた通りで教科内での内容、教科外での内容というのを考えていく必要があるけ れども、一つ戻って考えるとそれを前提とするための導入教育というのが必要で あって、実際に導入教科の内容として挙げられることをいうと、一つは情報リテ ラシの獲得であろう。これが、初期導入に該当する。その次に情報倫理教育であ る。その次に情報の取り出し方生かし方、要するに情報活用能力の育成である。 四番目が情報の正しい把握の仕方である。五番目が、先ほど述べたように教科と の融和である。最終的にそれが実現したときに情報化社会の参加というのが図れ るのではないだろうか。ただ、気をつけておく必要があるのはインターネットの 教育と言うのは教育のなかの一つカテゴリであって、かつ、インターネットとは 常に変化していく道具である。それを考えると強引に押し進めるのではなくて、 インターネットを導入する必要もない事項に安易に当てはめていくことには、弊 害がおこる可能性がある。次が利用者教育といった場合がいくつかある。それは 利用者教育といった場合には生徒児童の教育だけでなくて、実は教職員保護者に 対する利用者教育というものも非常に重要な意味をもってくる。実際に子どもた ちにネチケットを教えるまたは情報倫理を教えたり情報の利用を教えることに関 しては非常に難しい問題がある。それはなぜかというと、教員自身がコンピュー タ機器の操作に習熟していることが必要であるということと、インターネットの 利用体験のある先生が全国的に見た場合非常に少ない。そのような先生方が子ど もたちを教えるということを考えて行くためには利用者教育をやるということは 非常に難しくて、具体的にはまず先生方がどういうことを行う必要があるかとい うまず先生向けの教育を行う必要がある。すなわちTeachers Teachinngをやる必 要がある。次に子どもたちへの教育である。Teachers Teachingでやる内容は一 体何なのかというと、まず言えることは、先生方がやる必要があることはコンピ ュータの基礎知識の操作である。それから、インターネットの概要をつかむとい うことである。それからインターネットの基本操作が必要である。それからイン ターネットの留意点があって、教育に実際に使う場合の活用方を考えていくとい った流れがある。子どもたちに教えていく内容は、実は先生の場合に似ていて、 コンピュータの基礎知識、インターネットの概要、インターネットの基本操作で ある。実際には、先ほど述べたように、その上に出てくるその部分がいわゆる情 報リテラシというものかもしれない。その上に、情報倫理教育、情報活用能力、 情報の正しい把握、教科との融合と言う形で生徒の場合には展開していく。実際 にそのための教育をやるためには、教員用、生徒向けの教材等がまだまだ日本国 内では準備されていることがない。そのためには至急、関係機関が協力して教員 向けの研修機関、研修教材、研修内容等を整理すること、それから、子ども向け の研修教材、研修内容等をある程度、作っていく必要がある。それは各学校も作 る必要があるけれども、共同してある一箇所が集中して行うことによって、先生 方の負担が減ることにもなろうし、スムーズな普及につながるであろう。その部 分として、先ほどから述べているように、利用者教育のなかで別れていくのが教 員研修で、実際に教員研修を行う場合にはそれを支えるための先生方への教材を 提供することは今述べたことであるし、先生方にそのような機会を作っていく必 要がある。そのためのための支援体制も必要であろうし、それを遂行するための 予算化ということは文部省なり都道府県教育委員会が準備をしていく必要がある。 また、教員研修を行う場合に国等が中心となって行う場合であれば研修会をおこ なう必要がある。そのための体制を作っていくこと、特に、教員研修のための先 生、つまり、マスタートレーナーのようなものを至急育成していく必要があろう。 場合によっては全国に文部省が行っているような中央教育研修、中央情報教育研 修のような形で巡回をしたり地方の先生方の研修の機会を相当増やしていく必要 があろう。それから、別個として、教材開発という部分においては、先生方の教 材というものは教員研修の方で行えばいいのだが、実際に教材の開発をしていく といった場合においては、やはり、発達段階に応じて、小学校、中学校、高校と いうかたちのなかで、教材を開発していくために、民間の企業とも協力していく 必要があろうし、また相互の先生方との情報交換を頻繁に行う必要があろう。そ のための教材開発に向かって、ある程度のお金を補助していくなり、大学の研究 者との共同研究を行うというような環境を適切に作っていく必要があるし、それ がなくては実際のカリキュラムのなかへ、ネットワーク教育を持ち込むといった ことは不可能であるということがいえる。それから、既存の研究会等との融合と いうことで、そういうことが出来てきた場合としてより一層、インターネットを 教育のなかで使っていく場合として既存の研究会、とくに視聴覚教育、図書館教 育、新聞教育等の先生方と協力できる会が相当増えてきているということに着目 して、その先生方とも共同に研修を行えたり、意見交換が行えたり、情報交換が スムーズにできるようなことをしていく必要があろう。特に、インターネットを 実際に教育現場にいれていく(特に学校現場に)場合には視聴覚教育や図書館教 育や新聞教育の先生方との共同作業ということは欠かせないし、それがなくては 既存の学校教育のなかに入っていくとはいえないだろう。新たに受け皿をつくる わけにはいかないのでそういう分においてはこういう先生方の協力が絶対必要で あると思われる。

