平成12年度 「全国発芽マップ実践企画」
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(執筆担当 中山 迅・川野瑠美子)
全国発芽マップの活動は,プロジェクト参加校以外にも,ある程度認知されている。それは,全国発芽マップの学習活動について紹介した『インターネットがひらく総合的的学習』(中山・奥村・根井,1999)が増刷を重ねていることからも分かる。
今年度は,従来はインターネット上だけで行っていた対話の場を発展させ,face to faceの対話の場を設けた。それが,「全国発芽マップの集い」である。これは,以下のような意図に基づくものであった。
(1) | プロジェクト参加校の教師が,一堂に会して直接対話を行いつつ問題点を共有し今後の活動への見通しを持つ。 |
(2) | 本企画における先進的な教育実践の内容に,未参加の教師が触れる機会を作り,不況拡大を図る。 |
(3) | 本企画に参加していない教師と対話し,今後の活動への新たな視点を得る。 |
そこで,「集い」というface to face企画の効果を評価し,今後の活動への示唆を得るために,「集い」の参加者を対象とする調査を実施することにした。
調査は無記名式の質問紙法で実施した。質問は,以下のような内容から構成されている。
(1) | 回答者について |
(2) | 講演から受けた感銘,疑問,自身の活動へのヒント(自由記述式) |
(3) | 3件の事例発表から受けた感銘,疑問,自身の活動へのヒント(自由記述式) |
(4) | パネルディスカッションから受けた感銘,疑問,自身の活動へのヒント(自由記述式) |
(5) | 全国発芽マップへの参加が児童・生徒や教師にもたらすもの(8項目に対する選択法) |
(6) | インターネット利用教育への見通しが持てたかどうか(選択法) |
(7) | 来年度の全国発芽マップで育てたい植物(2項目の自由記述) |
(8) | 来年度の全国発芽マップで取り組みたいこと |
(9) | 全国発芽マップの今後の展開についての意見 |
調査用紙は,2000年11月11日(土)の1時から実施された「全国発芽マップの集い」の参加者の受付で配布し,「集い」の終了時に出口の箱に入れるという形式で回収した。
調査用紙の内容は,資料3-1に示す通りである。
調査対象は,2000年11月11日の「全国発芽マップの集い」の参加者全員であり,調査用紙を80名に配布した。
このうち,31名から回答が回収され,31名分の回答を分析対象とした。
全国発芽マップの集いの参加者の特性を表3-1-1に示す。
表3-1-1 「集い」参加者内訳
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31人の回答者を,所属等,全国発芽マップへの参加状況によって分類したところ,表3-1-2のような内訳となった。
表3-1-2 「集い」参加者調査の回答者の内訳
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これによると,全国発芽マップへの参加者として,この「集い」に参加した回答者は3人に留まり,全国発芽マップには参加していないが,「集い」に参加した回答者が多いことが分かる。
回答者の所属は,小学校教師,中学校教師,そして大学生がほぼ1/3ずつである。
基調講演は,はこだて未来大学の美馬のゆり氏によるものであった。これについて,質問項目毎の結果を示す。
講演では,自身がかかわったインターネット利用の教育プロジェクトとしての「不思議館ネットワーク」について紹介し,教師や児童・生徒が「学びの共同体」を形作り,コミュニケーションを通して学ぶことの重要性が強調された。さらに,その過程で学校の子どもと,インターネットで結ばれている科学者グループの間のネットワークが密接になっていく過程が紹介された。
表3-1-3には,「集い」の参加者が,美馬氏の講演を聞いて,共同体としての学びやもの作りに注目している様子が表れている。
表3-1-3 基調講演から感銘を受けたことのキーワード
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また,学びの共同体づくりの例として紹介された,はこだて未来大学の構想に関することが多くの聴衆の印象に残っている。
講演を聴いて,疑問に思ったこととしては,表3-1-4のような事柄が挙げられた
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講演を聴いて,ヒントとなったこととして,表3-1-5のような事柄が挙げられた。
表3-1-5 講演を聴いてヒントになったこと
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聴衆が,講演から「ヒント」として受け止めた内容には,「感銘を受けたこと」と同様に,学び,共同体,コミュニケーションに関する事柄がある。
また,「インターネット」という言葉はまったく使われていない。ここには,「インターネット活用能力の育成」とか「コンピュータリテラシー」といったことではなく,「学び」や「共同体づくり」という,教育の本質に聴衆の目が向いている様子が表れている。
全国発芽マップが,めざす教育像に相応しいヒントが得られていると言える。
表3-1-6に事例発表から感銘を受けたことのキーワードを示す。
表3-1-6 事例発表から感銘を受けたことのキーワード
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事例発表は,北海道の小規模校の宮脇先生,富山県でケナフに取り組んだ深井先生,インターネットの草創期から小学校での利用に取り組み,「地球クラブ」と名付けたクラブで国際的な活動を続けている静岡県の井柳先生であった。そのため,表3-1-6に「感銘を受けたこと」として挙げられた項目は,3人の発表内容に沿ったものになっている。
