エネルギー・環境問題総合教育用地理情報データ
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わが国におけるエネルギー・環境教育は、欧米諸国で実施されている多様な学校教育の実態と比較すれば、ようやく緒についた段階であり、教育現場の先生方をはじめ多くの関係者の地道な取り組みが求められている。
特に、放射線教育については、わが国が原子爆弾による世界最初で唯一の被爆国であるにもかかわらず、欧米諸国に比べ著しくなされていないのが現状であり、科学的に正確な知識や情報の開示を国民的レベルに伝達する義務があるとの認識に基づき、新学習指導要領では、放射線及び原子力の利用とその安全性の問題について触れる事となっている。
エネルギー問題や環境問題は、多くの分野の学問領域に渡る課題であり、それ自体を単独で取り扱うべきものではなく、相互に関連づけられた教育体系の確立が重要である。学習指導要領や各科教科書おいては、エネルギー・環境に関する事項や記述は随所にみられるが、断片的な取扱にとどまっているのが現状であり、教育現場では、教科の連携による総合的な観点からの教育手法を模索しているのが現状である。
その背景には、エネルギー・環境問題自体が、地球規模という空間的な広がりと同時に世代間に跨るという時間的な広がりを持ち、また、エネルギー問題と環境問題は密接に関連し、長期的且つ継続的な取り組みを必要とする多面的広がりを持つテーマであること。また、このテーマについてタテ割り型の教科構成や、規定の事実や正解のみを与えるという従来型の教育手法では、対応が困難であるという特性を持っていることである。
今後の学校教育におけるエネルギー・環境問題への取り組みには、このテーマがもつ特性を踏まえ、生徒自らの生存に関わる基本的な課題として総合的な視点から捉え、主体的に関われる教育環境作りが必要である。
そこで、学校教育用としてエネルギー・環境問題を深く理解させるための情報提供を目的に、地理的情報の表示機能と統計処理、可視化機能が豊富なGIS(Geographic Information System:地理情報システム)を活用したWebシステムを構築し、「自然放射線の測定」を題材としたエネルギー・環境教育を実践し、全国規模で利用可能な、従来にない新しい教育手法と教育環境を教育現場に提供するものである。
日常生活の中で、医療をはじめ食品など、暮らしの中で深いかかわりのあるところで放射線が利用されているが、現在多くの人たちが放射線に対して過剰に不安感(原子力アレルギー)を持っていることが、原子力や放射線の有用性の理解を妨げている。このような実情を踏まえ、自然放射線の測定を通じ放射線に関する正しい知識を習得すると同時に、放射線の人体への影響やエネルギー・環境についての理解を総合的に深化させることが可能となる教育システムの構築を目指し、以下のように目標を定める。
放射線に関する正しい知識を習得させると同時に、拒否反応の解消や安全性、リスク等の問題を含めた公正な判断ができる思考力と放射線利用についての合意形成に対する資質の育成を行う。
インターネット上で効果的に活用できる放射線教育の学習手引きの雛型の提示、理科教育だけでなく、総合的な学習の時間などの他の教科への活用や実験教材、放射線に関するホームページなどの情報公開を行うと共に、インターネットを情報交流ツールとし活用して学校間や専門家との対話や、情報交換の連携を図る。
本Webシステムで開発する機能仕様の概要は次のとおりである。
自然放射線の測定結果をGISにより解析、可視化してインターネットのホームページから情報発信することができ、放射線について総合的な学習が実践できるようにする。
(1)参加校の位置を日本地図上にプロットできること。
(2)同一条件で測定した結果(3ケース)を全国ベースでランク付けし色分け表示する。また、標高・地質など他の環境との関わりをグラフ化し表示できること。
(3)地図上の参加校の位置をクリックすることによって学校付近の地図をズームアップし各学校で自由に測定した地点をプロットできること。その測定地点には単に測定結果を表示するだけではなく、生徒のレポート、感想、写真なども表示できること。
(4)地質図の表示が行なえること。
インターネットとインタラクティブ性の活用として掲示板を設け測定結果の意見交換や、放射線教育の専門家との対話ができるようにすること。
インターネット上に散在している放射線関係の情報を効率良く検索可能なWebリンク集としてのインデックスを作成すること。
全国規模(平成12年度は47校 各都道府県に1校を目標)で参加校に放射線測定記録シートを配布し、測定条件を統一した3ケースの自然放射線測定を実施して環境(地形、地質、建物など)との相関関係や放射線量のファクターとなる要因等を見つけ出し、放射線について科学的に正しく理解できることを確認する。
また、生徒自身で仮説を立てた上での測定結果の予測・検討ができるように自由に実験・実習を行い、学校それぞれの独自性を持たせた測定を実践する。
本システムの有効活用を目的として、理科や総合的な学習の時間を前提とした今後の指導方法、効果的な展開方法について検討し、指導計画案を策定するとともに、実践結果をシステムへフィードバックし、学校現場の授業に対し効果的な利用が可能となるようシステムの機能強化を図ることとし、以下の項目について調査検討を行なった。
本プロジェクトの実施体制については、教育実践検討委員会を設けその指導体制の下、実施することとした。(敬称略)
林 達郎 | (財)日本科学技術振興財団 理事 情報システム開発部担当 |
<学識経験者>
飯利 雄一 | (社)日本原子力産業会議 常任相談役・前信州大学教授 |
松浦 辰男 | 放射線教育フォーラム 代表総務幹事・立教大学名誉教授 |
堀 一郎 | 東京都私立中高等学校協会 東京私学教育研究所 所長 |
朱牟田 善治 | (財)電力中央研究所 工学博士 |
<教諭>
宮澤 弘二 | 東京家政大学附属女子中学校・高等学校 |
広井 禎 | 筑波大学附属高等学校 |
渡部 智博 | 立教新座中学校・高等学校 |
村石 幸正 | 東京大学教育学部附属中・高等学校 |
三門 省吾 | 千葉県立鎌ケ谷西高等学校 |
小林 雅之 | 東京都立青山高等学校 |
西尾 信一 | 埼玉県立上尾東高等学校 |
棚橋 正臣 | (財)日本科学技術振興財団 情報システム開発部 課長 |
橋山 一臣 | (財)日本科学技術振興財団 情報システム開発部 副主任 |
平野 顕 | (財)日本科学技術振興財団 情報システム開発部 |
教育実践検討委員会の検討経過は以下のとおりである。
第1回委員会議 | 平成12年 |
7月24日
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事業概要について |
第2回委員会議 | 平成12年 |
8月11日
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システム仕様、教育実践について |
第3回委員会議 | 平成12年 |
9月29日
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実践内容について |
第4回委員会議 | 平成12年 |
10月27日
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測定調査要領について |
第5回委員会議 | 平成13年 |
1月10日
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測定結果について |
第6回委員会議 | 平成13年 |
1月24日
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協働実践研究報告(案)について |
本事業での実施スケジュールは以下のとおりである。