5.1.2 人材育成

 人材育成といった場合に全国を見渡したとき、その人材育成を行えるインター ネットを使った教育の人材育成を行うマスタートレーナーというものがほぼいな いといえる。米国においてはそのような人材育成が積極的に行われており、大学 や教育センターや教育委員会等が非常に積極的にやっている州もある。日本にお いては、その人材育成ということは全くないわけだが、ただその鍵となりうるも のはあるだろう。

それは100校プロジェクトで育っていった先生方つまり、全国に100校あるわけ だから100校に関しての2倍ということは200人位の先生方がいるであろう。その 先生方はある部分でいうとマスタートレーナー(先生の先生)になりうる可能性 をもっている人達である。特にそのなかでも教育委員会等に移動になった先生方 を出来る限り助けながら人材育成していくための核を作っていく必要があろう。 特に人材育成に関しては、短期的に出来るものではなくて時間が比較的にかかっ てしまうものなので速やかに人材育成のための手だてをうつべきであろう。その 具体的な手だてとしては何かというとまずは教員の研修の機会を拡大していくと いうこと、それから、実際に人材育成をしていくためのカリキュラムというのを マスタートレーナーのカリキュラムということを設定していくこと、それから実 際にそれを行うための資源、団体などを確保して確立すること、それからそれを 行うためのお金、経費の負担などをいずれかが面倒を見るということ、それから、 具体的な研修を行うためのネットワーク環境をもった会場の提供等をする必要が あるということという観点を見据えておきながら人材の育成をしていく。人材を 育成するための内容としては先ほど述べたような教育内容、特に教員研修の内容 等は先ほど述べた通りであるのでその部分を参照しながらやっていただけたらよ いであろう。要するにどうしてこのような重複するような話になるのかというと、 今いっている教育的な課題人材育成、運営的な課題、行政的制度課題等に関して は実際体制が全く出来ていないので、それを実際にカテゴライズしていく必要が あるというのが非常に大きなものがある。カテゴライズしていかないと、役割分 担ができないためにスムーズに進めていくことが不可能である。つまり、一番重 要なポイントとしていわなければいけないのは、まず最初にカテゴライズして責 任を明確化する。その後にその人ごとに何をしていくのかをきめていく。そのセ クションが今度は先ほどから述べている細かいことを実行していくやり方である。 まずカテゴライズしていくということが早急に必要である。その具体的なカテゴ ライズというのは先ほど述べたように教育、人材、運営、行政制度という形にで てくる。運営に関してじは、ネットワークの場合には非常に大きな問題が起こっ てきている。一つは既存のネットワーク環境というのを見た場合にネットワーク というのはどうしても管理者を必要としている。特にそれがホストサーバー型の ような状況であると非常に大きな問題が起こってくる。それはどういうことかと いうとネットワークというものを大きく分けると現行ではホストアンドサーバー のIP接続状態のものとそれからダイヤルアップ型のセンター集中型の管理二つや り方が大きく別れている。ネットワークが使っているIP接続の前者の方に関して はそれを運用していくための管理が必要になっていく。

 特に電子メールの管理、それからWEBサーバの管理等は頻繁に行っていかない となかなか思うような情報発信をすることができない。とくに具体的な内容とし ては情報を発信していく

