II.「障害児向けWWWブラウザ
キッズブラウザ(仮称)」の試用評価


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1.研究のねらい

1.1 背景

       1999年のケルンサミットにおけるケルン憲章をふまえ、我が国では「教育の情報化」を押し進め、バーチャル・エージェンシー、ミレニアム・プロジェクトの検討を重ねて、国家的なプロジェクトの最先端の課題とした。学校教育は急速に情報化へと脱皮しつつあり、2001年度中のインターネット接続、2005年度の全校ネットワークの設置と教室におけるインターネット利用等のインフラ整備も進められている。これらの背景は、来るべき高度情報化社会において能動的に活躍できる人材育成に情報教育は欠かすことができず、また、教育の内容改善や合理性の追求にあらゆる場面で情報化対応が必要となると考えられているからである。こうした情報化とネットワーク利用により、従来の教室という閉ざされた世界における教育活動から、地域や国境も超えた交流や協同学習の可能性もでてきた。バーチャル・エージェンシーで提唱された「子どもが変わる、学校が変わる、教育が変わる」という方向性は、従来の内容を教え込む教育のあり方から、子ども自身が能動的に学んでいくという学校教育の姿勢全体の変化をも示唆している。

       さて、こうした情報化、ネットワーク化は障害のある子どもたちの教育にも大きな質的変化をもたらした。被介護者であることを想定した従来の適応行動を主軸にした障害児教育観から、自ら対等に他者と関わっていくという能動的な社会参加意識と自己決定力の育成を目指す教育観へと緩やかながら変わってきている。この流れを支えているのは、言うまでもなく情報機器及びそれらの機器を障害があっても利用できるようにする支援機器の普及である。なお、支援機器の機能として、標準的なハードウェア及びソフトウェアを使いやすくする機能(付加機能:Adaptive function)、標準的なハードウェア及びソフトウェアの代替手段として提供する機能(代替機能:Alternative function)の2つに分類される。

       こうした支援機器の研究開発はまだ十分とは言えず、多様な支援ニーズを持つユーザと提供する企業や開発者の間に大きなギャップがあるのも大きな課題である。しかし何より問題となっているのは、居ながらにして対等な交流や意見交換ができる場でもあるインターネット等の広域ネットワークにおいて、障害のある子どもたちにとって使いやすい画面構成のコンテンツやブラウザ等におけるソフトウェア的な機能の上での配慮が乏しいことである。

       情報機器を活用する上での支援方策には、入力支援機器や感覚代行を行う出力代替機器と言った付加ハードウェアに依存するものと、アプリケーションソフトウェアそのものによるものの2点がある。今後必要とされるのは、メーラ、ブラウザといったインターネット活用上誰もが使う可能性のあるアプリケーションにおいて、障害による多様なニーズに応じたさまざまな配慮点の検討であると考えられる。

1.2 必要性

       インターネットの普及と活用推進、各種教育用コンテンツの開発に伴い、ブラウザやメーラの利用機会も飛躍的に増えた。ところが、現在一般的に普及しているブラウザやメーラは、ある程度インターネットの操作に慣れ親しんでいるユーザを前提としているためか、使いこなしには若干の慣れを必要とする。とりわけメールの送受信は、移動や対人的交流範囲に制限を受けやすい障害のある子どもたちには有効な学習領域と考えられる。

       そこで、平成10年度には障害児用メーラの開発を行い、平成11年度には試用評価を行った。これは、簡易な画面構成や入力支援によって大きな教育効果を上げられるよう、対象を知的障害と肢体不自由を併せもった子どもたちに想定した。こうした重複障害児に対する支援方策は、重複障害という特定の対象にばかり有効なのではなく、多様な支援ニーズを持つ対象にも有効な普遍性のある支援方策を研究したことになるといえよう。

       そして、平成11年度には知的障害と肢体不自由を併せもった子どもたちを想定して、ブラウザのプロトタイプの開発を行った。現在の一般的なブラウザはマウスによる操作を前提としており、入力における障害が想定される肢体不自由児、画面の構成や操作系列をシンプルにする必要のある知的障害児にとっては決して使いやすいものではない。

       今回の学習指導要領改訂で知的障害養護学校高等部にも「情報」教科が設置できるようになり、その主旨からしても障害のある子どもたちこそ多様な情報を活用して自らの社会参加意識を育成する必要がある。そのためにインターネットは重要な位置を占めると考えられるが、ブラウザの機能の制限によって教育活動が思うように進まないと言うことがあれば、これは大きな問題である。メーラと同様、多様な支援ニーズへの対応を想定したブラウザの開発は、障害児の情報教育や社会参加に向けた教育の充実に大きく役立つものと考えられる。

1.3 目的

       中・軽度な知的障害と軽い肢体不自由があり、通常のマウス操作によるブラウザで利用が困難であったり、画面上にさまざまなボタンやリンク情報があり操作上の系列を理解することが困難であったりする場合に有効と考えられる、シンプルでわかりやすい機能を持つブラウザの開発を目指した。こうしたブラウザは、多様な支援ニーズを持つ子どもたちがさまざまな学習場面で気軽にインターネットを利用する道を開くと共に、彼らの生活に幅を持たせ、豊かな社会参加を目指す教育を実現する一助になると思われる。

      そこで、「特殊教育支援機器活用相談ネットワーク・センターの実践研究」では、障害児におけるインターネット利用のアクセシビリティ改善を目的として開発した「キッズブラウザ(図12、以降、本ソフトウェアと記す)」のプロトタイプ版(未開発であり動作しない機能も含む)の試用評価を通して、障害児向けWWWブラウザの必要要件及び仕様を明確にした。

      図12.キッズブラウザ

      図12.キッズブラウザ



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