活動としては,宮脇先生の実践から小規模校の実践に,井柳先生の実践からグローバルな活動について感銘を受けている。
また,3人の発表に共通する事項としての「コミュニケーション」について感銘を受けた参加者が多い。
表3-1-7に,事例発表を聞いて疑問に思ったことを示す。
表3-1-7 事例発表を聞いて疑問に思ったこと
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疑問に思ったには,とくに共通点があるわけではないが,個々の発表と自分の実践を結びつけるようなものが多かった。
表3-1-8に事例発表を聞いてヒントになったことを示す。
表3-1-8 事例発表を聞いてヒントになったこと
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表3-1-8から,参加者が,他校や外国との交流や,教師と子どもがともに学ぶことについてのヒントを得ている様子が分かる。
教師自身がすべてを知っていなければならないという思いこみのために,インターネットの導入を後込みする教師がいることから,全国発芽マッブのように,教師が交流を深めながら,子どもと友に学ぶというあり方が,ヒントになっている様子が分かる。
表3-1-9に,パネルディスカッションから感銘を受けたことのキーワードを示す。
表3-1-9 基調講演から感銘を受けたことのキーワード
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この表から,face to faceのコミュニケーションや,学びあうことについて感銘を受けていることが分かる。これらは,「集い」冒頭の,美馬のゆり氏の講演から一貫して流れているテーマである。この調査結果は,こういった全国発芽マップの,基本的な特色が参加者に強い印象として受け止められていることを示している。
表3-1-10に,パネルディスカッションを聞いて疑問に思ったことを示す。
表3-1-10 パネルディスカッションを聞いて疑問に思ったこと
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疑問として,回答された項目は多くないが,子どもの活動についての疑問が3件ある。とくに,個々の子どもに同対応するかという疑問が寄せられている。
表3-1-11に,パネルディスカッションを聞いてヒントになったことを示す。
表3-1-11 パネルディスカッションを聞いてヒントになったこと
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個々の参加者がヒントとして受け止めた内容は,ぞれに異なっている。コンピュータをもっとよく使えるようになるべきだと受け止めた参加者もいる一方で,コーディネータ役としての役割を教師が果たすことに気付いた参加者もいる。
また,植物の栽培が,一つのきっかけにすぎないことに気付いた参加者がいることは,全国発芽マップの企画者としては喜ばしいことであった。
表3-1-12-1〜表3-1-12-8は,個々の事項について「全国発芽マップへの参加が児童・生徒にもたらすと思うもの」であると考えるかどうかについての回答を集計したものである。
表3-1-12-1 児童・生徒が植物成長の地域差を認識する
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そう思う |
そうは思わない |
無回答 |
28 |
2 |
1 |
表3-1-12-2 児童・生徒が観察をする習慣ができる
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そう思う |
そうは思わない |
無回答 |
27 |
3 |
1 |
表3-1-12-3 児童・生徒の学習意欲が向上する
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そう思う |
そうは思わない |
無回答 |
27 |
2 |
2 |
表3-1-12-4 児童・生徒の学習方法に変化が起こる
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そう思う |
そうは思わない |
無回答 |
24 |
5 |
2 |
表3-1-12-5 教師自身が環境問題を考えるきっかけとなる
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そう思う |
そうは思わない |
無回答 |
27 |
3 |
1 |
表3-1-12-6 児童・生徒が環境問題を考えるきっかけとなる
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そう思う |
そうは思わない |
無回答 |
29 |
1 |
1 |
表3-1-12-7 教師が他の学校の教師と交流する
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そう思う |
そうは思わない |
無回答 |
27 |
1 |
3 |
表3-1-12-8 児童・生徒が他の学校の児童・生徒と交流する
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そう思う |
そうは思わない |
無回答 |
27 |
2 |
2 |
これらの表に掲げられた結果によれば,「集い」の参加者の多くは,ほとんどの事項について「そう思う」と答えている。「そう思わない」が最も多い項目は「児童・生徒の学習方法に変化が起こる」であるが,この項目でもたったの5人である。
この結果は,全国発芽マップの活動に対する肯定的な受け止めからを示したものであ。しかし,全国発芽マップに参加することで,かならずしもすべての項目に掲げられたようなことが起こるわけではない。したがって,今回の調査結果は,参加者の受け止め方が現実よりも楽観的であることを示したものと言える。