5.1.3 運営的課題

 運営課題においては、運営課題もやはり細かく分けると一つは技術的な課題に 別れるであろう。もう一つは運営課題のなかで、一番目の技術的な課題というの は技術運営課題とそれから要するに校内的な運営課題(人的な運営課題)つまり 運営体制とにわかれるであろう。ひとつはいわゆる技術的な技術のメンテナンス とかネットワークの管理者がある。その中を細かく分けると先ほど述べたように ネットワークの関係でインターネットの例えば電子メールの管理とかWEBの管理 とかいうものもあるしもう一ついうならば対外的な交渉とか調整みたいなネット ワークがつながっているということに関しての交渉みたいなことが必要になって くる。これは現状のシステム、つまり現行のネットワークシステムとか技術の部 分に相当の負担をもっている。この負担が何かというと大きな負担を挙げて見る と一つは、それをメンテするための基礎的なネットワーク技術知識を習得しなけ ればならない。それから、ネットワークをメンテネンスするための時間をさかな ければならない。それから、実際に問題が起こった場合の問題発生に関して対応 しなければならない。そのほかに例えば、問い合わせなどがあった場合にその一 般的な部分であるとか一般の知識伝達というのを他に広げていくための講習も行 わなければならない。というような4つぐらいの内容が挙げられる。それを行う ということは一つ運営的な部分としては大きいので先ほどいったIP接続に関して は問題が残っている。ただし、近い将来技術的な部分が解決されてくるとその4 つの問題、先ほど述べた技術的な知識の問題がなくなりそれからメンテナンスす るのも非常に楽になり、例えば、スイッチ一つでもってネットワークがすぐに回 復できるとかネットワーク自体がすぐなんとかなるといったような状況になって くればこれは非常に可能性が大きいであろう。2つ目の中のダイヤルアップの方 に関してはメンテナンスこそ少ないもののやはりその中においても校内的な部分 として登録業務があったりそれからWEBの更新業務として相談役、アドバイザー 役をやらざるを得ないであろう。その部分を含めながらやはり行う、知識を習得 していく必要がどうしてもでてくるであろう。最低限の知識がやはりダイヤルアッ プ型であっても管理者のレベルとしてもっていく必要があろう。それから運営的 な問題としては先ほど述べたように技術的なものを見ていった場合に、具体的に 先生方がやろうとしている時に運営課題、運営内容、実際技術的なIPの場合に具 体的に何をやらなければならないか。つまり、運営をする場合に何がしなければ ならないかという作業量を一つ例として載せておくと一つはインフラの整備とい うことである。それから端末機器の増設ということが出てくる。それからユーザー の管理ということで、ユーザの教育それからアカウントの設定、変更ということ がでてくる。それから、ユーザ支援ということで実際に利用していった場合に、 ユーザがわからないといった場合には教育の内容も初期導入の教育とかも入るだ ろうけれども、ユーザ支援が必要であろう。それかユーザのトレーニング、技術 の動向把握、それからシステムの入れ替えと、それから外部からの問い合わせ等 の対応などということが必要になってくるということがいえる。運営的な課題の 部分においては要するに学校内での管理者の負担を軽減していかないと今のよう な状況、先ほどいった運営的な課題の中の技術的な課題の部分に関しての軽減が ない限りは、相当普及するのは不可能であろう。そのためには先ほどのべた内容 をみんなで分散する必要がある。そうするとまず、体制づくりの必要性がでてく る。現在は委員会方式または校務部署としての位置付け、それからボランティア というようないくつかの形態があるわけだけれども正式に校内の組織として確立 するということが一つ。そのために、具体的にその校務部署の位置付けをするた めの中身、具体的な作業内容は先ほど述べた部分をあわせて学校として認識をす る。または、学校として認知してもらうためには教育委員会や文部省が積極的に その部分に関して指導していく必要があろう。特に単一的に作ってしまうとなか なか難しいのでその校内体制としては既存の視聴覚教育、それから図書館教育、 新聞教育等の先生方とも協力しながら統廃合を含めた形の中で新たなネットワー クを対応する、マルチメディアに対応するような校務部署というものの必要性が 出てくるであろう。とくにそのような体制をつくるために人材をさいていくとい うことが考えられる必要がある。単純に増やすのではなくて関連する分野と共同 にしていったり、統廃合をかけるということが絶対に必要である。そういうこと をして行かない限りはネットワークということが運営的な課題を圧迫することに よって利用が出来ないということになる。それから実際に、そういう部分をもう 少し大々的に解決するためには教育委員会がイニシアチブをとって、文部省がイ ニシアチブをとってネットワークを解決するための相談窓口というものを各都道 府県の教育委員会といった近所のところにもってくるということが必要であろう。

 そのための委員会側、行政側の受け皿としてネットワークの教育センターとい うようなものを設けてみたりして支援の準備をする必要があろう。特に、人材、 それからやはり技術的動向に関してはなかなか技術をすぐに習得できないのでか わってそういう部分がバックアップできる体制をもっていかないと運営的な部分 においては負担が多くて実際には取り組めないだろうということである。

5.1.4 行政・制度的課題

 最初に明確にしておきたいことは、日本では変化になかなか対応できない行政 的な遅れが指摘されているが、現状の仕組み、体制の中では可能な範囲で対応し ていることである。それは税収不足から全ての予算が現状維持または縮小傾向に ある中でも、文部省の情報化対応の事業の項目、その数、予算を検討すれば、前 向きに取り組んでいることは明かである。ネットワークにしても、平成9年度か ら教育センター等を拠点にした「情報通信ネットワーク拠点の整備」が計上され ているし、マルチメディアを活用する教育に関する研究も進められることになっ ている。遅く見えるものは、日本の教育行政が事業化を決めれば小中高校合わせ れば4万校もある日本中のすべての学校に実施できることを見通した上での施策 で行わなければならないことである。社会の変化に遅れざるを得ないが、取り組 めば相当に進んでいく日本の教育行政の特徴ととらえたい。

 その上で、ネットワークの教育利用に関連して制度から改めないと進展しない 問題を取り上げる。

5.1.4.1 個人情報保護条例との関係

 市町村レベルで個人情報保護条例を制定している地区は800を越える。それ らの中には、学校の個人情報の取り扱いについてもかなり厳しく具体的に言及し ているものがある。地区によってはLANさえも設置できないとか、電話線にコ ンピュータ等を接続できない運用規則を持っているところもある。このことが、 インターネットを学校で利用できない状況を作り出している場合もある。

 これに対処するために、2つの方向が現在進行している。1つは条例を改正し ようとする動きである。個人情報保護の精神は大切にしつつ、新しい機能を教育 で利用できるように、社会の変化に対応させようとする動きである。

 もう一つの動きは、条例はそのままにして、学校が外部と情報交換できるよう にするために、教育委員会から管下の学校へ通達を出し、学校がそれぞれに運用 要項を定めるやり方である。

 ただ、このような取り組みは地区ごとに手探りで行われているのが実状で、そ の動きは遅くなっていると言わざるを得ない。より上部の組織から一括して解消 するような手だてを自治省等と講じることが望まれる。

5.1.4.2 テクノロジーコーディネータなどの技術的に優れた人の登用

 現在の学校の多くの教員は情報技術に関しては利用者としてほんの一部を利用 しているに過ぎない。教員としての活動の複雑さが今後も増していくことを考え ると、情報技術について専門的な知識を持つことを要求しても、それは不可能で ある。しかし、現在のネットワークはすでに本プロジェクトでも明らかになった ように、設置から運用まで、さらには他の教員の支援まで、多大な知識と労力が 必要になっている。

 アメリカにみられるように、教員が専門家になるのではなく、学校または地区 にテクノロジーコーディネータを配置して、教員の日常的な利用に様々な形で対 応し、支援していく体勢が必要になっている。

5.1.4.3 情報ボランティア制度の設置

 これは5.1.4.2と連動させることが現実的であると思われる。これまでに も、江東区のA小学校のように、ネットワークボランティアを組織した例がある。 学校が情報発信しても、何も手を打たなければ誰も見ず、誰も意見を送ってもら えない。そのために、この学校では、地域の教員やPTAやネットワークで外部 の人に働きかけ、常にその学校のホームページを見ていて、児童が情報を求めた り、新たな情報を発信したときには、何らかの情報や意見を返すようにしている。 そのことによって、児童のやる気も関わりも変わってくる。せっかく工夫して情 報発信しても、何も返ってこない失望感、無意味に見えてしまうことは避けなけ ればならない。

5.1.4.4 予算面での措置の難しさ

 現状では、多くの学校がプロバイダと直接契約して利用している。しかし、ど れだけ使うかわからない現状では従量制での通信回線の使用料とプロバイダへの 使用料は予算化しにくい。使えば使うほど制約が大きくなる方法は避けなければ ならない。利用を促進して、ネットワーク利用の有効性が見えるところまで使え るようにするためには、何らかの行政的な措置が必要になる。アメリカでは電子 通信法(Telecommunication Law)を改正して、学校が通信回線を安く利用でき るように法律を改正している。日本がどのように対応できるかは明かではないが、 何らかの対応が求められている。平成9年度から始まる「情報通信ネットワーク 拠点の整備」事業がどのような形で展開されるかを注目したい。実際に努力して 望ましい利用を促進している学校ほど自由に使えるように措置していくべきであ ろう。