「つどい」の提案者の実践が,全国発芽マップの中でも,とりわけ優れたものであったことと,提案者の情熱が伝わったことなどによって,参加者には「自分にもできる」という気持ちが芽生えたのかもしれない。しかし,かならずしもすべての事項がうまく進むとは限らないので,この点についての注意を促すことも今後は必要になるであろう。
表3-1-13は,「集い」に参加したことで,インターネットを利用する教育への見通しが持てたかどうかについての質問への回答を集計したものである。
表3-1-13 インターネットを利用する教育への見通し
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見通しがもてた |
見通しがもてない |
無回答 |
22 |
7 |
3 |
それによると,この質問への31人の回答者のうち22人が「見通しがもてた」を選択している。参加者の約3分の2が,見通しを持ったことになる。
学校におけるインターネット利用については,いくつもの研究発表や公開授業が実施されているが,かならずしも自分自身の教育実践への見通しにつながらない場合もある。そのことを考えると,「集い」に参加した回答者のうちの2/3が見通しをもったことは,この会の一つの成功であると考えることができる。
もちろん,残りの1/3の回答者は,見通しを持つことができなかったのであるから,宇いった「集い」だけでなく,あらゆる機会をとらえて,活動の様子をPRしていくことが望まれるであろう。
表3-1-14は,来年度に全国発芽マップに参加するとしたら育ててみたいものとして回答された植物である。
表3-1-14 来年度参加するとしたら育ててみたい植物(1つか2つ)
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表3-1-14によると,「ケナフ」が最も多く5人が回答している。4年連続で取り組んでいるケナフの支持の高さが伺われる。また,これに「イネ」が4人で続いている。イネは,小学校の生活科で栽培されることが多く,これから取り組む植物の一つの候補になりそうである。
次の表3-1-15に,来年度の全国発芽マップに参加したら取り組んでみたい活動内容を示す。
表3-1-15 来年度の全国発芽マップに参加するとしたら取り組んでみたいこと
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電子メールのやり取りが最も多く,16人によって回答されている。続いて多いのは「テレビ会議」と「ホームページの作成」の9人,そして,「直接会っての交流」「植物を使った食べ物づくり」「植物繊維を使った紙作り」がそれぞれ7人で続いている。いずれも,全国発芽マップでは定番となっている活動内容である。
これらのうち,「電子メールのやり取り」「ホームページの作成」「テレビ会議」はインターネットを利用したコミュニケーションに関する活動である。また,「直接会っての交流」は,インターネットでのコミュニケーションを越えての直接的なコミュニケーションであるが,この活動への希望も多い。「インターネットからface to faceへ」という,全国発芽マップの一つのスローガンが,受け入れられている様子が表れている。
さらに,「植物の成長比較」「植物を使った食べ物づくり」「植物繊維を使った紙作り」などの,「自然に直接かかわる活動」も同様に取り組みへの意欲が表れていることから,活動への関心はバランスの取れていると言える。
表3-1-16に,「全国発芽マップ」の今後の展開についての意見として回答された内容を,そのまま掲載する。
表3-1-16 「全国発芽マップ」の今後の展開についての意見
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これらの意見は,非常に多様なものである。こういった意見が全国発芽マップの今後の活動の中で実際に提案されるとすれば,今後の活動の可能性は非常に幅広いものとなるであろう。しかし,「同日同時刻の播種」を疑問視する声が出ていることは,今後のあり方の多様な可能性と同時に,困難性を物語っている。「同日同時刻の播種」は,植物の成長の地域差に児童・生徒が気付くことを期待して当初から導入されているルールであり,全国発芽マップの活動のあり方を特徴づける方法でもある。もしも,このルールをやめるとすれば,それは「全国発芽マップ」ではなく,別の活動になってしまうであろう。
これまで,「全国発芽マップ」趣旨に賛同する人によって活発な教育実践とした発展してきた「全国発芽マップ」も,参加者の多様化によって,一つの転機を迎える可能性を示す意見である。これは,「全国発芽マップ」の衰退の可能性を示唆すると同時に,従来の殻を破った新しい展開へと発展する可能性を示唆するものでもある。いずれにしても,この企画は,いつまでも同じ企画として活動を続けるのではなく,常に変化を続けるであろうことを物語っている。
また,「ケナフ」の栽培を継続するかどうかについての意見もある。全国発芽マッブは,参加者が栽培する植物の案を出し合い,それらを相談して決定していくところから始められるのが本来のありかたである。
したがって,栽培する植物を変える可能性についての意見が出てくることは,本来の趣旨に合致することである。ケナフ栽培を望む意見と,他の植物の栽培を望む意見が,プロジェクト内部でこれからどのように拡大,または縮小するのか,現状では判断できない。しかし,植物の変更や,複数植物への取り組みという意見もでて,また新たな局面を迎えることになっていくであろう。
一つひとつの意見は,異なった方向性を示すものであるが,参加者のイニシャチブによってこれらが実現されていくなら,いくつもの新しい企画を生む可能性を秘めたものでもある。こういった意見が実現して,新企画として発展すれば,今年度の「全国発芽マップ」の目標の一つである「広がる仕組みづくり」に貢献できるであろう。