5.1.4.5 教員研修の体系化と校内研修等の支援

 学校の教員が職務を離れて教育センター等で研修を受けることは容易ではない。 ましてや、それを複数受けて初めて授業で利用できるようになることは難しい。 現在、教育センター等で情報教育の研修の体系化が進められているが、今後、研 修を部分的に受けてもその後の研鑽が可能になるような研修を創り出さなければ ならない。一つは一堂に会して同じ時期に受ける研修ではなく、ネットワークを 利用したそれぞれに時間での研修プログラムの開発である。もう一つは、校内研 修で獲得できるような校内研修教材の開発や提供である。

5.1.4.6 教員免許制度に情報教育を含むことおよび専門家の育成

 これは簡単なことではないが、教科割りになっている教員免許法が部分的に現 状に合わなくなってきている。教科横断的な学習が計画される時期だけに、それ を見通した教員免許制度の見直しが必要である。一方で、大学院レベルの教育分 野での専門家育成も遅れている。教育工学、情報教育、情報科学教育などを考慮 した後期高等教育が必要になっていると思われる。

5.2 ネットワークの教育利用における技術的課題

 学校ネットワークシステム又は上述の複数の学校を束ねたネットワークシステ ムの管理運用の仕事は、学校内または学校群内で担われる仕事とネットワーク全 体をNOCの位置で管理する側で担われる部分とに分担して担われる方式を確立 することが第一の課題であろう。アドレスやホスト名の割り当ての管理は前者で、 ネットワークの障害が監視は後者で担当する分担方式が考えられる。そして、後 者の管理は、学校外の組織、例えばNOCを担当する教育センター等で、費用な らば、民間業者への外注による分担も含めて、担当される方が学校側に過重な負 担をかけず、安定した運用が可能になるであろう。

 第二の課題は、上述のNOCを中心として形成されるクラスタ同士の接続であ る。ある場合には、専用線による直接接続でも可能であるが、各クラスタともイ ンターネットとは接続するに違いないので、IX方式による接続の場合もありう る。この場合の問題は、如何に複雑にならないような経路が確保できるかであろ う。

5.3 ネットワークの教育利用における提言

 本節では、教育的な視点から、今後のネットワークの教育利用に関する提言を 行う。しかしながら多少技術的な内容とも関連するので、ご了承していただきた い。また、100校プロジェクトのチャレンジャブルな試みに関する意義は、現 時点では時期尚早であり、将来において正しい評価がなされるであろう。ここで は、多くの方々の努力から得た貴重な意見を参考にしながら、今後の教育実践の ための提言をしてみたい。  インターネットの教育利用において、主に次のような提言をする。
(1)ネットワーク環境の整備:
 現状は、生徒一人一人のネットワーク活動を保障するだけの環境ではない。 ソフト面、ハード面等、更なる拡充が望まれる。またコンピュータは実験室 など特定の教室にのみ配置するのではなく、さまざまな教室・空間に分散配 置すべきである。さらにインターネットのソケットも同様に様々な場所に用 意すべきである。将来は、モーバイル・コンピューティング環境が必須であ ろう。
(2)コンピュータを利用する教育活動に関する教師教育の重要性:
 限られた資源を活かし、一斉授業でネットワークを活用した授業を設計す ることは難しい。ネットワークの利点を活かした授業を展開するという、い ままでにない範疇の授業設計・実践能力が問われる。
(3)コンピュータ管理に関する教師教育の必要性:
 一般に教師はコンピュータ/ネットワーク管理に対して知識不足である。 専門のSE派遣もままならない状況であり、一度トラブルが発生すると数週間 はネットワーク活動が停止することもある。教育活動に支障をきたさないよ う、自校内にトラブルに対処できるだけの技術をもった人材が必要である。 これはコンピュータコーディネータの人材育成の必要性を意味する。またティー チング・アシスタントとして、父兄や学生の協力によるチーム・ティーチン グは不可避であろう。
これは、ある意味では地域の教育力の具体的な方略である。
(4)情報技術カリキュラムの導入:
 児童・生徒のためのコンピュータ・スキルや情報リテラシー形成のカリキュ ラムが必要である。キーボーディングやコンピュータ操作に不慣れな児童が、 積極的な興味・関心を持ってコンピュータに向かうような工夫が必要とされ る。さらに本格的な情報教育カリキュラムおよび教科の設置が必要である。
(5)ネットワーク活動に対する責任感の育成:
 有害情報に対し自ら律する態度と、ネットワーク環境特有のマナー習得が 望まれる。現状では、生徒・児童のネットワーク活動を監視せざるを得ない。 自らの行動の自覚と有害情報に対する自律的な態度の育成が必要である
(6)学習に有益な情報源をまとめた案内(サイト)の整備:
 インターネットを利用した教育を行う上で、教科教材としてのインターネッ ト利用が難しい。(授業でインターネットを利用すると、アクセス時間に数 分かかったりなど無駄な時間が多い)…・サーチエンジンの開発
(7)テクノロジー・スクール(未来の学校構想)の設置:
 先端的情報ネットワーク設備を持った研修センターが求められる。そこで は企業の協力で、教員の研修、児童・生徒の体験実習を可能とする。またこ のような組織は、CECの附置機関として、バーチャル・モールを作成し、 コンピュータ関連の教育情報、各種CAIソフトウエア、コンピュータ教育 の相談システム、インターネット教員研修システム、海外の情報等をマルチ メディア、VR,人工知能等の技術を利用した本格的なサービス体制を期待 したい。
(8)テクノロジーに関する教師と父兄の理解と協力:
 ネットワークを利用した父兄と教師の意見交換。また父兄にも様々なテク ノロジー学習のチャンスを提供する。たとえば以下のテクノロジーは興味深 いものとなろう。CAD、CAM、DTP、マルチメディア、テレコミュニ ケーション、ロボティクス、電子音楽、電子美術、ファションデザイン、ア ニメーション、流体力学、センサー、写真とコンピュータグラフィックス、 エネルギーテクノロジー、計測と制御システム等。
(9)教育用グループウエアの開発:
 グループエディッティング、グループスケジューリング、グループデシジョ ンサポート、ワークフローソフトウエア等の機能を有した教育用グループウ エアの開発。すなわち、インターネットの一層の普及に伴って分散協調学習 支援のためのコミュニケーションツールの開発が要求される。
(10)教育用分散データベースの開発:
 様々な教育、研究組織の有するマルチメディア情報素材のデータベース化 と簡易なユースウエアの開発。我が国では、先端の研究組織が行っている事 柄を子供たちに伝達するチャンネルがない。教育・研究内容の子供向け分散 データベースの組織的・体系的開発は、今後極めて重要なものとなろう。
(11)ノートPCとインターネット教室 :
 貸し出しノートブックパソコンと自由なインターネット接続施設が必要と なろう。これは学校のオープン化にとって極めて重要である。また公教育利 用(義務教育段階の学校)においては、回線使用料は無料か格安であるべき である。
(12)情報フィルタリングの重要性:
 様々な有害情報に対して、教育的観点からのフィルター機構が必要とされ る。またこれと関連して学校イントラネットの必要性も今後検討していくべ きであろう。
(13)情報倫理の問題:
 そもそも倫理観というものは、教えられるべきではないとする考え方もあ るが、ネットワーク社会におけるマナーとして、実感を伴った形で理解させ る必要があろう。
 最後に様々な意見から、インターネットを利用した教育は、児童・生徒におい て次のような感想を持っていたことに大いに励まされる。
(1)情報を発信することで学習に対する満足感が生まれ、学習意欲が沸いた。
(2)自己評価能力が高まり表現力が向上した。
(3)生徒が自発的に行動するようになり、自己表現・人格形成に役立った。
(4)自らが発信する情報に対して、責任を持たなければならないという自 覚が身についた。
(5)共同作業をすることにより協力・協調性が備わった。
(6)遠隔地で授業を共有することは、興味深くて楽しかった。
 車社会は、人間の移動能力を向上させる(フットワーク)。コンピュータは人 間の智を増幅させる(ヘッドワーク)。そして情報通信技術は人間と人間のつな がりを拡大させる(ネットワーク)。“21世紀に求められる能力とは?”とい う問いかけに、我々は如何に答えられるか、そして実践できうるか、長い教育の 歴史と社会変化(産業・経済構造、価値、美意識、国際化、地域化等)を鑑みな がら、今回の100校プロジェクトの意義を再度、見つめ直したい。
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